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【S級部隊 2話】ターニャ:誤算の発生~崩れ始める計画~

 そろそろ……ゲイルとの約束の一週間が経ってしまう。

 依然として〝アイツ〟は捕まらない。


(やはり延期するしかないのかしら——)


 自室でそんなことを考えていると、コンコンとドアを叩く音がした。


「……どうぞ」


「失礼します」


 ゆっくりとドアが開き、伝令兵が入ってきた。


「お疲れ様です、ターニャ様。早急にお耳に入れたいことが」


 定期報告? それどころじゃないのよこっちは——。

 

 どうせいつも通り、たいした内容じゃないんでしょう?


「そう。手短にお願い」


「はっ。まず二日ほど前にファミリア管理区内の最南地区にて、中規模程度の戦闘があった模様でして」


 ——管理区内? しかも最南地区?

 あの辺りは国境から最も遠く、何よりあのハクツルお抱えの難民保護区がある。


 ファミリア内では……いえ、ベルブリッツの所轄を除けば、下手したら国内で一番安全と言ってもいい地域(エリア)のはず。


 そんなところで一体、何の騒ぎかしら?


「〝戦闘〟と言うからには、魔獣関係じゃないんでしょう? 内輪揉め?」


「それが……入って来た報告によると【魔獣使い(テイマー)】部隊の侵攻だったということでして——」


「——何ですって?」


 ……どういうこと?

 

 ウチは仕掛けてない……となると?

〝アイネ〟はないとして……〝ミクス〟なの?


 だとしても何故今?


「西から? 南から?」


「……」


 伝令兵が、何か言いづらそうに口をつぐんだ。


「どうしたの? あまり時間がないの。早くして」


「大変申し上げにくいのですが……()からのようで」


「——っ!」



 マズい——!

 ファミリア内部の内輪揉めでも【六神盾(ゼクスシールド)】同士の争いでもない!


(これって……まさか——!)


輪廻教(サンサーラ)の過激派の犯行の様です。理由は……いつものことかと」



 やってくれたわねあの馬鹿共! 一番デリケートな時期に!

 下手をすれば、全ての計画が白紙に戻ってしまう!


(ハクツルに直接弁明(べんめい)しなければ——)


 でも二日前……アイオーン本部(ここ)にも一刻の猶予もない!


「東からだとウチが疑われるわね。私が直接行って話を付けてくるわ」



 マズい。



 ——マズいマズいマズい!



 〝アイツ〟どころの話じゃなくなる!



「いえ……それが——」


「さっきから鬱陶(うっとう)しいわよ! 時間がないの! はっきりしなさいな!」


「は、はいっ! もういらっしゃってます!」


三下(さんした)じゃ話にならないの! 使者の相手は適当にしておいて!」


 早く……!

 一秒でも早く出発しないと——!


「いいえっ! ハクツル様がいらっしゃってます!」





(えっ————?)





「……は?」


「【地壁(ちへき)】のハクツル様がお一人で直接いらっしゃって、現在ゲイル様と会談中であります!」



 ————なんですって?



 ゲイルと? 何?

 会談って言ったの……?



(それだけは絶対ダメ————!)



「何で早くそれを言わないの! 後で覚悟しときなさい!」


「えっ……ええええぇ!?」


 ドアを抜けて、ゲイルの元へ走る。

 

 こんな風に全力で走るなんていつぶり?



 とにかくマズい、会談なんて笑わせないで。

 あの脳まで筋肉でできたような男じゃ……話し合いはおろか、間違いなく喧嘩にしかならない。


 ゲイルのことだから、いつそうなってもいいように大広間で接触するはず。


(急がくっちゃ——!) 




 どうしようどうしようどうしよう——。

 

 こんなことってあるの?

 この間まで全て上手くいってたのに?


 いつ? どこで? 何を間違えたの————?



(ここを曲がれば、大広間に着く——!)



 お願い、お願いだから勝手に話を始めな————。




 ドゴオォォン——!




 大広間の大扉が、通路に向かって吹き飛んで来た。


(遅かった——! もう始まってる!)

 

 別の通路からも、誰かが走ってくる。


(あれは……ユージーン!)


「副長! お願い! ボスを止めて!」


 助かった!

 第六師団[アイオーン]副長、 【地滅(ちめつ)】のユージーン。

字持ち(ネームド)〟同士の闘いに、今の私が入ってもどうにもならない——!

 

 こんな男に頼み事なんて……(しゃく)だけど、ここは頼らせてもらう他ない。


「ん~? そのままやらせとけばいいんじゃねぇのかぁ? 面白そうだからすっ飛んできただけだぞ? 俺は」


 (ちっ——!)


 考えてみれば……こいつにはまだ、()()()()()を伝えてない!

 この戦闘の重要性を理解できず、いつもの様に振舞(ふるま)うのは当然……まさかこれも、私のミスだっていうの——?


「いいから! お願い!」


「しゃーねーな~。そんなに持たねぇぞ!」


 ユージーンと私は、そのまま同時に大広間に流れ込んだ。


「すんませんボス! 《森樹断層(フォレストフォールト)》!」


 両手をかざしたユージーンがそう叫ぶと、ゲイルとハクツルの間に複数の大樹が突き出し、そのまま壁を作って二人を引き離した。


「何すんだコラァ! ユージーン! テメー覚悟は出来てんだろうなぁ!?」


 壁の向こうからゲイルの怒鳴り声が聞こえる。


「すんません! まぁちょっと落ち着いてください!」


 ユージーンには悪いが、最低限の仕事はしてくれた。



「——あ゛ぁ?」


 ハクツルがこちらに振り返る。

 当然の如く、鬼の形相。


 しかしこの男……本当に一人で来たというの!?

 ここがどこかわかって——。


(そんなことより——!)


 ハクツル(こいつ)は一旦後回し。


 私はゲイルの元へ走る。



「ゲイル様! どうなさったのですか!?」


「うるせぇな! こいつがいきなりカチ込んできやがったから、挨拶してやっただけだよ!」


 ゲイルが大剣を横薙ぎに振り抜く。

 

 ユージーンの作った壁は、まるで砂か土で出来ていたかのように一瞬で吹き飛んだ。


「あらぁ~、嘘ぉ~……」


 ここまで持たないとは……。

 覚悟していたとはいえ、流石にユージーンも(へこ)んでいるわね。


 ——やはり【嵐王(らんおう)】ゲイルは強い。

 どうあっても、それだけは認めざるを得ない。


(ハクツルは……)


 ——良かった。

 怪我をしている様子はないわね。

 

 こちらも同じく、 【地壁(ちへき)】の二つ名はダテじゃないみたい。



「カチ込みだぁ? カチ込んで来たのはそっちだろう? しかも難民保護区を狙うとは……飛んだ卑怯者だなぁ? あ゛ぁ?」


〝厄災〟が起きたあの日から、ハクツルが最優先にしてきた難民保護。

 いくら普段は温厚、且つ寛大(かんだい)なこの男でも……こうなるのも不思議じゃない。

 

 むしろこの事案以外にキレることがあるとすれば——()()()()しか思い浮かばない。

 そして()()は、今後の大きな()()になる。

 

(だから慎重に……機を見計らってきたというのに——!)


 とにかく想定外(イレギュラー)なところで、意図せず虎の尾を踏んだ馬鹿が居るのは間違いない!


「心中お察し致します! ですがアイオーン(ウチ)じゃないんです! どうか落ち着いて! 話を聞いてください!」


 私はゲイルとハクツルの間に立ち、大きく両手を広げる。

 

 とにかく話し合いにしないと始まらない。


「俺はなぜ東門から侵攻があったのか、()()()()がないか聞きにきただけだ。なのにいきなりこれじゃあ『最初から喧嘩するつもりでした』って言ってるようにしか聞こえねぇよなぁ?」



 そう……ファミリアの東に隣接するのはアイオーン(ウチ)の管理区!

 こうしてハクツルが疑うのも必然——。


「勘違いすんじゃねぇよ! 『どうでもいいけどいつでも潰せたんだぜ』ってわからせてやろうと思っただけだよ!」


 ——この脳筋では、こうなる。

 事前に何の予約(アポ)も取り付けず、いきなり自分の領域(テリトリー)にこうしてズカズカ入ってこられたんでは……これ以外の選択肢はない。

 

 恐らく〝ミクス〟でもない限り、相手が誰であろうと変わらない。


(だから……だから私が、いつも傍に居たと言うのに——!)



「————申し上げます!」



 一色触発のこの状況の中で、平気で入ってくる伝令兵。

 

 余程大事な用なのか、相当の馬鹿か——。

 後者ならこのまま消されるまであるわね。


「見てわかんねぇのかダボがぁ! 取り込み中だ!」


「まぁまぁボス! 落ち着いて! いいよ! どしたの?」


 大剣を振りかざすゲイルをユージーンがなだめ、伝令に報告を(うなが)した。


「国境戦線より伝達! ハルメニア軍の侵攻! 数1万です!」



(——なんてこと!? こんな時に……!)



 誤算が誤算を呼び、事態は最悪の方向へ動き始めた。


 読んで頂きありがとうございます。


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