34話 何処へいく〜頂への道〜
しばらく雑談をしながら待っていると、次々と料理が運ばれて来た。
運搬してきた兵とロベルトのやり取りを聞くに、先ほどから居るここはどうやらブルースの私室らしい。
「さぁみなさん、遠慮なく食べてくださいね」
ブルースがそう言うと、各々が『いただきます』とブルースに返して小さな宴が始まった。
アテナとユリは楽しそうに話しながら。
チャンはロベルトと酒を飲みながら。
つまみ食いがバレたアフろんは床に正座し、ナツキに怒られながら。
運良くバレなかった共犯の幼女は、一人で黙々と——。
——周りを見渡して視線が一周したところで、俺はブルースと目が合った。
その一瞬を繋ぐように、ブルースが俺に問いかける。
「お口に合いますか?」
——好都合だ。
先に聞いておかなければならないことがある。
俺は食事の手を止めた。
「あぁ、美味しいよ。皆楽しそうだし……ありがとう。それと——」
「それは良かった。なんでしょうか?」
「ナツキ……さっきのコにだが、どういったことを教えるつもりだ?」
これは一応、聞いておかなければならないだろう。
万が一戦闘用の技術だった場合は、内容を聞いて最悪は断るか、違うものに変えてもらわなければ。
「そうですね……考えてたのは《伝心系》の上位スキルと、 《結界術》の二つですかね」
「……よくわからないが、戦闘用ではないんだな?」
「あはは。心配されてることはわかりますよ。その辺は大丈夫です。ついでに、前者はそもそも〝蒼眼〟でしか使用できないものなので結構レアですよ。期待しててください」
「お楽しみってわけか」
「あはは。まぁ後者については〝複合魔法〟……つまり一人ではできないので、他の後方支援の方々が興味を持って頂ければお教えしておきます」
——はっきりと中身を言わないところが少し引っかかるが……まぁその辺の系統なら特段問題はないだろう。
「そうか。じゃあ楽しみにしてる」
「ええ、楽しみにしててください。必ずお役に立ちますよ」
結局のところ、どんな〝力〟も使う人間次第だ。
ブルースがどんな魔法を教えたとしても、ナツキなら……こいつらなら大丈夫だろう。
「アールっ。食べないの?」
急に声がしたかと思うと、知らぬ間に巫女様が左隣に座っていた。
「あぁ、ちょっとブルースと話してたんだ」
「そっか。……〝あーん〟してあげよっか?」
「いや大丈夫だ」
「あーんもう! ばか」
……なぜ俺は怒られてるんだ?
むしろ怒りたいのは俺の方だ、子ども扱いするんじゃない。
「ははは。アルカ、隣いいかな? ロベルトさんが少し話したいって」
今度は右隣りに、顔を赤くした【聖騎士】が現れた。
もう酔っているのか? 弱いんだろう? ほどほどにしておけよ。
「あぁ、構わない」
チャンの座るスペースを確保するために、アテナの方に少し体を移動する。
——が、その拍子、俺の左手の小指がアテナの右手の小指に被さってしまった。
「おっ、すまな——」
「んっ!」
俺が重なった指をどけようとすると、アテナは逆に抵抗し、その小指を絡めつけるようにしてきた。
不思議に思いアテナを見るが、巫女様は一瞬目を合わせたっきりそっぽ向いてしまった。
だが時折チラチラと覗き込んでくるその顔を見るに……さっきまで怒っていたその表情は、なんだか柔らかいものに変わっていた。
こちらも酒を飲み過ぎたのか、若干頬も赤らんでいる。
(しかしこれは……アレだな、たぶん機嫌がいい状態だ)
小指同士の闘いに勝ってご満悦……ということでいいのか?
だとしたら、俺にはその優越感は全く理解できない。
だが、今日も勉強になった。
そんなことで笑っていてくれるのなら、おれはいつでもこの小指を差し出そう。
しかし毎度のことではあるが……そんなにコロコロと表情を変えて疲れないのか? 忙しない女め。
「お取込み中だったかな? キサラギ殿」
「ははは、大丈夫ですよ! いつものことなんで!」
対面に座るブルース……の隣に現れた、これまた顔の赤いロベルトにチャンが答える。
(どいつもこいつも酔っ払いか……?)
そしてチャン、それは俺への質問だと思ったが……まぁ返す手間が省けた、ありがとう。
「かっかっか。してキサラギ殿、この後は何処へ向かわれるのです?」
急に真剣な顔つきになったな……まさかまた何か面倒事か?
しかしもう〝字持ち〟からの頼み事なんてこりごりだ。
どうせまたぶっ飛んだ内容なんだろう? 割に合わないに決まってる。
「このあと? 都だが?」
「そういったことではありませぬ」
ロベルトは右手の甲をこちらに向け、人差し指を立てた。
少し間を置いて、ロベルトは続ける。
「獲りにいくのですか?」
ほどなくして、その甲に【識】の〝字〟が浮かび上がる。
まさか……と思って右隣を向くと、チャンは相変わらず『ははは』と笑っていた。
俺はロベルトに視線を戻す。
「なんでそんなことを聞くんだ? 別に考えたこともなかったが……。そもそも、くれと言えば貰えるものなのか?」
——そういえばそうだ。
日頃から当たり前のように〝字持ち〟なんて口にしてはいたが、実のところ……その実態については、俺はほとんど何も知らない。
知っているのは、そう呼ばれる者が〝とてつもなく強い〟ということだけだ。
「かっかっか! くれと言ってもくれないとは思いますが、なろうと思えばなれますぞ」
誰にでもチャンスがあるってことなのか?
仮にそうだとするなら、アテナを……皆を守るためにも、あるに越したことはない力だ。
どうせとんでもない条件があるんだろうが、確認するだけならタダだしな。
「そうなのか? なら一応方法を聞いておこう」
「キサラギ殿の場合は、 【嵐】を落とせばなれますぞ」
「【嵐】を落とす……? 何かの比喩か?」
「かっかっか! 難しく考えなさるな。読んで字の如く、まったくそのまま」
……一体何を言ってるんだ? この酔っ払いは。
随分楽しそうに喋っているが、おれはそういったとんちみたいなことには全く対応できないと思うぞ。
だから他を当たってく——。
「……まさか——?」
「かっかっか! そうです、 【槍】か【王】を落とすのです」
——【槍】か【王】を? 落とす?
幸か不幸か……偶然にも二人の戦闘をこの眼で見たことのある俺の頭の中に、その時の記憶が蘇る。
「はは……。一応頭に入れておこう」
どんなに凄い力を手に入れられたとしても、わざわざ進んであの二人と対峙するのはごめんだ。
命がいくつあっても足りない、自ら死にに行くようなものだ。
「ロベルト、言い方が悪いよ。別に自分で落とさなくてもいいんです。どちらかが崩御すれば、そのチャンスは巡ってきますよ」
——酔っ払いのおっさんを諫めるように割って入ってきたブルースが、色々と詳細を語り始める。
各属性二名、すなわち五属性が二名ずつの合計十名のこの制度を〝十字制〟と呼ぶこと。
『雷火水土風』の上位は『光闇氷地嵐』とされ、それは〝字持ち〟の左手の甲に代々発現してきたことによりそう呼ばれるようになったこと。
〝字〟を拝命するには一騎当千の武力が条件であること。
その判断と拝命する〝字〟は、〝国宝・字宝玉〟の意思そよものに委ねられること。
——話が終わる頃には、テンペストの連中も全員ぞろぞろと周りに集まっていた。
「——とまぁこんなところでしょうか。さっきからロベルトが笑っているのは決してバカにしているからではなく、驚いたからですよ。現に私も驚いていますしね」
「ん? どういうことだ?」
「あはは。軍人なら皆知っていることしか、私は言っていませんよ」
チャンとスタークの方を向くと、二人とも『うんうん』と頷いている。
——なるほど。
部隊長なんかやっている割に、俺がそもそも軍属じゃない一般人だと知って驚いているのか。
そしてこちらも一つ、気になったことがある。
「そういうことか。だが当代の〝字持ち〟が崩御した時、次の人間はどうやって決めてるんだ? 強いヤツなんてその辺にゴロゴロ居るだろう?」
「アーレウスも連合という形を取っているとはいえ、基本的にはほぼすべての部隊が正規部隊ですから。名簿や戦績のリストもありますし、基本的にはそこから選出されます」
「なるほどな。だがそういうことなら、駆け出しの俺が出る幕じゃないだろう」
「現状ではそうなるでしょうね。今だと当確は【剣聖】リズレット・バレンタインとか……その辺でしょうか。実際〝字持ち〟にも引けを取らない強さですよ」
(リズレット……女か? 知らない名だな——)
——チラッ。
「……ん? ははは。こないだちょっとだけ話に出た【A特】の隊長さんだよ。第一師団の派生、いわゆる別動隊だね」
知らないことがあった時や助けて欲しい時、ついついこの男に目線を送ってしまう。
『チャンの優しさに甘えるな』とかハクツルに思っておきながら、一番甘えているのは俺かもしれない。
——ともあれ、アイネが言っていた〝派生〟については理解した。
(しかし【A特】……こないだ?)
——あぁ、部隊登録の時のアレか、現状一隊しかないって話の。
さぞかし腕が立つんだろうな、その【剣聖】ってのは。
「あとはまぁ……当代からの推薦などですかね。僕なんかはミクス姉さんの推薦ですよ」
「そういうルートもあるんだな。それよりさっきから姉さん姉さんって……ミクスの弟なのか?」
「あはは。確かにミクス姉さんには弟が居ますが、僕は違いますよ。昔からお世話になっているだけです」
お世話に……か。
本当の姉弟じゃないにしても、そこまで言えるぐらいの間柄ということか。
それがどれほどの信頼関係なのか、ずっと独りだった俺にはわからない。
(……いつか俺にも、そういう出逢いがあるのだろうか——)
——ギュッ。
アテナが絡めてくる小指の力が、少し強くなった気がした。
(……気のせいか?)
ほどなくして、想像以上に酔っぱらっていたらしいロベルトが撃沈し、会話が中断。
それを機に、それぞれがまた、思い思いの皿の元へと旅立っていった。
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