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第四話 キシデュヴァラノムスメルナ

 

 入学式の後、数日間は誰もが友人を求めている。友人を探す絶好の機会だ。


 そんな時、多くの人間にトラウマを植え付けた言葉が人々を襲う。



「それじゃ武術訓練を始めるわよ」




「まずは『二人組を作って』模擬戦ね」





 まさに鬼畜の所業。武術訓練担当の小早川(こばやかわ)愛子(あいこ)先生は鬼教官確定だ。

 これではコミュニケーションが苦手な人が余り確定ではないか。可哀想に。





(まさか自分が余るとは思わなかったけどね…………)


 その原因はおそらく昨日の決闘だろう。

 僕の目論見では、「先輩に勝つなんてすげーぜ!」「しかもたった一撃で勝っちゃうなんてカッコいいーっ!」と男女問わず引っ張りだこの予定だったんだ。

 なのに、引っ張りだこどころか僕の周りに誰も寄り付かない始末。

 むしろ唯一の希望だった和美が男女問わず引っ張りだこ。僕の方へ来れそうな気配はなかった。

(どうしてこうなった……)

 僕が途方に暮れていると、


「なぁなぁ、お前余ってんの?俺と組まね?」


 救世主が現れた。

「あ、うん」

「よっしゃ、俺は佐竹(さたけ)義樹(よしき)。よろしくな」

 気さくに話しかけてくれるどころか、握手まで交わした。なんていい奴なんだ。



「ところで、あそこにいる金髪ツインテロリ巨乳のメイドさんってお前の連れ?なあ、メイドってエロい事し放題なのか?」



 なんていやらしい奴なんだ……。



 優しさではなくやらしさ。友情ではなく劣情を求めていたようだ。

 というか、昨日の事件を知らないのか。時事に疎い奴だ。

「あのロリ巨乳を好きにできたら気分いいだろうなぁ。『部屋の掃除の前にコッチの掃除をしてもらおうか』『はい、(わたくし)のような淫らな掃除機をお使いくださり、ありがとうございます』みたいなっ?!」

 義樹はプクッと鼻の穴を膨らませて無駄にしっかりとした演技口調で妄想のセリフを垂れ流す。

(こんなのが騎士目指してるって嘘でしょ……)

 こんなのでも今の僕の助けになるのは確かだ。背に腹はかえられない。



 しかし、問題はそこだけじゃない。

 僕は義樹の視線の先。運動場の隅に控えている先輩に目を向けた。

 先輩はただ無表情で僕の方を見つめ続けている。

 どうやら色欲にまみれた妄想は聞こえていなかったようだ。


 先輩が自分の授業をサボってまでここにいる事に疑問を覚えるかもしれないが、これは従騎士として当然の務めであり、騎士学校のカリキュラムの一部だ。

 仕える騎士の側を離れない事が基本の従騎士をサポートする為、主従契約を済ませた従騎士は授業が免除される。その分課題を提出すれば一般の教育課程は修了できるのだ。



 しかし、こんなセクハラ的視線を向けられるなら授業の方がマシに思える。



 巻き込むのもどうかと思うが、誤解を招かないように紹介をしておこう。

「この人はルナ先輩。やむを得ない事情で僕の従騎士をやって貰ってるんだ」

 わざわざ言う事ではないので事件については伏せておく。

「ご紹介に預かりました、騎士デュヴァラの娘 ルナと申します」

 先輩は丁寧に自己紹介をする。普通に名乗るのではなく、デュヴァラの娘と名乗るあたりにプライドを感じる。


「へぇー、キシデュヴァラノムスメルナってのか。外人って名前長いんだな。はっはっはっ」


 馬鹿だ。とんでもない馬鹿だ。

 まさかそんな風に解釈するなんて思わなかった。

「デュヴァラの娘 ルナです。ルナ・デュヴァラです」

 静かに訂正する先輩だが、言葉の裏には押し殺された激しい感情が感じられた。内心は怒るか呆れているに違いない。


「じゃあさ、キシデュヴァラノムスメルナ」



「おっぱい揉ませてくれ!」




 ドゴォ!!!!



 渾身の左ストレート。

 大地を割るような怒りが込められたその拳は、義樹を天空の彼方(数m先)へ吹き飛ばした。




 これもセクハラをした自業自得だ。庇う気も起きない。



 義樹が吹き飛ばされたのを見てクラス中がざわつき始めた。

 クラスメイト達に恐怖が伝播していく。


 まるで僕が化け物か何かと思っているかのような。



「ち、ちがっ、先輩が勝手に」

 そう言い訳しようにも、当の先輩は既に凛とした立ち姿で僕の遥か後ろに控えていた。


 結果、僕が義樹を一撃で昏倒させたことになり、僕は畏怖の目で遠巻きに見られるのだった。





 そんな僕に小早川先生により相手が充てがわれた。

 しかし、相手はすっかり怯えきっており、完全に腰が引けている状態だ。

 こんな状態では誰と戦っても勝てやしないだろう。

 ともあれ模擬戦は模擬戦。僕はひとまず武具を選ぶことにした。


 僕が選んだのは槍と大盾。そう、憧れの道節さんと同じスタイルだ。




 どちらが勝つかは誰が見ても明白だった。

 そんなわかりきった決闘はたったの一撃で勝負が決した。




 僕の敗北で。




 敗北の瞬間をハッキリと覚えている。重鈍な大盾の扱いに苦戦しているうちに脳天に一撃!

 実に無様な負け姿だった……



 その敗北にも意味があった。

 みんなの僕に対する恐れが緩和され、次々に決闘を申し込まれるようになった。

(やっぱり憧れだけじゃ武器は扱えない。もっと自分に合った武器を探さないと)

 僕は肌に合わなかった武具を持ち替えて何度も決闘を繰り返した。

 僕は先輩に勝っているんだ。だから実力は十分にある。


 それから僕は見事に連勝!






 するはずだったのに……


 槌を使っても大剣を使っても、連敗連敗、また連敗。ついには先輩に勝った片手剣ですら一勝もできず、クラスのほぼ全員に負けてしまった……。



「な、なんで……」

 僕はショックのあまり膝をつき、嘆いた。

(僕が先輩に勝ったのは現実なはずだ。先輩のメイド姿がそれを証明してる。なのに、なんで……)

「ご主人様ーー」

 僕が落ち込んでいると先輩が優しく声をーー




「お言葉ですが、ご主人様が度を越えた『ザコ』なだけかと。ご主人様に『ビギナーズラックで』負けてしまった私の評判まで落とすような行いはやめていただきたく存じます」




 まるでどこかの執事のような毒舌を浴びせかけられた。

「ひ、ひどい……」

「酷いのはご主人様の実力です。ここまで無様に黒星を重ねられますと、私までザコ呼ばわりされてしまいます」

 先輩は一切の容赦もなく僕を貶す。

(もう部屋の外でも関係ないじゃないか……)

「少々、失礼させていただきます」

 先輩はすぐさま僕を見捨てて小早川先生の方へ歩いていった。

 どうやら何かを話しているようだ。



「一番勝率の高い生徒?それならあの子ね」

 そう言って先生が指差した生徒。それはーー




 和美だった。



 それを聞いて先輩はツカツカと和美の方へ歩いていき、


「私まで弱いと思われては心外ですので」




「貴女に模擬戦を申し込ませていただきます」




 宣戦布告。

「一つ経験と思い、受けさせていただきます」

 それを受けてもなお、和美は笑顔のままだった。



まず、ここまで読み進めていただきありがとうございます。

センシガルシアノムスコロス大好きです。私は暗夜王国出身なんですが、聖魔が一番好きです。分岐クラスチェンジはいいシステムですが、もうちょっとユニットの母数が欲しい欲張り。

そんな趣味の話は置いておきまして、作品の更新に関してです。

たぶん月一以下の不定期ペースでの更新になると思います。結局主軸は妖精発明家の方なのでそちらの更新がメインになると思います。

では、次回更新を非常に気長にお待ちください。

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