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聖なる森と月の乙女  作者: 小春日和
聖なる森と月の乙女
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公爵令嬢と皇太子殿下のお迎え

「体調が悪いものもいるだろう。無理に最高礼を取らずとも良い。」


周囲に傅く人々にアルフレッドが声をかけると、恐る恐るというように皆頭を上げる。

そして、アルフレッドがリズを抱き上げて離さない目の前の光景に、戸惑いが隠せないような表情を浮かべている。


「私の婚約者が世話になった。礼を言う。」


淡々と告げるアルフレッドの言葉に、驚いたようなざわめきが起こる。


「リズ様が…皇太子殿下の婚約者…」


ざわめく教会内の人たちを前に、私はアルフレッドに下ろしてもらうようお願いする。

ふわりとスカートを靡かせて地に降り立った後、ずっと髪を隠していた頭巾を取る。

ふぁさりと露になった銀色の髪に、人々が驚嘆する声が聞こえる。


「私はセレニティア公爵が娘、ティアリーゼ・セレニティアです。

黙っていてごめんなさい。」


身分を隠していたことで、彼らの信頼を傷つけたのではないか、騙されたと思う人がいるのではないかと、恐くて誰の目も見ることができなかった。

そっと、アルフレッドが私の肩を抱く。


「我らが女神様を婚約者に持つ皇太子殿下の治世ならば間違いない…!」


ポツリと誰かが呟く声が聞こえた後、それに続いて感極まった声が木霊する。


「ティアリーゼ様、万歳!

皇太子殿下、万歳!!」


その中にはロンの姿もあった。

良かった、私がしたことは間違ってなかったと、頬を伝う涙を感じながら嬉しさに笑みが溢れた。


ーーーーーー


「それにしても、お前の無鉄砲さには驚きを通り越して呆れるよな。」


王宮へ向かう馬車の中で、先程からお兄様にチクチクチクチク言われる嫌味を、アルフレッドの横で小さくなりながら、耐えて聞く。

そんな私を苦笑しながら、慰めるように肩を撫でるのはアルフレッドで。


「お前も大概甘いな、アルフレッド。リーゼがいなくなったと知らされたときのお前と今のお前が全く結び付かないよ。」


ため息をつきながらそう言うお兄様に、やはりアルフレッドをとても心配させたのだと申し訳ない気持ちになる。


「おい、リーゼ。お前が勝手にいなくなって、一番被害を被ったのは俺ら側近とお前の侍女だからな。この4日間、地獄だった。」


何かを思い出したようにふるりと身を震わせるお兄様に、ごめんなさいと素直に頭を下げる。


「それにしても、本当にお前には癒しの力があるんだな。あの状態の者を一人も死なせなかったなんて、とても信じられない。」

「あの状態って…。何か奇病について分かったの?」


お兄様の方に身を乗り出して、詳しく聞こうとする私を、アルフレッドの腕が優しく引き寄せる。


「その話は城に着いてからだ。」


アルフレッドに優しく諭されるように言われ、渋々首肯く。

もう離さないと言うように、ぴたりと私を引き寄せ、優しく見下ろすアルフレッドの視線が恥ずかしくて、慌てて話題を探す。


「あの、アル、あの教会なんだけれど…。」


焦りながらも恐る恐る口を開く私に、アルフレッドは苦笑しながら分かっている、と答えた。


「あの教会で奇病の犠牲になった死者は敬意をもって弔おう。それから、教会の修繕と奇病にかかった者への支援も。まあ、奇病に関してはティアが薬草の知識を皆へ授けたから、あとは体が癒えるよう環境を整えることくらいだが。」


アルフレッドが提示するものに、笑顔でありがとうと返す。


「あと2つ、足してもいい?」


私の更なるお願いに、アルフレッドは驚いたように眉を上げると、言ってみろ、と答える。


「あそこで誰でも薬草のことが学べるようにしたいの。せっかく才能があるのに、勉強する場がなくてそれを発揮できないなんて、国益も損なうと思うわ。それから、あの教会の周りに自生する薬草をもっと調べてみたいの。」


アルフレッドは困ったように暫く考え込むと、ややあって口を開く。


「薬草の知識のあるものを派遣しよう。サイラス当たりがいいか。珍しい薬草があったら持って戻るようにも言っておく。」


だが、とアルフレッドは一旦言葉を止めて、私を真剣な表情で見下ろす。


「ティアが外に出るのはダメだ。危険すぎる。いろいろ落ち着いて安全なのを確認してからでないと。

それまでに勝手に出ていったら、次は容赦はしない。鎖に繋いで、王宮の奥深くに閉じ込めてしまうからね?」


分かった?というアルフレッドは優しく笑っているはずなのに、すごく物騒な言葉が混じっている気が…。

だめだ、これ、深く考えたらいけないやつだ。

私はコクコクと、必死に首を振って、もう勝手はしないと約束する。


そんな私たちを、お兄様はいつものようにため息をつきながら見ていた。

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