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聖なる森と月の乙女  作者: 小春日和
聖なる森と月の乙女
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皇太子殿下と公爵令嬢

ここは、緑豊かなソルシード公国。

祖は太陽神と月の乙女だと言われており、各地にお伽噺という名の神話がそれはもうロマンチックに脈々と語り継がれている。


時にこの国の皇太子は、祖である太陽神の再来と言われるほどの人間離れした美貌と知を兼ね備えており、黄金の髪に森のような深い緑色の美しい瞳は神々しく力強い光を湛えていたとは、彼の肖像画を描いた絵師の言葉である。

そんな彼の月の乙女もとい、皇太子妃の座を狙っている娘は数多くいるものの、やはり皇太子という身分柄、婚約者候補なる貴族令嬢たちが数名挙がっているのが現状である。

かくいう私、セレニティア公爵家のティアリーゼも婚約者候補の一人にして、皇太子であるアルフレッド・ロイ・ソルシードとは幼馴染みの関係である。

公爵令嬢という身分の高さと皇太子と幼馴染という気安い関係への嫉妬からか、あまり親しい友人はいない。いや、断じて性格が悪いからとかではない!…と思う。

そんなこんなで、王宮で開かれるお茶会に参加しても深く話を広げることなく、専ら趣味である人間観察に勤しんでいる。

周囲のご令嬢は、まさか私がそんなことをしているとは露ほども思っていないことだろう。

何てったって、人間観察している間も毒気のない微笑みを浮かべ続け、当たり障りのない返答をするのは大の得意である。

ゆくゆくは、皇太子であるアルフレッドの皇太子妃選定の時に情報を提供しようと思っている。

アルフレッドは幼少期に興奮したご令嬢方に揉みくちゃにされたのが原因で、軽い、いや、結構な女嫌いに陥っている。

それに加わってなかったことがきっかけで仲良くなったのは、私にとってはいい思い出だ。アルフレッドにそう話すと、ものすごく苦い顔をするが…。

大切な幼馴染のために素敵な女性を発掘しようという使命感が芽生えるのもごく自然なことであると言える。

何て幼馴染思いの淑女だろう。

そこで恩を売って、そこそこ家柄も良く、生活に困らない程度の財力を持ち、できれば優しく穏やかな人と縁を取り持ってもらえたらという下心は愛嬌というものだ。

お察しの通り、候補には挙がっているものの私は皇太子妃なんてものは目指していない。

ゆったりのんびり、スローライフが目標なのである。

ふと、私の頭上に影が差したと同時に周囲から黄色い悲鳴が沸き起こる。

そう、噂の皇太子殿下のご登場である。


「ティアリーゼ、王宮に来るなら連絡してくれたら良かったのに」

座っている私の肩に手を置き、きらびやかな笑みを向けてそう声を掛けるアルフレッド。

ご令嬢方の嫉妬混じりの視線が痛い。

他にご令嬢がいるのに気づきながら、アルフレッドは毎回私にだけ声を掛けるのだ。

それは女嫌い故に他者を寄せ付けないようにするための、これまでにアルフレッドが培ってきた処世術である。それを知っているだけに、強く抗議できないのが悔しいが、それを表に出すわけにもいかない。

「ごきげんよう、皇太子殿下。王妃様が候補者同士で交友を深められるよう、お茶会を開いてくださいましたの。お陰さまで、皆様と楽しい時間を過ごさせていただいているところですわ。殿下は本日は視察に行かれるとお伺いしていたので、連絡はご遠慮させていただきましたの」

貴族令嬢らしい笑みを浮かべながら淑女の挨拶をする。

内心は呆れとため息の連続であるが、そこは公爵令嬢、仮面は頑丈にできている。

「思いの外早く終わってね。途中でティアが喜びそうな物があったから届けようと思ったんだけど、王宮に来ているなら直接渡す方が早いと思ったんだ。もうそろそろ茶会も終わりだろう?」

そう話すアルフレッドの横で、王宮の侍女たちが食器などを片付け始めている。

もう帰れという無言の圧力に、他の令嬢たちがそろそろと退出し始めた。アルフレッドを胡乱げな目で見上げると、ん?と他意のない微笑みが返ってくる。

おかしい、皇太子然とした微笑みが胡散臭く見えてきたと思いながら、アルフレッドに促されるままお茶会会場を後にしたのであった。


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