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聖なる森と月の乙女  作者: 小春日和
聖なる森と月の乙女
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皇太子殿下と銀色の宝物②

長々と続いた貴族たちからのお祝いが終わった後は、貴族令嬢たちを相手にしたダンスパーティーだ。

貴族令嬢と言っても、下は3歳、上は10歳と年齢層もなかなか広く、その全員とダンスをしなければならないことを考えると、これからが本当の地獄であった。

そして、貴族としての教育を受けているとはいえ、いかんせん幼い令嬢たち。そして、第一王子の心を手に入れろ、愛らしいお前ならできると、親に煽られた令嬢たちの猛突は想像を遥かに超えていた。


「ちょっと今は私の番ですのよ!邪魔しないで!」

「さっきからずっと踊ってらっしゃるじゃないですか!早くどきなさいよ!」

「いいえ!次は私の番よ!あなたたちは引っ込んでいなさい!」

「殿下のお側にいる権利を掴むのは私ですわ!その汚らわしい手をどけなさい!」

「ねえ殿下?殿下はわたくしと踊りたいですわよね?」


耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言や権利欲の塊のような発言に思考が停止する。

四方八方から令嬢たちが押し寄せ、押し合い圧し合いでもう身動きが取れない。

更に、令嬢たちが念入りに振りかけてきた香水が、強烈な匂いになり令嬢たちの熱気と相まってむわっと押し寄せてくる。


だ、駄目だ…もう吐きそうだ!!!!


何とか令嬢たちの隙間を縫って輪の外へ這い出した私は、安寧の場所を求めて自分に与えられた温室へと向かった。

女という生き物への思いつく限りの罵倒を頭の中で繰り返しながら。


ーーーーーーーー


温室の扉を開くと、キラキラと銀色に輝く何かを見つけた。

気分の悪さで追求することもできず、力尽きたように温室のテーブルに体を預ける。


「あなた、だあれ?」


銀色の何かが驚いたように振り向く気配があるが、私は込み上げてくる吐き気を抑えるのに精一杯で、お前こそ誰だ、とか、ここは私の私有地だぞ、とか、諸々問題は大ありだったが、生憎と本気でそれどころではなかった。


「ひどい汗。お顔も真っ白。気分が悪いの?」


銀色の何かはオロオロと私の周りを右往左往したあとに、あ!と声を上げて、私の傍を離れた。

そして数分後、私の顔に冷たくひんやりとしたタオルが掛けられた。

そのタオルからは令嬢たちのキツい香水とはかけ離れた清涼感が仄かに香り、気持ちの悪さを徐々にすっきりさせていく。

その感覚が心地よく、回復するまでしばらくそのままタオルを掛け続けた。


「おにいちゃん、どう?少しは気分悪いのよくなった?」


暫く経ってから、おずおずといったように小さい女の子の声が隣から聞こえてきた。

大分吐き気が良くなった私は、口許にタオルを当て、仄かな香りを感じながらその隣の存在へ目を向けた。


そこには銀色の髪に、空のように真っ青な瞳を心配そうに細める可愛らしい女の子がいた。


「ああ、大分楽になった。礼を言う。ところで、これは君のタオルか?」


私の体調が回復したことにホッとしたように頬を緩めると、彼女は嬉しそうに頷いた。


「そうよ。わたし、ちゃんとお母様の言いつけ通り、タオルを持っていたの!」


偉いでしょ?と褒美をねだるように言うその姿が愛らしく、他人に対してそのような感情を覚えたことに自分でも軽く驚いた。


「そうか、母君の言いつけを守って偉いな。この香りも君のタオルの香りなのか?とても爽やかな心地になるな。」

「えへへ。ううん、その香りはここの花壇にあった薬草の香りだよ。おうちのお庭にもあって、いい匂いだからよくお外に匂いに行くの。でも、お母様に見つかったらはしたないって怒られるから、おにいちゃん、秘密にしてね。」

イタズラっぽく共犯を求める姿に苦笑しつつ、了承の意を伝える。


「それから、ここ、おにいちゃんのお庭?さっき勝手にお水使っちゃったの。それから匂いを出すために薬草も勝手にたくさん千切っちゃった。ごめんなさい。」


さっきの表情とは一転して、落ち込んだようにこちらを窺う彼女。

そのコロコロ変わる表情が面白くて、くすくすと笑い声が出てしまう。


「構わないよ。私を心配してしてくれたことだろう?それに、私も最近ここを賜ったばかりだから、ここで何が育っているのか知らないんだ。君が良かったら、今度ここの草花を一緒に調べてみないかい?」


自分で言った言葉に自分でも驚いた。

でも、ここで折角出会えたこの少女と疎遠になるのも勿体ないと思ったことも事実で、確かにここの草花を調べるという名目で、彼女をここに呼び出すことができれば、それはとてもいい思いつきだと思った。


「本当?いいの?私、次来るときは必ず図鑑を持ってくるわ!」


パアッと表情を明るくした彼女は、私の手を取り、満面の笑みで言った。


「私、ティアリーゼ!ティアリーゼ・セレニティアって言うの。おにいちゃん、よろしくね!」


私が銀色の宝物を見つけた、記念すべき1日である。

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