【S級部隊 5話】ターニャ:国宝・字宝玉~一騎当千の奥義、その資格~
「なんだツル! なにかあるのか?」
——ガタッ!
いつもつまらなそうに座っているだけのミクスが、その金眼を大きく見開いて立ち上がり、前に身を乗り出した。
ミクス以外は特に興味も無さそうにしているが、その分別に口を挟む者もいない。
「がっはっは。実は先日、ウチの管理区でも輪廻教の襲撃がありましてな。その土産話ですわ」
「ほう! 申せ!」
(……! やはりあの件を——)
どうする……?
アイオーンでないのは本当のことだけど、変に疑われれば今後に大きく影響してしまう……!
もうこれ以上計画を先延ばしにはできないし、大幅な変更もできないっていうのに——!
「ふわぁ~あ……」
頭の足りていないゲイルは、そんな話とは思いもせず呑気に欠伸なんてしているけど……。
もし本当にあの件だった場合は、この場で必ず面倒が起きる——!
「いや~実はひと悶着あってな! 〝狼〟に噛みつかれたわい」
「おおかみ……? デーモンウルフか何かか? 【地壁】のハクツルが? ふははは! ————確かに面白い話をしろとは言ったが、つまらない冗談はよせ」
「「——っ!」」
途中まで笑っていたミクスの様相が、一気にとてつもなく重く、何か鋭いものに変わった。
そしてその瞬間、その場に居た全員も真剣な面持ちになる。
「ああそうだ。この俺に噛みついて来た〝狼〟がいたんだよ」
——まさか、ゲイルのことを言っているの……?
狼だなんて……冗談はよして!
自分のことを狼呼ばわりされて、黙っていられるような男じゃ——!
「いや実はだな、報告によると敵は人間と魔獣の混成部隊で、少なく見積もっても1000~1500は居たみたいなんだが……どうも片づけたのは〝一人の男〟みたいでな」
「ツルさんちょっと待って。さっきから〝みたい〟って、まるで他人事だね? まさかファミリアで処理したんじゃないってこと? 1000を一人でって……本当ならそれは〝字持ち〟クラスだよ」
「がっはっは! さすがブルース、話が早いな。情けない話だが、ファミリアの本隊が行った時にはもう全て終わってた。俺が面倒見てた難民の保護区は壊滅状態だったが、民間人の人的被害は0だった」
——ピクッ。
いつも必要以上のことは喋らず、何の反応も示さないアイネの肩が、僅かに動いた。
けどまぁ……そうよね。
アズリア関連のことにあなたが敏感になるのは必然——。
しかしブルース、本当にいい仕事をするわね。
とりあえずゲイルの暴発は防げたかしら。
「で、噛みつかれたとは何だ? まさかその内容で報酬をケチるお前でもあるまい」
ミクスが再度、話を聞く姿勢に入っている。
確かに……ハクツルの性格を考えると、報酬を出し過ぎて感謝されることはあっても、不服を言われることはないでしょうね。
「ああ。1000万エーデル出した」
「ひぃ~! ツルじい太っ腹ああぁ~!」
エルザは驚いたような素振りを見せているけど、チラチラとミクスの顔色を伺っている。
……まぁ実際のところは単なるご機嫌取りで、そんなに興味がないのね。
「だが、断られたんだ。 『金はいらん』とな。ちなみに勧誘も断られたわい」
「ほう、偽善者の類か? 何もいらんと? それでいて別に戦場で暴れる気もないのか——やはりつまらんな」
ミクスは呆れたような顔をして、椅子にバーンと腰掛けた。
「いや、目の前で部隊長を引き抜かれた」
「なんと! 【六神盾】の部隊長を! しかも〝字持ち〟を目の前にしてですか!」
「ああ。しかもその場に他の部隊長も9人いたぞ」
「へぇ~! 根性あるなぁ!」
ロベルトとシルバも話に喰らいついてきた。
全く男って……こんな話の何がそんなに面白いのかしら。
「で、 『その一騎当千の新芽を捻り潰してしまいました、ごめんちゃい』って話か? まぁ戦力的には勿体ないかもしれんが別に大した話じゃ——」
ミクスの言う通り、わざわざこS級会合で話題に出すようなことじゃ——。
「だからあげたわ。むしろお願いしたという方が近いな! がっはっは」
「「——っ!」」
——ミクス以外の全員が、驚いた表情を見せる。
最高戦力のミクスの目が光っているとはいえ、この群雄割拠のアーレウスで自軍の戦力の低下が知れることは……マイナスの側面はあっても、一切のプラスはない。
とてもじゃないが、笑ってひけらかすような話ではない。
さらに【六神盾】の一個師団を率いる団長としても、 【地壁】を冠する〝字持ち〟としても、目の前で部隊長クラスを引き抜かれているようじゃ……その資格、そのものを疑われかねない。
「……ぐははは! 黙って聞いていれば! 日和ったか【地壁】! やっぱり大したこたぁなかったな!」
ほら、当然のように馬鹿が噛みつく。
「がっはっは! お前には一生わからねぇかもな! 男が男に、大事なもんを託したくなる気持ちってのはよ! きっとお前には、今後そういう出逢いすら見えることはねぇだろう!」
「あ゛ぁ!? 雑魚があまり調子に乗るんじゃねぇぞ!? お前如きがこの俺をわかったように語るんじゃねぇ!」
「何とでも言え。まぁゲイルは置いといたとして……お前らは別だ、逢えばわかる。一度しか言わねぇから良く聞けよ! 〝赤髪のサイドバック〟に〝白いキャプテンコート〟——」
——ガバッ!
アイネが勢い良くハクツルの方を向いた。
「名前は伏せとくから楽しみにしとけ! アイツは必ずデカくなる! いずれ嫌でも眼に入る!」
「眼は……!?」
珍しくアイネが取り乱しているわね……何かしら?
「——紫眼だ」
「——っ!」
——明らかにアイネが動揺している。
(少し調べた方が良さそうね——)
「えーっとさ、そのコってツルじいがケツ持つの? ウチらに生意気してきたらどうすんの?」
「好きにすればいい。何かあれば俺は協力することもあるだろうが、庇護下ってわけじゃない。いちいちファミリアが出たりはしない」
「そっか! りょーかいっ!」
エルザもたまにはいいとこ突くのね。
そんな奴とゲイルが邂逅すれば、必ず戦闘になるもの。
けど【六神盾】所属じゃないならフリーも同然……潰しても問題ない。
「〝白いキャプテンコート〟で〝狼〟……さしずめ、 【白狼】と言ったところでしょうか」
ルクレツィアがそう言うと、ハクツルは『ニッ』と笑い、アイネは俯いて拳を握りしめた。
「なんかかっこいいなそれぇー……!」
ミクスはそう言ったあと、なぜか『ぐぬぬ……』と悔しそうにしている。
そしてまたすぐに表情を変え、今度は楽しそうに言った。
「でもあれだな! 〝紫眼〟ならアイネとゲイルか~! こりゃ楽しみだな!」
——ミクスの言う通り、ここが重要なところね。
アーレウスは〝十字制〟、つまり——。
【一時代に同時に〝字〟を拝命できるのは十名まで】
であるということ。
現状全ての席が埋まっている中で、 〝風属性〟を持って生まれた〝紫眼〟の人間が〝字持ち〟になるには……【嵐王】もしくは【嵐槍】が崩御した状態で、この円卓の中央に嵌め込まれている〝国宝・字宝玉〟に触れなければならない——。
ただ単純に『一騎当千であること』が資格とされ、その判断は宝玉に委ねられ、認められればその人間に呼応した『字』が両手の甲に浮かび上がる……。
アイオーンの二人は『王』と『滅』。
気に喰わないけど、こいつらに関してはまさに読んで字の如くだし、それは間違いなさそう。
そして晴れて〝字持ち〟になれば、魔圧を圧縮して絞り出す体内の器官である〝魔門〟がまるで別物の様に進化し、常人とは比べ物にならない程の高出力になることに加え——。
【《唯一無二の奥義》を神から授かる】
——だったわね。
(やはり、この宝玉をなんとかしないと……もしくは——)
「——あ、そろそろいい時間ですね。では今回の【S級会合】は閉幕とします。お疲れ様でした」
ルクレツィアが締めの挨拶をすると、皆続々と席を立ち始めた。
「あー疲れた~! よーし帰りましょうかぁ!」
……はぁ。
どうせこの男は……また何にも聞いていなかったんでしょう?
あなたも一応副長のくせに、一切会話に入って来なかったものね。
とにかく——。
——その【白狼】がどんな人間かわからないけど、それだけ強いなら〝字持ち〟を殺りに来る可能性もあり……。
とすれば、ミクスの言っていたように狙われるのは必然的に『〝嵐〟の二人』になる。
(けど……ハクツルのあの余裕——)
アイネが危険に晒される可能性があるなら野放しにするわけがないし……話を聞く限り、そういった野心があるタイプの人間じゃないのかしら?
ゲイルもアイネも決して失えない駒……最近想定外が続いてるから、少し引っかかってしまうわね——。
まぁこの二人もダテに〝字持ち〟としてやってきたわけじゃない。
万に一つも、落とされることなんてないのだけど。
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