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聖なる森と月の乙女  作者: 小春日和
聖なる森と月の乙女
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公爵令嬢と不穏な噂①

私が王宮に来て、2週間が経とうとしていた。

あんなに警戒していた王女とゲイルは、それまでの間、直接何かを仕掛けてくることはなく、私もアルフレッドたちも肩透かしを食らった気分であった。

アルフレッドも皇太子としての執務が数多くあり、その側近であるお兄様も多忙を極めているため、王女からの被害がないここ最近では会う暇さえないほどである。

そんな中、私はここぞとばかりに毎日温室に通い詰め、薬草の観察や効能の研究、薬草煎じに明け暮れていた。


今日もルンルンと護衛を連れて温室に向かう。

途中で、何人かの大臣とすれ違ったが、皆一様に深刻な表情をしており、城の外で何かゆゆしき事態が起こっていることが窺える。


「何かあったのかしら?」


後ろに付いているリリーに首を傾げながら問いかける。


「もしかしたら、町で流行っている奇病のことかもしれません。」

「奇病?」

「はい。1週間ほど前から突然町の者が何人も苦しみながら倒れ、ちょうど発症して3日経つ頃に皆死んでいくのです。」

「なんですって?!…だから、アルもお兄様もここ最近忙しくしていらっしゃったのね。」


そんな大変な時に、自分の趣味を楽しんでいたなんて、知らなかったこととはいえ皇太子の婚約者として最低だ。

アルフレッドの支えになれないのもそうだし、民に対しても不誠実だ。

温室になんて行っている場合ではない。

一先ず状況を詳しく知らなくては、と元来た道へ踵を返す。

先ほどの大臣たちは、陛下へ報告に上がった帰りだろう。

ちょっと掴まえて話を聞いてみるのもいいわね。

そう考え、大臣たちを早足に追い掛ける。

後ろからリリーの戸惑った声が聞こえたが、大臣たちから話を聞くのが先だ。

ようやく声が届くだろう距離まで追い付き、声を掛けようとしたその時、一人の大臣の口から王女の名前が出てきたため、咄嗟に物影に隠れた。


「それにしてもリリアンナ様は素晴らしいお方だ。自国ではないのに、あんなに献身的に病人のためにお時間を割いて癒しを施して下さって。お陰で最初の3日目4日目で死者が出た後は、王女の癒しのお陰で奇病の被害も最小限で済んでいる。」

「まさに、王族の鑑のようなお人だ。」

「あんな方が殿下の正室になってくだされば、我が国も安泰と思えるものを。」

「殿下が太陽神の生まれ変わりならば、月の乙女はリリアンナ様ではなかろうか。」

「そうしたら、殿下のお相手はリリアンナ様こそ相応しいな。」

「そうだな。しかし先日婚約者を決めたばかり。殿下も今頃その決定を悔やんでいるやもしれぬな。」


はははは、と王女の活躍を褒め称えながら遠ざかっていく大臣たちの笑い声にぐっと拳を握りしめる。


「ティアリーゼ様…」


追い付いたリリーが私を気遣うように声を掛ける。


「殿下方はティアリーゼ様に心配させまいとして…」

「分かってるわ。」


リリーの言葉を遮って答える。

アルフレッドがただでさえ王女からの攻撃に不安を抱えてる私に、負担を増やすまいと気を回したのだろうということは、容易に想像がつく。

王女がいなければ、それでも良かったかもしれない。

しかし、王女はこれを期に国民感情を取り込むべく動き出したのだ。

それが効を成し、王女の評価は格段に上がった。

そう、アルフレッドの月の乙女とまで言われるほどに。


ーーーーーーこのままではいけない。


「私は、ただ守られてばかりに甘んじるつもりはないわ。」


私は、私の成すべきことをする。


私はさっと再び踵を返すと、温室へと急いだ。

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