47話 約束の都~世界のカタチが、違えども~
「——おい、まだか?」
「旦那、もう少し待ってあげてください!」
「ははは、こっち向いちゃダメだよ? 二人とも」
もう歩いて行ける距離に、高い城壁に囲まれた都市が見える。
——ということで、全員ブランシュルーヴを降りたわけだが……なぜだか俺とアテナだけ、少し離れたところに立たされている。
「……ねぇアル、二人で先行っちゃおっか?」
後ろ手を組んでやや前に身体を倒した巫女様が、いたずらな表情で俺を覗き込む。
「何言ってるんだ。皆を置いていけるわけがないだろう」
「むぅぅ……、わかってるもん! ほんっとアルって冗談通じないんだからっ」
「……いや、お前が言うと冗談に聞こえないだけだ」
プクっと頬を膨らませたアテナは、毎度の如くそっぽを向いてしまった。
「ははは、またかいアルカ? 『夫婦喧嘩はゴブリンも喰わない』ってことわざがあるんだよ、この国には」
いつの間にか隣まで来ていたチャンが、何やら難しそうなことを言い出した。
「そうなのか? 覚えておこう」
「ははは。じゃあ二人とも、後ろを見てごらん——」
「やっとか。一体何をしてたん……なっ——!」
——おかしい。
どこにも見当たらない。
先ほどまでそこにあったはずのブランシュルーヴが、忽然と姿を消している。
「……えっ? えっ?」
巫女様もすっかり驚いた様子で、あちこちをキョロキョロと見まわしている。
「どうですか!? アルカ様!」
「やった! 成功しましたね!」
「にっ」
「わははは! 私は何もしてないけど!」
向こうの方で、女性陣が嬉しそうにはしゃいでいる。
「チャン、これは一体——」
「ははは、俺も最初は驚いたよ。まぁ簡単に説明すると……よっと!」
チャンは近くにあった小石を拾い上げ、女性陣の方に放り投げた。
「ちょっ、おまっ——」
ふわりと弧を描いたそれは、このままだと中央に立つ幼女に当たりそうだ。
——だが当のおつうは腕を組み、 『ニヤリ』と口角を釣り上げたまま……その場を一切動こうとしない。
そして気に入ってしまったのか、相変わらずレンズの大きいサングラスを掛けたままだ。
(……そのまま都へ行くのか? バカにされないといいが——)
——ガンッ。
「「——っ!?」」
なぜかおつうの目の前で弾かれた小石が、そのまま地面に転がった。
まるで見えない壁に阻まれたかのように、空中で弾かれたのである。
「……なんだ? どんな魔法だ?」
「ははは、これがブルース軍長から教えてもらった〝結界術〟だよ。そもそもは、ああやって人間や物を〝守る〟ための魔法らしいんだけど——」
「わははは! このように指定した物を〝隠す〟こともできるのです! 第三師団秘伝です!」
チャンの説明を遮って、横から自慢げに家出娘が割って入って来た。
「——てわけだね」
「……なるほど。じゃあ見えないだけで、そこにブランシュルーヴはあるってわけか」
「ははは、そういうこと。一応識別登録は済ませてあるとはいえ、急にブランシュルーヴでズカズカと入ろうものなら……撃墜されるまであるからね」
チャンはどこか遠い目で、都の方を見つめている。
確かに……この〝ゼクスの都〝は、アーレウス最強の第一師団の管理区だ。
〝天上天下唯我独尊〟と名高い【光妃】ミクス・ティア・クロード率いる部隊……まぁそんなことがあっても不思議じゃないか。
(しかしブルースめ……やはり最初からエリィともどもブランシュルーヴを押し付けるつもりだったな——?)
——偶然にしては出来過ぎだ。
そうでもなければ、わざわざ自分からこんな希少な魔法を教える理由もない。
(……ちっ、すべて計算の上ということか——)
まったく……〝字持ち〟ってのはやはり、どいつもこいつも何かと仕込んできやがるな。
何事もちゃんと伝えないで、黙って進めてしまう辺りが気に喰わん。
結局どうあっても、自分の思い通りになると思っているんだろうな。
——〝結界術〟のお披露目を終えた女性陣が、続々とこちらに寄って来た。
「ははは、褒めてあげてよ。三人とも頑張って練習してたんだ」
一人じゃできないってところが難点ではあるが、その分強力な効果だな。
「褒めてくださいアルカ様! 私頑張りました!」
「アルカさん! 私も見守ってました!」
「おにぃ、お腹空いた」
「皆お疲れさん。一人余計なのが混じってるっぽいが——」
——チラッ。
「ひっ……」
——別に怒っているわけじゃないんだ、そんな風に縮こまらなくていい。
だがお前のせいで、前に出そびれたヤツが居る。
「ユリもお疲れ様。大変だったろう?」
一人だけ少し離れたところに立っている秘書にも、声を掛ける。
「……っ! いえ! 隊長に比べたら全然です。でも……ありがとうございます」
そう言っていつものようにポニーテールをふわっと揺らしたユリは、ニコッと優しく微笑んだ。
「——よし、じゃあ行くか」
それぞれが、都に向けて歩き始める。
俺は右手でおつうの手を引きながら、左隣を歩く巫女様に声を掛けた。
「——アテナ」
「ん? なぁに? アル」
先ほどまでの不機嫌はどこへやら……もう特に怒っているわけでもないようだ。
本当にころころと表情を変えるヤツだ。
出逢った時からそうだった。
「すまなかったな。こんなに時間が掛かってしまって——」
一番最初に交わした約束だったのにな。
ファミリアに始まり、オルカスタ……アイシームーンにまで寄り道した。
「……もー、ほんとだよっ! ——罰として、私も引っ張ってって」
そう言って、アテナはこちらに右手を差し出した。
俺は黙って、その手を握った。
いつものように袖を掴んでくるでもなく……こうして指を絡めてくるのは珍しい。
クリスタルパレスで一度、似たようなことがあったきりだ。
「……嘘。ありがとうね、アル。連れて来てくれて——」
——お前はきっと、そう言うだろうと思っていた。
けど逆なんだ、連れて来てもらったのは俺の方だ。
お前があの日、連れ出してくれなかったら今頃……なんて考えると、今はもう怖いくらいだ。
だってそしたら、こいつらとも出逢っていないってことだろう?
別に死ぬのが怖かったんじゃない、 〝それで皆と逢えていなかったら、この時間を知らなかったんだな〟と思うと……ただただ、怖いんだ。
「俺のセリフだ。感謝してる、本当に」
「私……そんなこと言ってもらえる権利、ないよ——」
だけどいつしか……今度は失うことが怖くなった。
知らなかったんだ。
〝仲間が出来る〟ってのが、そういうことだなんてさ。
ずっと独りだったから。
もちろん、考えもしなかったから。
「それはお前が決めることじゃない、俺が決めることだ」
「……そう、なのかな——」
——とにかく、お前と出逢って少しだけ拡がったこの世界を、俺は護りたい。
俺の世界はテンペストでしかない。
正直……他のすべては二の次で、どうなろうが知ったこっちゃない。
けどそれは、お前あっての世界なんだ。
だからまず、お前を護りたい。
お前の護りたい世界を、まず護りたい。
例え〝お前の救いたい世界〟と、〝俺の救いたい世界〟が違っていたとしても——だ。
(だからこそ……こうして時間が掛かってしまったことを、本当にすまないと思っているんだ——)
——グッ。
「……っ、すま——」
——ギュ。
——俺が無意識に強く握ってしまったその手を、アテナは何も言わず握り返した。
お前の言う世界は、俺のような小さい世界じゃないのはわかってる。
だけどその中に、この小さな世界も含まれているんだ。
この先に何があったとしても——。
俺とお前が一緒に居ることが、俺たちの明日に……笑顔に繋がる。
(……そうだよな? アテナ——)
どこか上機嫌の巫女様は、逆にこの手を引っ張るかの様に……俺の少し前を歩いていた。
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