49話 昼間、円卓を囲んで~サプライズチケット~
「わぁー! 美味しそうですね、アルカ様っ」
おつうが発見した看板は、やはりエリィが探していた店の物だった。
店内に入った俺たちは円卓を囲み、いざ食事……というところだが——。
「あ、あぁ……そうだな——」
ナツキの言う通り、円卓には美味そうな料理がぎっしりと並べられている。
女性陣に注文を任せた結果……なぜかこんなことになってしまった。
(さっき金の話をしたばかりなのに……こんなに頼んで大丈夫なのか——?)
無意識に視線を送ってしまったその先で、秘書と眼が合った。
「……? クスッ。隊長、ここに関してはご心配なく」
俺の心中を察したのか、ユリは穏やかに笑ってみせた。
「そ、そうなのか?」
「ええ。ご心配でしたら……エリィさん、あれを見せてあげてくださいな」
「ん……? あーこれですね! アルカさん、ここはブルースの奢りですのでどうか遠慮なさらずにっ」
エリィはそう言いながら、チケットのような物を取り出した。
そしてみんなに見えるように、それを掲げる。
「なんだそれは?」
「〝字持ち〟の方が行使できる特権の一つですね。第五師団の頃もこれで何度も処理してきましたので、大丈夫ですよ」
なるほど……。
とりあえずここはこれで済ませることができて、その会計はあとで第三師団に請求がいくってわけだな?
(……ブルース、お前もか——)
ハクツルの時もそうだった。
ただ面倒事を押し付けるだけかと思いきや、部隊登録の段取りまで済ませていた。
まったく……〝字持ち〟ってヤツは——。
〝芸のないことはしない〟と言ったら聞こえはいいが……どいつもこいつも、いちいちサプライズが過ぎる。
「そうか、なら遠慮なく頂こう。あれならもっと頼んでもいいぐらいだ」
「ははは、それじゃあいただきまーす!」
「「いただきまーす」」
口火を切ったチャンに続いて、それぞれが食事を口に運ぶ。
皆満足そうに笑いながら、食事を楽しんでいる。
(うっ……ちょっと食べ過ぎたか——)
しばらくしてそんなことを考えていると、対面に座るチャンと目が合った。
「そういえばアルカ、隊舎はどこに構えるの?」
む……そうか、そんなことは全く考えてもいなかった。
「どこでもいいのか? 普通はどうやって決めるんだ?」
「んー、どうだろう? 管理区によって土地や物件の値段とかも違うだろうし……その部隊がどこと懇意にしているのかもあるんじゃないかな? あとは単純に地元とか?」
……そもそも、金についてはこれからの話だ。
目標が決まったらそれに向かって頑張ればいいとして——。
懇意にしていると言えるかはわからないが、話くらいはできそうな管理区はいくつかある。
地元はもう無いが。
「……なるほど、俺は別にどこでもいいかな。どうだ? アテナ」
なんにせよ、巫女様の意見で決めるのが一番だろう。
明確な目的があるのは、アテナだけだしな。
「んー、てきれば都周辺がいいかな」
左隣に座るアテナが、割とスッパリと答える。
「だそうだ」
「了解、じゃあそれについてユリさんの見解を聞こう」
チャンが視線を送ると、ユリがゆっくりと口を開いた。
「そうですねぇ……。まず[第一]……即ちベルブリッツ管理区は、全六区ある管理区の中では一番お金が掛かります。特に都になると地価が高いですし……何より、一番安全な管理区ですから」
……まぁそうなるだろうな。
アテナの場合その辺が理由じゃないんだろうが、ここら近辺を選ぶならそういった事情は付いて回るだろう。
「あとは……ウチは珍しく[第三]、 [第五]と〝字持ち〟に直接顔が利く管理区が複数あるので、それを使わないのは正直もったいない感じはします」
少し顔を合わせただけで、別に付き合いが長いわけじゃないが……あれは顔が効くうちに入るのか。
「難しい……かな?」
隣の巫女様が、不安そうにユリを見つめる。
その視線を返すように、ユリはクスッと笑った。
「ですが、個人的にはアテナさんに賛成ですね。この辺は何でも揃ってるでしょうし……やっぱり〝自立〟ということを考えると、先の二つは外したいかと。そうなると第二、第六という選択肢もあるんですが……その二つは治安も悪いですし、あまりいい噂も聞きませんので——」
——俺も第六はお断りだ、嫌なことを思い出してしまう。
第二は……バーンブレイズか、現状だと全く関わりがないな。
第五をさりげなく省いている件については、触れないでおこう。
できることならこの先、俺もアイネとはなるべく関わりたくはない。
そして、少し引っ掛かることがある。
ユリがやたらと〝自立〟という言葉を使っているように聞こえる点だ。
もちろん、言わんとしていることはわかる。
だが……何か特別な理由があるのか?
(……まぁ今、それを考えたところで仕方ないか——)
「そうか、不可能じゃないならその線で考えよう。——で、いくらぐらい見積もっておけばいいんだ?」
「一応、それも調べてあります。今出ている物件だと……とりあえず頭金で、大体1000万エーデルぐらいですかねぇ」
「なっ……! そ、そんなにか?」
でも……考えてみればそうか。
小さな家を建てるのでさえ、それぐらいはかかりそうなものだ。
それが隊舎ともなれば、なおさら金が掛かるのは仕方ない。
「人数も居ないので、隊舎自体は大きいものじゃなくていいんですが……外に少し開けた土地が必要なんです。ウチにはあれがありますので」
「……ブランシュルーヴか」
——そうだよな。
確かに、あれをいつまでも郊外に隠しておくわけにもいかない。
(……仕方ない、頑張って稼ぐとするか——)
「ええ。というわけで、とりあえずこの後……隊長は……その……」
「「……っ!」」
隣の巫女様と、そのまた隣の元メイドが、何かを言いかけて口を噤んだ。
「ん? なんだ?」
ユリはどこかモジモジした様子で、俯いている。
「私と一緒に……任務の受注や、物件を見にですね……」
——チラッ。
少しだけ顔を上げたユリが、その翠眼で俺を下から覗き込む。
「……ん? もちろんそのつもりだが? もしろ早く行くぞ」
「早く……っ! ——はいっ! 早く行きましょうっ」
——ギリィッ!
——ガタッ!
なぜか急に、左方面が騒がしくなってきた。
「……どうした? 二人とも?」
「べっ……別にっ——」
「あはっ、虫が居たかなー? と思ったら気のせいでしたぁ~! あははは~」
「……? そうか」
——慣れない空の旅の後だ、二人とも疲れているのかもしれない。
ここは追及せず、そっとしておいてやろう。
「そういうわけで、俺たちは行ってくる」
「はいっ! 私も行きますっ」
勢いよく手を挙げるエリィ。
そしてその蒼眼には、一点の曇りもない。
(……わかっていたさ、毎度お決まりのこの展開。だが——)
「ダメだ、お前はチャンと訓練だ」
「なっ……!」
本人的には『まさか』の展開だったのか……その表情は——。
まるで〝この世の終わり〟を迎えたかのような、終末感に満ちている。
「早く戦場に出たくないのか?」
「む……期待、ですね? わははは! わっかりましたぁ! 相手になりますよ、チャンさん!」
……何を言ってるんだ?
まず、相手をしてもらうのはお前だ。
そしてもちろん、何も期待などしていない。
せめて最低限、自分の身くらいは自分で守れるようになってもらいたいだけだ。
「ははは、お手柔らかにね」
仏が過ぎるぞ、チャン。
(だがまぁ……そんなお前だから任せられる——)
「皆はどうする?」
あとの面子は好きにしてくれていい。
なんなら着いて来たっていいしな。
「オイラは船に戻って、整備しときます!」
勤勉で何よりだが……たまには息を抜かないと、あとで響くぞ?
それともまた何か企んでいるのか? ——だとしたら懲りないヤツだ。
「私は……」
途中まで言いかけて、ナツキが下を向いた。
まぁ右も左もわからない土地だ。
何をしたいかなんて、すぐに思いつく方がおかしいか。
「特にないのか? なら一緒に——」
「アテナさんとお散歩してきますっ! おつうちゃんもいこっ?」
「うん」
俺が言い切る前に、ナツキが再度口を開いた。
そしての誘いに、テンポよくおつうが頷く。
「えっ? 私はアルと——」
「アテナさん、たまには私に付き合ってくださいっ」
ふいを突かれたアテナがどもっていると、それを遮るようにナツキが強く言い直した。
「——わかった、じゃあ私はなっちゃんたちと一緒に居る」
どこか押し切られる形で頷いたアテナを見て、ナツキが嬉しそうに笑った。
「各位了解だ。では後ほど、ブランシュルーヴで落ち合おう」
店員に会計を頼み、俺たちは席を立った。
「わははは! チケットで!」
「……っ! かしこまりました。失礼ですが——」
得意げにチケットを渡したエリィだったが、何やら店員に呼び止められている。
「……なんだ? まさか使えないとか?」
「いえ、そんなはずは——」
ユリと話していると、何食わぬ顔でエリィが戻って来た。
「ん? どうしましたっ?」
「いや、こっちのセリフなんだが……。何かあったのか?」
「ぬ……? あー、なにやら『夜はバーをやっておりますので、よろしければ』だそうですっ」
「バー? そうか、ならいい」
——あいにくだが、そういうことなら遠慮しておこう。
酒など飲んで……また前回のようになったらたまったもんじゃないからな。
こうして店の外へ出た俺たちは、それぞれに挨拶を交わし、その場で一旦別れた。
「……ん?」
——別に、ウチの秘書が礼儀正しいのはいつものことだ。
だがユリは去り行く皆の方に一礼したまま、しばらく経ってもその場を動こうとしない。
「どうした? 何かあったか?」
俺が声を掛けると、顔を上げたユリがこちらにクルッと振り返った。
「——いえ、なんでもありませんよっ」
ユリは後ろ手を組んだまま、ニコッと首を傾げた。
その拍子に、金色のポニーテールがふわっと跳ねる。
「行きましょう、隊長っ」
——グッ。
(……ん、珍しいな——)
「あぁ、行こうか」
いつもは俺の後ろを歩こうとする秘書が、隣まで来て俺の袖を掴んだ。
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