第4話 勇者は騎士に襲いかかる
僕の接近を受けて、トーマスが後列へと去る。
騎士の一人が号令を発すると、彼らの後方から火球と雷撃が放たれた。
山なりに飛来するそれらは、空を覆い尽くさんばかりの密度だ。
向こうには魔術師の部隊がいるらしい。
思ったよりも実戦的な構成だ。
トーマスの見栄だけではない。
補佐官か誰かが、勇者である僕を警戒して、堅実に仕留められるように連れてきたのだろう。
魔術の雨は、広範囲を耕すように降ってくる。
回避をさせないための工夫だ。
防御を強いることでその場に留めて、一方的に消耗させる魂胆だろう。
やはり僕を本気で殺すための作戦であった。
トーマスは騎士の間からこちらを見ている。
そこに嗜虐的な色を見た。
僕の死を想像して喜んでいるのだろう。
彼は形ばかりの指揮官だ。
作戦立案にはきっと携わっていない。
部下の騎士に任せて、手柄だけを横取りするに違いない。
(そんなことはどうでもいい)
走りながら首を振る。
僕には関係のない話だった。
どういった事情であれ、やることは変わらない。
見当違いなことをする彼らを抹殺する。
この人数だと、村の共同墓地をまた拡張しないといけない。
その時はエマとマリーにも手伝ってもらおう。
迫る魔術に対し、僕は臆せずに直進を選んだ。
彼らを殺すには近付くしかなかった。
間も無く魔術が一帯に炸裂する。
火球と雷撃が僕の身体を蹂躙していった。
顔面が高熱に晒される。
感電した片腕の痺れが、胴から足先へと迸った。
肉の焦げる臭いと共に右の眼球が破裂する。
熱い液体が、どろどろと流れ落ちる感触がした。
傷口から黒煙を噴きながらも、僕は大地を蹴って加速する。
金槌とナイフを放さず、焼けた唇で笑みを作った。
噛み締めた歯の割れる音がした。
騎士達が動揺と恐怖を見せる。
焦りによるものか、追加で矢と魔術が飛んできた。
しかし狙いがひどく散発的だ。
何度か命中するも、僕の動きを阻害するものではなかった。
騎士団との距離を一気に詰めていく。
トーマスはさらに後列へと逃げていた。
僕の位置からでは姿が見えなくなってしまう。
やはり戦いに慣れていないらしい。
もちろん逃がすつもりはない。
騎士達を片付けて、早く後を追わなければ。
騎士達が盾を構えて立ちはだかってきた。
突撃を妨害し、盾の向こうから槍で串刺しにするつもりのようだ。
(上等だ)
盾の密集する地帯へ僕は跳びかかる。
振るかぶった金槌を叩き込むと、盾が大きく陥没した。
持ち手の騎士が声を上げて倒れたので、そこに容赦なく着地する。
僕は騎士の兜の下にナイフを滑り込ませて、力任せに動かした。
肉と骨を断つ手応えが返ってくる。
頭を痙攣させる騎士は、血を垂らしながら生き絶えた。
引っかかったナイフを引き抜いて、僕はゆっくりと立ち上がる。