24話 新規部隊設立届~B級特別隊推薦状~
「見えてきました! あれが本部でっさ!」
(やっと着いたか……)
〝紫苑に逆鉾〟——。 [オルカスタ]の隊旗が風に靡いている。
シャルム湖を出発して数日……いくつかの街を経由して、目的地に辿り着いた。
色々と不安もあるが……まぁ、なるようになるだろう。
「じゃあ行ってくるよ。ちょっと待っててね」
本部入り口まで来たところで、チャンが一人降りていった。
この外套はあくまで『アイネに対する通行証』とのことで、入場門入場門で必要なのはチャンが預かって来きた密書の方になるらしい。
「早く見てみたいですね~! 姫カット」
「はっはっは。流行の最先端を走る者同士、興味はありますな」
ナツキとスタークが盛り上がっている。
立ち寄った街では、アイネの髪型はそう呼ばれていた。
なんでも昔、アーレウスがまだ王国だった頃の王族の女子がしていた髪型とのことだが……今では好んでするものは居ないらしい。
加えてこのアフロが最先端と言っているんだ。
期待するのはやめておいた方がいいと思うぞ、ナツキ。
ほどなくして、チャンが戻ってきた。
「どうだ? 問題なく入れそうか?」
「それは大丈夫なんだけど、今は留守みたい。 『もう少しで戻ってくるはずだから中で待っててくれ』ってさ」
「そうか。しかし暇が出来るな……飯はさっき食ったし——」
「それなんだけど、実は一つやっとかなきゃいけないことがあるんだよね。先にそっちを済ませちゃおう」
またハクツルの頼み事か?
人使いの荒いヤツめ……チャンが優しいからって何してもいいわけじゃないぞ、まったく。
通りすがりの兵士に道を聞きながら前を歩くチャンに続いて、俺たちは本部内を進む。
「しかし旦那……そんな状態じゃアイネに斬られますよ? おつうちゃんは妹でごまかせるとしても——」
「流石にその時は離すわよ」
——スタークの言う通り、不安でしかない。
右手におつう、左腕にアテナというこの陣形である。
先日、どうやら女性陣の間で話し合いがあったらしく……。
その結果、幼いおつうの手は道中俺が引くことになった。
恐らく危機管理の一環だろう。
……とまぁそこまでは良かったんだが、なぜかアテナとナツキが日替わりで逆側に陣取るようになった。
『ずっと一緒に居る』というアテナとの契約上、問題がなければ別に何でもいいんだが……。
まぁ特に変わった様子もないし、大丈夫なんだろう。
「おっ、ここだね」
チャンはそう言うと部屋に入り、受付の女性から何やら紙をもらって戻ってきた。
「なんだそれは……ん? 〝新規部隊設立届〟?」
「うん。部隊登録しておかないと、色々厄介でね」
「いやしかしだな……動きづらくなるんじゃないのか? 国の管理下みたいになって。フリーならどこで何をしてようが勝手だろう?」
「一つずつ説明するよ。まずフリーで動く場合は、基本動きは制限されない。けど逆に、戦争などの大規模な戦闘には参戦できないんだ。所属が不明だと本隊と統制連携も取れないし、最悪離反の可能性も出てくるからね」
なるほど……。
アテナの言う『でっ、でもぉ? 戦いになると思うしぃ?』というのがどういった規模のものかはわからないが、参戦できない戦場があるのは都合が悪いか——。
「そして魔獣討伐でも国境戦線でも、任務達成時の国からの報酬はガクンと下がる。それは勿体ないよね?」
チャンの視線が注がれた隣の巫女が、 『うんうん』と頷いている。
「まぁアテナがいいなら構わんが……」
「ははは。次に、気にしてた『自由に動けないんじゃないか』って点だね。確かに本来はどんな部隊もC級から始まって、実績を積んだり兵数を増やしていって、B級、A級……とランクを上げていく。そうすることで、参戦できる戦場や受注できる任務が増えていくんだ」
ほぅ……。
だがその言い方だと、場合によってはランクの高い部隊の直属にならなければ、かなり動きが制限されるんじゃないのか?
であれば、形だけでもファミリアに所属しておくのが正解だったことになる。
一番権力を持つであろう【S級部隊】だし、ハクツルの人間性もある。
(でも勧誘を断った以上、それも今さらだ——)
そもそも、何をするにもその都度許可を取って動かなきゃいけないのも面倒だし、その許可が取れなかった場合は動けないのか? 無視したらどうなる?
結局縛られているような気がするが——。
「ははは、考えていることはわかるよ。だけど俺たちは大丈夫。こいつがある——」
そう言ってチャンは何か別の紙を取り出し、俺はそれを受け取った。
「えーと……〝B級特別隊推薦状〟?」
「まずこれを見てくれ」
推薦状とは別にチャンがテーブルの上に置いた表を、皆で覗き込む。
【正規部隊ランク基準】
C級:兵数100名以上+実績値C
B級:兵数1000名以上+実績値B
A級:兵数5000名以上+実績値A
S級:兵数10000名以上+ 〝字持ち〟1名以上在籍
「……C級にもなれませんね」
ユリの言う通りだ、俺たちは現状7名しかいない。
いや待てよ……おつうは1名にカウントしていいのか?
そして今後、100名以上もの人間を面倒見る気は……ましてや一緒に居る気すらもさらさらないぞ、俺は。
今のこの感じが好きなんだ、これでいい。
「正規部隊は設立が大変なのに、縛られる。この実績値というのも、結局は上の匙加減だしね。だが特隊は——」
チャンは人差し指をスーッと下へ動かし、皆の視線を誘導する。
【特別部隊ランク基準】
B特:兵数5名以上+ 〝字持ち〟1名の推薦状
A特:兵数100名以上+ 〝字持ち〟3名の推薦状
S特: 〝字持ち〟5名以上在籍
「……! ハクツルか!」
「うん。その推薦状にはツルさんの魔圧が込められてて、提出すればその場で通るようになってるんだ。 【正規部隊】の場合は申込書からの審査だけど、 【特隊】は設立届……つまり、出せば終わりだ」
ハクツルめ……人に無理難題を押し付ける以上、一応それなりの手土産は持たせたというわけか——。
だが、感謝するにはまだ早い。
「なるほどな。しかし『この人数でも特別に』部隊が設立できるということはわかったが、制限についてはどうなる?」
「ははは。この『特別』というのはそういう意味じゃないよ。正規の部隊とは全く違う権限が与えられるんだ。それがアルカがさっきからずっと気にしてる〝自由〟だよ」
「それはどれくらいの自由だ?」
「わかりやすく言うと……【独立遊撃隊】って扱いになるんだ。基本的には何をするにも自由。但し、大戦や有事の際のみ、現在の〝君主〟であるミクスからの勅命で馳せ参じなければならず、これだけは断れない。ただあの人のことだから……生涯出すことはないかもね」
ミクスか……。
確かに聞いている限りだと、誰かに助けを求めるような状況になるとは考えにくいし、その必要もないだろう。
そういう人間性であり、それほどの戦力だと聞いている。
「話は理解した。どうする? アテナ」
今後の流れがわからない以上、結局はアテナに委ねる他ない。
お前のやりたいことの妨げになりそうなら、やめておけばいい。
「えっ? 採用で」
「おっ、おう……」
……金か? 金なのか?
わからんが、深く気にするのはやめておこう。
「それにしてもこの表を見る限り……やはり〝字持ち〟というのは格も権力も別格なんだな。一人の推薦で部隊を自由にさせたり……在籍がないと【S級】にも上がれないとは」
「そうだね。そもそも推薦するような優秀な人材が居たらどこも自軍に入れちゃうだろうし……。まぁつまり、この推薦状が発行されること自体が異例中の異例なんだよね。アルカは嫌がると思うけど、すぐ有名になっちゃうよ」
結局、ハクツルには感謝しなければならないか……。
有名になるのは嫌だが。
「異例ってことは、 【特隊】自体あまりないのか?」
「俺の知ってる限りではB、A共に1隊ずつだけど……【B特】の方はちょっと前に壊滅しちゃったらしいよ。このオルカスタの国境線でね」
やはり〝字持ち〟に認められた部隊とはいえ……いや、だからこそ、逆に後ろ盾や後方支援はないと思った方が良さそうだ。
制限を受けず、自由にやれるということ……それは同時に、個々に責任があることを意味する。
「Sはないの?」
——どうしたおつう?
こんな危ない話に子供は首を突っ込まなくていいんだ、やめなさい。
「遠い昔に王政を滅ぼした五人の英雄が、そのまま【S級特別部隊】と呼ばれたことから始まっているからね。その後五人がそれぞれ部隊と管理区を持って……まぁとにかく伝説みたいなものだよ。今の時代にあったらパワーバランスが崩れて、大変なことになるんじゃないかな」
「ふぅん……」
「そもそもその名残で、数年前まで〝字持ち〟も各属性につき一名の〝五字制〟だったし、第六師団が出来たのなんてここ数ヶ月の話だよ。 〝十字制〟も〝B・A特隊〟も【六神盾】も、新しい制度は全てミクスが行った改革だからね。凄い人だよ」
「へぇ。凄いね、ミクちん」
……歴史の勉強は終わったか?
それと一応、国の頂点を〝ミクちん〟と呼ぶのはやめなさい。
万が一それで怒らせたりなんかした時は、俺は殺し合いをしなきゃいけなくなるかもしれない。
「ははは。じゃあ説明も終わったところでいよいよ……部隊登録だ!」
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