54話 仁王再来~特S任務、その内容~
「よし、全員居るな」
「おにぃ……眠い」
リズからの依頼内容を聞くため、俺たちは動けないチャンの元に集まった。
幼女はいつも通り、俺の膝の上でうとうとしている。。
「はい! 全員居ますアルカ様っ」
「わははは! 抜かりはありませんっ」
「う……気持ち悪い——」
「ごめんアル、聞いてるから進めちゃって。ちょっと疲れちゃった」
「ははは……俺も」
二階に寝かされていたユリは、ナツキとエリィが担いで連れて来たようだ。
無理やり叩き起こされたせいか、早くも二日酔いの様相を呈している。
治癒術を使ったアテナは、相変わらず消耗している様子で……チャンはまだ万全ではないようだ。
「わかった。じゃあリズ、始めてくれ——」
「……ちょっおっ——と待ったああああああ!」
物件の方から、大きな声が響き渡る。
「ん?」
全員の視線が、その声の方に注がれる。
そしてそこから……ゆっくりと、見慣れた影が近づいて来る。
「おいエリィ、抜かりはないんじゃなかったのか?」
「わははは! ちょっと抜かってましたっ。何してたんですかスタークさん?」
大した話じゃないから良かったものの……やはり杜撰なところがあるな、エリィは。
「ひどいでっさ! 旦那に吹っ飛ばされてそこの壁に——」
スタークが指差した先に、崩れ落ちた壁が見える。
「あぁ、めり込んでたんですね! わはははは」
誰か気づいてやれよ……と言おうと思ったが——。
かくいう俺も人のことは言えないので、黙っておく。
「賑やかね」
アフろんと家出娘の漫才を目の当たりにしても、リズは相変わらずの無表情だ。
「ははっ、まぁいつものことだ。——じゃあリズ、改めて頼む」
俺と視線を重ねたリズが、静かに頷く。
「今回協力して欲しいのは〝捕虜奪還任務〟……非正規だけど、ランクで言うと【S】に相当する」
そういえば——。
部隊を立ち上げたはいいものの、正式な形で任務を受けたことはなかったな。
ランクで言われても、それがどのレベルを差すのかイマイチわからん。
「【Sランク】……どれぐらいだ? チャン」
チャンは俺の視線を受け、ゆっくりと身体を起こした。
「対〝字持ち〟が確定している戦場への参戦が【特S】だから——。この間の迎撃戦に、 【地斬】が居ないぐらい……かな?」
相手が〝字持ち〟じゃないなら、と思ったが——。
あの時は、味方にオルカスタ軍一万以上が居た。
(そういえば今のリズには、どれだけの兵力が用意出来るんだろうな——)
「……なるほど。なんとかなるような、ならないような——」
俺はゆっくりと、リズに視線を戻す。
「——結論から言うと、ハルメニアの前線基地に一緒に来て欲しい」
……前線基地だと? なぜわざわざ小隊で行こうとする?
その規模は大小あるにせよ……当然、そこには守備隊が常駐しているはずだ。
「それなら大軍で行った方がいいんじゃないのか?」
「それはダメ。過去にそのやり方で失敗してる。戦闘には勝った、けどあと一歩のところで……目的に気づいた敵軍に、捕虜は全員殺された」
あくまで目的は捕虜の奪還で、制圧や突破じゃない——。
それはそれで勝手が違ってくるということか。
「なるほど……捕虜を殺されちゃ本末転倒ってわけだな。それで今回は、少数で潜入して搔っ攫う、と——」
「ええ。仮にスマートにいかなかったとしても……こちらが少数であれば、向こうも血迷って捕虜を殺すような真似はしないはず」
「なぜだ?」
「そもそもが、捕虜は殺さない方針だから。ハルメニアは、昔から捕虜をビジネスに用いる。自国に優位な条件で売るなり交換するなりして、今まで上手くやってきた」
情報を聞き出すだけじゃなく、そういった使い道もあるのか。
簡単に殺されないだけマシ……なのか?
「なるほど……でも引っ掛かるな。お前ほどの地位に居れば、こんな回りくどいことはせず〝字持ち〟に直談判するなりして、作戦立案すれば良かったんじゃないのか? 少数精鋭ならなおさらだと思うんだが——」
そもそも〝字持ち〟こそ、一騎当千と言われる最強の戦士たちだ。
俺も実際、この眼で何人か見てきたし……その実力は本物だった。
今回の任務にはまさに適任だし、一人確保するだけでこの問題は解決するように思える。
そんなのが周りに十人も居るんだ、一人ぐらい手伝ってくれるヤツも居るんじゃないのか?
ブルースやハクツルなんか、この手の誘いならすんなり受けてくれそうだが——。
「〝字持ち〟は顔が割れてる。例え一人連れて行っても、それは大軍を引き連れていくのと同じ。捕虜は殺される」
……考えてみればそうか。
一般の兵士なら、あんなのが突っ込んできたら——。
千……下手したら万の大軍より、恐ろしいと思うのかもしれない。
「それはそうかもな。でもそれなら捕虜交換とか、領土の割譲……金で解決するとか、色々あるだろう?」
「簡単に言うと、この国は実力至上主義。そもそも軍人として、掴まるようなヤツが悪いということになる。だからこちらも、敵国の捕縛兵は情報を吐かせ次第……どこの部隊もすぐに始末するのが一般的。——よって、捕虜交換の線はここで消える」
「それが君主様の方針、か——」
「ええ。そんな人だから……もちろん領土を割る気もないし、お金を出す気もない」
ここまでどこか淡々と話していたリズだったが……ここに来て、その語尾が少し強まった。
やがて俺から視線を外したリズは、どこか逃げるように俯いた。
(やっと感情が表に出てきたな——)
「まさか……それでミクスと揉めたのか?」
下を向いたまま、リズが小さく頷く。
(にしても……相手が相手だ。ミクスに喧嘩を売るほどとなると——)
「そこまでして……助けたいヤツがいるのか?」
「——ええ。別に頼まれたわけでもないし、勝手だとは思うけど……助けたい。多分本人は、怒ると思うけど」
その気持ちは……今の俺なら理解できる。
こいつらがもし敵軍に捕まるようなことがあれば、迷うことなく助けに行くだろう。
例えミクスを敵に回すことになっても、だ——。
「どこに居るのか、わかってるのか? さすがに片っ端から潰していく訳にもいかないだろう?」
「ビジネスにしてるぐらいだから、ハルメニアは定期的に捕虜名簿を送って来る。今期送られてきた名簿に、記載があったから。あと——」
——チャキッ。
「これで、近くまで行けばある程度そのコの〝相棒〟の居場所がわかる。だから私なら、最短距離で行ける」
自分の身体に立て掛けていた愛剣を手に取ったリズは、それを俺たちに見えるように突き出した。
(剣で居場所が……? リベリオンとアテナみたいなものか? いや、それより——)
「そのコって……まさか女なのか?」
「「——っ!」」
幼女以外の女性陣の視線が、なぜか俺に突き刺さる。
(な、なんだ……?)
まぁこいつらのことはさて置き——。
捕虜になるということは、その女は最前線に居たということになる。
リズはもちろんのこと、ミクスにアイネ……逢ったことはないが、第二師団のエルザ——。
(……どいつもこいつも逞しいな、この国の女は——)
「ええ。 【鬼姫】ミリー……聞いたことない?」
「【B特】……[オニヒメ]か!? 壊滅したとは聞いていたが……隊長は生きていたのか——」
ここまで黙って聞いていたチャンが、驚いた様子で後ろから割って入った。
「ん? 誰だ?」
「ほら、前にちらっと話した〝もう一つのB特〟、そこの隊長だよ。俺も詳しくは知らないけど……〝呪われた刀〟を持つと聞く。一度その刀を抜くと、まるで人が変わったように血を求めて戦い続けるらしい」
血を求めて……か。
かなりの戦闘狂のようだな。
「——これは同じ鍛冶師が作ったもので、一定の範囲内で共鳴する。以前ハルメニアの……そのまた向こうのサンテレシアで、一緒に譲り受けた」
リズは一瞬剣を見つめると、抱き締めるように抱えて瞳を閉じた。
「お願い、力を貸して欲しい。隊舎だけじゃ足りないなら、私の全部をあげてもいい」
——リズはもう一度ゆっくりと眼を開け、その金眼で俺を射抜いた。
(……本気の眼だ、俺の苦手な——)
——ゾクッ。
背後から急に、物凄い寒気が襲って来た。
(……なんだ!? 殺気——)
振り返るとそこには——。
いつか見た仁王が立っていた。
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