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元勇者の墓守は理想の死園を築き上げる  作者: 結城 からく


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第16話 勇者は今後を想う

(次に本気を出すとすれば、相手は誰になるのだろう……)


 僕は疑問に思う。

 この世界に魔王はもういない。

 各地に残る魔王軍の残党も、このような辺境には来ないだろう。

 報復を企む者がいそうなものだが、一度も遭遇したことがなかった。

 魔王を倒した僕には敵わないと考えているのか。


 実際、今の僕なら単独でも魔族を討伐可能だろう。

 たとえ幹部級だろうと難なく殺せる。

 最も強くなったのが魔王討伐後とは、なんとも皮肉な話である。


 勇者の名をさらに広げるのなら、やはり魔族の殲滅も視野に入れるべきだろうか。

 三年越しに僕も少し成長した。

 新たな目的が定まって、思考も明瞭となってきた。

 拠点の構築が安定してきたら、魔族殲滅の旅をしてもいいかもしれない。


 しかし、その前に人間との戦いが先だ。

 領主の派遣した軍を殲滅したことで、向こうには相当な損害が出ているに違いない。

 今のところは音沙汰もないが、いずれ何らかの報復を仕掛けてくるはずだ。

 それまでに色々と準備を進めなくてはならない。


 今後について思案する僕は遠くを望む。

 村の外れで、トーマスがシャベルで土を掘っていた。

 騎士の死体を埋める場所を作っているのだ。

 何度か脱走しようとしたが失敗に終わり、現在では真面目に作業している。


 それを確かめた僕はマリーに声をかけた。


「トーマスを呼んできてくれ。皆で昼食にしよう」


「うん、分かった!」


 マリーは嬉々として頷くと、作業をするトーマスのもとへ駆けていった。

 彼女は魔力の反応で個人を特定できるようになり、盲目でも遠くの人間を把握できるようになった。

 僕はそこまで教えていないのに、この短期間で感知能力まで備えてしまったのだ。

 マリーの魔術の才能は想像以上であった。


 その場に残るエマがトーマスを一瞥すると、僕の手の甲に文字を書いた。


『彼、衰弱しているけれど』


「知っているよ」


 少し前からトーマスの動きに力がない。

 ふらつきながらシャベルを動かしていた。

 時々、倒れている姿も見られる。

 意識が朦朧としているのだろう。


 食事は欠かしていないし、病を患っているわけではない。

 休みもそれなりに取らせている。

 おそらくは精神的な部分が要因だ。

 極限状態が続くせいで、心身が摩耗したに違いない。


「…………」


 僕は無言でトーマスを観察する。

 駆け寄ってきたマリーに驚いているが、昼食と聞いて少し嬉しそうだった。

 シャベルを置いた彼は、マリーと共にこちらにやってくる。


 僕は遠くの二人に聞こえない声でエマに告げる。


「もうすぐ埋葬が終わる。それまで辛抱してもらおう」

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