公爵令嬢と事の真相
いつも誤字修正ありがとうございます。
助かっています。
「神官だっただけあって、各国の神書には結構精通しているんですよ。
中でも特殊な能力を持つ月の乙女には、大層興味が引かれましてね。
まさか、本当に会えるとは思っていませんでしたが」
「…、なぜリーゼが月の乙女だと?」
ニコニコと話すルナベルト様に、お兄様が思案顔で問い掛ける。
「なぜなら、癒しと退魔の能力があること、術の発動を何らかの方法で感知できるのは、歴代の月の乙女が共通して有していた能力だからです。
それに加えて、これはこちらの国の神書を研究して分かったことですが、昨日ティアリーゼ様が行った魂を浄化させる能力は、月の導きと言って、初代月の乙女が有していた能力でした。
これまでの記録では、その能力を持った月の乙女がいなかったことを考えると、ティアリーゼ様は歴代の中でも初代に匹敵するほど高い能力を有していると考えても良いでしょう」
「…では、婚約者の方のご病気が月の雫でしか治らないというのは?」
嘘だったのですか、と謀られたことへの憤りと悲しさで言葉が震える。
「まさか!それは本当ですよ。
私の婚約者こそが、ルナマリア・クリスチナ公爵令嬢なのですから」
それに、とルナベルト様は目を伏せて苦笑しながら言葉を続ける。
「ルナマリアを助けたくて、各国の神書という神書を漁り始めたのです」
その言葉に、一瞬でもルナベルト様を疑ってしまったことに罪悪感を感じる。
ごめんなさい、と小さく謝ると、ルナベルト様はゆるゆると首を振って答えた。
「いいえ、こちらが最初に騙すような真似をしたのですから、疑われても当然です。
それに、あなたから頂いた回復薬をルナマリアに飲ませたら、大分調子が戻ってきたそうで、今までベッドに起き上がるのがやっとだったのに、庭に散歩に出られるほど元気が出たと、手紙に書いてありました。
ティアリーゼ様にはとても感謝しているのです」
「まぁ…!それは良かったですわ!」
気にかけていただけあって、回復を聞いた瞬間、パアッと一気に気持ちが明るくなるとともに、ほっこりと胸が温かくなった。
「お礼に、是非とも我が国に来ていただいて、おもてなしをさせていただきたいと、ルナマリアと話しているのです」
「是非お伺いしてみたいですわ!
ルナマリア様ともお会いしたいですもの」
今度こそ本物の友達を作るのだと意気込む私の隣から、もう大分定番になってきた冷気がすっと漂ってくる。
まさかと思って隣を見上げると、アルフレッドは完全な無表情だが、瞳は鋭くルナベルト様を見据えていた。
「…………もちろん、アルフレッド殿もご一緒に」
ルナベルト様が口元を引き攣らせながら、そう付け足した隣で、お兄様が乾いた笑いをしていた。
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その後の話し合いで、帝国と公国との間に不可侵条約が締結され、ルナベルト様が即位した後には同盟を結ぶこと、私の能力は秘匿とすること、秘薬の解毒剤の情報を公国側へ提供すること、人材育成のために定期的に交換留学制度を設けることが定められた。
緑豊かである公国は、それ故に他国から狙われつつあったが、帝国と友好関係を作ることでそれを牽制できる。
帝国内の不穏分子の勢いも少しは殺ぐことができるだろう。
これからルナベルト様がどう帝国を立て直していくのか楽しみだとアルフレッドが期待に目を輝かせていた。
なんだかんだ、ルナベルト様を認めているアルフレッドが可愛くて、少し笑ったのは内緒だ。
しかし、帝国内の平定のためにはアビゲイルの処遇が大きな鍵となることは間違いない。
2国間でどのような決議がなされるのか、全ては明日決まる…。




