表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/100

43話 666の旗印~輪廻教アーレウス総本部~

「アテナ嬢、この辺でよろしいんで?」


「ええ、確かこの辺りのはずなんだけど——」



 アイシームーン管理区から、ゼクスの都へ向かう空路の途中——。


 アテナの申し出により、進路が少々変更された。

 どうやら都へ行く前に、寄っておきたい場所があるらしい。


「おかしいわね……結構大きい建物だから、すぐ見つかるはずなんだけど——」


「どんな建物なんだ? この際皆で探した方が早いだろう」


「んーとね、白くておっきくて……〝666〟の旗が目印の建物」


 辺りを見渡してみるが、眼下は見渡す限りの大森林——。

 その中に埋もれているのか……それらしき建物は見当たらない。


「あら? アテナさん、輪廻教(サンサーラ)にご用事なのですか?」


 何やらたくさんの書類を抱えたユリが、通りすがりに口を開いた。


(……なるほど、輪廻教関連のことだったのか)


「うん、ちょっとね——」


 ——行き場を失った巫女様の視線が、俺に辿り着く。


(……まだ皆には言いたくないのか——)


 ——気まずそうだな。

 まぁ説明してすんなりとわかる話でもないしな。


 ここは適当に話を逸らしておいてやるか。


「いや、用事があるのは俺なんだ。すぐに済ませてくるから、皆はここで待っててくれ」


「えっ! ふっ、二人で行くんですかアルカ様!?」


「あぁ、すぐ戻るから待っててくれ」


「……はぁい、わかりましたぁ——」


 ナツキも出掛けたいみたいだが、ここは我慢してくれ。

 都へ着いたらどこか連れて行ってやるから。


(そして——)


「はいっ! 私もお供したいですっ」



 ——キッ。



「はいっ! 全力で待機しときますっ」


「よろしい。万が一出てくるようなことがあれば……お前はまた一人、修行の旅に出ることになる」


「ひっ……」


 実は誰よりも早く手を挙げていた家出娘だったが、軽く睨みつけたらあっさりと退いた。

 こうなるとはわかっていても……エリィが言わずにはいられない性質(タチ)なのはわかっている。

 まぁこの程度のやりとりで済むのなら、しばらくはその茶番に付き合ってやってもいい。


「——というわけで二人とも、少しの間皆を頼む」


「わかりました隊長、お二人ともどうかお気をつけて」


「了解、アルカ。何かあったら適当にぶっ放して」


 もちろん、他の皆もそうなんだが……ユリとチャンの存在は本当に大きい。

 こういった状況の時に、本当に助かっている。

 大抵のことは、この二人に任せておけば安心だ。


(そのうち、二人にもちゃんとお礼をしたいところだな——)



「巫女ちん」


 いつの間にか目を覚ましていたらしいおつうが、窓から何かを指差した。


「なぁに? おつうちゃん……えっ——!?」


 呼び寄せられて向かったアテナの顔色が、一気に青ざめる。


 続々と皆が集まり、俺も窓の外を確認する。

 

「……なんだあれは——」


 眼下には、相変わらず森林が広がっている……が、そのとある一点。

 まず、緑だったであろう樹々が真っ黒に染まっている。

 そしてその中央に、大量の白い瓦礫のようなものが見える。


「〝焼け焦がれた跡〟……でしょうか?」


 ——恐らく、ユリの言う通りだろう。

 あの感じだと、黒く見えるのはあの辺一帯が燃えたことによるものだ。


「……あぁ。ついでにあの残骸は〝破壊された跡〟だろうな」


 あの場所で戦闘……もしくは何らかの破壊活動があったのは間違いなさそうだ。


「嘘……こんなの知らない——」


 ——今までの周回では、あれは健在だったということか。



「アルカ、二人で大丈夫? 一応いつでも出られるようにしておくよ」


「助かる……が、チャンは皆を守ることを最優先としてくれ。こっちも一応、何かあればナツキを通して連絡を入れるようにはするけどな」


 チャンと拳をコツンと合わせて、ナツキの方を確認する。

 

「——っ! あはっ、わっかりましたぁ! 行ってらっしゃいアルカ様っ」


 一瞬、何か考えを巡らせたような素振りを見せたナツキは、すぐさまぱーっと明るく笑った。


(……なんかいきなり上機嫌になったな——)


 アテナといいナツキといい、そんなにころころ表情を変えて疲れないのか?

 女って皆そうなのか? ——いや、そんなことはないじゃないか。

 二人ともユリを見習った方がいいぞ、あれが大人の女ってもんだろう?

 普段から落ち着いていて、お前たちみたいにあまり感情の起伏を見せず——。


 あれ? その理論で言ったらおつうも大人の女だな。



「降りますぜ、旦那!」


「あぁ、頼む」


 目標から少々離れてはいるが、少し開けた場所が見える。

 あそこなら降りられそうだ。



 ——グッ。



 背中の裾が引っ張られる。


 振り返るとそこには、不安そうに俯くアテナの姿があった。


「大丈夫だ、行くぞ」


「……うん——」


 ——何が大丈夫なのかは、俺にもわからない。

 状況的には何も大丈夫じゃないのかもしれない、だとしたら軽率だったかもしれない。

 だが、 『何があったとしても、俺が居るから大丈夫だ』ということを伝えたかったんだ。


 少し言葉が足りなかっただろうか——。




 ——やがてブランシュルーヴは地に降り立ち、外への扉が開いた。


「じゃあ行ってくる。魔力はさっき充填してあるから大丈夫だな? まぁ何かあったら二人でなんとかしてくれ」


「了解でっさ!」


「はいっ! 行ってらっしゃいませっ」


(エリィはもう慣れたが、スタークまで——)


 ビシっと敬礼したスタークとエリィに船のことを託し、俺とアテナは船外へ出る。




 森の中を二人で歩く……が、やはり巫女様の足取りは重い。


(想定外のことで混乱しているのか? 何か声を掛けてやるか——)


「大丈夫か? おんぶしてやろうか?」


「……えっ? うん」


 ——本当に? するの?


 前を向いたままだったし、一応巫女様の表情を確認しておくか。


「……えっ?」


「えっ?」


 隣を見ると、巫女様が両手をこちらに突き出して首を傾げている。


(『まだか?』と言わんばかりだな。……仕方ない、男に二言はない——)


 俺は一度しゃがんで、巫女様をおぶった。




 森の中とはいえ、さすがに建物に続く道だ。

 綺麗に整地された一本道が続く。


 少し歩いたところで、俺の肩に顎を乗せたまま……アテナが口を開いた。


「……あそこね、輪廻教の本部なの。アーレウスの」


「……そうか」


「前回の周回で、最後に立ち寄った場所なの。そこで色々と突っ込み過ぎて……それで——」


 そこまで言いかけて、アテナは口を(つぐ)んだ。


「言いたくないなら言わなくてもいいぞ。どうせ大抵のことは、俺が聞いてもわからないことだろう」


「ううん、違うの……。そこでね、たくさん人が死んじゃった。私が護衛に雇ってた人とか、輪廻教(むこう)の信徒の人とか」


「……また自分のせいだとでも言うのか?」


 後ろから俺を掴んでいるアテナの手に、ギュッと力が入る。


「だって逃げたの……! 私だけ! 皆を置いて、私だけ逃げた!」


 ……どうせそれも、 『逃げた』んじゃなくて『逃がされた』んだろう。


 ——だがアテナは、その結果をちゃんと背負おうとしているんだ。 

 ここは、変に優しい言葉をかけて取り繕うべきじゃない。

 それは逆に、その覚悟を踏みにじることになる。


「もしそんな状況になったら、俺でもそうするかもしれない——とでも言うとおもったか?」


「——えっ?」


「前提として……まず俺は死なないし、お前も守り切る。——が、ここまでは理想と願望たっぷりの綺麗事だ。それでもどうにもならない時が訪れるかもしれない。その時はどうする?」


「……どうするの?」


「約束しただろう? 『お前の運命を一緒に背負う』って。だがそもそも、俺はそんなに綺麗な人間じゃない。だからあの時、もう一つ言葉を使った」


 未だ背におぶさっている巫女様は、その顔が見えるところまで顔を乗り出し……『わからない』と言った表情で俺を見つめる。


「『俺が終わらせてやる』とも言ったはずだ。俺でどうにもならないその時は、俺はお前を逃がさない。お前も一緒に()()()()()。例えそれが最悪の結果だとしても、お前の望まない未来だとしても——だ。お前をもう独りにはしない。どちらにせよ、この周回で終わりなんだ」


「……っ! うん、うんっ——!」


 ——直接的な言葉で、 『一緒に死ぬぞ』とは言えなかった。

 だがその涙を見るに……恐らく、伝わっているはずだ。


「だがそうしたいってわけじゃない。これは俺の覚悟なんだ。俺は今後、そういうつもりでやっていく。それが伝えたかったんだ」


 ——今回は、言葉は足りているだろうか?


「わかってる……わかってるよ。——でも私、もう独りで頑張らなくていいんだよね? そういうことだよね……?」


「あぁ、世界を救うのも壊すのも、俺と一緒だ。その使命も罪も、俺が一緒に背負ってやる」


「ひっ、ひぐっ……。どうしよう、もう止まんない。ダメなのに、本当にダメなのに——!」


 泣きたい時は泣けばいい、無理して涙を止める必要はないんだ……と、昔誰かに言われた記憶がある。


 ——だが、それが誰かは思い出せない。


 そしてもう一つ。

 俺はその時、泣けなかったんだ。

〝悲しい〟とか〝淋しい〟とか、そういう風に感じることができなかったんだ。




 しばらく歩き続けたところで、空から見た黒いものの正体がわかった。


(やはりこれは……燃えた跡だな——)


 周囲の木々が、黒く焼け焦げている。

 進めば進むほどその臭いは強くなり、ところどころからパチパチと音も聞こえ始めた。


(ということは、もう近いな)


 この様子だと、こうなってからあまり時間は経っていないようだ。

 もしかすると、誰かまだそこに居るかもしれない。



 未だ涙の止まらない巫女様をおぶったまま、俺は黙って歩いた。



 やがて、開けた場所に辿り着いた。

 辺り一帯に散らばる残骸は……やはり建物の瓦礫で間違いないようだ。

 何か大きな力で、力任せに粉砕されたように見える。



「……! アテナ、降りてろ」


 俺はしゃがんで、アテナの脚を抱えていた手を解いた。


「えー……ぐすっ。——もうちょっとぉ」


「俺も泣き止むまでそうしておくつもりだったが……そいういうわけにもいかなくなったかもしれん」



 焼け焦げた樹々の中央、その開けた場所の瓦礫の山の前——。




「……ん——?」




 そこには、一人の男が立っていた。

 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


 ブックマークも頂けますと、より一層励みになります。


 どうかよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ