48話 俺たちの居場所~溢れ返る人波の中で~
「わぁー! 人がいっぱいですね! アルカ様っ」
「あぁ、やはり都と言うだけあって……他の街とは比べ物にならないなこれは——」
——ゼクスの都に入った俺たちは、人の流れに沿って大通りを歩いていた。
ナツキの言う通り、街は人で溢れ返っている。
「——で、本当にこの通りで合ってるんだろうな、エリィ? 黄色い看板なんかどこにも見当たらないぞ?」
「はいっ! 間違いありません! ——あっ、そこの分かれ道は左ですっ」
どうやらエリィは、ブルースたちに連れられて何度かゼクスの都に来たことがあるらしい。
他は全員初めてで右も左もわからないので、とりあえず食事ができるところに案内してもらうことになっている。
そんなエリィを先頭に、縦に並んで進んでいるわけだが——。
もちろん、不安しかない。
「ぬわー」
「ちょっ……またか——!」
——グッ。
何とか引っ張り出し、人ごみに攫われそうになる幼女を救出する。
別に数えていたわけじゃないが、このやり取りも……もう軽く十回は超えているだろう。
(——ダメだな、このままではいつか本当に見失ってしまいそうだ)
俺はおつうを抱き上げて、肩の上に座らせた。
「おつう、しばらくここに居ろ」
「りょうかいだ! たいちょー」
頭の後ろから、幼女の楽しそうな声が聞こえた。
——しばらく進んだところで、人の流れがピタッと止まってしまった。
男連中だけならまだしも……女性陣を抱えている俺たちにとっては、この中を無理に掻い潜って進むのは少々難しいだろう。
「……くそっ、都ってのはいつもこんな状態なのか?」
「いえいえ! 今日は特別人が多いですっ。お祭りか何かでしょうかね?」
「なるほど……タイミングが悪かったか——」
一歩……一歩と、少しずつ人波が動き始める。
「————! ————だ——!」
やがて、誰かの叫ぶ声が聞こえて来た。
「……ん、なんだ? 何か見えるか? おつう」
「んー、なんか配ってる」
祭りの案内か何かか?
(まぁどちらにせよ、俺たちには必要のないもの——)
「なんと! ちょちょっと行って貰ってきますね! アルカさんっ」
——おい待て、お前がはぐれたら誰が店まで案内するんだ?
そもそも、自分が〝今後一切の単独行動を許可されない唯一の存在〟だとわかっていての発言か?
どうせまた面倒を起こすんだろう? 頼むから止めてくれ。
「おまっ、勝手に動くな——」
一瞬、エリィを止めるため手を伸ばそうとした——が、それでは引き換えにおつうの脚を離すことになってしまう。
バランスを崩して落っことしでもしたら——。
(くっ……今この手を離すわけには——)
皆の方に振り返ると、俺の視界の中を見慣れた頭が映り込んだ。
(——っ! その髪型もたまには役に立つじゃないか!)
「すまんスターク、後を追ってくれるか?」
俺はエリィが飛び込んだ方向に、顎をクイッと動かした。
「ん……あー! 了解でっさ!」
状況を理解したらしいアフろんは、颯爽と人ごみの中に消えて行った。
「ははは。大変だね、おてんば娘は」
「あぁ……まったくだ」
だがチャン、その〝おてんば娘〟という単語はエリィに直接使うなよ?
きっとあいつのことだ。
なぜか誉め言葉に受け取って、また皆に迷惑を掛けるに違いない。
「——ぶはぁっ」
少し待っていると、人ごみの中からエリィが顔を出した。
「待ってエリィ——ぐへぇっ!」
遅れて出て来た——かに見えたスタークだったが、あと一歩というところでまた人の波に吸い込まれて消えていった。
(お前が置いて行かれてどうする……)
両膝に手を置いて息を整えているエリィの手に、何かが握られている。
「勝手に動くんじゃない。——で、結局何だったんだ?」
「はぁ……はぁ——あっ、はい! 何やら〝号外〟とのことでしたっ」
立ち上がったエリィが、俺の目の前に紙切れを差し出した。
(……号外? 何かあったのか——?)
だが両手が塞がっている今……俺がそれを読むのは厳しい。
ここはひとまず、誰かに読み上げてもらいたいところだ。
「ははは。貸してごらん、エリィ」
さすがチャン、まさに以心伝心だ。
俺たちには言葉なんかいらないんだ。
いつだって、こうやって分かり合える……そうだろ? チャン?
「なになに……なっ! ——えっ? そんな——、でもそれって——」
……チャンさん?
「……あー、すまん。読み上げてくれると助かる」
「——あっ、ごめんごめん。ついびっくりしちゃって」
——そうか、びっくりしただけか。
そうかそうか、いやぁ良かった、ははっ。
「じゃあ読み上げるね。えーっと————」
『号外!』
〝閃光の雨〟——栄光の隊旗消滅!
【A級特別隊】フラッシュレイン解散! 原因は【君主】ミクスと【剣聖】リズレットの衝突!?
第一師団の派生別動隊として知られる国内唯一の【A特】、 【剣聖】リズレット率いる[フラッシュレイン]が特隊登録を抹消……つまり、事実上の解散状態であることがわかった。
我々が関係筋から得た情報によると、どうやら親元である【光妃】ミクスと隊長であるリズレットの間で何らかの衝突が起きたことが確認されており……それが原因だという。
——が、その詳細まではまだこちらには降りてきていない。
わかっているのは『リズレット本人が第一師団からも登録を抹消されている』ということぐらいだ。
これまであらゆる戦場……そして任務において、数多の輝かしい戦績を残してきた彼女だ。
それだけに、第一師団関係者のみならず他の【六神盾】各部隊にも、大きな衝撃が走ることになるのは間違いない。
本誌は引き続き、 『〝字持ち〟に一番近い女』……【剣聖】リズレット・バレンタインの、今後の動向を追っていく——。
「凄いことだよ、これは——!」
読み終えたチャンは、少々興奮気味である。
「「……?」」
イマイチその凄さがわからない様子の女性陣は、お互いに眼を合わせては首を傾げている。
「説明しよう!」
急に声がした方に眼をやると、そこにはまたしても見慣れたアフロが立っていた。
「やっと戻って来たか——」
「はっはっは! 麗しき女性陣の皆さん、旦那とチャンさんが喧嘩になるところ……想像できます?」
「無理、だってあり得ないもん」
「あはっ、そういえば一度もありませんねっ」
「できませんし……して欲しくはありませんね」
「わははは! 任せてください、私が止めますよ!」
「おにぃ、お腹空いた」
スタークの問い掛けに、それぞれが意見を述べた。
若干二名、おかしいのと聞いてないのが居たが……とりあえずここは流しておこう。
「まぁそういうことでっさ! で、今回はそれが喧嘩別れしてると思ってもらえれば。ミクスとリズレットはかなり長い付き合いって話だし……相当のことなんでっさ、これは」
まともに答えた三人が、俺とチャンを交互に見たあと……どこか哀しい眼をし始める。
——そうか、やっぱりスタークはたまにいい仕事をする。
そもそも心配していないにしても、その反応は四者四様。
エリィについてはそこまで付き合いが長くない……つまりここまでの経緯や背景を知らないせいか、深く考えてすらいない。
そして、俺自身にも分かりやすい例えだった。
チャンと喧嘩になることはまず想像できないし、離れるなんてことは……例え冗談でも考えられない。
「……チャン、俺は離すつもりはないからな」
「ははは。俺もだよ、アルカ——」
しっかりと俺を見るその翠眼から、チャンの本気が伝わる。
「えぇ……」
「きゃー!」
「あらあら……」
「わはは、いいですね! 熱血! 友情! 最高ですっ!」
「はっはっは! 着いて行きますよ! お二人とも!」
「……なんこれ?」
——大丈夫だ、皆。
俺とチャンが仲違いすることなど有り得ない、だからそんな哀しい眼をするな。
「よし、じゃあ行くか——」
「待ってアルカ、下の方にまだ何か書いてあるね。なになに——」
チャンは先へ進もうとした俺を呼び止めると、続きを読み上げた。
——追伸——
【特別部隊】については、先のハルメニア迎撃戦にて【B特】である[オニヒメ]が壊滅したばかりだった。
今回の件により、我が国に残された【特隊】は最近登録を済ませた【B特】である[テンペスト]を残すのみとなった。
設立の条件が厳しいだけに元々数は多くなったが、その中でもこうまで立て続けに問題が発生するとなると……やはり今後は、特隊制度そのものの存続が危ぶまれるのは明白だ。
なにせ『純粋な剣の腕だけであれば国内最強』とまで謳われたあのリズレットですら、その任を解かれてしまっているのだから。
噂では、この機に乗じて【特隊】自体を無くそうという動きもあるとかないとか——?
……なんだと? ちょっと待て。
「——おい、そっちの方がよっぽど重要だぞ?」
そんな訳の分からない内輪揉めのおかげで、俺たちの居場所まで失われるっていうのか? 冗談じゃないぞ。
「ははは。でも見てよ、ほら——」
チャンに言われて周りを見渡す。
(……ん? 確かに皆聞いていたはずだが——)
テンペストが無くなるかもしれない——とは、誰も思わなかったのだろうか?
誰一人、その表情に不安は見えない。
「ははは。アルカ、特隊制度が無くなったら、テンペストを名乗るのをやめるかい?」
「……やめない、と思う」
「そういうことだよ。別に大事に思ってないわけじゃない。逆に大事に思ってるから……『そんなお上の気分一つでどうにかされるのなんてごめんだ』と思うわけだろう?」
(……こいつは——)
本当に、何でもお見通しなんだな。
しかも俺の考えていることがわかるだけじゃない……いつだってそれに対して、俺の欲しい答えをくれるんだ。
「——そうだな」
「ミクスや【剣聖】のように別れてしまえば、それも叶わないかもしれないけどね。でも一緒に居さえすれば、俺たちはいつでもそうあれるんだ。それが大事だし、逆にそれだけでいいとも言える」
周りを見渡すと……もはやこいつらは誰一人、もうこの話をしていない。
食事の話やら都の感想やら——それぞれに笑顔が見える。
——大した問題じゃないんだ。
誰かが用意したカタチに捉われて、俺だけがその型に勝手にはまっていただけなんだな。
——ポンポン。
ふいに頭を叩かれた。
振り向くと、少し体を屈ませた幼女が向こうの方を指差している。
「あった、黄色いかんばん」
「……ははっ、よくやったぞおつう。よし! さっさと飯にするぞ!」
気が付くと、辺りからは少し人が減っていて——。
俺たちは贅沢にも、少し横に拡がって。
それでもこうして、自分たちの歩幅で歩けるようになっていた。
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