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33話 ご褒美アンケート~強くなりたい元メイド~

 特に仰々(ぎょうぎょう)しい出迎えや挨拶などを交わすこともなく、俺たちはそのまま室内に入る。


「ひんっ」


 後方から変な声がしたが、恐らくどこかの家出娘が【聖騎士(パラディン)】辺りに無理矢理押し込められた断末魔だろう。

 どうせ『入りたくない』と最後まで駄々をこねていたに違いない。



「軍長、エリィが帰って来ましたぞ」


 エリィの帰還を知らせるロベルトの言葉に、男が勢いよくこちらに振り返る。


「——っ! エリィ! 一体どこに行ってたんだ!」


 中性的な顔立ちに濃い青色の髪、その前髪がV字にまとまっているのが少し気に止まった。


「べっ、別にっ。ちょっと旅行」


 ……散歩じゃなかったのか?

 まぁお前がどう答えようと、この後すべてめくれるんだ。

 今なんて答えるかより、その時の言い訳について頭を回した方がいいぞ。


「旅行って……! なんで言わなかったんだ!?」

 

 ごもっともである。


「べっ、別にいいじゃん! 帰ってきたんだから! 帰ってこない方が良かった!?」


「あっ、いやっ……うん、別にいいかも」


 ……チョロい、チョロすぎる。

 エリィが言ってたのはこういうことか。

 甘やかし過ぎにも程がある、むしろ何かの弱みを握られているまである。


「あっ、ロベルト、この方たちは?」


「【B特】テンペストの皆さん、そしてそちらの赤髪の方が隊長のキサラギ殿ですぞ。エリィをここまで連れてきてくれたようでして」


「【B特】? 今はもうB特なんて——」


 男はロベルトの時と同じような反応を見せたあと、俺と目を合わせて首を傾げた。

 そのまま俺の全身を上から下までじっくり観察するように見てくる。

 何やら少し考え込んでいる様子だ。


「——なるほど! あなたのことでしたか! 思ったより早く出逢えたなぁ」


「……?」


 なんのことかわからないが、どうやら自己解決したようだ。

 ならさっさと本題に入らせてもらおう。


「とりあえず、ブルース軍長で間違いないか?」


「あ~、すみません! 自己紹介がまだでしたね。いかにも、僕はランバウル・ブルース。一応第三師団(ここ)の軍長をさせてもらっています。この度はエリィを連れてきて頂いてありがとうございます」


 さっきのロベルトといい、このブルースといい……とてもじゃないが、国内最高戦力である〝字持ち(ネームド)〟とは思えないほどの低姿勢だ。


(おれの今まで見てきた()()がハズレくじだったのか……?)


 兎にも角にも、出来た男たちである。


(それに比べて……)



 ——チラッ。



「……へぁ?」


 ——つい視線が動いたその先で、エリィと目が合う。

 そしてなんだか悲しい気持ちになった。

 そのまま『この二人の下に居て、どうしたらそうなるんだ?』と言いたくなったが、その後の流れにまたストレスを感じそうなので、やめておく。

 さすがに〝字持ち(ネームド)〟の目の前でみだりにチョップをかますのは、少し気が引ける。


 俺はブルースに視線を戻す。


「ご丁寧にどうも。その経緯について話したいんだが、いいか?」


「もちろんです。皆さんそちらへお座りください。担い……抱えているお子さんはこちらへどうぞ」


「大丈夫だ、担いでるで間違いない」

 

 俺は言われた通り部屋の端の長椅子におつうを寝かせ、皆と一緒にテーブルを囲むように座った。

 エリィは立ったまま終始(うつむ)いていたが、ロベルトに引き連れられてしぶしぶ歩き始める。

 二人はそのまま、対面に座るブルースを間に挟むように腰掛けた。


「では、お聞かせ願えますか?」


「あぁ。チャン、頼んでいいか?」


 俺が説明するより、チャンに頼んだ方が色々とスムーズだろう。


「うん、大丈夫だよ。では軍長、順を追ってお話致します。まず————」


 引き受けてくれたチャンが、ここまでの経緯を語り出す。

 シャルム湖での出逢いからオルカスタでの一件、この本部に至るまで——。


 最初の内は特に変わった様子もなく『うんうん』と聞いていたブルースだったが、やはりオルカスタでの一件の辺りから、その表情は険しいものに変わっていった。


「——そういうことですので、その場に残していくのは少々問題があるかと思い、勝手ながら無理やりこちらまでお連れした次第です。経緯としては以上になります」


「そういうことでしたか……。改めて、この度は本当にありがとうございました」


 チャンの話を聞き終えたブルースは立ち上がり、こちらに向かって深々と頭を下げた。

 そしてその頭を上げると、ここまで見せなかった真剣な眼をエリィに向ける。


 ブルースと目が合ったエリィは一瞬で表情を強張らせ、勢いよく立ち上がる。


「あっ、あの……本当にありがとうございました。そ、その……すみませんでした」


 エリィは改めて俺たちにお礼を言ったあと、申し訳程度に謝罪の言葉を述べた。

 チラチラと動く視線を辿るに、これはブルースに向けたものだろう。


 それを聞いたブルースが片手を上げると、ロベルトは何かを察したようにエリィを連れて部屋を出ていった。


「やっぱり……結構マズいでしょうか? ブルース軍長」


 重い空気を察したかのように、チャンが口火を開く。


「そうですね……。相手が悪かったかな、と——。これがもし第一(ベルブリッツ)第二師団(バーンブレイズ)でしたら顔が利きますので、正直問題はないかと思います。ですが第四(オルカスタ)第六師団(アイオーン)なんかは少々面倒ですね。第五師団(ファミリア)は……ああいう人ですから、説明の必要はないですよね」


 ——確かに。

 アイネとゲイルの性格を考えるに、何かしらの面倒事になってしまうのは避けて通れないかもしれない。

 いかに〝字持ち(ネームド)〟が実力主義とはいえ、あの二人が自分のシマで好き勝手され、挙句の果てに損害まで出されたのであれば……黙っているとは考えにくい。


 そしてミクスとエルザの性格はわからないが、ブルースの言う通り……相手がハクツルなら笑って済ませそうではある。



 ——ん? 待てよ?



「……あー、なぜ第五師団(ファミリア)の説明の必要がない、と?」


「あはは、ツルさん(あのひと)こないだ会った時に、 『狼に噛みつかれた』って笑ってましたよ。キサラギさんのことでしょう?」


「——っ! ハクツルめ、また余計なことを……」


 戦闘狂ばかりの〝字持ち(ネームド)〟相手にそんな話をするとは……なんてヤツだ。

 俺やチャンはまだいいとしても、ウチには色とりどりのか弱き乙女たちが在籍してるんだぞ?

 万が一狙われるなんてことがあったとして、こいつらに何かあった時の責任をお前(ハクツル)は取れるのか?


「その様子だと本当みたいですね。しかし凄いなぁ。キレたら半端じゃないですよ? ツルさん(あのひと)。後にも先にもミクス姉さんに喧嘩売ってやり合って……こうして生きてるの、ツルさん(あのひと)だけなんですから」



「「……!」」



 ——全員の視線が、ゆっくりと俺に注がれる。



 それぞれに焦り、呆れ、苦笑いなど様々な表情が伺える……が、間にチラっと白い歯も見えたのでまぁ大丈夫だろう。

 ここはスルーさせてもらう。


 皆の反応を見たブルースが、場を和ませるかのように笑い出した。


「あはは。昔は本当にイケイケでしたからねぇ。僕たちが子供の頃は本当におっかなくて。まぁそれはいいとして、とりあえず何かお礼がしたいですね。何かご希望はありますか? ()()()()()()()んですよね?」


 ——ハクツルめ、そんなことまでペラペラと喋っているのか。

 次会ったら……うん、軽く注意しておかなきゃな。やめてねって。


「そうだな……皆何かあるか?」



「お金」

「馬車がそろそろ限界でっさ!」

「お洋服? とか?」

「ははは、俺は皆に任せるよ」

「おかし」



 ……バラバラだな。

 そしてさっきも思ったが起きてたのか、おつう。


「ナツキは何かないのか?」


 いきなりこんなことを聞かれて、すぐに意見が言えるこいつらの図々(ずうずう)しさには感心する。

 ナツキのように咄嗟(とっさ)に反応出来ない方が普通だと思う。

 だが、(うつむ)きつつも真剣な表情で考え込むナツキを見て、頭の中に何か考えがあるんじゃないかと思った。



「……わ、私……強くなりたいんです」



 ——意外。

 この中の誰もがそう思っただろう。

 かくいう俺も、素直に驚いた。


「そうですか。あなたは戦場に出たいのですか?」


 ブルースがナツキの言葉を拾い上げる。


 だが、いくらナツキが強くなろうとも、戦場に出す気はさらさらない。

 たとえ過保護だと言われようとも……恐らく、俺の中でそれはずっと変わらないだろう。

 だからそういう話なら、ナツキには申し訳ないが俺のほうから却下させてもらう。


 中途半端に自信を付けられて前線に出られても、心配の種が増えるだけだ。

 どこかの家出娘のようにな。


「あっ、いえ、そういうことじゃなくて……。もっと役に立ちたいんです。ブルースさんって、 【氷】なんですよね? ロベルトさんも。私【伝心】なんですが……何か新しい魔法とか教えてもらえたりしないかなって——」


 ナツキの視線を受けたブルースが、それを返すようにナツキの眼を見つめる。


「——なるほど〝蒼眼(そうがん)〟ですか。いいですよ。うちは〝広域支援部隊〟ですので、非戦闘員向けの技術や魔法に関しては他の部隊より優れています。何か教えてあげられることもあるでしょう」


「ほんとですか! ありがとうございます! やったっ」


 今にも飛び上がりそうなほどに喜ぶナツキを見て、なんだか俺まで明るい気持ちになった。


(この間まで、ただの可愛いメイドだったのにな——)


 ナツキもこうして皆と旅をする中で、少しずつ変わっていってるんだ。

 さっきまで勝手な心配をして割り込む準備をしていた俺を、殴ってやりたい。


「よかったな、ナツキ」


「はいっ! あはっ」


「皆さんのご要望にも出来る限りお答えしますので。とりあえず食事でもどうですか? 長旅でお疲れでしょう。こちらでご用意致しますので」


「あぁ、ありがたく頂こう」



 ——チラッ。



「……ん? なぁにアル?」


 ——あれからだいぶ時間が経った。

 もう空腹の限界に来ているであろう巫女様の様子を確認したが……この感じだとまだ大丈夫そうだ。


 一度機嫌が悪くなると、直すのが大変だからな。


「——いいや。じゃあお言葉に甘えるとするか」


「……? はぁい」


 用事は済んだ、ひとまずはゆっくりさせてもらうことにしよう。

読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


ブックマークも頂けますと、より一層励みになります。


どうかよろしくお願い致します。


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