公爵令嬢と夢の回顧①
目の前には出会って暫く経った頃の幼いアルフレッドがいた。
いつものように、アルフレッドの私室で絵本を読んだり、トランプをしたりしていた私たちは、周囲の目から見てもとても仲が良かったとは、その頃はもうアルフレッドの側近候補として、お父様の仕事を手伝うようになっていたお兄様からの話である。
アルフレッドが11歳、私が6歳の頃の話だ。
仲良く遊ぶ2人をぼんやりと眺めながら、あぁ、これは夢だと思う。
自分にとってアルフレッドが一番なように、アルフレッドにとっての一番は自分であると、恐れ多くも思い込んでいた頃の、苦い夢。
憐れな私は、愚かにもアルフレッドに言うのだ。何も恐れず、純粋に。
「アル、私ね、アルのお嫁さんになる!」
幼い私がそう言った瞬間、アルフレッドの顔が強張る。
そうだね、と優しく微笑んでくれるだろうと思っていた幼馴染みの様子に、幼い私は首を傾げた。
そんな私を見ることなく、手元に視線を置いたまま、アルフレッドは呟く。
「嫌だ。ティアと私はずっとこのままだ。」
強張った表情から放たれた明確な拒否の言葉に、幼い私は自分の思い上がりに気付き、とてつもなく恥ずかしくなった。
そして、とてつもなく打ちひしがれた。
どうしてお嫁さんはダメなの、なんて思い上がりも甚だしい問いを投げ掛けることもできず、途方に暮れた私は泣いて逃げることしかできなかったのだ。
部屋を出ていく幼い私の背を見送りながら、苦笑が滲む。
これは、過去の私から私への戒めか。
例え皇太子妃の私室に置いてもらえたとしても勘違いするな、と。
確かに最近、普段ただでさえ私に甘いアルフレッドが更に甘くなった気がして、気付かないうちにまた愚かな願いを持ちかけていたかもしれない。
大丈夫、アルフレッドの運命の人が現れたら、ちゃんと身を引くから。
それまでは、アルフレッドが幸せになれるように、私は私のできることをするの。
だから、今だけは幼い頃の私のために泣いてあげてもいいでしょう?
頬を伝う涙は後から後から溢れ出て、止めることができなかった。




