表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/100

17話 新たな仲間~謎の依頼と紹介状~



 ガタッ——。



 ——沈黙を破ったのは、ハクツルが席を立つ音だった。


 視界に映る全員の視線が、その一点に注がれる。


「……信じられる男か? チャン」


 ハクツルの問い掛けに、チャンがゆっくりと顔を上げる。


「信じ……られる——」


 チャンの視線が、ハクツルと俺を行き来する。

 

 やがてチャンは下を向き、ギュッと唇を噛み締めた。

 やや震える肩の真下で、拳が強く握られている。


「……はい——っ!」


 ——かすれつつ、消え入りそうでもあった。

 だがそうありながらも、その声ははっきりと聞こえた。

 

 俺に向き直ったハクツルが、ニヤリと頬を釣り上げる。


「がっはっは! もう疲れたわ、本当に! ——やっぱり苦手だぜ、こういう堅苦しいのは」


 まるで糸が切れたように、ハクツルが大声で笑い出す。


「声でか。耳いたい」


 隣の幼女が、酷く顔をしかめている。


「くっ——、本当にな……耳鳴りがする」


 俺は握った手を離し、オレンジの頭を軽く撫でる。


「がっはっは! すまんすまん。——しかしたいした男だな、アルカ・キサラギ! 交渉成立だ」


 お構い無しに笑い上げたハクツルが、真っ直ぐ俺を見る。



「団長!」

「待ってください!」

「それでは面子が!」



 ——黙っていた部隊長連中が、次々と声を上げ始める。


「お前らなぁ……部隊の後ろ盾さえもなく、単騎で〝字持ち(ネームド)〟相手に喧嘩売れるのか? やれるならやってみろ! 〝【闇炎(エルザ)】〟のとこでも〝【嵐槍(アイネ)】〟のとこでも行ってこい! もちろん、ケツは取らないけどな。それで(スジ)通して生きて帰ってこれたんなら、金でも人材でも好きなようにくれてやる!」



「「……!」」



 ハクツルに一喝された外野が、綺麗さっぱり押し黙る。


「本当に面子を気にするんなら、ここで弾いた方が笑われるわ。——そんなこともわからんのか」


 ハクツルはそう言うと、どこか残念そうに天を仰いだ。

 そしてすぐ俺に向き直り、ズカズカと足を前に出す。

 

 向かい合った俺たちは、お互いをしっかりと見据える。


「気に入ったぞ、アルカ殿。一応聞くが、ファミリア(ウチ)に入るつもりはないか? 500……いや、1000だ! 一個大隊を預けてもいい」


「せっ、せんに——っ!」


 また何か言いかけたアテナが、その口に両手を当てた。


「いや、遠慮しておく。自由に動きたいんだ」


「あっ……うん、そうだよね——」


 ——隣の巫女は、何か考え込んでいるようだ。

 残念そうな、それでもいいような……何とも言えない表情(かお)をしている。


(つい、素直に答えてしまったが……相談した方が良かったか——?)


「がっはっは、言ってみただけだ。——チャンを頼む、いいヤツなんだ」


 何故か嬉しそうに笑ったハクツルが、すぐに真剣な表情(かお)に変わった。

 そしてその大きな手を、俺の眼の前にスッと差し出す。


(よろしく……ってことでいいんだよな——)


 俺も右手を前に出し、その手を軽く握り返す。


「あぁ……。いてて——っ!」


(なっ、なんて馬鹿力……!)


 ……まぁそれだけ、チャンに思い入れがあるってことか。

 確か()()()()()()()()が、昨日それを証明している。


 俺の手を離したハクツルが、チャンの方へと歩き出す。


「ほれ! ——元気でな」


 ハクツルはチャンに向けて、同様に手を差し出した。


「はい……! お世話になりました!」


 両手で握り返したチャンが、勢いよく頭を下げた。


(さすが【聖騎士(パラディン)】……硬いな)


 あの馬鹿力相手に、そんなに涼しい顔ができるとは。

 ……いやなるほど、さっきの俺を見たあとだったな。

 咄嗟(とっさ)に《強化付与(バフ)》でもかけたんだ、そうに違いない。

 


 ぐっ——。



 ——毎度の如く、右袖が下から引っ張られる。

 俺はそれに誘われるまま、視界を右下に移す。


「……すまん、待たせちまったな」


「ん。グッジョブ」


 白い歯を見せた幼女が、小さな親指をグッと突き立てる。


「こいつめ……ありがとな」


 俺は右手を握り、おつうの拳にくっつける。


「えへへ……ん」


 口を閉じたおつうが、視線で何かを訴える。

 俺はそれを追って、後ろに振り返る。


「ん? どうし——」


 ——確かに、あまり見られたくない姿だろう。

 ユリが皆に背を向けて、両手で顔を抑えている。

 小刻みに揺れるポニーテールが、震える肩に気づかせる。


(おつう……気にしてくれてたんだな——)


 俺はしゃがみ込み、幼女としっかり向かい合う。


「……俺たちだけの秘密だ、いいな?」


 俺は握り拳を解き、おつうに向けて小指を立てる。


「むっ……! らじゃ」


 幼女は小さく頷いて、ぴょこっと小指を突き出した。

 ひしっと繋がった指が、ブンブンと上下に振られる。


「で、アルカ殿。これから何処へ行くんだ?」


 ——ハクツルか。

 もうチャンとの別れは済んだのか?


「ん? ゼクスの都だが?」


「そうか、都へなぁ……そうかそうか」


「何だ? 何かあるのか?」


 俺は立ち上がり、迫る巨体に向き直る。


「いいや! 大したことじゃない、大したことじゃあないんだが……まぁな、こう……あれだ、うん。あれ」


(これは……絶対何かあるな——)


 ——とりあえず、その図体で上目遣いはやめてくれ。

 あとそうやって、モジモジするのも無しだ。

 まだ幼い子供には、その絵面は危険過ぎる。


「……」


 それを見たおつうが、冷たい眼をして絶句している。


(……ほら見ろ、やっぱり引いてるじゃないか——)


 ——俺はそっと、幼女の手を握り直した。


「ははは、何かお願いしたいことがあるみたい。聞いてあげてよ、アルカ」


 隣まで来たチャンが、穏やかに笑っている。


「い、いつもこうなのか……?」


「私的な用事の時はね。大抵のことは自分でやっちゃう人だから、申し訳なさが前面に出ちゃうみたい」


(くそっ……なんて面倒なヤツなんだ——)


 ——だが、人間性は(うかが)えた。

 どんなに偉くなっても、他人(ひと)(あご)で使うような奴ではないらしい。

 そんなハクツルあっての、チャンだったのかもしれない。


「こちらの頼みも聞いてもらったんだ。遠慮せず言ってくれ」


「おおそうか! かたじけない。では、先に降りて待っていてくれ! チャンはこっちに来い、預けたいものがある」


 ハクツルはそう言うと、そそくさと俺に背を向けた。


「すぐに行くよ、アルカ」


「あぁ、先に行ってる」


 チャンがハクツルの後を追い、二人は部屋を後にした。



「だそうだ、さっさと出ろ」

「……チッ」

「団長に感謝しろよ、小僧が」



 黙らされていた外野が、ここぞとばかりに喋り始める。


(あぁ……そういえば、まだ居たのか隊長連中(こいつら)——)


 ——突然、左腕がふわっと軽くなる。

 その直後、アテナがズイッと前に出た。


「はぁ〜? 感謝するのはそっち——」


 俺は空いた左手で、瞬時にアテナの口を塞ぐ。


「むー! むー!」


 (たけ)る巫女様が、俺の手の中で暴れている。


(気持ちはわかる……が、相手にするだけ時間の無駄だ)


「やめろ、もう用は済んだ。——行くぞ」


 俺はそのまま腕を引き、巫女をグイッと抱え込む。

 出口の方に反転したところで、俺はアテナを解放する。


「ぐぬぬ……! ふんっ!」



 グッ——!



 ——お怒りの巫女様が、俺の左袖を掴み直す。


「やめろ。千切れるだろ——」



 グッ……。



(……ん——?)


 気のせいだと思いたい……が、間違いない。

 間違いなく、後ろからも引っ張られている。


「おなつやめて。歩きづらい」


「なっ、なぁんでっ。おつうちゃんずるい」


 ——どうやら、犯人はメイドのようだ。

 まぁ……ずっと膝をつかせてしまったしな。

 揃いも揃って、足でも痺れたのかもしれない。


(……仕方ない、このまま引きずっていこう——)


「行くぞ、ユリ」


「えっ……あっ、はい!」


 ユリはこちらに背を向けたまま、ゴシゴシと顔を(ぬぐ)った。

 そして外野にサッと一礼し、足早に部屋を出ていった。



「ちょ……何なの二人とも!? アルが動きづらいでしょう!?」

「じゃあ巫女ちんが離れればいい。おなつも」

「い、や、で……すうぅ——!」



 恐らくこいつらは、ユリの涙に気づいていない。


(ユリからしたら、助かった……のかな——)


 ——そうだとしたら、無駄ではなかったんだろう。

 謎の論争に巻き込まれた、哀れな俺も。

 ただただ伸びていき、着れなくなりそうなこの服も。


「旦那……」


 出口に立つスタークが、こちらを見つめている。

 俺は三人を引きずりながら、何とか声を絞り出す。


「世話に……! なったな……! スターク——!」


 ——すれ違い様。



「じゃあね。次会う時までに、そのデリカシーの無さを何とかしときなさい。あと髪型」

「スタークさん……お元気で——」

「アフろん。グッバイ」



 別れ行く戦友(とも)に、それぞれのさよならが告げられる——。



「いえいえそ……んなああああああぁ!? 置いてくんですか旦那ぁ!? 女性陣(レディ)たちまでえええぇ!?」


「何? 一緒に来るのか?」


「そ、そんな……殺生(せっしょう)なぁ~!」


 半泣きのスタークが、あっちにこっちにと手を合わせる。


 自慢のアフロも、わっさわっさと揺れている。


「ははっ。——冗談だ、行こう」


「ひ、ひんっ……」



 ——そんなスタークを見て、皆笑った。



(しかし……冗談、か——)


 ただの一度も……想像したことすらなかった。

 誰かとこんな風に、笑い合える日が来るなんて。

 誰かがこうして、俺の傍に居るなんて。

 もしかして……夢なんじゃないのか?

 この眼に映る光景も。この耳に響く声も。

 そうだとしたら、生まれて初めてだ。

 醒めて欲しくない夢なんて、見た覚えがない。


(でも間違いなく、現実……なんだよな——)

 

 ——なら俺は、とにかく全力で(それ)を護ろう。

 やっと自分で選択して、掴み取った仲間なんだ。

 失うわけにはいかない……こうして笑っていてほしい。

 だから一日でも多く、一秒でも長く一緒に居よう。

 楽しい時も悲しい時も、幸せも苦しみも分かち合いたい。


 ……できれば最後、死んでしまうその時ですらも。

 こいつらに囲まれて()けたなら……『良いものだった』と、思えるのかもしれない。


 こんな呪われた、俺の人生も。


「ありがとな」


 ——俺を連れ出してくれて。


「ふふふっ。 んっ? 何か言った?」


 お前のおかげで、俺には現在(いま)未来(さき)がある。


「……いいや。何も」


 巫女はスタークを(いじ)りながら、ケラケラと笑っている。


「なによー! はっきりしてっ」


 頬を膨らませたアテナが、むすっと俺を覗き込む。


「その辺にしておいてやれ」


「はぁーい。——ふふっ」


 ……俺の礼など、聞こえていなかったようだ。


 それならそれでいい。




 ——やがて、本部出入口に辿り着いた。


 ユリとスタークは、馬車の辺りで出発の準備を。

 アテナとナツキは……何やら言い合いを。

 おつうは岩に腰掛けて、空をぽけーっと眺めている。


「おーおー、待たせてすまなかったな!」


 ほどなくして、チャンを連れたハクツルが現れた。

 先ほどの軽装とは打って変わって、どう見ても戦闘用の重装備だ。

 何処かに行くのか、立派な騎馬まで引いている。


「何だ? 前線にでも行くのか?」


「がっはっは。まぁそんなところだ」


(やはり団長ともなると、色々と忙しいんだな——)


「そうか。で、頼みとは何だ?」


「おう。急いでるとこ悪いんだが、ここからさらに北西の〝オルカスタ管理区〟へ向かってほしい。逢ってもらいたいヤツがいる」


〝オルカスタ〟……六つしかない【S級部隊】の一角だ。

六神盾(ゼクスシールド)】第四師団にして、アーレウス連合軍中央即応隊。

 そして、その頭領の名は——。


「……【嵐槍(らんそう)】、アイネ・ルージュか」


「話が早いな! アイネ(あれ)は俺たちと同じアズリア人()つ、俺の幼馴染だ」


「そうなのか? アズリア人とは初耳だ。しかし何故、俺が行くんだ?」


 それまで元気よく喋っていたハクツルが、少しだけ俯く。


「あいつは基本、友達と呼べる人間がいない。自分以外の人間を、滅多に信用しなくてな」


 ……なるほど、さすが団長といったところか。

 この短時間で、()()()()見抜くとはな——。


「そ、そうか。()()()()()、仲良くしろと——」


「似た者同士? だがまぁその通りだ。俺じゃない誰かで、アイネの()()()()()()()人間が欲しい。ずっと探してたんだ……そんな人間を。アルカ殿には、その可能性がある」




『私はあなたを知ってる。ずっとあなたを探してた』




(どこかで……聞いたようなセリフだな——)


 ——だが俺は、お察しの通りの独り者だ。

 加えてアイネ(むこう)もそうならば、なおさら見えてこないな。


「俺のどこに、その可能性がある? 残念だがそういったことには、これっぽっちも自信がな——」


「その辺のことは、チャンに大方言ってある。道中聞いといてくれ」


 返す俺を(さえぎ)って、ハクツルが親指をチャンに向ける。


(おいおい……大事なところだぞ——)


 俺は仕方なく、チャンの方を向いた。


「——え? うん、ははは……」


 ……どうした、チャン。

 何をそんなに引きつっているんだ?


 俺は諦めて、そっとハクツルに向き直る。


「不安でしかないんだが……」


「がっはっは、大丈夫だ。 〝紹介状〟は用意してある!」


 ハクツルはそう言うと、騎馬の(くら)に手を掛けた。

 そして垂れかけてある〝白い何か〟を、荒っぽく掴んだ。



 バサァッ——!



 ——ハクツルの振り向きざま。

 放られた()()が、空高く舞い上がる。


 俺は両手を広げ、落ちてくる〝白〟を手に取った。


(……ん? これは——)

 読んで頂きありがとうございます。


「面白い」 「続きが読みたい」


「まぁまぁかな」 「イマイチ」


 など、素直なお気持ちで構いませんので、下にある☆☆☆☆☆から評価をして頂けると幸いです。


 ブックマークも頂けますと、より一層励みになります。


 どうかよろしくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ