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第一話 白い手袋と蒼白くなる顔

 

 2025年、様々な職業において横領などの不正が浮き彫りとなり信用が失われ、誠実な人材が渇望された。

 そんな中で欧州が打ち出した打開策。それが、


『騎士道制度』


 誠実を美徳とする騎士道を現代に復活させ、それを資格化することにより誠実な人物の証明を行うことが『騎士道制度』の狙いだった。

 その狙いは見事的中。多くの分野で騎士の資格を持った人物が誠実な功績を残して見せた。


 それに習い世界各地で『騎士道制度』の導入と共に騎士の資格を目指す学び舎『騎士学校』が設立された。

 我が校『私立(しりつ)里見(さとみ)騎士学校』も日本の『騎士学校』の一校であり、その中でも多くの騎士を輩出している有名校である。



「というのが騎士道制度とその後の発展についての概要だ。新入生といえどこれくらいは知っているだろう」


 そう教鞭を取るのは加藤昌典(かとうまさのり)と名乗る僕ーー俺の担任だ。いかにも熱血な感じで少し苦手なタイプだ。

 特に苦手な理由としてーー


「えーっと、上綱(かみつな)信之(のぶゆき)。騎士学校の基本制度について読んでみろ」


 こうして唐突かつ気まぐれに当てられる事が多いからだ……かといって拒否する事が出来る訳じゃない。

 俺は観念して先程渡されたプリントの文を読み上げた。


「騎士学校は満15歳以上が通う七年制の学校である。通常の高等学校の教育に加えて、心身を鍛える武術や馬術などの騎士道に関して専門的な教育を行う。私立里見騎士学校は生徒寮を多く備える他、騎士資格を持つ者の推薦を受けた者に奨学金を出すなど、優秀な騎士の育成に力を入れている」


 この程度の知識は真面目に騎士を目指す者なら知っていて当然のことだ。ましてやほとんど奨学金目的で志望校を選んだ身なら尚更だ。


「こうした素晴らしい取り組みが出来るのもひとえに学園長である『里見(さとみ)道節(どうせつ)』氏のお力によるものだろう」


 そう語る加藤先生の憧憬は一言一句から滲み出ていた。

 加藤先生がこうして持ち上げるのも無理はない。なんせ里見道節さんの槍術(そうじゅつ)は日本騎士の中で最高のものだからだ。事実として俺も彼のファンだ。

 《被堅執鋭(ひけんしつえい)の騎士》と称されるに恥じない十数人の猛攻を耐え凌ぐ鉄壁の守りと一撃で相手を征する鋭い攻撃を併せ持つ最強の槍騎士だ。


「いやー里見氏が日本一を勝ち取った試合は実にーーおっとHR(ホームルーム)は終わりのようだな。それじゃあ入学式お疲れさん、気を付けて帰れよ」


 校内にやかましく響くチャイムは長くなりそうな加藤先生の話を見事に一刀両断した。

 そして運良く長話から逃れられた生徒達は帰路へ着くのだった。


 騎士の清純さを表現した真っ白な制服に加えて真っ白な手袋と真っ白な上履きという真っ白尽くしで成長を見越したゆとりのある制服を身に纏った新入生達が帰っていく。

 俺はというと廊下で二人の名前もちゃんと覚えていないクラスメイトと駄弁っていた。入学早々話し相手が二人も向こうからやって来たのは幸運だった。

 これで少なくともぼっちの心配は無くなった。なんて幸先がいいんだ。


 そうしていると廊下の向こうから人が列になって歩いて来るのが見えた。

 その列の先頭を歩く人物にとある騎士の面影を見た。


「あの綺麗な金髪に険しさのある目元と青い瞳……まさしくデュヴァラ卿の血。それにあの従騎士のバッジ、間違いない。『ルナ・デュヴァラ』先輩だ」

 様々な特徴が魅力的に主張していたが襟元に付けている剣が彫られた従騎士の資格を証明する銀のバッジが決め手になった。

 騎士に仕える騎士 従騎士の試験を受けるのはこの学校では五年生になってから。しかし五年生以上は従騎士としての職務や騎士資格の取得を目指した特別課程が組まれている。だからこんなところで油を売っている暇は無いはずだ。


 しかし、両親のどちらかが騎士の資格を持つ場合、入学時に従騎士試験を受けることが出来る。それに合格すれば五年生未満でも従騎士の資格を持つ事が可能だ。

 当然、本来は五年生が受ける試験を新入生が受けて合格する例はほんの数人だ。

 その中で最も有名なのが彼女、ルナ・デュヴァラ先輩だ。


「ルナ・デュヴァラって?」


「ああ!」

 ついさっき知り合った友人の問いかけなのだが、思わずいい加減な返事をしてしまう。

 それも致し方ないだろう。かのデュヴァラ卿を知る者ならば興奮せずにはいられない。



 かつて三騎将と謳われた伝説の騎士の一人、デュヴァラ卿。

 彼はその大局を見抜く力と統率力で政治家として大成した。

 厳格な彼はあらゆる不正を許さず、フランス政府の清浄化に努めた。彼の働きによりフランスはグレーな世界での活動を著しく損なった代わりに表世界での絶大な信用を獲得して国家として大きな発展を果たした。

 これが彼が三騎将とされた理由となる一番大きな功績だ。


 そんな彼の子孫デュヴァラ本家の娘、それが彼女 ルナ・デュヴァラだ。


「んで、誰?」


 どうやらネタでもなんでもなく本気で知らないようで妙なアホ面を晒してくる。

 なんという事だ、騎士を目指していながら彼女を知らないなんて……こいつはモグリだな。

 でも仕方ない。ここは一つ騎士オタクとしての知識を披露して見せよう。


「彼女はルナ・デュヴァラ先輩、現在二年生。一年次首席で特に座学では他の追随を許さない程に濃くデュヴァラ卿の才を受け継いでいる。容姿端麗、頭脳明晰、謹厳実直と騎士として申し分ない人物だよ」


「へ、へ〜そうなのか」

 騎士をよく知らない相手に対して熱く語りすぎたのか少し引き気味だ。マズい、自重しなければ……。



「しっかし、ちっちゃいな。150無いんじゃね?でも胸はデカいな。80……90はあるな」

 確かにこいつの言う通りルナ・デュヴァラ先輩は小さな背丈に見合わないグラマーさではある。

 だけど、セクハラ発言にしてももう少し場所と人物を弁えて欲しいものだ。ただでさえ酷いのにその矛先がデュヴァラ家の娘さんだなんて……。

 しかし、この場でマジになろうものならせっかく獲得した友人が水の泡だ。

 ここはせめてーー



「セクハラが過ぎるっつーの!」


 なるべく軽いトーンで少し大袈裟な身振りも加えてコミカルにツッコんだ。

 この渾身のツッコミで笑いが取れれば僕も明るい騎士道ライフを送れるはず……



 しかし現実は非情だ。

 結果はダダ滑り。まるで親父ギャグの後のように場の空気が凍り付いていた。

 だが、ただ寒いだけじゃない。とても刺々しい空気だった。



「新入生に気骨のある人材はいないかと見に来てみれば……期待以上ね」




「このあたしに決闘を申し込むなんてね!!!」



 デュヴァラ先輩は右手に手袋を握りしめて怒りに震えていた。

 その手にある手袋は他でもない。ツッコミの際にすっぽ抜けた俺ーー僕の手袋だった。


 騎士の間では自身の手袋を相手に投げつける行為は決闘を申し込む挑発行為に当たる。

 つまり、不慮の事故とはいえ僕はデュヴァラ先輩を侮辱してしまったのだ。


 誰かに助けを求めようにも、ついさっきまで話をしていた二人は忽然と姿を消してしまった。

 それどころか僕の周りから新入生が一人残らずいなくなってしまっていた……。








ここまで読み進めていただきありがとうございます。

並行している他作品の箸休め的感覚で書き始めた結果、本腰が入りつつあります。

漢字の名前は完全に趣味です。特にエピソードとかを輸入する気はありません。

鈍足月一更新になると思いますが、のんびりと気付いたら三話くらい更新されてたわーくらいの感覚でお待ちいただけたらと思います。

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