表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

エピローグ

 

 本の打ち合わせが一段落したところで、シルフィーが焼きたてのクッキーを持ってやってきた。アリスが目を輝かせる。成長して顔立ちは大人びてきていたが、その瞳は昔のまま、無垢な光を宿している。


「シルさんも遠慮しないで、一緒に食べましょう!」

「仰せのままに、王女殿下」


 あの後、土竜との開戦は避けられた。お互いへの不信感はなかなか消えなかったが、アリスや聖騎士達の尽力もあり、再び地上と地下との間で交流が始まった。

 教会は、教主の失踪と司教失脚により瓦解した。代わりに聖騎士達が指揮を執って、元教会の文官や騎士団の優れた者達とともに地上を治めている。


「ほら、ルカ様もご一緒に。これ凄くおいしいですよ!」


 俺は魔法がほとんど使えないようになっていた。抗体が尽きたのではなく、マナに命令を出せなくなったのだ。医者によれば、魔力が目詰まりを起こしているらしい。短期間のうちにあれだけの魔法を使い、一部とは言え時間操作までしたのだ。身体にもかなりの負担がかかっていた。晩年の親父と同じ状態というわけだ。


「いけません、アリス様。ルカ様にはこちらの、砂糖控えめのを。

 主人にも口酸っぱく言われているんですから」


 いやあ、返す言葉もない。シルフィーの夫は俺を診てくれた医者だ。今は2人して俺を世話してくれている。

 隠居暮らしの日々は良いものだ。見晴らしのいい家に住んで、街を歩いたり、花を育てたり、本を読んだりしている。アリスに勧められていた本も読んだ。なんとあの「名作古典」は、よく読めば『源氏物語』だったのだ。千年残る物語は、さらに千年残るのだと感心してしまった。嬉しいことに、透花の著作も伝えられている。


「じゃあ、食うか」

「その前にお祈りです! 誇り高き、氷の聖騎士に」


 トーカの身体は、現在の技術では直せなかった。しかるべき時が来るまで、城の奥で保管されている。

 焼き菓子をかじりながら、考える。俺にもいつか、「叫び」が聞こえるのかもしれない。人間が生きるための罪も生まれ続けるだろう。俺にどうこうできるとも思えない。それでも俺は、絶望することはないだろう。

 どんな物語であれ、人はそれを伝えていくことができる。そして、新たな物語をつくっていくことも。




 愛する妻、透花へ。

 君が残してくれた、この世界が好きだ。

 君が愛したこの異世界で、俺は生きている。

 そしてこれからも――君と俺の物語は、ここで生き続けるだろう。




 Fin






お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ