22話 桃色の髪の乙女~惨劇、その序章~
「〝リベリオン〟——、チャン!」
——紫光が漏れ出し、紫煙が立ち込める。
ゴブリンクローが女性に対して大きく振りかぶる。
側面からチャンが割って入り、大楯で爪を受け止めた。
「……ふぇっ? ——パンいち!?」
「ははは、驚かせてごめんね……! でも、ちょっと時間切れかな!」
俺はチャンが耐えている後ろから、魔獣目掛けて大きく飛び上がる。
「【双剣形態】——、 《舞風》!」
そのまま身体を回転させ、右から左に二本とも振り抜き、目を潰す。
——着地、そのまま踏み込み二歩で背後に回り、先程と同じように振り抜いて右足の膝裏を深く斬りつける。
『グオオオオォアアァ!』
ゴブリンクローは目を抑えながら呻き声を上げ、右膝からガクンッと崩れ落ちた。
両手を前に突き出しているスタークを見るに、どうやら準備は出来ているようだ。
「スターク! 止めとけ!」
「へい! 《泥人形固め》!」
——ボコボコォ!
スタークの足元に緑光の魔法陣が浮かび上がる。
やがてその前方の地面から湧いて出た二体の泥人形が、そのままゴブリンクローの両足をガシッと抱える形で固定した。
「ちょっとごめんよ」
「……へあっ!? ——またパンいち!」
俺は驚いた様子の彼女を抱きかかえて、魔獣から距離を取る。
——着地後、俺たちが出てきた高台まで走って、彼女を下ろした。
「あ、あの——っ」
「これは……やはり弓だな。斬ったり殴ったりするような武器じゃないぞ。矢は……持ってなさそうだな」
「えっ? 矢とはなんですか? それより、なんでパンいちなんですか!?」
——やはり知らないのか。
そしてこれはパンツではない……が、今はそんな問答をしている場合ではない。
俺は【双剣形態】を解除し、リベリオンを元の形に戻した。
向こうでは、二人がゴブリンクローを足止めしてくれている。
(『華を持たせる』となると……あれでいくか——)
天然娘が俺を見て、首を傾げている。
「本来はこういった使い方はしないんだが……まぁ要領は一緒だ、雰囲気だけでも味わってくれ。 〝リベリオン〟——、 【強襲狙撃形態】!」
リベリオンを魔獣に向けて一直線に構えると、持ち手の少し先から上面、下面、共にガパッと開き、まるで弓のような形に変形した。
「ひょえええ~! すごっ」
彼女の持っていた弓を、一度地面に置かせる。
改めて見ると……やはり相当な大きさだ。
「こっちへおいで。まずここを持つ、そしてここをこうして握って……もう一度前に構える。しっかり敵を視て……力を抜いて——」
俺は近づいて来た彼女を目の前で後ろ向きにし、そのまま両手の甲を掴んで弓を構えるような姿勢に誘導し、身体を重ねたままリベリオンを構えた。
そのまま集中して、リベリオンに魔力を流し込む。
「えっ、ちょっ、パン——は、はいっ!」
魔力量は——よし。
一発打ち込むだけなら、これぐらいで大丈夫だろう。
「もういいぞ! 二人とも離れろ!」
「了解! スターク!」
「ひええええ!」
バタバタッとスタークが横に逸れる。
それを確認したチャンも、大爪を押しのけて横に飛び退いた。
しっかりと狙いを定め、弾道を引く。
「今回はこのまま一緒に撃つけど……今度誰かにちゃんと教えてもらうんだぞ。——《風鳴》!」
「わっ、わわわわわっ!」
——ドンッ!
リベリオンの先端から、圧縮された風の魔力が超高速の光弾として射出され————ゴブリンクローの左胸を貫いた。
————キィィィィィン……。
少し遅れて耳をつんざく高音が鳴り渡り——。
その弾道には一筋の紫光の残像がうっすらと浮かび上がる。
やがてそれは数秒の後に、ふっつりと消え去った。
ゴブリンクローは少し悶えた後、断末魔の一つすら上げずにその場に倒れ、絶命した。
「あ、あばばばば! すす、凄い……!」
彼女がゴブリンクローとリベリオンを交互に見ながら口をパクパクしていると、向こうから二人が駆け寄ってきた。
「旦那! 相変わらずイカしてますね!」
「お疲れ様、アルカ。君も……一人でこんなところにいちゃ危ないよ」
「え……あ、はい! 助けて頂いてありがとうございました!」
彼女は俺と身体を重ねたまま、勢いよくチャンに頭を下げる。
だがまた勢いよくその頭を上げて、俺の顎を思い切り突き上げた。
「「あだっ!」」
危うく吹っ飛びそうになったが、彼女の両手を握ったままだったおかげで、なんとかグッと持ち直した。
(しかしこれは……ハクツルとの握手より痛い——)
ここ最近記憶にある中で、一番のダメージかもしれない。
「ひっ!」
変な声を上げた天然娘は、焦った様子でこちらに振り向いた。
そのまま透き通った蒼眼をクリクリさせながら、俺を見つめる。
「す、すみません! 大丈夫ですか!? それより皆さんなぜ——って、あれ? あんなところに幼女が——」
「いたたた……。その前に君は平気なのか——ん?」
彼女の視線を追いかけた先には、見慣れた幼女が立っている。
「おにぃ。ごはんだから早くいこ」
——バサァ。
おつうは俺の外套をこちらに投げると、クルっと反転して、来た道をとてとてと戻っていった。
(心配して様子を見に来てくれたのか?)
俺は彼女から手を離して外套を掴み、そのまま羽織る。
「おおー! かっこいいです! パンいちよりその方がいいですよ!」
そりゃそうだろう……いや、もういちいち答えるのも面倒くさい。
(チャン……あとは頼む——)
「ははは。君、名前は?」
いつも通り、俺の視線を感じ取ったチャンが割って入ってくれた。
「あ、はいっ! えーと……エリーチカと言います! 〝エリィ〟で大丈夫です!」
エリィは桃色の髪の毛を肘ぐらいまで伸ばしていて、左目と左耳の間に太めの三つ編みを一本結い下ろしている。
あまり見たことのない髪型だ。
「そっか。よろしくね、エリィ。隣の白いキャプテンコートがアルカで、そこの頭爆発してるのがスタークだよ。スタークは爆発ついでにおつうを追いかけてくれる?」
「何ついでですかそれぇ……。エリィさんよろしく! そしてさらば! 待っておつうちゃーん!」
チャンに言われるがままに、スタークはおつうの後を追いかけていった。
「わははっ。賑やかですなー! パンいち小隊!」
「ははは。エリィは一人かな? こんなところで何をしてたの?」
「えーっとですね、話せば長くなるんですが——」
「なら大丈夫だ。道中気をつけてな」
——ついつい話を切り上げてしまった。
だがもう充分だ、チャン。
皆待ってるし、早く戻ろう。
「のおおおぉ! 家出中です! 修行の旅です!」
「ははは、そうなんだ。お腹空いてない? これから夕飯だから、良かったら一緒にどう?」
聞いてあげているのか、流しているのか。
俺如き人生一人旅野郎では判断もつかないが、やはりチャンが凄いことは間違いない。
これからは〝仏のチャン〟に改名することを強く勧める。
お前が居れば、この先きっと誰も傷つかない。
【聖騎士】だからとか、そういった物理的なことだけじゃなく。
「嬉しいお誘いですが、大丈夫です! 修行中の身ですので! ではお二人とも、また何処かで!」
って、来ないんかーい……ま、いいけどな。
エリィは明るく別れを告げると、そのまま西の方へ走り去って行った。
「ははは……、不思議なコだったね。じゃあ俺たちも戻ろうか」
「そうだな……。何か疲れたよ——」
家出少女の弓殴り……。
天真爛漫と言えば聞こえはいいが……それと世間知らずとは、紙一重なのかもしれない——。
——こうして、家出娘と別れ、皆のところへ引き返す道中。
もうすっかり日も暮れて、夜の静けさが辺りを包んでいた。
「しかしあれ、凄かったね! 一撃だった」
チャンが少し興奮気味に話しかけてきた。
「あぁ、魔力の振り分けを〝威力〟に全振りしたからな。あのコが今後弓を使っていくんであれば、あの型が一番近いと思ってな」
「へぇ~! その言い方だと、連射とか追尾なんかも出来るの?」
「恐らく出来る……と思う。実戦で使えるかと言ったら話は別だが——」
一発で済まないことに加え追尾弾となると、ある程度のダメージを出すには少し時間がかかるだろう。
込めなければならない魔力の量が違い過ぎる。
「そうなの? まぁその時はまた俺が溜めを作るよ」
そうだ、俺一人でやったんじゃない。
二人が居てくれたから、出来た芸当だ。
「あぁ。頼もしいよ」
「ははは。でもある意味、さっきのコも凄かったね! 鍛えたら強くなるかも」
弓の使い方も知らないような女だったが、それでいてなぜか致命傷は避けることが出来ていた。
チャンが言っていたように、基礎魔圧が高いのか……或いは《強化付与》の魔法が得意なのか——。
「だがどうあれ、まだ戦場に出てきていいレベルじゃない。ましてや一人でなんて以ての外だ」
「ははは、まぁそれはそうだね。おっ、そろそろ着くね」
やっと着いたか。
皆の居る場所はもう目と鼻の先。
(腹も減ったし、さっきの女も何だか疲れたし……早く腰を下ろしたい——)
こうして、やっと皆の元へ戻れることになったのだが……。
この時の俺たちはまだ、この後目にする惨劇を……知る由もなかった————。
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