26話 強襲! 四龍爪~地這う双龍~
「わぁー! いい眺めですね!」
部隊登録を終えた俺たちは、本部の中をひと通り見て回り、展望室にやって来た。
ナツキの言う通り、ここからはハルメニア方面が良く見渡せる。
長年両国の最前線だったためか、これといった遮蔽物のない——見渡す限りの大平原である。
「おにぃ、見えない」
声のした方に目をやると、おつうがこちらを見上げて両手を上げている。
残念ながら少し身長が足りず、向こうが見えないようだ。
俺はおつうの両脇の下に手を持っていき、そのままクイッと持ち上げる。
——が、幼女は『違う』と首を横に振り、俺の肩をポンポンと叩いた。
「むむっ……肩車か」
『ニッ』と白い歯をみせたおつうをそのままクルっと反転させ、肩に座らせる。
「おおお……! 壮観」
どうやら喜んでいるようだ。
ならしばらく、このままで居るといい。
「そろそろ一時間経ちますねぇ」
「本当だ! オイラ、旗取ってきます!」
さすが補佐官、時間管理はバッチリみたいだな。
しかしなんか言いにくいな……よし——。
「ユリ、やっぱり補佐官はダメだ」
「えっ……! 私、何かやらかしましたか!?」
「いや、今後は秘書ってことでいこう」
「「————っ!」」
何故か巫女とツインテが凄い勢いでこちらに振り返った。
——何かおかしかったか?
まさかアーレウスではそういった職位は存在しない……とか?
「えっ……アル——いえっ、隊長の秘書……は、はいっ! よろしくお願い致します!」
なんだ、やっぱりあるんじゃないか。
二人とも驚かせやがって。
しかし呼び方が変わっただけなのに、ユリは何故そんなに嬉しそうなんだ? こっちでは結構偉い扱いなのか?
そして別に俺の秘書じゃない、部隊の秘書だ。
いやでもそうなると、やっぱり言葉がおかしいかもしれない……が、まぁいいか。
「旦那~! 見てくださいこれ!」
「ん——? おお……」
——バサァ。
戻ってきたスタークが、勢いよく隊旗を広げて見せた。
「わぁー! かっこいいです!」
「ははは、目立つねこれは」
「はっはっは! 今後はしっかりとはためかせてやりますよ!」
反応を見るに、皆気に入ったようだ。
(〝竜巻に白狼〟——。これが俺たち、 [テンペスト]の隊旗なんだな……)
なんだか急に、実感が湧いてきた。
ヴヴヴゥゥゥゥゥゥゥ————!
「「「————っ!」」」
突如、大音量の警報が鳴り響く。
「チャン、これは——」
「うん、何かあったみたいだね。ナツキちゃん、 《広域伝心》で何か拾えないかな?」
「今やってます! えーっと……あっ、どうやらハルメニア軍が軍事境界線を越えてきたみたいです! 正規部隊は招集かかってます!」
「あららこんな時に……。タイミングが悪いね」
展望台に居たオルカスタの兵たちが、バタバタと慌ただしく外へ出て行く。
「大丈夫なのか? アイネも居ないのに」
「ははは。そこはまぁ【六神盾】第四師団のお手並み拝見、というところだね」
(『行こう』と言わないのを見るに、ここに残るべきという判断か——)
まぁいきなり出て行ったところで連携など取れるはずもない、邪魔になるだけだろう。
「そうだな、いい機会だし見て行こう。余程のことがない限り今回はここで待機だ。ナツキは逐一伝達を頼む」
「はい!」
展望室に居るのは、俺たちテンペストだけになった。
遠く向こうから……先ほどのナツキの伝達通り、ハルメニアとみられる軍隊が行軍して来ている。
「あの規模だと大体……2万弱ってところか。チャン、第四師団はどれぐらい居る?」
「ファミリアと同じぐらいだから……全部出ても1万5千ってところかな。すでに兵数では劣勢だけど……まぁこちらは本陣が近いから、何かしらの対策はあるだろう。 〝三龍爪〟なら問題ないよ」
〝三つ爪の龍〟——。ハルメニアの広域部隊の軍旗か。
俺が追放されたあの〝雨あられ〟が、まるで遠い昔のことのようだ。
もはや懐かしさすら感じる。
一緒に逃げ回ったハルメニアの兵たちはどうなったか……なんて、追い込んだ俺が考えてはいけないか。
「そうか。なら、俺たちの初陣が『オルカスタ本部防衛戦』なんてことにはならなそうだな」
「ははは。それならそれでアイネに恩を売れるし、いいんじゃない」
「なるほど、そういう考え方もあるか。だが初陣くらい、皆でまったり魔獣でも狩りたいものだ」
「ははは、間違いないね」
そしておつう、そろそろ降ろしても大丈夫か?
流石に肩が痛くなってきた。
「——さんりゅーそー? ってなに?」
隣の巫女様は、軍旗の説明をご所望のようだ。
「ハルメニアでは、ずっと昔から〝龍〟は戦神の化身であり、幸運の象徴とされていてね。その爪の数が多いほど高貴な龍ってことらしく、それを軍旗にも流用している。三、四、五……と、描かれる爪の数が多いほど、より強い部隊という証なんだよ」
「ちなみにアーレウスと違って向こうは統一軍なんで、 〝隊旗〟ではなく〝軍旗〟と呼ばれるんでっさ! 〝爪四つ〟になると〝字持ち〟の直轄部隊ですが、ハルメニアは〝三字制〟で数も少ないんで、本隊が一緒に来ることはまずないですよ! はっはっは」
アテナの質問に、チャンとスタークが答えた。
(ほう、あの〝爪〟にはそんな意味が——)
しかしターニャめ、ただの一度だって、俺はそんな説明を受けた覚えはないぞ。
だから特に気にしたことはなかったが、記憶の中に〝四龍爪〟と対峙した覚えはある。
そして確かに、それをハルメニアの〝字持ち〟が率いてきたことなどなかった。
(まぁアイネがいないとはいえ、オルカスタも国内最強部隊の一つ……俺が気を回すようなことでもないよな)
「へぇ~。でもあんな風に龍が二匹うねうねしてると……爪なんてよく見えないわね」
「ははは、龍が二……匹……うねうね————?」
チャンの顔が、一気に青ざめる。
「アテナ嬢! ここから軍旗が見えるんですか!? もう一度よく見てください! ハルメニアの広域部隊の軍旗は、爪の数に関わらず龍は一匹ですよ!」
「え? う、うん……ちょちょいと《望遠魔法》で見てるけど——やっぱり二匹ね」
雷属性にはそんなことが出来る魔法があるのか。
便利なものだ、俺も欲しい。
「皆さん少し静かに! 伝達が……えっ————」
……ナツキの様子がおかしい。
心なしか、その表情に焦りが見える。
嫌な予感がする——。
「ゆっくりでいい、正確に伝えろ」
「はっ、はい! 軍旗は……〝四龍爪〟に……〝地這う双龍〟——! きっ、来ました! 〝字持ち〟です!」
「「「————っ!?」」」
先ほどまでの楽観ムードが、一瞬にして過去になる。
「地這う双龍……【地斬】ジーク・ケイオスの本隊でっさ!」
「マズいぞ……! アイネがいない今、間違いなく潰される!」
スタークとチャンは元々ファミリアの本隊に居た人間だ。
この焦りよう……もしかしたら対峙したことがあるのかもしれない。
——どうする……?
今あそこに出て行ってまともに戦える可能性があるとすれば……やはり俺とチャンだけだよな。
もし第四師団が突破されれば……恐らく、こいつらを守りながらの迎撃離脱は、相当に厳しいものになるだろう。
逃げるようで気が進まないが、ここは——。
「……ダメだな。ここは撤退——」
「あっ、女の人が一人前に出てったわよ。なんか敵軍に向けて喋ってるみたいだけど——」
「ははは……、勇敢と無謀は違うぞ……」
「あっ! たまたま居合わせた〝字持ち〟かもしれないですよ! それか……アイネが間に合ったとか! どんな感じの人ですか!? アテナ嬢!」
それぞれに任された管理区があるというのに……こんなところに他の〝字持ち〟が居るか?
(やはりスタークも相当動揺しているみたいだな——)
「えーっと……髪は桃色ロングって感じね……んん? 何か珍しいところで編んでるわね。あれ、斬新で結構カワイイかも。今度やってみようかしら」
——チラッ。
……いちいちこっちを見てくるんじゃない。
お前しか戦況を視認できるヤツはいないんだ、集中しなさい。
「ん~! 〝字持ち〟に桃色ヘアーはいないでっさぁあああ」
やはり〝字持ち〟ではなかったか——。
であればチャンの言う通り、ただの無謀でしかないだろう…………ん——?
桃色……?
無謀……?
珍しいところで……何だって?
——視線を送ったその先で、チャンと目が合った。
合ってしまった。
「アテナ……その女は何か武器を持っているか?」
「えぇ? 前線に出てくるのに丸腰で来る人なんている? あっ、拳法家とかはそうなのかしら」
「いいから早くしろ!」
「なっ、なによぉ……。ちゃんと持ってるわよ、弓」
——弓。
「なんか身体の割におっきいけど……あんなの使いこなせるのかしら」
もう一度チャンの方を見ると、やはり目が合った。
(嫌な予感の本当の正体は……これか——!)
「……すまんおつう、降ろすぞ」
床に降り立ったおつうは、俺とチャンを交互に見て、俺の袖をグッと掴んだ。
「隊長、お疲れ様です」
——違うんだユリ。
疲れたとか、そういうんじゃないんだ。
疲れるとすれば、これからだ。
「ピンクレディー。助けに行くの?」
ここまでのアテナの話を聞いて、おつうの頭の中にも同じ人間が浮かんでいるようだ。
——だが、余計なワードを出すんじゃない。
今度は俺まで、そこの巫女様に消し炭にされかねない。
どこかのアフロのようにな。
「ピンクレディー? はてどこかで——あっ、弓撃った」
(……っ! どこまでも——面倒をかけやがって————!)
「——はっ! 開戦しました!」
(そうだよなナツキ……そうなるよな!)
「ナツキ! 俺と《遠隔伝心》繋いどいてくれ! 他は全員ここで待機だ! チャン——!」
再び目を合わせると、さっきまでの焦りは何処へやら——。
チャンは『ニコッ』と笑った。
「おっ、単騎じゃなくていいの? 邪魔にならない?」
——いつかの痛いところを突いてくる。
悪かった、あの時は俺が悪かったよ。
「万全のお前が邪魔になるようなら、俺は今後誰とも戦場に出られないさ」
「ははは、嬉しいよ」
そうだ、俺はもう一人じゃない——。
共に戦場で肩を並べられる友が居る。
「アテナ……有事だ、チャンと二人で行く」
「ちょっ、私は!?」
「あんな危ないところに連れて行けるわけないだろう。ここから戦況を把握してくれればいい。それに……万が一の時は誰がこいつらを守るんだ?」
「で、でも……!」
「俺を信じられないのか? 俺はお前を信じてるぞ」
「……うん、わかった——」
こうして、後ろを任せられる巫女も。
「ユリも、皆を頼む」
「お任せください、隊長」
出来過ぎなほどに、しっかりした秘書も。
「おつう、皆の言うこと聞くんだぞ?」
「レッツ、ピンクレディー」
ただ純粋に、守りたいと思える幼女も。
「逐一情報を送ります! 常に繋いだままにしておくので、アルカ様も何かあれば……いつでも!」
必要最低限以上に、繋がっていてもいいと思える女も。
「オイラは行きますぜ……!」
そう、こうして着いて来てくれるアフ——。
(……んんん?)
「いや、お前もここに残——」
「初陣ですよ! 名前、売りましょうよ——!」
——バサァ!
〝竜巻に白狼〟——。
出来上がったばっかりの、俺たちの隊旗が靡く——。
「——ははっ、そうだな! よし、出るぞ!」
アイネが居ない今、そもそも出るべきだったのに。
あんな面倒な女に背中を押されるとはな——。
もはや名前も忘れちまったが……まぁ、これでいいか。
「よし! ピンクレディー救出戦だ!」
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