第13話 勇者は新たに決意する
エマは息を吐いて気を取り直すと、僕の手の甲を掴んだ。
そこに意思を表明する。
『私は村に残る』
「理由は?」
『あなたの最期が気になる。だからつまらない死に方はしないで』
それを伝えられた僕は、思わず笑ってしまった。
優しいことでも言ってくれるのかと思いきや、まったくそのような内容ではなかった。
あまりにも冷めた動機である。
若干の呆れを含ませた口調で、僕はエマに言葉を返す。
「辛辣な冗談だね」
『本気よ』
エマがしっかりも頷く。
その双眸から、彼女の内心が一部ながらも感じられた。
僕を慰めようとする一方で、自らの方針を決めたようだった。
どこが心の琴線に触れたかは定かではないが、僕との会話で気持ちを固めたらしい。
話し合いでは意見を覆そうにない。
エマの目を見れば明らかだった。
僕は脱力して苦笑いを浮かべる。
真面目にやり取りするのも疲れてしまった。
とは言え、やられっぱなしなのも納得がいかない。
僕はエマに向けて軽い嫌味を述べる。
「趣味が悪いな。感性を正した方がいい」
『あなたに言われたくない』
「はは、言い返せないよ」
彼女の指摘の通りだった。
感性が歪んでいるのは僕の方である。
普段の姿からは想像もつかなかったが、エマは言葉での喧嘩に強いようだ。
僕では到底敵わないことが分かった。
(まったく、面白いな……)
自然と笑みがこぼれる。
なんだか悩むのも馬鹿らしくなってしまった。
こんな風に笑えるのも久しぶりだ。
そもそも、誰かと言い争う機会なんてなかった。
気狂い勇者だと罵られたところで、何も心に響かない。
大して興味がなかったし、言い返す気にはならなかった。
こんな僕にも人間性は残っていたらしい。
エマとマリーは村から旅立たせるつもりだったが、諦めるしかない。
これからも一緒に暮らすことになるだろう。
彼女達が自立したいと言い出した時は、笑顔で送り出せばいい。
(過去に囚われるばかりでは進めない)
完全に克服するにはまだ時間がかかりそうだが、エマとの問答によってようやく前を向くことができた。
これは大きな進歩である。
今までは決してできなかったことだ。
もっとも、過去を捨てるわけではない。
この先へ進むための戒めとして、胸に刻んでいくつもりである。
今までの僕は、三年前の出来事が枷になっていた。
それでは仲間達も浮かばれない。
彼らもこんな僕を見たくなかったはずだ。
この村を、僕達の新たな故郷にしようと思う。
もう居場所なんて作らないと考えていたが、こうなったら前言撤回だ。
やると決めたら投げ出さない。
魔王討伐と同じだ。
一度は世界を救ったのだから、故郷を作ることだってできる。
ここに誰にも邪魔されない理想の楽園を築くのだ。
(いや、死体だらけの土地に"楽園"は違和感があるな)
僕は考え直す。
夜空を見上げながら思案し、そして適切な表現を閃いた。
「――死園。そう、死園だ」
死体だらけの楽園だから死園。
安直だが納得のいく由来だろう。
それくらいの方が相応しい。
僕はこの世界を平和にできない。
しかし、できることは確かに存在する。
ここに不朽の地を築く。
それこそが、魔王殺しの英雄の名を知らしめることになるのではないか。
誰かの居場所になって、仲間の功績を永遠のものにできる。
良いことしかない。
それが、生き残った僕の真なる使命ではないかと思う。




