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聖なる森と月の乙女  作者: 小春日和
忘却の空と追憶の月
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更新を待っていて下さった方、ありがとうございます(*^^*)

誤字脱字指摘もありがとうございました。

「くそ!小癪な真似を!」


「っ!」


リンゲル国王が苛立たしそうに歯軋りをすると同時に、私の首元に当てられている剣がさらに皮膚に食い込み、温かいものが皮膚を伝う。


「ティア!」


アルフレッドの焦ったように私の名前を叫ぶが、痛みと恐怖でそれに答える余裕は、もう私にはなかった。


「ーーーっ、貴様!」


アルフレッドの声に怒りが含まれ、一気にその場の空気を支配する。


「な、なんだ!?」


リンゲル国王が恐怖にひきつった声を上げながら、私を盾にするように引き寄せる。

必然的に顔を上げられ、私は真っ直ぐアルフレッドを見つめる形となった。


「ア、ル…?」


私の目に映ったアルフレッドは、その表情から一切の感情を消していた。

そして、そんなアルフレッドの周りだけ陽炎のように揺らめき、いつも優しく暖かみのある緑の瞳は金色に煌めいていた。

そのいつもと様子の違うアルフレッドの様子に、不安になって彼の名前を呼ぶ。


その直後、カラン、という音とともに、首元の剣の感覚が遠退き、束縛されていた体が前に投げ出される。

振り返ると、リンゲル国王が床の上をのたうち回っていた。


「ぐっ…あ、ああぁぁぁ熱い!熱いぃ!」


獣の咆哮のような声を上げながら、そう叫ぶリンゲル国王を茫然と彼を見つめる私を、いつの間にか側に来ていたアルフレッドが包み込むように抱き締め、リンゲル国王から引き離す。

私は恐怖に固まる体を必死に動かし、すがり付くようにアルフレッドに身を寄せた。


私たちが見つめるその先で、リンゲル国王の体からまるで干からびるかのようにどんどん水分が抜け、ミイラのように変化していくのを固唾を飲んで見届けた。

カラリ、と小さい音を立ててリンゲル国王だったものが動かなくなった。


その凄惨な様子とこれまで続いていた極度の緊張に堪えられなくなった私の意識は、一瞬にして遠退いていった。


ーーー


さわさわと心地よい風が頬を撫でる。

緑の濃い匂いに誘われるように、ふと目を開ける。


「あ、目が覚めた」


安堵したような声が聞こえ、そちらに視線を向けると私のではない銀色の髪がさらりと風に靡くのが見えた。


「セレーネ様…?」


ゆっくり身を起こして周りを見渡すと、そこは以前夢で見た聖なる森であった。


「大変だったわね、色々と」


労るような微笑みを浮かべながら、セレーネ様がさらりと私の首元をなぞった。

そこは、剣で傷が付いた場所だったが、触れられても痛くもなんともなく、セレーネ様の手が私の血で汚れることもなかった。


「あ、夢だからか…」


一人納得して呟く私に、セレーネ様は緩く頭を振ると僅かに苦笑を浮かべて私を見つめる。


「肉体の方も傷はもう治っているはずよ。生命を育む力であの子が一瞬にして傷を消していたから」


「あの子…?」


セレーネ様が親しげにいう人物に想像がつかず、私は首を傾げる。


その様子に口元に手を当て、くすくすと笑うセレーネ様はとても愛らしかった。


「あの子っていうのはね、あなたの太陽神よ。アルフレッドと言ったかしら」


「…え?」


アルフレッドが?

私の傷を消した?

生命を育む力で?

なにそれ?


「ティアリーゼ」


与えられた情報量が少なすぎて混乱する私の名前を、また別の声が呼んだ。


「アル…?」


顔を上げた私の前に佇んでいたのは、金色の髪に金色の瞳をしたアルフレッドだった。


「いや、私はお前のアルフレッドではない。

私はそこにいるセレーネの夫、お前たちの言う太陽神だ」


「太陽神様…?アルにそっくり…」


茫然と呟く私に、太陽神様は苦笑を浮かべると、そうだろうな、と短く呟いた。


「あれは先祖返りで私の力を濃く受け継いでいる。

だから、そなたの傷を癒すことができたのだ」


「先祖返り…」


「そなたを襲った男が干からびたであろう?

あれも我から継いだ力。

灼熱の太陽の熱で、内からあやつの身を焼いたのだ」


「あれも、アルの、力…」


茫然と太陽神様の言葉を繰り返す私を、セレーネ様が労るようにその腕に包み込んだ。


「余程、あなたを傷つけたことが許せなかったのでしょうね。

あの子の力の使い方は、あなた次第で善にもなり悪にもなり得るということよ。

それを肝に命じて、よく考えて行動しなさい」


それを伝えたくてここに呼んだのだと、セレーネ様は真剣な表情で私に告げた。


「でも、アルは私のことを忘れているはずで…」


不安に揺れる私の瞳を、セレーネ様は優しく見つめ返す。


「それは、目覚めてからちゃんと確認しなさいな」


そうセレーネ様が言い終わらないうちに、視界が白くボヤけていく。


「そうそう、暗闇であなたが光ったでしょう?

あれはね、あなたが彼の月の乙女だという証よ。

月は太陽の光を反射して輝くの。

それと一緒」


あの子をよろしくね、とセレーネ様の優しい声に心の中で頷いた。

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