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38話 女神強泣罪~天馬の贈り物~

「はい、あーん」


「くっ……」


「ははは」


(いやチャン、笑ってないで助けてくれ——)



 巫女が巫女である所以を聞いたあの夜から、さらに一週間ほど経った。


 ナツキ達の修行はもう終わっているようだったが、スタークの用事がまだ済んでいないらしく……こうして俺たちはまだ、クリスタル・パレスに留まっている。


 今は食堂でランチタイムなわけだが……こんな感じで、ここ最近のアテナはずっと上機嫌だ。

 それに比例して、以前にも増してだいぶ距離が近くなった。


「アールっ、届かないからもうちょっとこっちおいで?」


「そ、そうか? 充分届いてると思うが……」


「えっ……、あの約束は嘘だったの——?」


「いや、そんなことは——」


「ははは。微笑ましいね」


(……くそっ、なぜ俺がこんな目に——)


 ——あのあと、散々泣き散らかしたアテナが唐突に発動した〝簡易乙女裁判〟なるものにより、俺はなぜか断罪された。

 罪状は『女神強泣罪(めがみごうきゅうざい)』ということで、当然のように下された有罪(ギルティ)

『アイシームーン滞在時特措法』という謎の法律に基づいて裁かれた俺は、期間中の奉仕活動の徹底を言い渡され——今に至る。

 何故かはわからないが、こうして食事を食べさせられることもその一環のようだ。


 とりあえず、巫女なのか女神なのかはっきりしてもらいたかったが……とてもそんなことを言い出せる雰囲気ではなかったため、そのまま押し切られる形となった。


 溜息をつくのを我慢していると、対面に座っているチャンと目が合った。


「チャン、スタークはまだなのか」


「ははは。そろそろだと思うよ」


 隣の巫女が『もっとゆっくりすればいいのに』と呟いた気したが、聞かなかったことにしよう。

 そもそも、あれだけ先を急いでいたアテナがそんなことを言うはずがない。

 そうだ、きっと少し疲れているんだ、俺は。



「あっ、隊長~! ここに居たんですね!」


「おっ、いいところに来たな秘書よ」



 ——チッ。



 向こうからユリが走ってくる。

 今度は隣から舌打ちが聞こえた気がしたが、多分これは間違いじゃない。


 だがお前の方には振り向かないぞ、いや別に怖いわけじゃない。

 ユリだって大切な仲間だよな? いつだって暖かく迎えるべきだと思わないか?

 思うだろう? うん、そうだよな。


 肩で息をするユリが落ち着くのを待って、俺は声を掛けた。


「どうしたユリ? そんなに急いで」


「はぁ、はぁ……。三人とも! 第二ドックに来て下さい!」


 そこはスタークがロベルトと入り浸っている場所だった。

 そして何をしているのかはわからないが、許可を出すまで絶対に来ないでくれと言われている。


 まぁ別に、行く気もなかったんだが。


「ん? そこはスタークに——」


「完成したんです! 凄いですよ!」


「「……?」」


「おっ、じゃあ行こうかアルカ」


 アテナと二人で首を傾げていると、チャンが嬉しそうに立ち上がった。

 どうやら知らないのは俺たち二人だけらしい。


「わかった。行くぞアテナ」


「はぁい」


 渋々返事をした巫女様が俺の袖を掴んだのを確認して、俺たちは食堂を後にした。




 ——第二ドックの前に着くと、ブルースが待っていた。


「おっ、来ましたねキサラギさん」


「すまない、待たせたか?」


「いえいえ、ではお披露目といきましょう。じゃあ皆、配置に着いて!」


 ブルースがそう言うと、数名の部下たちが慌ただしく動き始める。


 やがてそれぞれが配置に着いたらしく、隊員たちは続々と片手を上げていく。

 それをひととおり確認したブルースは、掌を地面に当てた。


「……ん? 何かショーでも始めるのか?」


「まぁそんなとこですね。この氷壁は特製でして……僕じゃないと解除できないんです」



 ……バリィンッ!



 第二ドックの前面を覆っていた氷壁が、勢いよく砕ける。


 ドックの中は、暗くてよく見えない。


(……? 一体何が——)




 ——ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!




 やがて中から大きな地響きが聞こえてきた。

 それと同時に、配置に着いていた隊員たちが何やら詠唱を始め……ドックの前に氷の道を作った。


「……っ! アル! これ本当に凄いかも!」


 どうやら一足先に《望遠魔法(スコープ)》を使って中を確認していたらしい巫女様が、俺の袖を強く引っ張った。


「おい伸びるだろ、やめ……なっ——!」



 俺は目を疑った。



 ドックからゆっくりと姿を現したのは、まるで見たことのないものだった。



「なんだこれ……」



 それは、天翔ける白き天馬の如く。

 小さな船のようでもあり、翼を広げた鳥のようでもある。

 そして何より驚いたのは、これが前に進んでいるのに〝馬〟も〝車輪〟もどこにも見当たらないということだ。

 つまり——。


「少し……浮いてないか?」


「あはは。驚きました? これはロベルトと極秘裏に開発していたものの、実用化には至らず……ずっとお蔵入りになっていた代物です」


「まさか……飛ぶのか?」


 いや、既に飛んではいるんだが。

 それこそほら……鳥のように、自由に。


「理論上は可能です。ただ基本的には——」



 ……ズウゥン——。



 少し進んだところでそれは停止し、地に降り立った。


「ま、こうなってしまうわけです」


「……?」



 ……プシュゥ——。

 


 何やら音がしたかと思うと、翼付近の壁が上にせり上がった。


(扉……なのか?)


「まぁ詳しい説明は中でします。皆さんどうぞ中へ」


 やはり入口のようだ。


 俺たちはブルースに続いて中に入る。



(お、皆居るな——)


 中央に立つロベルトの指示を聞きながら、スタークとナツキが忙しなく動いている。


 内部は本当に小型船のような構造だ。

 天井も高いし、設置してある椅子の数を見ても……ざっと十名ぐらいは腰掛けることができそうだ。

 ここで暮らせと言われたら厳しいが、移動手段として考えれば馬車の荷台とは比べ物にならないぐらい快適だろう。


(もし本当に動くなら、の話だが——)


 何で出来ているのかはわからないが……まぁクリスタル・パレス(あれ)を建築できるようなヤツらのことだ、俺には到底理解できない技術を駆使して作り上げたんだろう。



「来ましたね、キサラギ殿」


「旦那! どうですかこれ!? オイラも整備を——」


「アルカ様ぁ~! 結構難しいです~!」



 ——ギリィッ!



 こちらに気づいたロベルト、の声に反応して振り返ったスターク……の自慢のアフロを押しのけて、ナツキが飛びついてきた。

 ついでに巫女様の歯軋りも聞こえたが……お前、さっき一緒に飯食ったよな? もうお腹空いちゃったの?


「おにぃ」


 幼女の声が聞こえたので周りを見渡すが、どこにも見当たらない。


「ん? どこだ?」


「ここ」


 もう一度声のした方に目をやると、一際背もたれの高い椅子がクルっとこちらに回転した。


「そこに居たのか、おつう」


 頑張って足を組んでいる感のある幼女が、こちらに向かって『ニッ』と白い歯を見せた。

 しかしそのサングラスは……スタークに作ってもらったのか?


 ——いや、まぁお前は何をしても許される。

 ちょっとレンズが大きい気もするが、いいんじゃないか。



 楽しそうにあれこれ散策している皆にひととおり目をやっていると、ブルースと目が合った。


「どうですか? キサラギさん。他ではミクス姉さんとエルザにしか見せたことないんですよ? これ」 


「いや、 『凄い』の一言だが……そんな重要機密を俺たちなんかに見せて大丈夫なのか?」


「あはは。大丈夫どころか、ちゃんと見てもらわないと困りますよ。色々と注意事項もありますので」


「ははっ、なるほ——は?」


 注意事項? 一体そんなことを聞いてどうする?

 まさか……これを餌にテンペスト(おれたち)を吸収しようと——。


()が欲しかったんでしょう? であればこちらを差し上げようと思いまして……引っ張り出してきて、整備し直したんです」


 ……足? そんな話したか?




『馬車がそろそろ限界でっさ!』




 あぁ、思い返してみれば確かに。

 スタークがどさくさに紛れてそんなことを言っていたような気もしてきた。

 

「いや、しかしだな——」


 確かに欲しいものは聞かれたが……さすがにこいつは割に合わないだろう。

 これが大量生産されていて、普通に出回っているんならまだしも……間違いなく唯一無二の代物だ。


「あはは。考えていることはわかりますが、どうか気にしないでください。むしろこれはここにあっても宝の持ち腐れですから」


「なぜだ? 自分たちで作ったんだろう?」


「確かにそれはその通り、僕とロベルトの夢を形にすることは出来ました。ですが……動力の問題で、僕たちじゃ満足に取り回すことが出来ないんです。使い物にならない」


「【六神盾(ゼクスシールド)】でどうにもならないものを、こんな弱小部隊に寄こしてどうする。まさか邪魔だから捨てて来いとでも言うのか?」


「あはは、それが逆なんですよ。テンペスト(あなたたち)じゃなきゃ……キサラギさん(あなた)じゃなきゃ、動かせないんです。それで初めてカタチになる」

 


 ……一体なんの冗談だ? と返そうと思ったが、その言葉が口を()くことはなかった。


 ブルースともう一度目を合わせたその瞬間。

 ただ真っすぐで……淀みのない蒼眼が、俺にその本気を示していたからだ。

 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


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