25話 旗揚げ~竜巻に白狼~
「まずは書類……ユリさん、任せていいかな?」
「はい! お任せください!」
チャンから書類を受け取ったユリは、スラスラと必要事項を記入していく。
さすが元受付嬢、手慣れたものだ。
「その間に部隊名を決めちゃおう。何か案はあるかな?」
そしてこちらも元隊長、相変わらず仕切るのが上手い。
しかし部隊名か……人生一人旅の俺にこんな未来が待っているなど、知る由もなく——。
もちろん今日に至るまで、そういったことは考えたこともなかった。
とてもじゃないが、すぐには思いつきそうにない。
「はいっ!」
とかなんとか考えていると、早速ナツキが手を挙げた。
「おっ、どうぞナツキちゃん」
「[アルカフォース]です!」
「そのまんま〝アルカの部隊〟みたいな感じか……いいかもね」
……盛り上がってるところ悪いが、残念なお知らせだ。
厳密に言うと、この部隊はアテナの部隊なんだ。
その発想でいくと、 [アテナフォース]になる。
「ふっふっふ……! ここは[ボンバーヘッド]でいきま——」
「アテナちゃんは? 何かあるかな?」
ナイスだ、チャン。
そのアフロ、もはや反応してやることすら面倒だ。
「えっ……。ロイ——うーん、思いつかないかも」
「……いや今、何か言いかけただろう?」
「言いかけてないし思いついてもないし! なんでもない!」
なんてわかりやすいヤツだ……。
しかしまた変な地雷を踏んだら面倒だ、この場は流してしまった方がいいだろう。
「書けるところは書いておきました。ご確認ください」
「ああ、ありがとう。どれどれ——」
(ユリが仕事が出来過ぎるのか……結局そんなに時間はなかったな——)
チャンは〝自由〟だと言っていたが、何か面倒な規約などあるかもしれない。
とりあえず一度書類に目を通しておくか——。
(——っ! これは……!)
俺は思わずユリを見た。
「——あら? どうかしましたか?」
「いや……凄く綺麗だなと思って。というかここまで来ると……美しいという表現の方が適切かもしれない」
「えっ……! ひゃんっ!」
余程嬉しかったのか、ユリはその場に勢いよくしゃがみ込んだ。
——ギリィ!
人ってこんなに綺麗な字を書けるものなのか?
もはやこれは芸術の域だ。
(しかし、巫女様は何故また盛大に歯軋りを……?)
——ははーん、さてはあまり自信がないんだな?
女のコとして、やはりそこは気になるのか。
ここはフォローしておいた方が良さそうだ。
「大丈夫だアテナ、大した問題じゃない。他のところでカバーしていこう」
「なっ……! やっぱりユリさんの方が綺麗ってこと!? 大問題よ! 大体、他のところって言ったって——」
ほどなくして立ち上がってきたユリに目をやったあと、アテナは何かを確認するように自分の胸に両手を置き……そっと目を閉じて深くため息をついた。
——おっと危ない、その一連の祈りを捧げるかのような所作は……。
満身創痍のあの夜に、女神と錯覚した美しい女性を思い出す。
(でももう……二度と逢えないんだろうな——)
なんだか切ない気持ちになってしまった。
アテナのせいだ、しばらく放っておこう。
(で、内容の確認だったな……どれどれ—)
【新規部隊設立届】
隊級:B級
種別:特別部隊
部隊名:
隊長:アルカ・キサラギ
副長:チャン・K・チャンドラ
補佐官:ユリ・ナギサ
参謀:
伝心:ナツキ・エトワール
隊員:
「……待て、隊長はチャンじゃないのか?」
「えっ? アルカでしょ」
「アル」
「アルカ様!」
「アルカさんですね」
「旦那でっせ!」
「おにぃ」
……満場一致なのか。
(俺なんかが隊長になっていいのか……?)
でも、この流れは恐らくあれだ。
何を言っても無駄なやつだ。
自分で言うのもなんだが、最近段々わかるようになってきてしまった。
(会話の流れ……ってヤツが、な——)
とりあえず先に進もう。
「隊員以外の職位が5つあるが……すべて埋めなきゃいけないのか?」
「そうだね。一応全てに意味があって、必須とされてるんだ。だから、B特であっても最低兵数が5名以上なんだよ」
ふむ、そういうことか。
まぁ副長はチャンで決まりとして。
補佐官は……秘書みたいなものか?
となると事務関係が中心のはずだし、このままユリが適任だろう。
伝心は別部隊との通信関係だろうから、これもナツキで決まりだな。
残るは——。
「参謀って何するんだ? こんなの決める必要あるのか? 副長と兼任とかじゃダメなのか?」
「複数部隊と連携する作戦では、隊長と一緒に軍議に参加しなきゃいけないんだよ。多少人数が増えてくると、副長は部隊長になったりすることもあるし……。どこも参謀は基本的に前線に出ない別の人間が就いて、本陣で伝心と一緒に居るのが一般的だね」
それだと……逆に誰でもいいってことになるな。
別に作戦は俺が聞けばいいし、そもそも複雑な戦陣を展開できるような兵数もいない。
これはあまり気にしなくていいだろう。
「あ、私はパスで。アルと一緒に居てあげなきゃいけないし」
……え? それって戦闘中もなのか?
そもそも『女のコを前線に連れてくとか、危ないと思わないわけ!?』とか言ってたのはどこの誰——。
いや、余計なことを言うとまた怒らせるかもしれない、やめておこう。
「この面子だと、旗持ちはオイラですよね?」
……確かにそれも必要か。
消去法にしたつもりはなかったが、ここに辿り着いてしまった。
「残るはおつうか。どうだ?」
「どっちでもいい」
「ははは。いいんじゃない? ナツキちゃんと一緒に居れるし、本陣に出てこなくていいしね」
なるほど、チャンの言う通りだ。
よくよく考えたら、そこに収めるのが一番理にかなっているかもしれない。
「そうだな。じゃあ今日から〝参謀おつう〟でいこう」
おつうは腕を組んで、 『ニッ』と白い歯を見せた。
「あとは部隊名だが……何か良い決め方はないものか……」
「隊旗から決めるところも多いみたいだよ。隊長や部隊の特徴、戦い方を象徴するような形で先に作って、それに名前を乗せる……みたいな感じかな」
「[ファミリア]の隊旗を例に出すと……〝大樹〟で地、〝甲羅〟で壁を表していて、団長の【地壁】のイメージ。さらに団長がああいう人なんで、 〝絆〟という意味の[ファミリア]って部隊名になったそうでっさ!」
わかりやすい解説だった。
スタークはこうしてたまにいい仕事をする。
だがウチはろくに部隊としての戦闘の経験もないしな……。
俺の特徴と言っても——。
「なるほど! そういうことなら隊旗は任せてください! おつうちゃんっ」
どこからその自信が沸いてくるのかはわからないが、ナツキは紙とペンをおつうに渡し、隣であれこれ言っている。
それを聞きながら、おつうは絵を描いているようだ。
そういえば……チャンと酒を飲んだ次の日。
二日酔いで死にかけていた俺の前で、おつうは絵をかいて遊んでいたっけ。
「出来ましたぁ! どうでしょうか!」
ナツキとおつうが掲げた紙に、絵が描いてある。
「これは凄い……!」
「上手!」
「かっこいいでっさ!」
「へぇ……いいわね!」
——皆が驚くのも無理はない。
どこかの『自称一流の服飾職人』の時はその凄さがよくわからなかった……が、今回は絵に全く興味のない俺でも、はっきりとわかる。
(これは……趣味のレベルを超えてるな)
あの時……のほほんと〝お絵描き〟とか思ってしまった自分を、殴ってやりたい。
「おつうちゃん、絵を描くのがすっごい上手なんです!」
おつうは例の如く、 『ニッ』と白い歯を見せる。
了解だ、覚えておこう。
そして内容の方は——。
「〝竜巻〟に……〝白い狼〟か?」
「はい! 〝竜巻〟はアルカ様の風属性を表しています。あとはハクツルさんの『〝狼〟に噛みつかれた』というセリフに、頂いた〝白い外套〟を被せてみた……そんなイメージです!」
——驚きの発想力だ。
なんだかスッと収まった感じもするし、別に俺はこれでいい。
そして今、ふと気づいたが……。
万が一、どこかのアフロの案を採用していたら〝爆発〟した〝頭〟の絵になっていた可能性もあったこということでは……?
(あの野郎……)
「ははは。皆気に入ってるみたいだし、隊旗はこれで決定だね。そしたらここから連想させるわけだけど——どうかな?」
それぞれが『うーん』と首を傾げている。
さて、俺も考えねば——。
「——〝テンペスト〟」
——久々に口を開いたな、巫女様よ。
そして皆が待ってるみたいだから、早く解説しなさい。
かくいう俺もなんだが。
「——あっ、えっと……〝紫眼〟のアルは【風】だけど、〝字〟を拝命したら【嵐】になるじゃない」
「アズリアでは【嵐】のことを[テンペスト]とも言いますもんね!」
ナツキが嬉しそうに喰いつく。
(——ん? アーレウスではそう言わないのか……?)
「なるほど! 向上心ですな、アテナ嬢? 【嵐王】も【嵐槍】も喰ってやろうぜ的な!」
「そ、そうね。やるからには上を目指すって感じで」
そう言って、アテナは少し俯いた。
——恥ずかしがっているだけか?
少しどもったようにも見えたが……気のせいか?
「ははは、こりゃますます〝字持ち〟が黙ってないかもね。どうする? アルカ」
……確かにそうかもしれないが、そんなことより問題はアテナの方だ。
(【嵐】……[テンペスト]……何か別の意味がありそうだが——)
「な、なによ。嫌なら自分で考えたら——」
「……いや、これでいこう」
——まぁそもそもが、アテナの目的を達成するための力になる部隊なんだ。
巫女様が納得しているなら、それでいい。
俺が色々と考えを巡らせたところで仕方ない。
何かあるなら、そのうち自分の口から言ってくるだろう。
「えっ……、あ、うん——」
「決まりですね! では皆さん、こちらに魔力をお願いしますね」
ユリに言われた通り、用紙にそれぞれ自分の魔力を込めて、書類一式を提出した。
隊旗は先ほどのイメージを元に魔法で描き出すらしく、一時間ほどで出来上がるらしい。
——こうして俺たち7名は、 【B特】独立遊撃隊[テンペスト]を旗揚げしたのだった。
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