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【S級部隊 12話】ターニャ:聖地陥落~灰燼に帰したその果てに~

「なっ……なんてことを——!」


 ……もう詰みね、これでお終い。

 今までの苦労がすべて水の泡——。


 最初は順調だった……けどいつからか、何度も脱線する羽目になった。

 けどその度に、なんとか路線(レール)に引き戻してきた。


 そのために(ゲイル)に捧げ続けてきたこの身体も。

 馬鹿二人の後始末に追われ、始終奔走(しじゅうほんそう)したこれまでの日々も。

 エルドレッド(こいつ)と引き換えに、死ぬほど痛い思いをして失くした右眼も。

 必死に考えて行動して、どうにかこうにか繋ぎ止めてきたっていうのに——!


(どこで……どこで狂ったの——!?)



 …………ズオオオオオオオオオォォォッ!



 前方の船に向かって、一直線に黒炎が(ほとばし)る。


(もうダメ——!)



 現実から目を背けるように、私は目を閉じた。




 ——バサァッ!




「きゃっ」


 エルドレッドが再度急旋回したことにより、振り落とされそうになる。


 ——それから数秒間。

 眼を閉じたまましがみついているが、これといった動きがない。


(……何? どうなってるの——?)


 恐る恐る眼を開けると——そこにはもう、あの船の姿は無かった。


「あぁ……終わりだわ。何もかも——」


 どうしよう……まさかあれぐらいで〝字持ち(ネームド)〟が死ぬわけない、必ず追ってくる。

 でも今から計画の修正だなんて、とてもじゃないけど出来ない。


(どうする……? もう会合を待たずに仕掛けるしか……でも頭数が足りな——)


『——どうした小娘? さっきから黙りこくって』


 ……あなたのせいでしょう?

 どうして私の(そば)にはこんな脳筋しか集まってこないのかしら。

 もっと忠実に動く〝使い勝手のいいヤツ〟が欲しかったわ。


『……いいえ。あなたがあの船(あれ)を消してくれたおかげで、考え事が増えてしまっただけよ』


 というよりも、 『お先真っ暗で何も見えない』と言った方が正しいかしら。


『ん? 何を言っている? あの船(あれ)は我が消したのではない。自ら消えたのだぞ』


『……なんですって?』


 ——どういうこと? あなたさっき思いっきり攻撃してたわよね?


(かわ)された……ってこと?』


『いかにも。——だがまぁ……()()()()()ことがわかっただけで収穫であった』


 ——あの距離で? そんなことがあり得るの?


 でも確かに……後方の森林の一部分が黒く燃え上がっている。

 あそこに直に着弾したってことになりそうね——。


あの船(あれ)が……本当にあなたの言う〝古代兵器(さがしもの)〟っていう確証はあるの?』


『グワハハハ! ()()から(つつ)いた! だがおかげで確信した。そもそもあれしきで堕ちるようなら、 〝古代兵器(アーティファクト)〟など元から積んではおらぬことになるからな! 無論、逆も然りということだ』


『——試したってこと?』


『まぁそうなる。——グワハハハ! 今日は気分がいい! さっさと目的地へ行くぞ!」


「……え、ええ——」


 ……ダメ、怒りと虚脱感でどうにかなりそう。

 ヒヤヒヤしたとか、そういうレベルじゃない。


(けど……ここで何を言ったところで、どうにもならないのもまた事実よね——)


 わかってる、また私が我慢すればいいんでしょう? もうそれでいいわ。

 でもその代わり、今日はここまでにして。

 次何か起きたら、もう正気を保てる自信がないわ。



『——む、山火事か。今日はよく森が燃える日だな! グワハハハ!』


 悠々と両翼を羽ばたかせるエルドレットが、気持ち良さそうに笑っている。


『まったく……あれはあなたがやったんでしょう』


 頭でもおかしくなったのかしら? この黒竜様は。

 ……はぁ、やっぱり私の周りはこんなのばっかりなのね——。


『何を言っている? 前を見ろ』


 あら——? 本当に別の山火事なの?

 ごめんなさいね、決めつけるような真似をして。

 でもわかって? 私……本当に参ってしまっているの、馬鹿共(あなたたち)に。


『前? 一体何だって————は?』




 ——えっ?




 嘘でしょう?




 そんなことってある——?



『ん、どうした? そんなに驚いて——』


『あそこなの! 降りてちょうだい! あの瓦礫の山!』


 ……何あれ?


『我はよくても、あの火の海では貴様は死ぬぞ?』


『わかってるんならどうにかしてよ!』


 早くして。


『……はぁ。とことんヒステリックな女だな——』



 ——ガパッ。



 眼下の火の海に向けて、エルドレッドが大きく口を開く。



 …………ズオオオオオオオオオォォォッ!



 眼下の火の海目掛けて、黒炎が放たれる。


『ちょっ——! 何してるの!?』


『見ての通りだ』


 黒炎は瞬く間に燃え広がり、辺り一帯を覆い尽くした。


『あんなことしたらさらに酷いことになるじゃない!? 一体どういうつもり——』


『騒ぐな。黙って見ていろ、(じき)()()()


『……っ!?』



 エルドレッドの言う通り……ほどなくして、黒炎に飲み込まれるように山火事は消え去り——。

 そのさらに外周、もともと燃えていなかった樹々にのみ、新たに黒い炎が上がった。


『確かにこれなら中央(あそこ)には降りれる……けどどういうこと? そういえば前に私を治癒した時の黒炎も——』


『我の黒炎をその辺の火なんぞと一緒にするな。では降りるぞ』


 ——説明は無しなのね。

 まぁいいわ、とりあえず状況の確認が先。



 ——バサァッ。



 急降下したエルドレッドが、瓦礫の山の正面に降り立った。


 私はその背から飛び降り、現場を確認する。


『……これは——!』


 ——確かにここは、輪廻教(サンサーラ)アーレウス本部……だった場所。

 宗教施設としては国内最大の敷地面積を誇り、古代から受け継がれる〝忘却神像〟や〝中央教会〟など……世界的に見て価値の高い歴史的文化財もたくさん存在していた。

 連日数万の信徒が往来する、まさに聖地。


 けど、もはや……その面影はない。


『思い出した、ここは我も知っているぞ。随分古くあるからな……まさに〝灰燼(かいじん)()す〟だな』


『……』


 怒り……はある。

 私も一応、輪廻教の信徒ですもの。

 けど、それと同じか……いいえ、それ以上かもしれない。


(……最後の最後に、幸運(ツキ)が回ってきたわ——!)


 罰当たりだとは思うけど、興奮してしまうわね。


 ——確かにここ最近、輪廻教が弾圧されていたのは間違いない。

 一部の過激派のせいとはいえ……それも組織全体のこととして、それぞれ皆耐えてきた。


 けど……〝点在する支部〟が落とされることはあっても、 〝歴史ある本部〟が落とされるなんて、誰が想像できるの?


 ——できないわよね?

 世界中の信徒の誰一人、()()()()()()()とは思っちゃいないわ。


(一般信徒はもちろん……あの、シヴァでさえもね——)



 ——意外な形で、盤面が整いつつある。



『——ありがとうエルドレッド。行きましょう』


『ん? もうよいのか?』


『ええ……でもごめんなさい。ハルメニアまでお願いできるかしら?』


『……まったく、竜使いの荒い小娘だな。——さっさと乗れ』


『ええ、ではお言葉に甘えて』



 ——バサァッ!



 私が背に乗ったのを確認し、エルドレッドが飛び立った。



『ふふふ……〝危機(ピンチ)好機(チャンス)に変えてこそ〟よね? エルドレッド』


『なんだいきなり? ——まず我の辞書に〝危機(ピンチ)〟という言葉がない故、わからぬ』


『あらごめんなさい、伝説の隻眼竜(ワンアイズドラゴン)に失礼だったわね。ふふふ——』


『んん……? 本当におかしな女だな。——飛ばすぞ』



 ——バサァッ!



 エルドレッドはその両翼をさらに強くはためかせ、加速した。



 ——そうね、そうかもしれない。

 散々あなたたちのことばかり言ってきたけど、私も充分おかしいかもしれないわね。


(でもそのおかげで……ここまで来た——!)



 ——見ていてください、ネメシス様。

 (いにしえ)より続く輪廻教の()()()()()は……もう眼の前に————。

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