百合文化はよくわからないけど百合描写を書いてみたい方へのアドバイス
2017.7.20 だいぶ加筆修正を加えました。
2017.7.27 さらに一項目加えました。
百合文化はよくわからないけど、百合描写を書いてみたいんだけど……。
そんな、もしかしたら世界中を探したら10人ぐらいは居るかもしれない稀有な方に向けて、指南講座を開いてみたいと思います。
①百合の基本は「女同士の心の絆」
百合は、必ず恋愛の形を取るとは限りません。熱い友情や肉親の愛情。はてはライバル心や憎悪なども百合になりえます。百合とは女同士の繊細な心の絆を愛でる文化で、恋愛はその絆が端的に表せるから好まれているのです。暴論を述べるならば、「ある女が特定の女のことで頭がいっぱい」なら、それは百合といえるのです。
いわゆる「俺嫁」作品と大きく異なるのは、キャラ単体よりも「関係性」に萌えるものであるという点です。ここを間違えると、どれだけ女の子同士をいちゃつかせても百合好きの琴線に触れるものに仕上がりません。
百合ブーム黎明期、百合専門の作家などそうそう居るわけがなく、BL作家が百合作品を描く事例が多数ありました。これは、異性愛もの作家よりも、BL作家のほうが「絆萌え」の表現に長けていたからだと思われます。実質、BLと百合はキャラの性別を逆にしただけと言っても過言ではありません。
②百合好きは男が大嫌い
百合好きを、ラーメンを食べに来た客だとします。その客に出すラーメンのトッピングにサービスのつもりでショートケーキを乗せたらどうなるでしょう。
激怒されますよね。百合に男要素を混ぜるのは、まさにラーメンにケーキを乗せる行為なのです。女装とか女にTSした男とか、ち○こが生えるとかいうのでも蛇蝎のように嫌われます。
個人的な好悪を述べると、女にTSした男は不可逆(二度と男に戻らない)で精神的にも女性化するなら許容範囲だと思うのですが、どうやら少数派のようです。
「超電磁砲」「ニャル子さん」「プリズマ☆イリヤ」のように百合が一方的で結局男とくっつくことが確定しているものに対して、百合好きは「わずかでも百合要素を入れてくれてありがとう!」……などとは欠片も思わず、「そんな取って付けたような扱いは嫌だ」と感じます。
例えば当麻と黒子、あるいは真尋とクー子の性別を入れ替えてみると、「好きな女に恋愛対象としてまるで相手にされないどころか、何かにつけて暴力を振るわれる不憫な男の図」が出来上がります。こんな悲しい話はありません。立場的にはこうなってしまうのです。
では、百合作品に男は一切出してはいけないのかというと、そんなことはありません。「モブ」や「理解者」や「賛同者」であるなら、男の存在も許容されます。また、「恋の敗北者」であっても許容されます。
「神無月の巫女」という百合作品では、当初百合と異性愛の三角関係的な展開でしたが、最終的に三角関係の一角である男キャラが身を引き、百合の理解者・支援者・恋の敗北者になったため、嫌われずに受け入れられています。
他にも、「あやかし忍伝くの一番」という百合ゲームに出て来る主人公の父親は、主人公とヒロインの同性愛を最初から最後まで肯定しています。このため、彼が嫌いだという声は聞いたことがありません。
百合作品に男を出して大失敗した例としては、「ストロベリーパニック」が挙げられます。「キマシタワー」の元ネタになった作品ですね。
この作品は最初、読者参加企画としてスタートしたのですが、「妹が兄(=読者)に相談する」という要素が、もの凄く叩かれました。他にも問題が多数あったこともあり、不人気企画に終わりました。
百合好きが視点を置いて感情移入する対象はヒロインであって、間接的であっても男の視点というものは邪魔でしかないということ理解していなかった故の失敗といえます。
後発のメディアミックス企画であるアニメ版は、その反省を活かし、モブに至るまで男を一切排除しました。シナリオの良さも手伝い、打って変わってこちらは名作の評価を得ています。
一番良いのは男を出さないこと(出すとしてもモブに留めること)。次善手は「理解者・支援者ポジション」として出すこと、それが無理ならせめて「恋の敗北者」として出すべきというのが、本項のまとめです。
③同性愛であるゆえの葛藤を描く
これは必須ではありませんが、同性愛であるゆえの葛藤描写を入れると、話に深みが出ます。「葛藤あってこその百合」というぐらい重視する人も居ます。一方で、同性愛がナチュラルに作品世界内で肯定されている人気作も少なくありませんから、この辺は頭の片隅に置いておいて、書きたい作風で決めるのが一番良いかと思います。
④百合とレズを使い分ける
これも必須ではありません。寧ろ私個人は無駄だとすら思っているのですが、「精神的な繋がりを重視したのが百合、肉体の繋がりを重視したのがレズ」などと、語源から考えれば、まったく珍妙な区分に拘る人が少なくありません(乱暴な物言いですみません)。ですので、一応ここに気をつけておくと、余計な不興を買わずに済むかと思います。
⑤女性読者受けを心がける
意外な感じがしますが、百合作品は女性ファンが多いです。初期の「百合姫」では読者の男女比率が3:7だったそうです。百合文化の源流が大正時代の少女向け文学で、近年少女向けラノベである「マリア様がみてる」の大ヒットから市場が広まったことを考えると、当然の帰結であるといえます。
ですので、女性が共感しやすいキャラクター造形を心がけたり、逆に女性に不快感を与えるような描写は極力避けたほうがいいでしょう。
⑥小さい市場であることを覚悟する
百合の市場は、大変小さいです。異性愛はもちろん、BLと比べてもとても狭いです。ですので、「百合作品で大儲けをしたい」という野心をお持ちでしたら、それは大変難しいと言わざるを得ません。
②で否定しましたが、異性愛メインの作品に異物のように混入させる手口というのも、理解できなくはないほどです。と言いますか、現在進行形で拙作でやっていたりします。百合カップルは主人公(男)に対して一切恋愛感情を持たせるつもりはありませんが……。
私も随分百合作品を見てきましたが、明らかに大ヒットしたといえる作品は「マリア様がみてる」。次点で「ゆるゆり」ぐらいだと思います。
これ以外だと、「百合市場の中では大ヒット作だけど、市場全体で見たら小ヒット」な作品か、いわゆる「きらら系」と呼ばれる、明確な百合作品ではないものになっていきます。
作家として暮らしていけるのはごく一部の人間だけですが、百合はその中でもさらに厳しい戦いになります。
⑦「お姉さまと妹」はもう古い
さて、六つの試練を乗り越え、「よし、生徒会のお姉様と妹キャラの百合でも書くかー」と思った方。残念ながら、そのノリは大変古臭いものになってしまっています。
「マリみて」の初アニメ化が2004年ですが、「らき☆すた」や「ハルヒ」よりも前なのです。今時らき☆すたやハルヒを萌え作品の最前線だという人が居たらちょっとどうかと思いますよね? 「お姉さまと妹」の鉱脈は、全盛期に掘って掘って掘り尽くされて、すでに廃坑になっています。
それ以前に、実はマリみてはこれといって新しいことをしたわけではなくて、大正時代のエス文学を現代に復古して、百合の再評価を招いたというのが最大の功績です。十三年どころか、百年ぐらい前のテンプレなんですね。
やってはいけないとまでは言いませんが、古臭いという評価はどうしても受けてしまうでしょう。
以上、百合作品を描くに当たっての七つのポイントでした。