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21話 小さいことは正義~そのままの君でいて~

 シャルム湖に着いて数刻——。


 綺麗な夕焼けが水面を紅く照らし、何か哀愁(あいしゅう)のようなものを感じる。



 チャンとスタークは『見回りに行ってくる』とのことで出掛けて行ったまま、まだ帰ってこない。

 幼女は遊び疲れたのか、俺の膝の上で気持ち良さそうに寝ている。

 隣からは巫女の歯ぎしりが聞こえるが……腹でも痛いのか?

 

 ちなみに俺は、そろそろ脚が限界だ。

 

 さすがに痺れてきた。



「そろそろ出来ますよ~!」


「ありがとうナツキ。おつう、起きろ」


 ん~、美味そうな匂いがする。

 ナツキの飯がこうして毎日食べられるのは、本当に幸せなことだ。

 

 そしておつうはというと、全く起きる気配がない。


「おつうちゃん、ぐっすりですね。かわいい」


 声がしたので顔を上げると、中々起きないおつうの寝顔をユリが(のぞ)き込んでいた。


「あぁ。全く……呑気なもんだ」


 最初は水着を着ることにあれだけ抵抗を見せていたユリも、もうすっかり慣れたようで……いつもの優しい笑顔が見える。

 

(だがあまりそうやって(かが)んでいると、本当に(こぼ)れてしまうぞ——)


「ぐぬぬ……! ふんっ!」


 やはり巫女の様子がおかしい、今度はなにか(うな)っている。

 

(やはり……痛みと闘っているのか?)



「ユリさーん! ちょっと手伝ってくださーい!」


「はーい!」


 呼ばれたユリが、ナツキの方へと走っていく。



(……仕方ない、声を掛けてやるか)


「さっきからどうしたアテナ。様子がおかしいぞ?」


「なっ……! さっきからって、それはアルじゃん!」


 ——なんだ?

 俺の脚を気にしてくれてたのか?


 こいつめ、やっぱり優しいところもあるじゃないか。


「ん? あぁ、確かにかなり痺れてはいるが——」


「ちょっ、えっ? シビれてる……? そっ、そんなに——なの……」


 アテナの顔がさーっと青ざめたかと思うと、そのまま俺からゆっくりと視線を外し、(うつむ)いた。

 

 いや、そこまで心配するほどの痛みじゃないぞ?


「でも大丈夫だ。なんだかんだやっぱ可愛いし……()()()()は嫌いじゃないしな」


「えっ……! ほんと!?」


「そんな嘘吐いてどうする。むしろこれ以上大きくならないで欲しい。このままの関係を続けていきたいのであれば、な」


 おつうが大きくなりたいなら別だが、その時は膝の上(ここ)からは卒業してもらうことになる。

 このまま膝の上(ここ)で暮らしていくつもりなら、ここらで成長を止めて欲しい。



 でないと、俺の脚が()く。



「えー! 良かったぁ~。私、あんなにおっきくないから——。アルったら、なんだか今日ずっとユリさんの方見てるし……()()()()()が好きなのかなって。不安だったのです——」



 ……なんでユリ?

 どこから出てきた?


 巫女様の話は理解できないが、とりあえず俺の経験上……この甘ったるい声はアテナの機嫌がいい時にしか聞けなかったはずだ。

 


 ——これ以上追求するのは止めておこう。

 俺の疑問の解決なんていい、俺はアテナ(こいつ)の笑顔を優先する。

 


(なぜなら……面倒だからだ)



 余計なことはせず、このまま押し通らせてもらう。


「不安になることはないぞ。俺は——『旦那~!』


 おっ、ちょうど良いところに帰って来たなスターク。

 やはり、こと〝タイミング〟ということに関しては、お前の才能は疑う余地がない。

 

 おかげで余計なやり取りをしなくて済んだ。



「おーどうした? 今日もアフロが決まってるな」


「おっ、わかってますね~! 旦那もどうですか? 最先端の仲間入りしましょうよ!」


 いや、少しばかりの感謝の気持ちで心にもないことを言ってみただけだ。

 調子に乗るんじゃない、死んでもお断りだ。


「で、どうした? そんなに慌てて……ん? チャンがいないようだが」


「あっ、そうでした! 向こうに手応えありそうな魔獣(デカいの)がいたんでっさ! チャンさんが一緒に狩ろうって待ってますよ!」


 おっ、やっとお出ましか。


「なるほど。でもなぁ——」


 ここから男連中が一人も居なくなることに加え、膝にはおつう。


(うーん、どうしたものか——)


「行ってらっしゃい、アル。おつうちゃんは私に任せるのです! 何かあればなっちゃんに《遠隔伝心(テレパス)》してもらうのです」



 やはり、アテナは機嫌がいいらしい。


 ——そうだな、ナツキも居る。

 いざとなればこの巫女もまぁまぁ強いし、少しぐらいなら離れても大丈夫だろう。


「わかった、ありがとう。では行ってくる」


 おつうをゆっくりアテナに引き渡す。


 (そば)に立て掛けていたリベリオンを担いで、俺はスタークの後を着いて行った。




 ——森の中を少し走ると、木の陰から向こうの様子を伺うチャンを見つけた。



「チャンさん! 連れてきしたよ~! ……ってありゃあ——」


 二人の視線の先では、一人の女性が単体の大きな魔獣と戦闘中のようだ。

 

 向こうは平地で、そこから見るとこちらは若干高台になっているため、全体が把握し(やす)い。


 ここから見るに、魔獣は大体……一般的な二階建ての家ぐらいの大きさか。

 

 ゴブリンがそのまま大きくなったような感じだが、武器は持っていない。

 長く鋭い爪をぶんぶん振り回しながら、女性を追い回している。

 

(とりあえず……〝ゴブリンクロー〟と名付けよう)



「ははは。待ってる間に女のコが一人で突っ込んで行っちゃって……ハンターかな? 多分」


「なるほど、残念だが仕方ない。じゃあ戻るか」


「いやぁそれが……。どうしていいものか——」


 チャン何か含んだ様子で、向こうの戦闘に視線を戻した。


「むむむっ、ありゃ……カトルですね。それよりあのコ、ちょっと変じゃないですか? あれ……弓……ですよね?」


 カトル? また服のサイズか何かの話か?

 

 この距離からでもわかるのであれば、スタークはもしかしたら本当に凄い服職人なのかもしれない。


「なんだ二人して? ——なっ!」



 ——純粋に、驚いた。



(……俺の見間違いか——?)


 念のため、何度目を()らして見ても……あれは弓、紛れもなく弓だ。


 だがそれでいてどうして——そんな剣のような、はたまたハンマーのような使い方をする?

 

(そしてその弓は大き過ぎないか?)

 

 その体躯(たいく)と照らせば間違いなくアンバランスだし、男の俺でも上手く引けるかどうか——。


「えーっと……あれか? アーレウスにはああいった流派があるのか?」


「いや、ないと思う。少なくとも聞いたことはないね」


「色々試してるんですかね~? にしてももっと弱そうな魔獣でやればいいのに……」


 二人とも見たことのない戦い方のようだ。

 こんなのを見せられたら、そりゃお人好しのチャン先生じゃなくても不安になるだろう。


「あのコ……結構被弾してるけど、そんなにダメージを負ってる感じはないね。基礎魔圧(まあつ)が高いのかな? もう少しだけ様子を見てみようか——」


 確かに……これでもかというぐらい水魔法を連発してではあるが、ゴブリンクローの攻撃をなんとかいなしている。


(この分なら、そのうち倒せる可能性もある……のか?)


 チャンの提案に俺とスタークは(うなず)き、しばらく様子を見た。




 ————が、一向に決着が着く気配がない。

 

 そしてもはや誰の目で見てもわかるほどに、彼女が劣勢だ。

 大きく肩で息をし、足はもつれ——。


 これでは致命傷をもらうのも時間の問題だろう。



 そして恐らく、もう二人も悟っているはずだ。




(((このコは……闘い方を知らない——)))




「出ますか……?」


 スタークが袖を(まく)る。



「そうだな……。せっかくのナツキの手料理が冷めちまう」


 俺は背中に担いだリベリオンに手を掛ける。



「ははは……。なんとか上手く華だけ持たせてあげよう」


 大楯を構えたチャンが、深く踏み込む。



 二人の視線が、俺に集まる——。



(『合図を出せ』……ということか?)



 作戦は……まぁ流れでどうにかなるだろう。



「よし、行こう」



 ——ザザザッ!



 俺たちは茂みから一斉に飛び出し、眼前に広がる平地へ飛び降りた。


 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」


「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」


「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


 ブックマークも頂けますと、より一層励みになります。


 どうかよろしくお願い致します。

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