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聖なる森と月の乙女  作者: 小春日和
聖なる森と月の乙女
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公爵令嬢と王女の末路

いつも誤字報告ありがとうございます。

早速修正させていただきました(*^^*)

評価やブックマーク、感想も嬉しいです。

今後もよろしくお願いします。

「ルナマリア様…?」


唖然と呟く私に、先日までルナマリア様だった男性が苦笑を浮かべた。


「もうバレてしまいましたか。

…今まで理由があったにしろ、騙すような真似をしてしまい、申し訳ありません。

言い訳は後程させていただきますので、今はご容赦を。」


胸に手を当て、紳士な礼を取る男性に、戸惑いながらも頷きを返す。


「見かけない顔ですわね。お前は何者なの?」


王女が警戒心露に、ルナマリア様だった男性を睨み据える。


「私ですか?

…私は、ルナベルト・レイナルド・アスタリーベ。アスタリーベ帝国の正式なる継承者です。」

「なんですって?!」


驚き叫ぶ王女の声を聞きながら、私も呆気に取られてルナマリア様、もとい、ルナベルト様を見つめる。

アルフレッドは恐らく全てを知らされていたのだろう、平然とした態度で目の前の光景を眺めている。


「知らないのも無理はないですね。私はこちらへ来るまで、神官として神に仕えておりましたので。

ですが、この度還俗するよう命が下され、このようになった次第です。

どうやら、第一王女の悪評が広まりすぎて、女王として即位することは疎か、王配を得ることすら難しかったみたいですから。」

「なっ!」


王女を侮辱する言葉に、王女が顔を真っ赤に染めて怒りを滲ませる。


「おや、真実がそんなにお気に召しませんか?

でも、それは全て貴女自身が引き起こしたこと。こちらへ憤るのはお門違いというものですね。」


人の良さそうな笑みと形のよい口からポンポン吐き出される毒に、自分が言われているわけではないにも関わらず、口元が引き攣る。


「あぁ、そうそう。」


ルナベルト様が、今思い出したというように、ポンと掌を叩いて王女を見据える。

琥珀色の綺麗な瞳が、キラリと怪しく光るのが見えた。


「私が継承権第一位として、還俗したことでお分かりだと思いますが、貴女は廃嫡の上身分剥奪、北の塔で一生幽閉されることが決まりました。」

「…!」

「あぁ、恐ろしくて声も出ませんか。そうでしょうねえ。

北の塔は抜け出すのは簡単ですが極寒で、通年雪に覆われた不毛の大地。抜け出したとしても、生きてそこから逃れるのは難しいですからね。塔の中で自給自足するしか、生き残る術はないですから。

まぁ、あそこに幽閉されて1年はおろか半年保った者は今までおりませんが。」

「な、なぜ私がそんな目に…!」


青ざめた顔で尚も食って掛かる王女に、ルナベルト様の表情が一気に削ぎ落とされ、がらりと雰囲気が変わる。


「なぜ…?

さっきから身から出た錆だと言っているだろう?お前の頭は飾りか?

只でさえ、今は無理矢理帝国に併合した亡国の不穏分子で揺らいでるのに、公国にまで喧嘩を売ったバカを切り捨てただけだ。何もおかしいことはないだろう?」

「そ、そんなこと、お父様が許しはしませんわ!」

「お父様、ねぇ…。」


ルナベルト様が王女を心から蔑むようにニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。


「まだ分かってないようだが、私を還俗させたのはお前の言うお父様だ。

これがどういう意味か、空っぽの頭のお前でも分かるだろう?」


ルナベルト様の言葉に、王女はヘナヘナとその場に座り込んだ。

それを冷ややかな目で見た後、ルナベルト様は私とアルフレッドに向き直った。


「いろいろ思うところはあると思いますが、リリアンナの処遇は今述べた通りです。

その他の詳しい話は、改めてお時間をいただけると有難い。

その時に、正式な謝罪と今後の贖罪について話をさせていただけないでしょうか。」


ルナベルト様の言葉に、アルフレッドが言葉なく頷く。


―――終わったんだ。


ここ最近悩みの種であった懸念事項が解決の兆しを見せたことで、ホッと息をつく。

話し合いのため、先に歩き出したアルフレッドとルナベルト様を追って、一歩踏み出そうとした私に、王女の怨嗟の声が聞こえる。


「お前さえ、お前さえいなければ…――――!」


はっと振り返ると、王女を拘束しようとしていた騎士を、王女が予想外の力で振り解き、どこかに忍ばせていただろうナイフを私に向かって振りかざして来るところだった。


「っ!」

「ティア!!」


アルフレッドが異変に気付いて駆け寄ってくるのが見える。

だけど、この距離ではもう間に合わない。

逃げようにも、ビアンカを天上へ送り出して疲労困憊だった体は、恐怖に凍りついて動くことができなかった。


迫り来る痛みを覚悟して、目をぎゅっと瞑る。


「きゃあぁぁぁあ!」

「…?」


自分のものではない悲鳴に驚いて、閉じていた目を見開くと、王女が突如出現した黒い穴から放たれる黒い糸に絡め取られていた。

その様子を呆然と見る私を、駆け付けたアルフレッドが抱き締める。


「何!何ですのこれは!?

離しなさい!離しなさいよ!」


激しく喚く王女を黒い糸は容赦なく、ぽっかりと口を開けた黒い穴に引きずり込んで行く。


「やめて!やめて!…イヤァァァ !」


王女の叫び声とともに、黒い穴は王女をパクリと飲み込んだ。

そして、その様子を固唾を飲んで見ていた私たちの前で、それは跡形もなく消えたのだった。


ーーーーー


しばらく王女が消えた空間を呆然と見つめていた私は、この状況が何なのか、一番知っていそうな彼に声を掛ける。


「アビゲイル…?」

「…あれは、魔の闇と呼ばれる異空間に繋がる穴だ。人の穢れに反応して、不特定に発生する。

大方、王女の心の闇に引かれて出てきたんだろう。

あそこに取り込まれて、出てきたものは誰もいない。

ただ、何もない空間を漂い続けるか、運悪く出くわした、同じ穴の狢の獲物になるか。どちらにせよ、時間という概念のない魔の闇では死ぬこともできない、文字通りの生き地獄だ。」


淡々と話すアビゲイルの言葉に、背筋が凍る。


「北の塔に入った者が、よく死んだ方がマシだと叫ぶと聞きますが、魔の闇なるものの話を聞くと、余程北の塔の方が終わりがある分救いがありますね。」


若干顔を強ばらせながらルナベルト様が言う。

アルフレッドに抱き締められつつ、ルナベルト様の言葉に耳を傾けるが、あまりにも日常とかけ離れた出来事が多すぎて、頭が働くのを放棄していく。

そして、私の意識はブラックアウトした。

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