7話:空回りした思い
いつもの様に朝5時起きをし、マラソンから始める柊二。
ただいつもと少し違う所は、悩みが無くなりスッキリとした気分で朝を迎えることが出来た。
マラソンから帰ってきて素振りをするも、いつも異常に集中して剣筋が鋭い気がした。
ブンブンッブンブンッ
「お爺ちゃん、兄さんどうしたの?いつも異常に元気...と言うかやる気に満ち溢れてる気がするんだけど」
「さあ?昨夜、何かあったのかのう....」
柊二の奴、儂と別れた後に何か分かったようじゃな
「ふーん、お爺ちゃんも兄さんも変なの」
遥香は道場から出て、朝食の準備に向かった。
ブンブンと勢い良く素振りをする柊二を善十朗は道場の縁側に座り眺めていた。その顔は孫を見ると言うより、息子を見ている。そんな顔だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
朝食を終えて登校した柊二は教室に入った。
「よう天斬」
「天斬君おはよう!」
吉田と中川さんが既に登校して談笑していた。
「ああ、2人ともおはよう」
柊二が挨拶をすると2人は目を丸くした。吉田に至っては口も開いている。
あれ?俺、どこか変かな?
そう思った柊二はザッと自分の服装を眺める。指定された制服に白の靴下、ネクタイもしていてどこも変じゃないはずだ。
「なあ、2人ともどうしたんだよ。そんな珍しい物を観るような目で」
柊二は2人に返答を求める。すると2人は急に立ち上がり柊二に迫ってきた。
「お前は一体誰だ!」
「お願い、天斬君を返して!」
予想外の答えが帰ってきた。
「お前ら一体どうしたんだ!?」
訳が分からない俺は2人に唖然とし、質問を返した。
「お前は誰だと聞いているんだ!」
「私が知っている天斬君はそんなんじゃないよ!」
中川さんには俺が一体どう見えているのだろう?
柊二は2人の反応だけでなく中川さんの発言も気になった。
「2人とも落ち着k」
「「俺/私の知っている天斬(君)を返せ/返して!!」」
2人の息がぴったり合った発言はクラスをざわつかせた。
「あれ天斬君?」
「なんか雰囲気違くない?」
「あれホントに天斬か?」
あれって言うなあれって。
取り敢えず、雰囲気が違うと分かった事だから多分昨日の悩みが無くなって緩んだ顔をしているからだと思う。
それから柊二は悩んでいた事が解決したから晴々としているとクラスメイトに言って回った。
俺が理由を話し終わった頃に悩みの種だったレミアさんが登校し授業が始まった。
よし、普通に振る舞うぞ。
柊二は昨夜決めた事を思い返して授業を受けた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「よし」
放課後になった俺はレミアさんに話があると言って屋上に来ていた。もう時刻は夕暮れだ。昨日彼女に呼び出された頃もこんな景色だった、と柊二は思い出していた。
「ん?待てよ?今の状況を考えてみろよ俺」
昨日と同じ時刻、人がいない屋上に俺はレミアさんを呼び出した。
「これって告白する時の状況じゃないか!」
柊二は今の現状を知り急に気恥ずかしくなってきた。
まさか周りに誰もいないよな...
柊二が屋上を見渡すと空調機の所にいて欲しくない見慣れた2人がいる事に気が付いた。
「...なにしてんの?」
「天斬が何やらレミアさんを呼び出したと聞いて」
「ジャーナリズムに火がついたんだよ!」
言い訳もしない2人は見学をしに来ていたようだ。
それよりも
「中川さん、まさか校内新聞にしないよね?」
「・・・あはっ♡」
柊二は剣道で鍛えた踏み込みで距離を詰めて中川さんのカメラを奪いメモリーカード抜き取った。
「止〜め〜て〜よぉ〜!」
「新聞にするの止めてよ」
「だって天斬君で【転入生レミア、転入2日で100人から告白!滅多斬り!】が作れるんだよ!」
名前のセンスが酷いな、それともう99人に告白されてるのか。
なんだかんだ二人とやり取りをしているうちに屋上の扉が開く音が聞こえた。
「来たかな?」
柊二が振り返ると同時にドアが開きレミアがやって来た。
ふと、目を戻してみると吉田と中川さんの姿がない。二人がいた空調機の所にもいない、屋上は隠れる場所なんて少ないのに2人の姿が消えていた。
「ねぇ...」
不思議に言葉を発したレミアに、柊二は振り返り、話そうとしたが急に緊張し始めてきた。
落ち着け俺、別に告白する訳じゃないんだから。
大きく深呼吸して覚悟を決めて言う。
「あのでしゅね!」
「・・・」
少しの沈黙と静寂で俺は徐々に顔が熱くなるのを感じる。
『しまったぁぁぁ!なに噛んでるんだよ俺!しっかりしろ!』
赤面している柊二をよそにレミアは黙っていた。
ふふ...
ん?なんだ今の音?声?
「プッ、アハハハ!」
「!」
どうやら彼女が笑っていたらしい。
「こんな大切な場面で噛むなんて可愛い」
「やめてくれよ」
俺は俯いたまま答える、きっと酷く赤面しているに違いない。
それにどこであの愉快犯の2人が見ているのか分からない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「どう?落ち着いた?」
しゃがんでいた柊二の顔を覗き込むレミア。
「ああ、もう大丈夫。それで話しをしたいんだけど」
そう、本題はここであってさっきの事は茶番だと思って欲しい。
レミアは柊二が話すのを黙って待っている。
「昨日の...君が女神様であると言った件なんだけど」
彼女は黙って話しを聞いてくれる。
「君と別れた後、俺はかなり悩んだよ。どうすればいいのか分からなかった」
「そして俺は俺なりの結論が出せた」
「それは何?」
黙っていたレミアが聞いてくる。
俺は、伝える為にここへ彼女を呼んだんだ。もう心では決まっていた言葉を彼女に伝える。
「俺は君を特別扱いしない。吉田や中川さんの様に皆と同じ様に君と接する」
言え!もう迷うな!悩む必要なんかない!
「周りがどんな事を言おうが俺は君の味方である事を誓うよ」
「・・・」
言い切った俺は彼女の眼を見つめる。
「...ありがとう」
彼女の返事は実にシンプルだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
柊二とレミアは2人で下校している。
別に話しが途切れる訳では無いけれども少し気まずい。そこで柊二は場を盛り上げようと知人がレミアと同じく厨二病である事を話してみた。
「まさか、レミアさんまで厨二病とはね」
ピタッとレミアは歩いていた自分の脚を止めて柊二の発言に耳を疑った。
「天斬君今なんて...?」
「ん?だからレミアさんも俺の友達みたいに厨二病なんだねって話だけど」
すると、急にレミアが声を荒らげて柊二に迫る。
「天斬君、私の何処が厨二病なの!?」
柊二は彼女が怒っている理由が分からなかったが、なんで厨二病と思ったのか伝えた。
「レミアさん昨日俺になんて言ったか覚えてる?」
「ええ、私は【女神】なのよ...て、あっ!」
ここまで来ると彼女は理解したようだ。自分が何を言ったのかが。
急ににレミアがしゃがんでしまい柊二は心配した。
「どうしたの?大丈夫?」
屋上とは立場が逆になり顔を覗き込む柊二。そこには顔を真っ赤にしていたレミアの顔があった。
「私ったら初対面の人に何を言っていたのかしら。間違って...いえ女神なのは間違っていないけど、それでも〜」
「え?なんか言った?」
「言ってない!」
「怒ってる?」
「怒ってない!」
ヤバイ、なんか可愛い。もしかして俺ってSなのかな?
そう思いながらも何度も攻めてしまう自分がいた。
こうして柊二はレミアに自分の意思を伝えて1日が終わった。当分、レミアの厨二病弄りをする事のある日常が出来た。
しかし、柊二は数日後に自称女神のレミアが言っている本当の意味が分かる事を今はまだ知らない。