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39話 秘密に迫る研究者~困惑する巫女と倒れる聖騎士~

「……冗談ではない、か——。たがやはり行き過ぎているぞ。こういった物については全くの無知だが、そんな俺でもそれぐらいはわかる」


「あはは。もちろん今回のお礼ということもありますが、それだけじゃないんです」


 急に遠い目をしたブルースは、近くの窓から向こうの空に視線を移した。


この船(これ)を飛ばすことは、夢だったんです。僕とロベルトと……()()()の——」



 ブルースの視線の先には、雲一つない澄み切った青空が広がっている。



「——で、なぜ俺たちなんだ?」


 こちらに視線を戻したブルースは、ふわっと笑みを浮かべた。


「ロベルトはもちろん、僕も一応アーレウス最高峰の研究者ですよ? 他の人間じゃ気づけなくても、僕たちなら気づけることもあります」


「……? 何のことだ?」


「アル~? どうしたの? そんな真剣な顔し——」



「キサラギさん、 《無限魔力(インフィニティ)》ですよね? おまけに〝精霊契約〟まで交わしてる」



「……っ!」


 割って入ってきたアテナがビクっと肩を揺らし、一瞬にしてその表情には警戒心が宿る。


 そしてギュッと俺の袖を掴むと、その華奢な身体を小刻みに震わせた。


 ……やはり契約の時に言っていた『口外しない』という条件に関して、何か懸念があるのか?


(だがここで動揺すれば、逆に色々と悟られてしまうかもしれない——)


 とりあえず、会話を続けた方がいいだろう。


「……なぜそう思う?」


「あはは。そうでもなきゃ、まず背中の〝古代兵器(それ)〟は使えませんよ。あとは単純に、僕とロベルトには魔力(マナ)の流れが視えますので」


 にわかには信じ難い話だが……相手は〝字持ち(ネームド)〟、何が出来ても不思議じゃない。

 アテナが心配ではあるが、もはや隠し通すことは無理だろう。


 それに以前ジークも言っていた〝精霊契約〟という単語が出てきた……やはりここは、余計な画策をするようなことは避けよう。


 このまま喋ってしまった方が、()()()()()で都合が良さそうだ。


「流石だな。そんなことまでわかるとは」


「先のオルカスタ防衛戦での戦闘の記録(ログ)を拝見させて頂きましたが……あれを見ただけでも、〝古代兵器(それ)〟が相当燃費が悪いのはわかります。ちょっと魔力量が多いぐらいの人間じゃどうにもなりません。もしその辺の人間が同じような使い方すれば、次に目を覚ました時にはもうこの世には居ないでしょう」


 ついこの間のことだぞ……? もうそんなものが上がってきているのか——。


「しかし……今まで普通にリベリオン(こいつ)を使っていたが、そこまできつかった覚えはないぞ?」


「あはは。今まで蓄積されてきた魔力が膨大過ぎるから、キサラギさんは気づいてないだけですよ。要するに〝古代兵器(それ)〟をあんな風に使いこなすには、膨大な魔力を常時補給できてないと不可能なんです。そのためにキサラギさんは、精霊から常時魔力を受け取ってるわけでしょう」


 ——そういうことか。

 例え《無限魔力(インフィニティ)》とはいえど、使った分を補給できなければ……そのうち魔力が枯渇してしまうのは当然のことだ。

 ブルースが言っていることが本当ならそれは理に適っているし、何よりジークの言っていたことと綺麗に辻褄が合う。



 ……となると、恐らくアテナとの契約の内容は——。

 俺が今まで〝常時発動型(フルオート)〟で見境なく周囲から吸い上げてしまっていた魔力を、精霊のみとのやり取りに限定させるようなものだったということになりそうだ。


 なるほどそれなら納得がいく、だが——。


(何の代償もなく、そんな規格外のことができるのか……?)


 隣の巫女は俯いたまま、俺の袖を掴んで離さない。



「口で言うより見てもらったほうが早い。あと、()()()()()にも知っておいた方がいい。そうですね……この中で一番()()なのは誰ですか?」


 ……タフ? どういう意味で言っているんだ?

 硬さ? 根性?

 まぁどうであれ、ここは——。


「チャンだろうな」


「ではチャンさんを連れて外へ来てください」


(……一応確認を取っておくか——)


 もう一度隣に視線を落とすと、アテナは無言で小さく頷いた。


「わかった。チャン、すまんがこっちに来てくれ」


「……ん? わかった」


 俺は二人を連れて、船の外へ出た。




 ——ブルースに着いて、少し開けた場所まで来た。


「ではキサラギさん、とりあえず〝古代兵器(それ)〟を解放してみてください」


 もう一度隣を見ると、巫女様は観念したように俺の袖から手を離し、そのまま少し距離を取った。


「……あぁ。 〝リベリオン〟——」



 ——紫光が漏れ出し、紫煙が立ち込める。



「おぉ……! 生まれてこの方、この眼で見るのは二度目ですが……やはり凄いですね〝古代兵器(それ)〟は! 出力が違う」


「——っ!」


 ブルースの一言に、アテナが過剰に反応する。

 恐らく、探していると言っていた残りの【什宝】の手掛かりになると踏んだんだろう。


 ——ならさっさと終わらせて、その話を聞こうじゃないか。


「で、どうすればいんだ?」


「あ、あぁすみません。つい見惚れてしまって——。キサラギさんが持ったままでいいので、チャンさんも手を添えてみてください」


「なんか緊張するなぁ。こうかな?」


 チャンが俺の背中から手を回すように、リベリオンに手を添える。

 それと同時に、物凄い表情を見せてアテナがさらに一歩後方にたじろいだ。


 なぜかはわからない。


「チャンさん、何か変化はありますか?」


「えーっと……ドキドキします」


 視界の端で、なぜか巫女様が少し態勢を崩した。


(そんなに動揺しているのか……?)


「あはは。その状態だと特に変化はないようですね。ではアルカさん、その状態でその武器を使ってみてください。どんな形でもいいので」


「この状態で? 難しいな……」


「あ、ほら、あれは? シャルム湖でエリィを助けた時に使った——」


 ——あぁ、あれなら大丈夫か。


「ブルース、遠攻だ。その辺に壊れても大丈夫なモノはあるか?」


「そうですね……あ、あそこの岩なんかどうでしょうか?」


 ブルースの指差した方角には、無造作に突出した大きな岩が三つほど地面からせり出している。


「わかった。一番左でいいか?」


「いえ、一番右でお願いします」


「……? 了解だ。チャン、動くなよ……《風鳴(かざなり)》——!」



 ——ドンッ!



 リベリオンの先端から、圧縮された風の魔力マナが超高速の光弾として射出され————。

 一番右の岩を貫いた。



「ひいやああああああああ!」



「「——っ!」」



 その瞬間、その岩の方から女の叫び声が聞こえた。




 ————キィィィィィン……。




 少し遅れて耳をつんざく高音が鳴り渡り——。

 その弾道には一筋の紫光の残像がうっすらと浮かび上がる。

 やがてそれは数秒の後に、ふっつりと消え去った。



 ——と同時に、背中が急に軽くなった。


「どうした!? チャン!」


「ははは……、なに……これ——」


 そのまま地面に膝をついたチャンは、辛そうに肩で息をしている。


「凄い……! 想像以上ですねこれは!」


 いや待てブルース。

 お前の感想の前に、色々と説明が必要だろう。


「おいブルース! これは一体どういうことだ!? ついでに女の叫び声まで聞こえたぞ!?」


「……? あーそうだった! 忘れてました。——そんなところで見てないで、こっちにおいで」


 ブルースが声を掛けると、左側の岩からゆっくりと人影が姿を現した。


「ひっ、ひんっ……! 当たったらどうするのブルース!? 死ぬかと——!」


「あはは、散々心配を掛けてきた罰だね。でも……これでチャラにしてあげるよ」


「……お前だったのか」


 半泣きで顔を出したエリィが、足をガクガクさせながらゆっくりとこちらに歩いて来る。



「どうですか? チャンさん。率直な感想は」


 こちらに向きなおしたブルースが、チャンに声を掛ける。


「ははは……、一気に根こそぎ魔力を持っていかれた感じです……。とても俺には使えないですよ、これは——」


 まだ少し息を切らしているが、チャンは少し落ち着いてきたようだ。


「——と、いうわけですね。もし今後どういった場面に出くわしても、()()では〝古代兵器(それ)〟はキサラギさんにしか使えない。それを覚えておいてください」


 確かに……あのチャンですらこの始末だ。

 リベリオンがどんなに協力な武器だったとしても、俺以外の誰かが使えるというわけではないらしい。


 しかし……『現状では』というのはが少し引っ掛かるな。


(純粋に〝精霊と契約できれば〟という意味なのか? 或いは——)


 動かした視線の先では、巫女様がブルースの方をじっと見ている。

 何か考えているようにも見えるし、少々焦っているようにも見える。



「ということで、僕の言いたいことは大体おわかり頂けましたか?」


「……〝あの船を動かす〟ことと〝リベリオンを使うこと〟の理屈は同じということか」


「そういうことです。 〝古代兵器(それ)〟に比べたら微々たるものですが、あれも相当に魔力を使います。ですから、キサラギさんでなければ動かせないのです。——では、中に戻りましょうか」


 笑顔で淡々と吐き捨てたブルースは、未だ生まれたての小鹿のように足を震わせるエリィに肩を貸し……船の中へと戻っていった。



「チャン、大丈夫か?」


「ははは……大丈夫だよ。しかし凄いね、アルカは。こんなのをいつも使ってたなんて——」


「そんなことはどうでもいい、ほら——」


 俺が肩を貸そうとすると、チャンはそれを優しく振り払い……ゆっくりと俺の後方を指差した。


「俺は大丈夫だから……行ってあげて」



 言われて振り返ったその先には、俯いたまま立ち尽くすアテナの姿があった。

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