夏の日の
幼い頃、夏の一番の娯楽は海だった。
潮風に全身をさらしながら、夜が明けぬうちに船に乗り込む。
太陽が昇りきらない真夏の空は清々しく美しい。
エンジン音を聞きながら、私は高く透明な空を眺めている。
刷いたような淡紫色の雲が徐々に薄紅色に変わっていく。
太陽は毎日見ているそれとは違う恒星のようだ。
海面が白い太陽光を反射して輝きはじめる。
海の上で見る朝日はどうしてあんなに神々しいのだろう。
浮き輪を片手に真っ先に島へ移る。
すっかり船に酔ってしまったけれどつらくはない。
待っていた海にようやく巡り合えたのだから。
強く照りつける太陽がじりじりと肌を焼く。
海水の冷たさを求めて海へと急ぐ。早く、早く。
遠浅の海は白い砂と透明度の高い海水に満たされている。
陸の方を眺めるといくつものパラソルが重なり合っている。
砂と海水の小さな楽園で人々は一生に一度しかない今年の夏を満喫している。
きっとハワイにだって負けないに違いない。
本物のハワイがどんなところなのかなんて知らないけれど、ふとそう思う。
白い砂浜には無数の小さな貝殻が落ちている。
波打ち際で洗われる貝殻を少しずつ拾っては選り分けていく。
小指の先の大きさにも満たない。
欠けたところのない巻貝はひとつの芸術品のようだ。
人間の手では決して作り出せない精巧な造形。
岩や貝が美しいのは地球の遠い記憶を映しているからだと聞く。
こうしてコレクションがまたひとつ増える。
誰かにもらった星の砂やさくら貝と一緒に窓際に飾った。
光に透かして振ると水の島の香りがたつ硝子の小瓶は私の宝物。
拾い集めた貝殻も星の砂も今はもうない。
しっかりと握りしめていたはずだったけれど。
きっと新しい宝物に目を奪われているうちに、地球に還ってしまったのだろう。
残るのはどこまでも青い記憶ばかりだ。