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第5話 勇者は惨劇を蔓延させる

 僕を前に騎士達が怯む。

 彼らの間で明確な恐怖が芽生えていた。

 油断が霧散し、僕を殺すための覚悟を固めている。

 仲間に隠れて魔術の詠唱を行う者もいた。


「うおおおおおおあああああっ!」


 雄叫びを上げた騎士が、槍による刺突を仕掛けてくる。

 恐怖でぶれているが、十分に鋭い一撃だった。

 兜の隙間から覗く双眸は、正義の心を映していた。


(そんなに僕を悪者にしたいのか)


 回避するのも煩わしく、僕は強引に接近する。

 喉元に槍が突き刺さって、勢いのままに抉っていく。

 息ができなくなり、口から血の泡が溢れてきた。


 喉を貫かれた僕は、それでも前へ踏み込もうとする。

 しかし、四方八方から迫る槍が行動を阻んできた。

 たくさんの穂先に穿たれる感覚を味わいながら、僕は盾で押さえ込まれる。


 顔を地面に打って鼻血が出た。

 あまりの重みに、全身の骨が軋んでいる。

 いや、何ヵ所かは既に折れているだろう。

 骨が皮膚を破る痛みがあった。

 何事かを叫び合う騎士達は、次々と僕の上に載っていく。


(拘束を優先し始めたか)


 悪くない案だが、完璧ではない。

 圧死しかねないような状況の中、僕は両手の武器を動かした。

 ナイフで目の前の騎士の首を切り裂き、金槌で別の騎士の兜を強打する。

 それを何度か繰り返すうちに、拘束が緩まってきた。


 僕は騎士達を跳ね除けながら立ち上がると、あちこちに刺さる槍をへし折った。

 血を吐き捨てて周囲を見回す。


 仲間の死体を前に、騎士達は露骨に距離を取っていた。

 視線だけが僕に殺到している。

 まるで怪物を見るかのような目だった。


 僕は肩の力を抜いて嘆息する。


(世界を救った人間に向けるものではないな)


 彼らからすれば、僕は真性の化け物なのだ。

 幾度も致命傷を受けても倒れず、怪力を以て殺してくる。

 まさしく人間の戦い方ではない。

 血染めの姿は、見る者に畏怖を与えるだけの迫力があるだろう。


(ひょっとして、僕に勇者らしい戦い方を期待しているのか?)


 僕は怪訝な心持ちで推測する。

 これだけ勇者を軽んじながらも、僕に英雄の側面を望むのか。

 もしこの考えが正しければ反吐が出そうだが、彼らの心情は分からないこともない。


 僕は血を滴らせながら踏み出す。

 一歩ずつ、ゆっくりと、死体を踏み越えて進む。

 化け物と思われてはいけない。

 なるべく笑顔を意識した。


「ひ、あああっ!?」


 その時、極度の緊張に負けた騎士が、背後から襲いかかってきた。

 不規則な踏み込みの音は、直前で足がもつれたせいか。

 散漫な殺気が、恐怖と混ざり合いながら迫る。


 振り下ろされた剣を、僕は振り向きもせずに弾いた。

 そして、手首と指の力で刃先の欠けたナイフを投擲する。


 後ろで金属のひしゃげる音がした。

 ナイフが兜を穿ち、騎士の頭を破壊したのだ。


 後ろで倒れる音を聞きつつ、僕は別の死体から折れた槍を拝借する。

 それを手の中で回してから、昏い眼差しで騎士達を見やった。


「これで、満足かい?」


 返答はない。

 騎士達は、ただ槍と盾を構えるばかりであった。

 そこに何らかの策は見られない。


 僕はため息を洩らすと、歩みを再開させた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >化け物と思われてはいけない。 >なるべく笑顔を意識した。 いや、もう手遅れです。元勇者どの。 「化け物」道を邁進するしかないかと。 あと、感想欄で他の人が「戦いが勇者らしくない」…
[良い点] 闇落ちした勇者が、敢えて化け物と気狂いと罵る者達の言うような戦い方をするシニカルな戦闘シーン。善良で模範となる勇者との決別をこの冒頭からの戦闘で示しているような気がしてダークファンタジーと…
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