27話 初陣のテンペスト~ピンクレディー救出戦~
俺たちは展望室から飛び降りて、戦場に降り立った。
ドオオオォン——————。
遠く前線の方から、一際派手な爆発音のようなものが聞こえた。
「あそこだね……あんなの、本当にツルさんレベルじゃないか——」
立ち尽くすチャンの視線を追いかけると……その先にはあるはずのない大樹が数本そびえ立っている。
更地のはずの戦場に、まるで小さな森が出現したかのようだ。
以前、ユージーンも似たような技を使っていたのを見たことがある。
恐らく【地】を司る〝字持ち〟の特能だろう。
『ナツキ、アテナの《望遠魔法》を借りて状況を教えてくれ。ピンクレディーは無事か?』
『——はい! 大丈夫みたいです! あの森のところで交戦中です!』
よく生きてるな……相手は〝字持ち〟だぞ?
相変わらずどうにかして、ギリギリのところで踏ん張ってるってのか?
「よし、あの樹のところで間違いない。行くぞ!」
俺たちは敵陣を目掛け、本陣最後尾を飛び出した。
——こんなことは初めての経験だ。
同時に、おかしな話だと自分でも思う。
あれだけ戦場に出てきたってのに、こんな風に堂々と本陣から敵陣へ駆けたことがないなんてな。
いつもコソコソと独りで大回りし、身を潜め————。
いや、やめよう。
もう昔の話だ。
(これこそが俺の……[テンペスト]の初陣だ!)
そしてそれは同時に……『今後は敵陣を引っ掻き回して離脱するだけではいけない』ということを意味している——。
「チャン——」
「ん? どうしたの?」
「俺は敵を……人を斬るぞ」
チャンはきょとんとした顔で一瞬こちらを見て、すぐに『ニコッ』と笑った。
「ははは、わかってるよ。俺はアルカを……皆を守るよ」
俺に出来ないことは、こうしてお前がやってくれる。
そしてお前に出来ないことは、俺がやるんだ。
俺たちは目を合わせ、目標に向かう足を速めた。
「旦那! いつでも言ってください!」
——そろそろ射程圏内か。
敵兵を一人一人斬り払うより、一気に目標を狙った方が良さそうだ。
俺は背にかけていたリベリオンを左腰に回し、両手で強く握る。
「あぁ! チャンはそのまま〝森〟に走れ! スタークは俺の進行方向をありったけせり上げろ! 〝リベリオン〟——!」
——紫光が漏れ出し、紫煙が立ち込める。
「わかった! 思いっきりやってくれ! うおおおおおおお!」
チャンが敵兵を押しのけ、目標に向かって突っ込んでいく。
「へい! 《土隆層》!」
————ガガガガガッ!
スタークの魔法により、俺の前方の地面は階段状にせり上がっていく。
「すいません! これが限界でっさ!」
「上出来だ! お前も来い!」
俺たちは二人でそこを駆け上がり、頂上まで上がる。
腰を落とし、目標が居るであろう森に狙いを定め、思いっきり魔力を流し込む——。
「届きますか!?」
「問題ない! 【抜刀一刀流形態】——、 《風切》!」
ブワァン————ッ!
刹那一閃。
居合と同時に、紫光の斬撃が放たれる。
「ん……? やっぱり遠かったですかね……!?」
一見、森に変わった様子はない。
不発だと思ったスタークが焦っている。
「黙って旗を掲げてろ」
「そ、そりゃもちろ——お、おおおおお……!」
……ズズズッ————ゴゴゴゴゴォ…………!
少し間をおいて、森を形成していた木々が一斉に斜めにずり落ち……その辺り一帯に猛烈な砂塵が吹き上がった。
「な、なんだあれは!」
「ジーク様の《森樹断層》が……斬られたのか!?」
「見ろ! あそこの白いキャプテンコートだ!」
「〝竜巻〟に……〝白狼〟か? あんな隊旗見たことないぞ!」
敵味方問わず、下で兵たちが騒ぎ始めた。
「おおおおお! 目立ってますねぇ~! これが狙いですか?」
「一つはな。あとはこのどさくさに紛れて、チャンが家出娘を回収してくれれば完璧なんだが——」
今のところ、ここからでは視認できない。
『アルカ様! こちらからでも見えましたよ! 凄過ぎです!』
『そうか、なら宣伝効果はバッチリだな。目標の動向をくれ!』
『お待ちください……はい! ピンクレディーと【地斬】が砂塵を抜けたみたいです! こちらから見て森の左側へ!』
とすると……向こうか——。
『チャンは見えるか?』
『チャンさんは……はい! 遅れて抜けたみたいです! 二人を追ってるようです!』
流石に一筋縄ではいかないか……。
だが、チャンが対象を補足出来ただけでも充分だ。
そのうちカバーに入れるはず、そうすればとりあえずは——。
『——マズいですっ! 捕まりました!』
『——っ!』
どこだ……どこにいる?
いくらこちらが高台とはいえ、この乱戦じゃすぐには見つけるのは難しい。
万が一チャンが間に合わなかった時のことを考えると……やはり——。
『敵の位置を教えろ! 大体でいい! アテナに雷撃一発落とさせろ!』
『はいっ! お願いしてみます!』
恐らく……一瞬の出来事になる。
ここで目視出来なければ、もう間に合わないかもしれない——。
「スターク! こっち側にお前の大好きなのが落ちてくる! そのサングラスで瞬きしないでよーく見とけ! そこに用がある!」
「えっ……! 旦那! 大好きなのを召喚できるんですかあああああ!?」
「レディを召喚するんじゃない! どちらかというと……レディは召喚する側だ!」
「なっ……! 一体何を——」
————ピシャァァァン!
「ぎゃあああああああ!」
(予想以上の反応だな……! アフろん!)
しかしあそこからじゃ遠過ぎたか……!
わかってはいたことだが、一点集中の雷撃ではなく割と広範囲の雷光……非常に的が絞りづらい。
だが巫女様のおかげで、大体の位置はわかった。
「どこだ……? 正確な場所がわかれば——」
「あ、あそ、あそこ……ひいいいい」
やたらと震えながらも、スタークはその方向をはっきりと指差した。
(こいつ……見えてたのか!?)
——とにかく、その指の先にいるんだな?
どこだ……どこ……ん、あの桃色の髪は——!
「見つけた! でかしたぞスターク! 巫女様に断罪されといて良かったなぁ!」
裁判のおかげで、そんなに雷に敏感になってたか!
こうして役に立つ時もあるのなら、トラウマの一つや二つ……持っておいても損はないのかもな。
(やっと見つけたぞ家出娘——!)
てことは……そこで余裕ぶっこいて対峙してる大剣持ち——お前が【地斬】だな?
俺は【抜刀一刀流形態】を解除し、リベリオンを元の形に戻した。
「やっと見せてやれるよ、家出娘……これが本来の使い方だ! 【強襲狙撃形態】——!」
リベリオンが弓状に変形する。
(もう少し……もう少し耐えとけよ——!)
ちょこまかと動く家出娘。
しかし余裕そうに追い回す【地斬】の動き自体は、そんなに激しいものじゃない。
必ずどこかでチャンスがあるはずだ。
(一発かすればいい、たいした魔力はいらないんだ……当てさえすれば——!)
周りのオルカスタ兵を軽々と斬り払いながら進む【地斬】だったが、囲まれた一瞬に動きが止まった。
(よしここだ!)
「あとは任せたぞ! チャン! ——《風鳴》!」
——ドンッ!
リベリオンの先端から、圧縮された風の魔力が超高速の光弾として射出され————【地斬】とおぼしき人間に直撃した。
——キィィィィィン……。
少し遅れて耳をつんざく高音が鳴り渡り——。
その弾道には一筋の紫光の残像がうっすらと浮かび上がり、やがて数秒の後にふっつりと消え去った。
当たったところまでは見えた……が、敵味方激しく入り乱れる戦場の中で、標的二人の姿はもう見えない。
(どうだ……?)
『——やりましたアルカ様! チャンさんがピンクレディーを回収しました!』
でかした! 信じてたぞ……チャン!
これでひとまずは安心だ。
『すぐにチャンのところへ向かう。誘導してくれるようアテナに頼んでくれ』
俺は【強襲狙撃形態】を解除し、リベリオンを元の形に戻し背中に担いだ。
『いえそれが……急にアテナさんがぐったりしてしまって……。あっ、ちょっと待ってください! 何か言って——』
ずっと《望遠魔法》を使い続けていたことに加え、先ほどの雷魔法……相当消耗していたか。
『すまない、軽率だった。もう無理させず休ませてやっ——』
『なっ——! アルカ様! すぐにそこから離れてください!』
『ん? どうした急に——』
『お願い! 逃げて!』
————ゾワッ。
……いつ以来だ?
ここまでの魔圧を感じたのは————。
「……スターク、乱戦に紛れてチャンを探して合流しとけ」
気を抜くと押し潰されそうだ。
「だ、旦那……これって……!」
「とにかく俺から離れてろ! 〝リベリオン〟——!」
——紫光が漏れ出し、紫煙が立ち込める。
俺は頂上からそのまま地上に飛び降りる。
着地し、顔を上げると……そのちょうど正面。
身の丈ほどはあろうかという大剣を肩に担いだ男が目に入った。
ゆっくり、ゆっくりと、こちらに向かってくる。
「——いいのか? 女のケツを追っかけてなくて」
「だははは! 俺は女が好きなんじゃねぇ、向かってくる奴が好きなんだ! 狙撃をくれたのはお前だな!?」
男はもう片方の腕を上げ、人差し指を立てると、自身のこめかみの辺りをコツコツと指差した。
既のところで躱したんだろうが、そこには血の跡がうっすらと残っている。
「ははっ、受け取ってもらえたようだな。しかし俺には全くそういう趣味はないんだが……これも経験か」
向こうではなく、こちらを選んでくれたことには素直に感謝するべきだろう。
あの一瞬でチャンがやられるとは考えにくい……恐らく、逃げ切れたはずだ。
チャンはしっかりと役目を果たした。
ならばここからは……俺の仕事だ。
「【双剣形態】——、 《舞風》!」
背中の両端からリベリオンを引き抜く。
「いいねぇ~。遊んでくれるってことでいいんだよな?」
【地斬】は大剣を軽々と振り回し、こちらに向けて構えた。
「まぁ……誘ったのは、俺だしな」
俺は双剣を構え、腰を落とす。
「軍国ハルメニア、 〝双龍〟が一人……【地斬】ジーク・ケイオスだ」
「アーレウス連合、独立遊撃隊[テンペスト]……隊長、アルカ・キサラギ」
不思議と、焦りや不安はない。
ただ一瞬、皆の笑っている顔が、頭に浮かんだ——。
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