9話:悪夢の再来
「ハァハァ」
「兄さん大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
爆風の時に足首を捻ってしまったと思われる妹を背に学校へ避難を急ぐ柊二。
幸い、天斬家は学校に近い所にあり学校と街は少し離れている為【なにか】が襲ってくる可能性は低いだろう。
それにしても、
「酷い有様だな」
「そうだね。皆が脅えてる...」
逃げ惑う人々の中には、怪我人を運ぶ者や瓦礫に埋もれた人を助けようとする人がいる。
「それより兄さん?そんな物持ってお巡りさんには怒られないのでしょうか?」
そう言って遥香は柊二のベルトに帯刀された2本の刀を指さした。
「免許も許可証もあるから大丈夫だよーー多分」
柊二の腰には木刀、それに日本刀が付いている。
日本刀は善十朗が持っていくように強く勧めてきたので持って来ていた。
「そろそろ学校だ」
「ゆうちゃん、みかちゃん、皆居るかな...」
肩を掴んでいる遥香の手に力が入る。柊二はその力強さを感じて、妹が友達思いである事を少し嬉しく思った。
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妹を教室に送り自分も教室に向かう。どことなく不安を感じながらも教室の扉を開くと、そこにはかけがえの無い友達が大勢いた。
「天斬遅いぞ!」
「心配したよ〜」
「良かったぁー」
柊二が教室に現れたのはクラスメイトたちが集まり始めてから最後だった様で、彼の姿を目にした皆は安堵と心配の声を挙げていた。
「皆、ありがとう」
「何言ってんだよ友達がいなかったら心配するのは普通だろ」
「そうだよ、1人でも抜けたらうちのクラスは成り立たないよ」
いいクラスだな、柊二はそう思いながら帯刀していた2本の刀を机に立て掛けた。
「天斬、ちょっとこれ見せてくれよ」
「良いけど指切るなよ?俺の責任になってしまうからな」
やはり男子というのは刀剣や銃を見たら好奇心を抑えられないのだろう。
「おう天斬、随分と慕われてんだな」
「吉田、お前も無事でよかったよ」
俺達は互いの無事を喜び、腕を交わした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
学校の放送により全校生徒、及び避難者の人々は体育館に避難させられた。幸いにもうちの学校は広い体育館が2つあって片方は二階建てになっているので、スペースには困らない筈だ。
「しかし、自衛隊が来るまでここで避難とは」
「仕方ない、校舎だといつ敵に見つかるか・・・」
「ん?敵?何を言っているんだ?」
なんだ?吉田達の所には情報が行ってないのか?
「いや、ゲームだとこんな場面は敵が来るよなー(棒)」
「おお!確かになw」
柊二は、これ以上にパニックが起きないように【何かが人を襲う】事を伏せた。
「じゃあ、俺は妹の様子みてくるよ」
「おう、俺は中川とレミアさん呼んでくる」
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「遥香、足大丈夫か?」
「兄さん、心配して来てくれたの?」
「まあな」
遥香は友達にテーピングを巻いてもらっていた。
「こんにちは、お兄さん」
「先輩こんちわー」
初対面の筈の柊二に挨拶をする妹の友人達。幾ら先輩でも、部活等の関わりが無い限り、挨拶なんてしないだろう。
それでも挨拶してくれるなんて、なかなか良い子達だな。
「妹をよろしく頼みます」
「はい、任されました」
「任せてください!」
遥香も大丈夫そうだしそろそろ戻ろう。
妹や友人達に別れを告げ、吉田の元へ戻る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
午前0時26分
吉田達の元に1度戻った柊二は、体育館の窓際で刀を鞘から抜かずに眺めていた。ほかの生徒や避難者は眠っている。
あんな事が起きた後、皆が心身共に疲れているのだからしょうがない。
しかし、柊二は過去に今と同じ状況を体験したためか眠れなくなっていた。そこに、レミアが現れて柊二に話しかけた。
「天斬君、眠らないの?」
「ごめん、起しちゃったかな。俺は良いんだ、眠れないんだよ」
「ううん、私も眠れないの」
「そっか・・・」
2人は窓の外の世界を見ている。そこには燃える家々に壊れたマンション、傾いていたビルは片方も巻き込んだまま倒れてしまっている。
「どうして....こんな事に....」
「・・・・」
柊二が打ちひしがれてる中、レミアは黙っていた。
そして少しの沈黙が流れた後にレミアは突然に告げる。
「私の....せいなの....」
その言葉に柊二は耳を疑い、彼女の方に顔を向ける。
そんな彼女は俯いて肩を震わせている。
下を向いていても分かる。彼女は泣いているのだろう。シクシクと啜り泣く声が微かながら聞こえるが、それでも声を抑えるのは皆が起きてしまうからだろう。
「どうして自分せいだと思うんだ?」
柊二は問うが、
「私が女神だから」
彼女はいつかの日のように答える。
『またその言葉か』
「こんな中で冗談を言うなんてな....」
「冗談なんかじゃない!私のせいで奴等が....」
『奴等?奴等って敵の事か!?』
「なんで君が敵の事を知っているんだ!?吉田達も知らない情報をどうして君が!」
柊二はレミアの肩を両手で掴み問い詰める。今の状況には、少しでも多くの情報が欲しいから。
「教えてくれ!奴等はなんだ?なんで俺達を殺そうとするんだ?」
「分かった、教えるから静かにして」
そうだった、他のみんなは寝ているんだった。
「それで、奴等はなんだ?」
「奴等は私の力を狙って来た魔物よ」
ここまで厨二病が悪化しているとは...。
「それで、奴等らと奴等の目的は分かった。しかし、なんで俺達を殺そうと?」
「彼らは幽霊と似た存在で人間を殺して霊魂を糧としているの」
成程。となるほど俺も冗談には付き合えないが彼女が真面目な顔つきで話すから相槌を打つしかない。
「取り敢えず、俺達も寝よう。少しでも体を休めとかないといざって時に動けないからな」
「そうね、私も少し寝るわ」
俺はその場に横になり刀を横へ置く。正直、1人で眠りたい気分なんだ。あの日の夜と同じ光景を見たせいで1人になりたい所だった。
「それじゃ、俺はここで寝るから」
彼女にそう告げる。
「そう、分かったわ」
彼女はそう言うと何処かへ行った。おそらく吉田達の所だろう、そう思い目を瞑り、眠りに入った。
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モゾモゾと何かが俺の横で動く。
なんだ?今は0時43分、さっきレミアさんと別れてから時間が経ってない。
いつの間にか柊二の体にブランケットがかけられていた。
俺、寝る時掛けてなかったよな?まさか...。
恐る恐るブランケットをめくると、
「おはよう」
レミアさんがいた。
「ちょっ、何でここに!?」
「静かにして、みんな起きちゃう」
ギュッとレミアが柊二を抱きしめる。
「ちょっとレミアさん?その、あ、当たってるんですが...」
「当たってるって、何が?」
少し困らせる様に悪戯っぽく微笑むレミア。不意に抱き締める力が強くなる。しかも脚を絡めて来た。
「ちょっと...」
「なに?もしかして嫌?」
背中に抱きつかれてる訳だから向きは変えられないが声は哀しそうだった。
「嫌じゃないけど――」
「なら良いじゃない』
柊二は我慢していた。彼も男、ましてや思春期でもあるので色々と考えてしまう。密着しているせいか彼女の柔らかさが伝わり、いい匂いもする。それでも理性が耐えているのは、武術で精神を鍛えたからであろう。
柊二は上半身を起こして言う。
「やっぱり駄目だ、ブランケットは使っていいから離れて――」
「行かないで!」
レミアが叫ぶ。それでも彼女なりに皆を起こさないように気遣ったのだろう。誰1人として起きない。
「もう、1人は嫌よ・・・」
「分かった、俺はここにいる。君を1人にしない」
そう告げると彼女はスゥースゥーと寝息を立てて眠ってしまった。その顔は安心しきったような顔をしていた。
柊二もレミアが寝た事を確認して再び眠りについた。