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44話 緋眼の冥王〜灼熱の双斧〜

 薄い蒼銀の頭髪を風に揺らすその男は、割と軽装に身を包んでいる。

 上半身がこちらに振り返っているが……ちょうど片眼に前髪が掛かっていて、眼の色が確認できない。

 そして——。


双斧(そうせん)……珍しい取り合わせだな——)

 

 短い両刃の斧が二(ちょう)……しかも、右肩と右腰から抜けるようになっている。

 取り回しが上手く想像できないし、あれでは比重的にそもそもバランスが悪く見えるが——。



 ——少しそのまま対峙したあと、男が口を開いた。


「……生き残りが居たか」


 確かに俺は、亡国アズリアの生き残り……ではあるが、恐らくそのことではないだろう。


「あー……とりあえず、これはお前がやったのか?」


 辺りは少しの風すらも吹いてはおらず、動物の鳴き声もしない。

 俺たちの声だけが響いて聞こえるほどの、静寂に包まれている。


「……そうだとしたら——?」



 ——ジャキッ。



 男はゆっくりとこちらに身体を向けながら、両手を斧の(つか)に回す。


「……そうやって使うのか」


 右手で右肩から……そして左手で右腰から、その双斧を抜くのか。

 ——であれば、その初撃はある程度想像できる。


「アテナ、後ろに走れ」


 そして、その戦い方も。

 十中八九間違いなく、パワーで圧倒するタイプだろう。


「えっ? なんで? 私も——」


「いいから早くしろ!」


「……っ! うっ、うんっ!」


 アテナが走り出したのと同時に、男が腰を落とす。


「くくっ、——いい判断だなぁ!」


 踏み込んだ拍子にギラっと見開かれたその緋眼が、俺を鋭く睨みつける。


(火属性……! やはりこれはこいつの仕業か!)



 ——ボワッ!



 未だその双斧は抜かれぬまま、刀身が発火する。


「言い残すことはあるか? 混沌(こんとん)より出でし破滅の使徒よ」


 ……全く何を言っているのか理解できないが、何をしようとしているのかはわかった。


「話を聞くタイプじゃなさそうだな。そっちがその気なら力ずくで黙らせるから気にしないでくれ。 〝リベリオン〟——!」



 ——紫光が漏れ出し、紫煙が立ち込める。



「ハッハァー! この闇の炎で……その(よこしま)なる魂ごと滅却(めっきゃく)してやる!」


 男が大きく踏み込み、飛び上がった。

 それと同時に身体を捻り、その勢いのままに回転させる。


 ——やはり想定通り。

 だがそれは、おれの十八番でもある——!


「そう来るよな……! 【双剣形態(ツインソード)】——《舞風(まいかぜ)》!」


「裂かれて眠れ! 《紅蓮双斧(ぐれんそうせん)》!」


 男は両手で双斧を抜いた勢いのまま、左方向から力任せに二本を並べて振り抜く。


 俺は逆に左から双剣で振り抜き、その双斧をいなす。



 ——ガッッッッ!



(——っ! なんつーパワー……!)


 力の流れそのままに受け流したにも関わらず、もの凄い衝撃波が発生する。


「きゃー!」


(後方のアテナまで届いているとは……やはり離しておいて正解だったか——!)



「……っ!?」


 男は一瞬たじろいだような表情を見せたが、着地後すぐさま体勢を立て直した。

 そしてそのままさらに回転し、その勢いでもう一度双斧を振り抜く。


「弾けて消えろ! ——《炎転舞(えんてんぶ)》!」


(——っ! 受けるのは無理だな!)


 俺は双剣を十字に構え、思い切り後ろに飛び退く。



 ——ボワアアアアッ!



「……くっ——!」



 直撃は避けたものの——。

 炎を(まと)った爆風が、斬撃のように鋭く俺を突き抜けた。


 男は少し距離を取り、双斧を一度納める。


「貴様……何者だ? 初撃を(かわ)されたのも驚いたが、この連撃で胴体が繋がっているとは——。 【嵐】ならともかく、ただの【風】だろう?」


 こいつ……相当な手練れだな。

 さすがに〝字持ち(ネームド)〟クラスとまではいかずとも、それに近い戦闘力があるのは間違いない。


「ははっ……。まるで〝字持ち〟と戦ったことがあるような口ぶりだな? その前にまずはお前から名乗ったらどうだ?」


「くくっ、死にゆく者に名乗る名など持ち合わせていない。——()()()をどうにか出来たなら……俺の名を教えてやる!」


 そう言って男が右手を天に掲げる……が、特に何かが起こる様子はない。


「……一体何だ? 盛り上がってるとこ悪いが、茶番に付き合っているほど暇じゃないんだ。このまま遠慮なく斬らせてもら——」



 ——ザワッ。



(……風?)


 先ほどまで無風無音だったはずの周囲が、ざわつき始める。


 かろうじて焼け落ちていない樹々の葉が、サラサラと擦れるような音が聞こえる。


(しかし……この辺にはもう葉など——)


 ——ほどなくして、俺の前髪がふわふわと吹き上がり始める。


(——っ! なんだこの魔力(マナ)は!?)


 やがて、俺の全身が凄まじい魔圧を感じ取った。


 全身が熱くヒリつく。

 このまま呼吸を続ければ、今にも肺が焼けてしまいそうな灼熱の火の魔力。


「アル! 上っ!」


「上?……なっ——!」 



 ……ゴオオオォォォ——。



 ——アテナの声に誘導された視線のその先で、俺は目を疑った。

 そこにはまるで……小さな太陽がもう一つあるかのような、火球が浮かんでいる。


(ここに……周囲の魔力が集束してたのか——!)



 ……前言撤回だ、こいつは〝字持ち〟クラスだ——!


「〝リベリオン〟——!」


 ——どうする?

【双剣形態】では、どうすることも出来そうにないな。


「本日二発目なのでな、少々小さめにはなってしまうが……許せよ! ()まれて()ぜろ! 《爆焔球(ばくえんきゅう)》!」


 上げていた右手を、男が振り下ろす。

 それと同時に、上空から俺を目掛けて火球が堕ちてくる。


(受け止められるようなモノじゃない……!)



 ——斬れるか?



「アル!」



 ——斬るしかない!



「はぁぁぁぁ……! 【抜刀一刀流(ソニックブレイド)】——《風切(かざきり)》!」




 ブワァン————ッ!




 刹那一閃。


 居合によって放たれた紫光の斬撃が、上空の火球を突き抜ける。



「くくっ。そんなことをしても無駄……なに——?」



 ……ズズズッ——。



 上空の火球が、中心からゆっくりと二つに割れ始める。


(……っ! 斬れる——!)


「アテナ! ()()()からあとは何とかしろ! 【剣撃連斬(ミリオンスラッシュ)】——《風切乱舞(かざきりらんぶ)》!」


「ええええっ!? えーっと……えーっとぉ——!」




 ズババババアアアアッ——!




「なっ……! なんだと!?」



 無数の紫光の斬撃がリベリオンから放たれ……次々と火球を斬り裂く。



「雷の精霊、光の精霊の名の元に————」



 ——バチバチッ!



 後方ではアテナが詠唱を始め、雷撃の弾ける音がする。



(ありったけ……もっと! もっとだ——!)



「おおおおおおおおぉ!」




 ズババババアアアアッ——!




 次々に刻まれていく火球が、段々と細かく分かれていく。


 一瞬、後方のアテナに目をやる。

 ——が、両手を前方に掲げたまま動かない。


(何を躊躇(ちゅうちょ)しているんだあのバカ——!)


「まだかアテナ!? もう堕ちるぞ!」


「でっ、でもぉ……あーん! もうどうなっても知らないっ! 《光爆雷廷波(こうばくらいこうは)》!」




 ——ピシャアアアアアアアァァァッ!




 アテナの両手から、一帯の空を覆うほど広範囲の雷光が放たれる。



 ——バチバチバチィッ!



 やがてその雷光は、上空で細かく切り裂かれた無数の火球の破片と接触し——。

 そのすべては、一斉に向こうの彼方へ吹き飛んだ。


「な……」


 開いた口がふさがらない様子の男が、その行く末を目で追っている。


「よくやったな。だが何をモタモタしてたんだ? あとちょっと遅かったら危なかっ——」


「ん……」


 俺の言葉を遮ったアテナは、どこか申し訳ななそうに向こうの方を指差した。


「……ん? 一体何だって……あっ——」


 ……瓦礫の山のさらに向こうの方——。

 バラした火球を吹っ飛ばした方角から、大きく火の手が上がっているのが見える。


(なるほど……これを気にしていたのか——)


「だっ、だが仕方ない。満点だ、あとでたくさん褒めてやるから気にするな。この件は忘れろ、お前のせいじゃない」


「えっ……! うんじゃあ忘れる。約束ねっ」


 急に素に戻ったように、巫女様の表情から焦りが消えた。



「……で、名を()いていいんだったか?」


 遠くを見つめていた男が、ゆっくりとこちらに振り返る。


「——ふっ、まぁ約束は約束だ。俺の名は……ヴァン。別に誰に頼んだわけでもないが、人は俺のことを、 【冥王(めいおう)】と呼ぶ」


「【冥王】ヴァン……。俺はアルカ。アルカ・キサラギだ」


 そういえばなんとなく——。

 ところどころ【冥王】っぽい言動が垣間見えたが……そのせいなんじゃないのか? そう呼ばれるのは。


「少々魔力を消耗しすぎた……今日のところはこれで見逃してやる。だが次に会ったら命はないと思え、邪教の信徒よ」


「……邪教? おいちょっと待て、俺たちは——」


「俺とお前、その数奇な運命の(ねじ)れの中で……いずれまた邂逅(かいこう)する時が来るだろう。その時まで——さらばだ!」



 ——ボワァッ!



 男はそう吐き捨てると、炎に巻かれてその場から消えてしまった。


「……何だったんだ、あいつは——」


 ——色々(こじ)らせているし、おかしなヤツだったのは間違いない。

 だがそれと同時に、相当な実力者だったのも確かだ。


 アーレウスの【闇】を司る〝字持ち〟で〝男性〟は、第二師団副長の【闇拳(あんけん)】シルバ・ロデオただ一人。


(名前が違うが……まさか偽名か?)



 ——グッ、グッ。



「ん——?」


 後ろから強めに裾を引っ張られた。

 振り向いた先で、アテナが両手をこちらに突き出している。


「……なんだ? またおぶってほしいのか?」


「違うもん! ——ご褒美は?」


 ……なるほど、その件か。

 確かにあとで褒めてやるとは言った、が——。


「よし巫女様、向こうを見ろ」


「えぇ? なに……あ——」


 そうだ、今さっきまでお前が気にしていた火の手のことだ。

 この森はもう、そう長くは持たないだろう。


「わかったか? 今はここから離脱することが先だ」


「でっ、でもぉ~……。ちょっとだけ! 一瞬だけ——」


『——アルカ様! 大丈夫ですか!? そっちの方……燃えてますよね!?』


 ——まるで聞き分けの悪い巫女様のわがまま発言をどこかで見ていたかのように、ナツキからの伝心が入った。


『あぁ、ちょっとひと悶着あった。今から戻るから、すぐに出せるようにしておいてくれ』


『了解ですっ! 救援は必要ですか? 今にも飛び出していきそうな人が若干一名居るのですが——』


 ——そうかナツキ、だがその光景はすぐ目に浮かんだ。

 どうせ今頃チャン辺りが踏ん張って、止めてくれているんだろう?


『その一名に伝えてくれ。 『これ以上面倒を増やすなら本当に捨てていくぞ』とな。——では戻る』



「————ねぇ! ね~え~! 聞いてるの!? アル!」


 伝心に集中していたから全く耳に入ってこなかったが……どうやらこの巫女様はずっと俺に喋りかけていたらしいな。


「すまん、ナツキと話してたから聞いてなかっ——」



 ——ギリィッ!



 アテナの方から……強く耳に残る、歯軋(はぎし)りのような音が聞こえた。

 火の手の回り具合を見ていたため、その顔は見れていなかった。


(なんだ? また腹でも減ったのか——)




 振り返ると、そこには鬼が居た。




「……。話はあとだ、よっと」


「えっ!? ちょっ! えっ」


(悪いが今、お前のご機嫌を取っている時間はない)



 俺はアテナの首元と膝下にそれぞれ手を入れて抱え上げ……そのまま、来た道を走った。

 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


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 どうかよろしくお願い致します。

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