新しく吹く風は
はじめまして、読んでくださりありがとうございます。
家は赤い屋根の家で、レンガを組んだ少しだけ歪んだ家。
その家の後ろには小さな池があって赤い魚と白と黒が混ざった魚が2匹で泳いでいた。
池の前には井戸があって冷たい水が井戸の下で湧いている。
「いい天気だなぁ」
そう呟いたのはこの場所に勝手に住み着いたコウノ。
河野里志という名前があったが今ではコウノと名乗っている。名乗る相手なんていないわけだが。。。
井戸から水を組んで顔を洗い、頭まで濡らしていく。
豪快に飛び散る水飛沫は池の方まで飛び2匹の魚が驚いていた。
「今日で一ヶ月目かぁ。」
ノートに書いてある正の字が今日で一ヶ月立つことを示している。
僕がこの家に住むことになったのは気がついたら森の真ん中にいたからであった。
森の中でじっとしているような性格ではなかった僕はとりあえず森を探索してみることにしたところ、この家を見つけたのだった。
見つけた時はボロ屋で倒壊寸前だったところを少しずつ直して今に至っている。
それでもまだ治ってないところも多く、雨漏りしてしまっている箇所もあるがなんとか暮らしていた。
「はぁ、いつまでたっても帰れないなぁ。まあ、悲観的になんてなってないんだけどさぁ」
毎日仕事が忙しすぎて休みたいと思っていたし、別に一生慎ましやかに暮らしていけるだけの金はあった。
金だけ持って全てを捨てて田舎にでも越してやろうかと思っていた矢先にこんな場所に来てしまっていた。
まあ、夢がだいぶ違う形でかなったと思えばいいところだろう。
ノートをたたんでポケットにしまい、家の後ろにあるドアから家に入る。
家の後ろはキッチンになっていて、かまどと土間があり、一段上がった板間には即席で作ったテーブルがある。
少しがたつくが素人が作ったにしては上手い方だろう。
「雨漏りさえどうにかなればなぁ…」
天井にできた黒いシミは先日の雨で雨漏りしてしまった箇所であった。
「どうにかして差し上げましょうか?」
突然背後から声をかけられた。
鈴が転がったような高い声で思わず前に数歩進んでしまう。
振り返るとそこには幼い少女が立っていた。
「それ、直して差し上げましょうか?」
もう一度聞かれた問いには応えることができなくなっていた。
将来絶対美人になるであろう確信が持てる美少女を間近で見たのはこれが初めてだったからだ。
「すげぇ…」
「なにがすげぇのかわかりませんが直して欲しいなら直して欲しいとおっしゃってくださいな。」
ニコッと笑うその顔は照れて声が出なくなる程度には胸に刺さり数歩あとずさってしまう。
「どうなんですか?」
ニコニコしながら数歩向かってくるその顔には少しの苛立ちが見て取れた。
「おね…がいします。直してください…」
その気迫に押されたわけではないが、口からは無意識のように言葉が紡がれた。
「それでいいのです!」
嬉しそうに笑いそして、キラキラと輝きながら屋根はあっという間に治ってしまった。
そこはかとなく家全体が綺麗になっている気がする。
「初めまして。スーと申します。これからよろしく。あるじ様!」
「…はっ?」
にこやかに笑いお辞儀をしたと思ったらそんなことを言い出し、スーと名乗った女の子は勢いそのまま僕に抱きついた。
ふわりと香る花のような甘い香りに一瞬思考が止まる。
「一旦座ろうかな…」
「お茶ですね!」
いれてきます!と走って行ってしまったスーの後ろ姿を見送ってがっくりとうなだれるとため息を吐いた。
「どうしろっていうんだ…」
とりあえずと椅子に座ってはみて、スーが入れてくれたお茶を一口飲む。
スッとする香りが鼻を抜ける。
「で?君は誰なんだい?」
落ち着いたところで1番聞きたかったことを聞き出す。まあ、このお茶がどこから来たのかなんかも聞きたいが。
「スーはスーです。他の何物でもないです。種族的なものを聞いているなら、ブラウニーです。」
「ぶらうにー?」
ブラウニーは家に付く妖精で、家事や家畜の世話などが得意な妖精である。
家のことはなんでも任せてください!と胸を張るスーは早速と言って家を直し始めに行ってしまった。
少し歪んだような緑がかった窓は綺麗に拭かれていく。
布巾がどこから来たのかなんかは聞かない方がいいんだろうか。
とりあえず、問題は放置だ。
危害を加えるような気はないらしいし。
まあ、即急に対処するものはなくなってしまったわけだが。
もっか、やらねばならなかったのは家の修繕であったしそれは、スーがやってくれた。
ということは、やることがなくなってしまったのだ。
掃除もやってくれるという徹底っぷりだ。
とりあえず、日差しの暑さから池のほとりの木陰に移動する。
何気なく足を池に下ろすと冷たさが上がってくるがそれもすぐに心地いいものになった。
足元をくすぐるように泳ぐ魚はキラキラと光る水面と相まって美しさが増していた。
「あちぃなぁ…」
氷菓子が食べたいなぁとか、考えながら空を見上げて太陽を睨むのであった。
勇者との死闘を繰り広げ、三日三晩の戦いの末ようやく今決着の時が来た。
「これで、最期だ。」
「……終わりか。」
胸に突き刺さる感触に安堵を覚えることがあるとは考えたことがなかった。
勇者が城に入ってきた時点で焦りはしていた。
だが、いつかは終わりが来ると考えていたことも事実であったため諦めも感じていた。
全力で戦ったが勝てないのなら仕方がないと思える程度には成長したものだと自分を褒めてやりたい。
魔王として生み出され数百年。
やっと終わりが来たかと待ちわびた日がやっと来たのだ。
静かに押し寄せてくる眠気と冷たさに目を閉じた。
読んでくださりありがとうございました。