23話 仁王襲来~ギルティ! 断罪裁判~
————ピシャァァァン!
『ぎゃあああああああ!』
「「——っ!?」」
突然、皆の居る方から、大きな音と人の叫び声がした。
そして一瞬だが、何か光ったようにも見えた。
「なっ……! チャン! 今のは!?」
「わからない! 急ごう!」
(——くそっ! やっぱりあの時あそこを離れるべきじゃなかったか——!?)
一体何が起きてるんだ?
魔獣の襲撃か? 皆は無事なのか?
くそっ……くそっ!
(頼む……! 間に合ってくれ——!)
俺とチャンは全速力で走り、やがて茂みを抜けた。
——ザザッ!
「大丈夫か皆————」
開けた場所に出て目を凝らすと、そこには——————。
「だ、旦那……チャンさん——」
それは、地面の焚き火の明かりにうっすらと照らされていた。
「スターク!」
見慣れたアフロが横たわり、自慢のサングラスが少しズレている。
その横……暗くて良く見えないが——。
誰かが二人、腕を組んでスタークを見下ろすような形で仁王立ちしている。
「誰だお前ら!」
——二つのシルエットが、ユラリとこちらの方に身体を向けた。
俺はリベリオンに手を掛ける。
「チャン! 援護を頼む——」
「いや、アルカ……降参した方がいい——」
チャンは構えていた大楯を地面に下ろし、両手を上げた。
(この男にそこまで言わせるとは……まさか〝字持ち〟か!?)
どちらにせよ——。
「なんだと……? 見損なったぞチャン! 相手が誰であろうと関係ない! 仲間をやられてるんだ! 俺は戦うぞ——」
「へぇ~? なぁに? 誰と戦うって? 見損なったのはこっちよ!」
……ん? この声は——。
「アルカ様……酷いです——!」
……アテナとナツキ——か?
「ちょっと待て、一体どういう——」
「こっちが聞きたいわよ! 何? 若いコとイチャイチャしてたんですってぇ~? しかも半裸で? デカいの見つけたってそーゆーことだったの? やっぱおっきいのがお好きなわけ?」
一体何を言ってるんだこいつは……!?
とにかく、さっきのことを説明するしかない!
「いや魔獣は狩ったし、半裸は仕方ないだろ! 確かに女は居たが助けに入っただけで——」
「後ろから『ぎゅーっ!』と抱きしめることが? 必要なんですか? 私……アルカ様に喜んでもらいたくて、一生懸命……お料理——。うっ……。わああああん」
ち、ちくしょう! なんでこんなことに……!
またスタークが余計なことを言ったのか?
なんとか誤解を解かなければ——!
「ちょ……! それは弓の使い方を教えてただけで——そうだ! おつう! 見てただろ! 何とか言ってくれ!」
「そのおつうちゃんから聞いたんだけど?」
「……なん……だと——?」
少し離れたところでユリと手を繋いでいたおつうが、その手を離してこちらにとてとてと歩いてきた。
「見に行ったら、おにぃが〝ピンクレディー〟をぎゅーしてた。魔獣はいなかった。だから『ごはんだから早くいこ』ってコートを渡して戻ってきた。以上」
あっさりと告げた幼女はクルっと向こうを向き、そのままとてとてとユリの元に戻っていった。
おつうは……何も嘘を言っていない。
強いて言えば魔獣に関してだが……。
恐らく、おつうの出てきた場所が高台になっていたことに加え、その下の平地で既に力尽き横たわるゴブリンクロー。
そこにおつうの低い身長……様々な要素がこれでもかという程に上手く折り重なって——。
(おつうからすれば、逆に全体が把握しづらかったということか……!)
「旦那……すみま……せん——」
こうなったアテナは、簡単には話を聞かない。
さらにスタークのことだ、反論する隙などこれっぽっちも与えられなかったんだろう。
それは日ごろの扱いから容易に想像できる、多分お前も悪い。
とにかく、おつうの報告を聞いた二人に一方的に叩きのめされたに違いない。
「嘘だって言って欲しい……でも、おつうちゃんが嘘を吐くとも思えません! どうなんですか!? アルカ様!」
優しいナツキのことだ。
どちらを疑うこともできずに、一人苦しんでいるんだろう。
「どうなの? おつうちゃんが嘘を吐いてるっていうの?」
巫女様の異様にドスの効いた低い声が、俺に迫る。
恐らくこれが、反論する最後のチャンスだろう。
(くっ……チャン——!)
いつもの様にチャンに助けを求めたが、目を合わせたチャンは無言で首を横に振った。
そうか……。
もう、助からないんだな? 俺たちは————。
「いや……おつうは嘘を吐いていない」
——ギリィッ!
巫女様から凄まじい歯ぎしりが聞こえた。
だがすぐにその口角を『ニヤリ』と吊り上げ……アテナは不気味な笑みを浮かべる。
やはりもう間違いない、こいつは女神なんかじゃなかったんだ————。
「罪状認否よ! まずこのアフロはシャルム湖という場所柄に目を付け、 『見回り』と称して水着の女を探しに出た! 運良く発見するも、現状の戦力で落とせないと見るや一旦撤退し、挙句の果てに何も知らないアルに『魔獣狩り』と称して救援を要請し、結果その女をアルに斡旋した……異議は?」
「……ぐっ……。ち——」
「ないのね? じゃあ続けるわ」
——いや巫女よ、そいつはお前が思っている以上にダメージが入っているのと、雷撃で痺れて上手く口を動かせていないだけだ……。
そもそも、水着の女など発見できていない。
だが客観的に聞いていると、あまり事実と相違がなさそうに聞こえてしまうのが何とも不思議なところだ。
実際は大きく違うのだが。
「チャンさん。あなたはスタークと共謀し……いや、そこの証拠はないからわからない。けど、この二人を監督する立場でありながら……あなたが居ながら! 一緒に狩ろうって、何を? 何故こんなことになってしまったの!? こうして女のコが一人泣いている! そうでしょう!?」
「は、はい……すみません」
色々とツッコミどころはある……。
まず証拠がないのはスタークも同じだし、チャンについてはもはや罪状がはっきりしていない……とにかく純粋に魔獣を狩ろうとしていただけだ。
そしてナツキが泣いていることに焦点が当てられているが、泣かせたのは話をちゃんと聞かずに突っ走った自分なんじゃないのか……?
「異議はあるの?」
「えーっと……ない、です」
だが今から反論しても、この巫女が話を聞くとは思えない。
チャンも色々考えての決断なんだろう。
「そしてアル! あなたはスタークの陰謀に気づかずにホイホイと着いて行った挙句、断ろうと思えば断れた斡旋を受け入れ、言われるがままに口説き落とし……あろうことか半裸でその女性を後ろから抱き締めた! 迎えに来てくれたおつうちゃんと目が合っても離すことなく! それもぎゅーっと! 信じて待っていた私たちを裏切った! 最悪の形でね!」
確かに……二人が否定しなかった以上、この流れだと俺の罪はそういうことになってしまう。
だがやはり、ここは反論すべきなんじゃないか?
俺がどうとかの前に、この二人が可哀そうになってきた。
特にアフろんが。
「判決を言い渡す!」
「なっ……!」
俺には異議があるか聞かないの? なんで?
「三名とも有罪! 今日は夕飯抜き! そして今後は有事の場合を除いて、基本的に男性陣のみでの行動は禁止するものとする! 以上よ! さっ、ご飯にしましょ」
「アルカ様……。でも私、負けませんから!」
「わーい」
女性陣はそれぞれ、食卓に着いた。
俺とチャンはスタークのところへ駆け寄り、俺は横たわっているそれを抱き上げた。
「大丈夫か!?」
「ぐひっ……」
「ははは、仕方ない。日頃の行いだね。甘んじて受け入れよう。そもそも——」
チャン曰く、アテナの言っていることもあながち間違ってはいないらしい。
というのも、今日こうして『シャルム湖へ来たこと自体がスタークの陰謀』によるものであり、加えてその陰謀により『水着の件など、良いモノを見れたのは確か』とのこと。
そしてチャンとスタークは見つめ合うと、また謎の握手を熱く交わした。
「ははは。あとはまぁ……色々と、タイミングが悪かったということで」
——食事のいい匂いが立ち込め、女性陣の談笑が響き渡る。
そんな中、俺たちは三人並んで足を抱えて、湖畔に座って。
星空を眺め、水面に揺らめく月を見つめ——。
「——ぐがぁぁぁ」
「——スピー」
——どれくらい時間が経っただろう。
スタークもチャンも、気づけば寝てしまったようだ。
「アルカさん」
(——ん?)
声がした左後方に振り向くと、ユリが食事の乗ったお皿を持って立っていた。
月夜に揺らめく金髪のポニーテールが、キラキラ輝いて——。
夜なのに、少し眩しい。
「あのコたちも明日になれば忘れてるでしょうから。ほらこれ、食べてください」
辺りにはもう、他の女性陣の姿は見えない。
どうやらも彼女たちも、馬車でおやすみタイムのようだ。
「ありがとう。だが俺だけ食べるわけにはいかない」
「クスッ。そう言われるだろうな、とは思ってました。ここ、いいですか?」
俺が頷くと、ユリは隣に腰掛けた。
「おつうちゃんも、悪気はないんですよ」
「そんなことはわかっている。なんとも思っていない」
水面の月は相変わらず、ゆらゆらと揺れている——。
「ですよね。じゃあ今、私が何を考えているかは……わかりますか?」
急にグイっと俺の視界に現れたユリは、少し低い位置から俺の顔を覗き込んだ。
これは何度か……アテナやナツキから受けたことのある視線だ。
「……すまん、それはわからん」
少しムスッと頬を膨らませたユリが、また視界から外れた。
——その直後。
左肩にトンッと何かが乗っかった感覚があり、さらにグッと体重が掛かった。
……ユリがもたれかかってきている。
「じゃあ宿題です」
「………わかった」
しばらくその答えについて考えを巡らせていたところまでは覚えているが——————。
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「——ん……んん?」
気づいたら朝になっていた。
そのまま寝てしまっていたようだ。
「おっ、起きましたか! そろそろ朝飯ですぜ!」
その様子だと、あれだけ断罪されたスタークも許されたということか。
皆それぞれが、笑顔で動き回っている。
俺はとりあえず……この水着を履き替えるか——。
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