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聖なる森と月の乙女  作者: 小春日和
聖なる森と月の乙女
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公爵令嬢と特効薬①

「ところで、ティア。私が君が喜びそうな物があると言ったのは覚えている?」


アルフレッドが少し拗ねたように紅茶を飲みながらこちらを窺ってくる。

なに、その顔。神々しくて可愛すぎるんですが。


「お、覚えているわよ。」


鼻を押さえつつ、そう答えるのには訳がある。

なまじ、人間観察をしてきただけに、観察点は事細かで繊細である。そのため、観察対象者の表情は一般人が感じる何倍もの威力を発揮するのである。俗にいうフィルターというものだ。

ただえさえ、人から神々しいだの美しいだの言われるほどの美貌である。

それにフィルターがかかってしまえば、もはや凶器である。眩しすぎて目が潰れる。鼻血が出る。

これは公爵令嬢の威信にかけて、何とかフィルターを調整する術を見つける必要がある。

それを再確認した私に、アルフレッドは疑いの眼差し向けながらも懐からひとつのガラスケースを取り出した。

コトリと音をたてて、テーブルの上に置かれたそれは…。


「ラフィール!!!!」


飛び付かんばかりの勢いでガラスケースを受け取った私は、さぞ恍惚とした表情をしているに違いない。

なぜなら、治癒薬と調合すると速効性と治癒率が格段にアップするという、なんとも素晴らしい薬草だったからだ。


「すごいわ!アル!あぁ、嬉しすぎてダンスが踊れそうよ!どこに植えようかしら?たくさん繁殖させて早く調合に使いたいわ。」


スキップをする勢いで、スペースに余裕がある花壇を物色する。

ここはこれからまだこの薬草が幅を広げてくる予定だし、ここはこの薬草とあまり相性がよくないわね…。


「やっぱりここかしら?アルはどう思う?」


いつの間にか隣に来て、一緒に花壇を見ていたアルフレッドを見上げて、相棒の意見を聞く。


「いいんじゃないか?私もそこがいいのではと思っていたところだよ。」


ふんわりと微笑みながら話すアルフレッドに、私は満足して頷いた。


「ふふ、じゃあ満場一致でここにしましょう!ありがとう、アル。」


満面の笑みでお礼を言うと、アルフレッドは片手で口許を押さえて、くぐもった声で「あぁ。」と言った。


常にスタンバイしてある手袋とスコップと水の入ったじょうろを準備して、柔らかい土を掘っていく。

あんまりジメジメしたところを好まない植物のため、周りに水捌けのいい土を混ぜ混む。

ラフィールをしっかり土で固定すると、アルフレッドが上から水をかけてくれる。


「いつも思うけど、公爵令嬢とは思えないほどの手際の良さだね。」


感心したようにラフィールを見つめるアルフレッドに、私は指で鼻をこすって、えっへんと胸を張った。


「そうでしょう、そうでしょう。いつどこの辺境伯に嫁いでも大丈夫よ!」


お母様に見つかったらとんでもなく怒られるが、ここでは誰も咎める人がいない。

まさに私にとって楽園である。

誉められて上機嫌でホクホクしていた私は、隣から漂ってくる冷気に気づくのが遅れた。

ぶるり。

あれ、寒い。


「アル、なんだか少し冷えて…ひぃっ!」


横を仰ぎ見ると、相変わらず微笑んでいるアルフレッドの顔がある。

だけど、おかしい。目が笑っていない。それになんだか、アルフレッドの背後に黒いものが見える。

いつも麗しい皇太子殿下のご尊顔がとても恐ろしいものに見える。

あれ、フィルター故障したかな。

目をゴシゴシ擦って、アルフレッドから視線を外すことに成功した。


「ティア、どうして君が嫁ぐのが辺境伯の元になるのかな?」

「いや、スローライフを実践するなら、やっぱり王都じゃなくて辺境でっていうのがセオリーじゃない?」


タラーッと背を冷や汗が流れていく。

なぜ、私はこんなに追い詰められているのだろう?


「さっきも言ったけど、薬草の調合ならここでもできるよね?それに、ティアは私を幸せにする前にどこかに行ってしまうつもり?」


最後の方はとても哀愁漂わせて話すアルフレッドに、私はばっと顔をアルフレッドに向けて勢いよく彼の手を握りしめる。


「そんなことない!私はアルフレッドが幸せになるまで傍にいる!」


アルフレッドは、驚いたように目を見開くと次の瞬間にはいつもの、いや、いつも以上に嬉しそうな蕩けた笑顔でにっこり微笑んだ。


「良かった。約束だよ?」


フィルター効果で眩しすぎる表情に耐え、笑顔でうん、と頷きつつ、まだ追い詰められている気持ちが拭えないことに、私は首を傾げた。



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