【S級部隊 3話】ターニャ:さらなる想定外~危機脱却の道筋~
「おーおー丁度いいじゃねぇか。俺も出るぞ! 【地壁】! テメーはまた終わったら相手してやるからよぉ……今日は大人しく帰っとけや!」
報告を受けたゲイルは振りかざした大剣を床に叩きつけ、ハクツルに怒声を浴びせた。
……そう、こうなるわよね。
ここまでストレスがかかった状態では、誰がなんと言おうとゲイルが大人しく本陣で待っているわけがない。
こんなわけのわからない状況なんて放っておいて、大義名分を引っ提げて暴れに行くに決まっている。
その小さな脳みそでも、それぐらいの損得勘定はしているみたいね。
そしてこの場合……このまま素直にハクツルが退いてくれれば、この場は一旦終わらせることが出来る。
(私が後で弁明に行けばいい、けど——)
この脳筋が前線に出ると、兵が死に過ぎる。
加えてこの調子では、いつも以上に私の作戦なんて聞かないでしょうね。
相手の出方次第では、下手をするといつもの数倍の兵を失う可能性だってあり得る。
——もはやどう転んでも詰んでいる。
とにかく今、この瞬間に、 『今期の会合では仕掛けられなくなった』ということだけははっきりしたわね。
ここからじゃもう、何をしても無理だわ。
とにかく今は、ハクツルを帰すしかない。
「ハクツル様、ここはどうかお引き取りになってください。 〝字持ち〟同士の争いが原因でハルメニアに侵攻を許したとなれば、ミクス様を筆頭に他の【六神盾】の面々にもお互い合わせる顔がありません故——。後日、私の方から直接そちらにお伺い致しますので。何卒」
「ウチはウチでしっかりやっている。俺個人の問題にしかならんのだ……。俺は……一向に構わんぞ!」
——ズアアアァッ!
(っ! もの凄い魔圧——!)
何とか取り繕って言葉を並べてみたものの……!
やはりそう簡単にはいかないみたい。
もはやこうなっては——。
「わかりました。それでは私がこのままファミリア管理区までご一緒致します。ご説明はそちらで。よろしいですね? ゲイル様」
どうせ今回は、私が居ても居なくても戦果は変わらない。
迎撃のことはゲイルとユージーンに任せて、私は私にしかできないことをするべきね。
それが最優先で、最善……のはず——。
「好きにしろ! 二日以内に戻らなければファミリアは消し炭になると思え! 行くぞユージーン!」
「了解です! ではターニャちゃん、頑張って」
ユージーンを連れて大広間を出て行くゲイルの背中を見送る。
彼が興奮状態で逆に良かったのかもしれない、私に対する追求は全くなかった。
(問題は————)
「これが……お前たちのやり方か」
二人きりになった、この大きな部屋の真ん中で。
声のした方にゆっくり振り返ると、このアーレウス最高戦力の一人が……それはもう今にも八つ裂きにせんばかりの形相で、私を睨みつけている。
なんとか……しなくては————。
「では参りましょう。ハクツル様」
「ふざけるな、今ここで話せ。茶番は終わりだ」
——やはり。
わかってはいたけど、考える時間もくれないってことね。
「では、アイオーンが関係していないのはおわかり頂けたということでよろしいですか?」
「いい加減回りくどい言い方はよせ!」
——ブワアアァッ!
さらに凄まじい魔圧……!
普通に呼吸をするのも苦しい……!
(【地壁】のハクツル……これほどなの!? あの時ですらこんなには——)
「し、失礼致しました。私たちは関係ありません。今回のことは、神に誓って一切関与しておりません」
「言葉は選べよ? 『関与していない』などと……どの口で言っている? 命令を下したかどうかは関係ない、現に大きな被害が出ている。もはやお前たちの存在そのものが信用ならん! 〝シヴァ〟はどこに居る!?」
(くっ——!)
本当に最悪の展開だわ。
「いえそれが……私が知りたいぐらいでして——」
「お前じゃ話にならん! 引きずってでも俺の目の前に連れて来い! そして今後二度と、それ以外のことで俺と関わろうとするな!」
ハクツルはそう言い放ち、出口の方へ歩き出した。
(ガリッ——!)
——ふいに出てしまった歯ぎしり。
その音が聞こえたのか、ハクツルは少しピクッとしたが……歩みを止める様子はない。
(どいつも——こいつも————!)
「——どうなさるおつもりですか?」
「あ゛ぁ? はっきり喋らんかい」
つい『ボソッ』と口を出た私の問いかけに、ハクツルはドスの効いた低い声と共にこちらに振り返る。
「その状態で彼と顔を合わせても殺し合いにしかなりませんよ? 会話にならないという点では、下手したらゲイル様より上ですので」
「俺がそれ以外を望んでいると思うのか?」
この男、完全に頭に血が上っている。
一見無害だから後回しにしていたけど……ここまで厄介だとはね。
——でも、そういうことならわかったわ。
あなたがそういう態度で来るなら、こちらも出方を変えるわね。
私だって、やられっぱなしは好きじゃないの。
「いえ、悲しむ方がいるのではないですか——」
——ドゴォン!
凄まじい音と共に、視界に鋭いものが一瞬にして現れ……私の目と鼻の先で急停止した。
視線を落とすと、床から鋭利な鉱石の刃がこちらに突き出ている。
(〝地〟の力……! けど、まだ退かないわよ——)
私はハクツルに視線を戻す。
「ではアイネ様がそれを望んでいるとでも? 今あなたとシヴァが争えば、アーレウスの【嵐槍】は壊れますよ」
「もう壊れてんだよ! だからその原因をぶち壊す! もうお前の嘘は聞き飽きた!」
「少し冷静になってください! あなたより強いアイネ様、それより強いシヴァ——」
——ドゴゴゴォン!
先ほどの攻撃魔法がさらに発動し、完全に四方を塞がれた。
「言葉を選べと言ったぞ? 女でも関係ないからな? 俺は」
「それは初耳でした。女性にはお優しい方なのかと……。ではやはり実力で劣られるのですね? アイネ様には」
「——ダメだ、もう終いだ。お前は俺を怒らせた」
ハクツルがゆっくりと近寄ってくる。
強いとか弱いとか、そういう話じゃない。
そんなことはわかっている。
〝この世でただ一人守りたい存在〟に、間違っても手を上げられるはずなんてないものね。
……ふふふ、本当にいいリアクション。
予想以上かも。
でももう——この辺でいいかしら。
これ以上は本当に危険だし、多少の気は済んだわ。
「少し出過ぎましたわ、申し訳ありません。ですが忘れないでください。私はアイネ様を救いたいのです。この気持ちだけは〝あの日〟からずっと変わっていない……。故に、アイネ様のお気持ち——〝お約束〟を、常に気にかけております。それはハクツル様も同じだと、信じております」
「遺言はそれだけか?」
「ええ。この命一つで私たちの疑いが晴れるなら本望です。どうかお二人の未来に、神のご加護があらんことを——」
私は瞳を閉じ、両手を合わせる。
「——ちぃっ!」
——ガラガラッ。
四方を囲む刃が、全て崩れ去った。
——そうでしょうね。
あなたは〝あの日〟以来、どれだけ探しても彼に逢うことはできなかった。
愛しの幼馴染を目の前でボロボロにされた、あの時以来、ね——。
そして万が一、シヴァを殺せたとしても、それは自身のエゴを満たすことに過ぎない。
それではかえって、アイネはあなたから離れてしまう。
それも、わかっているのでしょう?
ただただ、辛いわね。
(そしてだからこそ、あなたは……私に縋る他ない——)
「勘違いするな、アイネとの約束があるからだ。お前たちを信じたわけじゃない」
だからこれだけ煽られても、結局私に手を出せない——。
「ええ、わかっております。この御恩は必ずお返し致します」
【地壁】のハクツルともあろう男が、なんとも言えない顔をして。
そんなにプルプルと震えて……行き場のない怒り————ふふふっ、本当に可哀そう。
その気になれば、大抵のものはねじ伏せることのできる力があるというのに。
他でもないアイネのために作った難民保護区を襲撃されようと、ポッと出のゲイルに噛みつかれようと、こんな女一人にコケにされようと……〝あの約束〟がある限り、今は黙っているしかない。
アイネ・ルージュという『この世でただ一人無視できない存在』に縛られた、哀れな男。
(でもそれは同時に、この男が〝それ以外の全てを敵に回せる〟ことを意味する——)
思わぬ想定外だったけど、今日改めてそれが確認できたのは大きかった。
なんだかんだこれなら……心配することはなさそうね。
「次はないぞ。ゲイルにも伝えておけ」
「承知しております」
私が頭を下げると、ハクツルは再度背を向けて、大広間を後にした。
(——ふぅ、これで……一旦は大丈夫ね)
ハルメニアの迎撃は……敵軍一万に対して、アイオーンが今すぐ出せる兵が三万。
加えて〝字持ち〟が二人も出る。
さすがにあの脳筋二人の指揮でも、そこまで損害を出せるはずもないわね。
とりあえず今は、これからのことを考えるとしましょうか————。
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