15話 特攻報酬の授与~お人好しの計略~
「本当に街の方は大丈夫なのか?」
「うん。前線の本隊に使者は送ってあるし、民間人は早い段階で逃がしてあるから」
念のため敵の増援を警戒し、俺とチャンは東門の外に残っていた。
他の皆は馬車で休んでいる。
「でも……本当にありがとう。アルカのおかげでなんとか被害を最小限に抑えることができたよ」
「何言ってんだ。チャンが一人で抑えたからだろ。俺が来なくても、そのうち本隊から増援も来てたろうに」
「ははは。それまで持ったかなぁ……」
——どこまでも謙虚な男だ。
守り切る自信があったのか、こうするしかなかったのか……。
なんにせよ、やり切ったことには変わりない。
もっと誇っていい。
采配と言っても、自分以外の兵のほとんどを避難誘導に当てただけではある……が、全体的なバランスを考えた時、どうしてもこの形が一番だったと言わざるを得ないのだ。
おかげで当の本人はボロボロだが。
「皆が来てくれた時、正直ちょっと泣きそうになったよ。生きてて良かった~って」
自分に対する増援としてではなく、仲間の安否についてとは……。
まったく、どこまでお人好しなんだ。
そしてどこまでも、チャンらしい。
身体は一つしかないんだ。
そして現状、安心して背中を預けられるような仲間もいない。
この区域を統括する13番隊隊長として、なるべく多くの命を守るための選択だったにしろ……きつすぎる。
優先順位を考えれば考えるほど、自分が一人になってしまうなんて。
(こんな孤独の形も、あるんだな——)
「お、来たか」
ファミリア管理区方面を見て、チャンが口を開いた。
視線の方に目をやると、 〝大樹に甲羅〟——。 [ファミリア]の隊旗。
どうやら本隊が到着したようだ。
「少し話してくる。アルカはちょっと待っててくれ」
「わかった」
チャンは使者の元に向かった。
——ぽすっ。
(……ん?)
チャンの姿を目で追っていると、膝の上に何かが乗っかったような感覚があった。
捻った身体を戻し確認すると……どこから現れたのか、オレンジの髪が夜風に揺れている。
「おにぃ、ちょー強いね」
俺の膝の上に忍び入ったおつうが、こちらを見上げる。
「そいつはどうも。休んでなくて大丈夫なのか?」
「今休んでる」
膝の上が落ち着く……ってことでいいのか?
(まったく……ナツキ以外にはほとんど懐かなかったのにな——)
理屈はわからないが、こんな俺でも……こうして、誰かの安らぎになれるのかな。
——うん、幼女は素直、本心なはずだ。
ここでの数日間を経て、きっと俺は少し成長したんだろう。
そうだ、そうに違いない。
そんなことを考えていると、チャンがこちらに戻ってきた。
「お待たせ! あとは本隊が引き継ぐことになったよ。俺たちはもう戻って大丈夫みたい」
「そうか。なら安心——」
——待てよ?
宿は巫女様が思い切り吹っ飛ばしちまった……。
いや、まぁ……指示したのは俺なんだが——。
とにかくこの場合、皆どこに戻るんだ?
「ただ……急いでるとこ申し訳ないんだけど、明日まで付き合ってもらえないかな? 一緒にファミリア本部に来て欲しいんだよね」
「ん? なぜだ? 軍人でもない俺が行ってどうする?」
「今回の報告に行くってのはもちろんそうなんだけど、お礼がしたいんだ。今回は多分、特功報酬が出る」
なるほど。
だが俺はそんなものが欲しくて戦ったわけじゃない。
むしろこれでもまだ、恩を返し切れていないような気すらする。
それにアテナも、先へ進みたいだろう。
「いや、ありがたいが俺は別に——」
「わかったわ。行きましょう」
……巫女さん?
あなたさっきまで『もう無理寝かせて』とか言ってぶっ倒れてませんでした?
そんなに清々しい表情でいきなり出てきちゃって……もう回復したの?
「決まりだね。今日はこのまま本部へ向かおう。本部で一泊して、団長と会うのは明日だよ」
まぁ何にせよ、アテナがそれでいいなら構わない。
俺たちは馬車に乗り、盛大にいびきをかいていたアフロを叩き起こして、東門を後にした。
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翌朝、ファミリア本部で一泊した俺たちは、当初の予定通り団長の元へ向かうことになった。
部屋まで迎えに来た使者に導かれるまま、隊舎内を移動する。
チャンの姿だけなかったが、どうやら先に行っているとのことだった。
「ひぃ~! 緊張するなぁ~。苦手なんだよな~、本隊の雰囲気は……」
奥に進むにつれて、アフろんの独り言が激しくなってきた。
女性陣はさほど緊張した様子もなく、皆落ち着いている。
やがて大きな扉の前に着いた。
使者がその扉を開くと、大きな広間の中に10名程の人間が立っていた。
「よく来てくれた」
中央の椅子に座っている男が口を開いた。
大柄な体躯に、短めの黒髪が凛々しい。
動物に例えるなら、間違いなく熊一択だ。
この男が【地壁】のハクツルで間違いないだろう。
両脇には5名ずつの男女が立っており、右端にチャンが居る。
(……なるほど、部隊長連中か)
「私はハクツル・ディン。アルカ・キサラギ殿で間違いないか?」
「あぁ、そうだ」
〝字持ち〟と直に会ったのはこれで三人目だが、やはりその辺のヤツとは格が違う。
【嵐王】や【地滅】もそうだったが、垂れ流している魔圧の量が桁違いだ。
(こいつは……強いな)
「今回の東門防衛戦については、本当に助かった。改めて礼を言う。本来なら隊長全員で迎えるところなのだが、現状国境と東門に一名ずつ配置していてね。すまない」
そんなことはどうでもいい。
だが一緒に戦ったチャンがそちら側にいるのはなぜだ?
とりあえずハクツルの話を聞いてみるか。
「では本題に入るが……13番隊隊長チャン・K・チャンドラ、及びアズリア保護区と東門警備隊の残存兵の報告に基づき、今回の戦功の査定及び報酬の内容を決定したので、受け取ってもらいたくお呼び立てした次第だ」
——やはり今回は部外者だけの授与なのか?
だがそうなるとなぜ……スタークとユリはこちら側にいる?
隊長じゃないからか?
さらにハクツルが続ける。
「まず民間居住区においての迅速な避難指示、避難誘導により無駄な戦闘を避け、民間人の被害を最小限に抑えたという戦果」
——チャンの判断もあったが、13番隊全員や最後まで踏ん張ったナツキの活躍があった。
その場に居たのが俺であったなら、ただただ敵を斬ることしかできなかっただろう。
「続いて、ごく限られた兵数での東門封鎖による、敵増援の侵入阻止行動についての戦果」
——これもチャンの決断や覚悟はもちろん、黙って言うことを聞いて、しかもやり切ったユリが偉いし、凄い。
俺ならその命令は聞けないが……そうすると作戦自体が別のものに変わっていたかもしれないし、思わぬ被害も出ていたかもしれない。
「最後に、東門外での戦闘においての撃破行動により、敵軍を撤退に追い込んだ戦果」
——おつうが気づかせてくれただけじゃなく、スタークが居なければ間に合わなかったかもしれない。
そして何より、それまで一人で耐えたチャンが居てこそだ。
「以上、大きくはこの三種の戦功とする。よって、 【六神盾】第五師団、 [ファミリア]団長の権限を行使し、 【地壁】のハクツルの名において、アルカ・キサラギには特功報酬として『報奨金1000万エーデル』を授与するものとする。異論がなければ膝をつかれよ」
「いっ、いっせんま——っ!」
左隣の巫女が何かを言いかけて、慌てて膝をついた。
その奥に居るユリ、スタークも膝をつく。
右隣では……話を理解していないのか幼女が立ったままだったが、手前に居たナツキが無理やり膝をつかせた。
1000万エーデル……それだけの金があれば、数年は遊んで暮らせるな。
周りの隊長たちは——興味が無さそうな奴もいれば、睨んでくる奴もいる。
まぁそりゃそうだ。
こんなどこぞの馬の骨とも知れぬ奴がいきなり現れて、大金を持っていくためだけにここに呼ばれたんであればな。
「どうした? 少なかったか?」
膝をつかない俺に、ハクツルが問いかけた。
「いや、チャン隊長や他の者には?」
俺がそう返すと、ハクツルの翠眼がピクっと動いた。
「査定の結果、今回の特功対象はアルカ殿一名のみだ。部隊所属の三名は四季賞与の増加、民間の三名はこちらの案内で良ければ安全な地にて当面の生活保障をつける」
——何を言ってるんだこいつは?
俺一人で成し得た戦果じゃないと言うのに。
チャンの方を見ると……なんだか嬉しそうにニコニコ笑っている。
——そうか、そういうことか。
図ったな? チャン・K・チャンドラ。
どうせまた自分のことは差し置いて、俺に都合が良くなるように話を持っていったんだろう。
お人好しもここまで来ると、流石に度が過ぎている。
——わかった。
そういうことなら、俺にも考えがある。
変わる時なんだ。
俺も、お前も————。
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