親友との出会い
当時孤立していた由奈は、何か悪いことをしていたわけでもなかったがクラスの女子からは嫌われていた。
「アイツ本当感じ悪いよな」
「人より勉強ができるわけでもないのにノリも悪いし、自分は周りとは違うって思ってそうなところとかね」
「親の顔が見てみたいよね。あんなキモイの、公共の場に放し飼いにして許されるような代物じゃなくね?」
「馬鹿、聞こえるだろ」
「聞こえるように言ってるんだよ。どうせ言い返さないんだしさ!」
こんな会話が繰り広げられるのも日常茶飯事だ。当然、由奈はそんな状況には慣れている。むしろ他人と関わることを億劫に感じていた彼女からすれば、この環境は好都合ですらあった。
(そのまま私を嫌えば良い。私も、集団に属することで自らが強くなったと勘違いしている君たちが嫌いだよ。それに、君たちにはわからないだろうけど、人間が手に入れられるものなんて総じて脆いんだ。君たちだって、どうせ些細なことで仲間割れするよ)
この時、由奈にはまだ理解者などいなかった。彼女の考え方は社会性に欠けた人間の戯言に過ぎなかったが、それでも口に出さないだけ幾分ましではあった。
――――そんな時だった。
「お前らの言うノリの良い奴ってのは、嫌われ者に寄って集って石を投げられるような奴のことなのか?」
女子の集団の会話を遮ったのは、少年のような雰囲気を醸す女子生徒の一言だった。彼女こそが後に由奈の親友になる少女――――相良風音である。
「出た出た、オトコンナの綺麗事!」
「ウチらという社会がアイツを追い出したんじゃなくて、アイツが最初っから社会に適合してないだけだよ」
「ああいう奴がいつか犯罪者になるんじゃないの? 雑草の根はナルハヤで摘んでおかなきゃ!」
女子たちは口を揃えて反論した。しかし、風音は一人で複数人を相手にしている時でさえ怖気づきはしない。
「声をあげねぇ人間はアンタらみてぇなのに迫害される。声のデケェ奴が善悪を決める。だから存在しない悪事をブッ叩くような奴の煽情的な大声が大衆を惑わすんだ。由奈は一度でもアンタらに危害を加えたのか?」
そう言い放った彼女の眼差しには、中学生の少女とは思えない威圧感があった。だがそれは多数派に属することの無敵感には遠く及ばない。結局、誰一人として彼女を相手にはしなかった。
「風音のこと無視しよ。アイツに構った奴は絶交で」
「そうだね! もう行こう」
「マジでさぁ、体育以外何もできない脳筋に説教なんかされたくないよね」
女子の集団は教室を後にし、その場には風音と由奈だけが残された。風音は何も得られなかったが、それでもなお自らの行いを正しいものだと確信している。
由奈は言った。
「余計なことしないでよ。あんな奴ら、別に気にしてなかったのに」
これが彼女の第一声だ。他の生徒にめったに声をかけない彼女がようやく口にした言葉は、恩人の行動を非難するものであった。風音は厚意を蔑ろにされたが、それに怒りを覚えることはなかった。
「だったら、オレのことも気にしなくていいよ。オレが勝手にアイツらにムカついて、勝手に苦言を呈しただけだ。それがアンタの気に障ったのなら、それは謝るけどな」
「別に謝らなくても良い。私が求めているのは謝罪じゃなくて責任だから。君が波風を立てたせいで、明日からはアイツらが私に攻撃するようになるかも知れない」
「そしたらオレが盾になってやるよ。オレは体育以外何もできない脳筋だけど、アンタを守る防壁になるくらいのことならできる」
おおよそ正気とは思えない覚悟だ。しかし、彼女は真剣そのものである。その表情には一切の迷いがなく、そこにあるのは溢れんばかりの使命感だけだ。その無謀さに呆れ果て、由奈は小声でつぶやいた。
「……君のような馬鹿は見たことがないよ」
***
あれから約一年――――彼女は部屋のドアノブに縄の端を結び付けていた。由奈は椅子の上に立ち、ドアの上から縄を通しつつもう一方の端で輪を作り始める。
(風音は誰よりも大馬鹿者だったけど、誰よりもイケメンだったな……)
今の彼女に、生きる意志などない。




