【S級部隊 10話】ターニャ:司教威令〜信徒招集〜
足を止めて振り返ると、支部長が申し訳なさそうにこちらを見ている。
……だから最初に聞いてあげたでしょう? 『何か問題はありませんか?』と。
第六支部だろうが他所の支部だろうが、私にとっては同じ輪廻教なんだってことぐらいわかるでしょうに……最初の時点でさっさと言いなさいな。
(……はぁ。最近本当に疲れちゃう)
仮にも人の上に立っているんだから、もう少し他人に配慮出来るようにならないとダメよ?
仕事が終わっていざ帰ろうとしている人間に対して『あ、まだ仕事ありました』なんて……絶対にやっちゃいけないことでしょう?
いくら私が普段聖母のように優しく接してあげているからって、何でも許されるわけじゃないのよ?
「他の管理区の情勢……先の一件のような、過激派の信徒についてです」
そんなのいつものことでしょう? 好きにやらせておきなさいな。
あれはあれで役に立っているの。
散発的に暴れてくれるお陰で、他の【六神盾】の監視の目を上手く散らせているし。
「どうなさったのですか? 数が増えすぎて困っているとか?」
「いえ、その逆です。各地でその規模が急速に縮小しております」
あら? 皆さん何か心変わりがあったのかしら?
でも穏健派筆頭のこの支部長が問題とするからには、何か先があるってこと?
「そうですか。過激派のああいった行動もすべて、厚い信仰心の賜物ではありますが……やはりすぐに暴力に訴えかけるのは褒められたものではありません。心を入れ替えたのであれば、これを機に歩み寄ってみてはいかがでしょうか」
「それが……そういった事情ではないのです。ここ最近は、以前と比べて正規部隊の手があまりにも早く回るようでして……次々に粛清されているのです」
対立……というほどではないにしろ、輪廻教は事実上穏健派と過激派で二分されている状態。
別に過激派の勢力が削がれたからといって、穏健派には恩恵はあっても損害はないのではなくって?
「そうですか……。同じ信徒として、心が痛みますね——」
「それもそうなのですが、その……正規部隊からすれば派閥の区別などないようでして。問題を起こした管理区の各支部が、有無を言わさず丸ごと落とされています」
(——っ!)
……丸ごとですって? 嘘でしょう?
それではこちらの想定以上に、輪廻教の頭数が減り過ぎる!
今まではどの【六神盾】も、そこまで大胆な行動は起こしてこなかった。
前回のハクツルの時でさえ、支部が潰されるような報告は受けていないっていうのに。
(一体……どういうこと? 誰がそんな真似を?)
「ちなみに、どこの支部が粛清を受けたのですか?」
「現状ですと、第二支部と第三支部が落とされました」
——エルザはわかりそうな気もする。
その程度にもよるだろうけど……あの女の癇に障れば、そのまま気分で落とされることは充分にあり得る。
でもブルースまで?
あの男……見かけによらず大胆なことするのね。
「では【闇炎】と【氷絶】が、直接手を下したのですか?」
「いえ、第二支部から何とか逃げ落ちた信徒らの話によると……どうやら見知らぬ一人の男に単騎で落とされたようでして——」
単騎……? ちょっと待って。
確かに輪廻教自体は戦闘部隊でも何でもない。
けど一応、何も対策をしていないわけじゃない。
それなりに戦闘分野に心得のある人間を、各支部に少なくとも2000以上は配備してある。
それが……たった一人にですって?
『見知らぬ』というぐらいだから〝字持ち〟でもないってことでしょう?
そんなことが出来る男がその辺に居るわけが——。
(……っ! まさか——!)
「支部長、その男の特徴を教えて頂けますか?」
「はい、なんでも〝緋眼の双斧使い〟だそうです。突然現れたかと思えばすべてを粉砕し、焼き尽くし……佇むその姿はまさに悪鬼羅刹、冥王の如き者と——」
……〝赤髪〟でもなければ〝紫眼〟でもない。
どうやらハクツルの言っていた〝狼〟とは違うようね。
でもどちらにしろ、厄介な人間が出てきたことに変わりはない。
「わかりました、頭に入れておきます。では第二支部もその男に?」
「いえ、ここからが問題かと。……第二支部の粛清には、どうやら[フラッシュレイン]が動いたようでして——」
「……っ!? そんなまさか! それって——!」
〝閃光の雨〟の隊旗を掲げる、アーレウスにたった一つの【A級特別部隊】……!
【剣聖】リズレット・バレンタイン率いる[フラッシュレイン]ですって!?
——それが本当ならマズい、話は大きく変わってくる!
エルザやブルースが勝手に動いている分には、別に大した問題には感じない。
それは数ある想定内の一つではあるし、最悪どうにか対処できなくもない。
でも[フラッシュレイン]は違う。
あれは精鋭約100名から成る〝第一師団の派生別働隊〟。
(つまり……ミクスが動いているってことなの——!?)
「——心中お察し致します。恐らく司教様のお考えと同様に、今回は相手が相手ですので……各支部にも動揺が拡がっております。 『明日は我が身では』と。このままだと一部の過激派とは無関係の支部や信徒の命まで、危険に晒してしまいます」
——それはそうでしょうね。
穏健派にしてみれば、真っ当に生きてきたはずなのに報われない。
支部長が懸念して然るべき状況。
どうあれ、過激派の動向一つで正規軍がここまで大胆に動いてくるのであれば……そう遠くないうちに、この国の輪廻教は殲滅されてしまうでしょうね。
(また想定外だけど……これはもう頃合いね)
「——わかりました。ユージーン殿」
良くも悪くもここまで全く会話に参加してこなかったユージーンに、私は声を掛ける。
急に話を振られて混乱しているのか……その翠眼は、面白いほどに右に左に泳いでいる。
「……ん? あぁすまん、聞いてなか——」
「アイオーンにしか頼れないのです、よろしいですね?」
首を傾げたままかろうじて返すユージーンを遮り、畳みかける。
「……ええ。ドンとお任せください、司教様」
結局考えることを放棄したユージーンは、当初の約束通り……私に合わせ、言われるがまま得意げに言葉を返した。
——相変わらず、長い話になると全く聞いていないのね。
でもそんな馬鹿だから、こうして連れて来れるのよ。
いつもはイラつくだけだけど……そんなふざけた生き方も、たまには役に立つものね。
「今聞いた通り、アーレウス各地に点在する輪廻教信徒は、国内最強部隊である【六神盾】第六師団、 [アイオーン]によってすべて守って頂ける運びとなりました」
「なんと……! よろしいのですか!? ユージーン殿!」
「は……い?」
……ふふふっ。
そうやって馬鹿の一つ覚えみたいに、とりあえず頷いておきなさい。
「さぁ! これ以上、罪のない信徒の命が理不尽に奪われてしまう前に! 今すぐこの第六支部に招集し、守護するのです! この状況下では、派閥も何も関係ありませんよ!」
「ほ、本当にすべての信徒を!? 本部はどうするのですか!?」
「大変心憂いですが……止むを得ません、捨て置きましょう。そんなものはいつかまた再建すればいいのです。今は信徒たちに安息の地を与えることが最優先です」
「司教様……! わかりました! では司教威令として早急に《忘却文字》にて伝達して参ります!」
そう言って駆け出した支部長の背中を、何も理解できていないユージーンはポカーンと口を開けたまま見つめている。
——これまで泳がせていた過激派の連中も、好きに動けなくなった今……このまま野放しにしておいても、正規軍が動く体のいい火種にされるだけ。
これ以上頭数を減らされる前に先にアイオーンで囲って、ミクスが下手に手を出せないようにしてしまった方がいいわね。
「えーっと……聞いてもいいか?」
さすがに可哀そうだったかしら?
でも自分で中まで着いてきておいて、蓋を開けたら話を聞いていないなんて……ダメ、やっぱりあなたが悪いわ。
情状酌量の余地はない。
「ええ。疲れているから一つだけにしてちょうだい」
「なっ……! じゃあ……《忘却文字》って何だ?」
——ふふふっ。
本当、馬鹿を通り越してぶっ飛んでる。
話の内容じゃなくて、そっちなのね。
「輪廻教の幹部クラスだけが解読できる古代文字よ。こういった秘匿、機密事項などの伝達……つまり暗号通信に用いることもあるわ。——じゃあ話は終わりね、私たちも行きましょうか」
「ちょ……! マジで一つかよ!」
さて……残された時間もあと僅か。
あとは予定通りの戦力を目指して、シヴァや他の協力者との連携さえ上手くいけば——。
(必ず上手くいく……! 今度こそ——)
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