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2nd Life:異世界で英雄になった剣士  作者: 太古
第3章:神話と伝説
42/42

42話:代理の王

大学受験終わったぜー!

これから投稿出来るようになりますd('∀'*)

王都奪還から半日経った今、柊二を含めた一行は王都の兵舎にて休息をとっていた。流石は王都の建造物、島にある兵舎の倍以上の大きさに耐久性を誇っている。幾人もの見張りに挨拶をし、上官との交渉で使用権を得る事が出来た。


兵舎には負傷者が多く、ベッドの数も足りていない。柊二は隊の中から医療班を選出、負傷者の治療を任せ、動けるものには王都の警備隊と憲兵隊を指示した。


当の本人といえばフードを被った人物と街中を歩く。至る所で半壊、全壊している家々は少なくないように見受けられる。路地裏には瓦礫から使える物を探す者、廃木で焚き火をする者、横たわる者にしがみついて声を上げる子供。戦争という行為の対価ともいえ光景が目に飛び込む。


「殿下、心中お察しします。お辛ければ――」

この土地を統べる王族の一員(王の娘)として、愛すべき国民、守るべき民の惨状を目にするシルフはさぞ辛いだろう。柊二はそう言うがシルフは決して目を逸らさない。


「いえ、(わたくし)は決して目を背けません。誰がなんと言おうと私だけは目を逸らしてはいけないのです。この悲劇を、この惨状を、後世に伝える事こそ私の使命ですから」


「――ならば私も口を挟むのは無粋と言うもの」

柊二が見据えるのは目の前に(そび)え立つこの国最後の要。そこに辿り着くまでの道は長い。歩く度に微かに触れるシルフの肩が震える度に奥歯を噛む力が入る。


この惨劇を繰り返さない為にも尽力を尽くそうと再度考えさせられる。それが例え自分の命を引き換えにする事になったとしても、今の柊二なら真っ先に差し出すだろう。彼の中のメルセリアはそれ程までに価値のある物だと位置付けられていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「歓迎しよう、ようこそメルセリア皇国へ。そして感謝しよう、我らが命の恩人よ」

謁見の間にて柊二は片膝を床に付け、(こうべ)を垂れる。以前教えて貰った騎士の礼儀、付け合せの形式だけでもしないよりかはマシである。


「恩人に頭を垂れさせる訳にはいかない。頭を上げて頂きたい」

その声に反応を示し、柊二はゆっくりと頭を上げる。中央の玉座を中心に円を作るように高価な椅子が並び、いかにも貴族という装いの男達が腰を下ろしていた。


「さて、此度の例を致したいのだが、生憎今の我等に貴殿に与えるに値する適当な褒美が無い。故に戦いの後に改めて与えたいと思っている。貴殿の名を教えて頂けるかね?」


「お初にお目にかかります、私の名はオルテア・ファル・アルバート。祖国の為に微力ながら尽くすことが私の使命であります」

柊二の見据える男は柊二(オルテア)の名を聞いた途端、(しか)めたような顔をする。


「はて、アルバートと言う名に聞き覚えが無いのだが。誰か()の名を知る者はいるか」

玉座に座る男が以前聞いたロットリアーノという男なのだろう。彼を代表とした貴族中心の政治体制が今のメルセリアの現状である。彼を含めた5人は互いに顔を見合わせると同時に首を横に振る。ロットリアーノが何を思ったのか軽く目を瞑ると溜息を吐く。


「貴殿は騎士であり、領家の名を名乗る。だが誰一人として貴殿の 名を知る者はいない。・・・・貴殿に問おう、何者だ(・・・)

柊二の額に冷や汗が滲む。この世の者ではない彼の名を知る者がいる筈ないのは、柊二も薄々気づいていたが、このタイミングで不審に思われるとは考えてもいなかった。


下手なことを言えば投獄も免れないかもしれない。その程度で済めばいいのだが。

わずかな時間で頭を回転させるが答えに息詰まり、この場を切り抜けられそうにない。暫し続く返答の無い沈黙が謁見の間に響いていたが、次に口を開いたのはロットリアーノのだった。


「答えられぬか、ならば後ろに控える貴殿の従者(・・・・・)に問おう」

ロットリアーノの右手は軽く上がっている。それを合図に柊二の背後では物音がし始める。柊二は素早く背後に振り返るとそこでは2人の衛兵に1人が取り押さえられそうになっている。


「止めろ!彼女に手を出すな!」

柊二が声を荒げて静止を呼び掛けるも衛兵はお構い無しに掴みにかかる。剥き出しの剣に手を掛ける既のところ、頭上からも木の軋み、弦の引き絞る音が聞こえる。全方位を矢が狙っていのを感知するのは容易であるが、全てを防ぐのは不可能であった。


「その剣を抜けばこの場は血に塗れることになるぞ。さぁ放浪の騎士よ、お前の力(・・・・)を私に寄越せば安全は保証しよう」

「それは俺の仲間か、それとも――」


柊二の問いに不敵な笑みを浮かべるロットリアーノ、柊二は焦りからか脳に痺れる感覚が走る。


その両方だ(・・・・・)

『俺の予想は当たっていたようだな。俺の目の前にいるこいつこそ――』

「お前が内通者か!」

「ハッハッハ!ご明察だよ英雄(オルテア)よ、お前の()を奪い、兵を始末すれば全ては私の脚本通りに事は進む!」


立ち上がりざまに笑っては自分の正体を明かすロットリアーノ(内通者)。端から柊二を生きて返すつもりは無いのか、衛兵に弓を下ろさせるつもりは無い。四方は敵に囲まれ、ローブの女性(シルフ)を人質に取られ、まさに絶体絶命な状況に陥った。


が、そこで謁見の間に入る唯一の扉が勢い良く開かれる。誰もが扉の方に視線を向けるとそこに立っていたの一人の男だった。


「いやー、何やら楽しそうな事やってるね。僕も混ぜてくれないかい」

そこに立っていたのは着飾った訳でない男がにこやかな笑顔で立っている。兵士なら兵士らしい(さま)を、貴族なら相応しい装いを、騎士ならそれなりの礼節を。ただ、現れた男はどれにも当てはまらない。


その男が誰なのかも分からない皆は、道化師以上の道化だと思っただろうが1人だけその男の正体を知っていた。

その男は何食わぬ顔で軽快な足取りで中央に歩み寄る。革靴の床を叩く音だけが謁見の間に響く。1歩、また1歩と進むその足取りは軽いもので、誰もが気がつく頃に男は既に柊二の横に立っていた。


「君の所ではなんて言ったかな?・・・・そうだ、主役は遅れてくるものだろ、ってね」

「あんた、どうしてここに――」

「まぁ、ちょっと用があってね。特にその男に(・・・・)


にこやかな表情で話す(善神)は、柊二と初対面した以前と変わらない様子だった。彼の挙がった右腕、右人差し指が差し向けられた先に居たのは険しい眼差しをするロットリアーノ。


「そうか、貴様は――」

「僕は確かに()を創った。それが僕の犯した最大の罪、汚点、終焉の始まりだった」


腕を下ろした彼はゆっくりと足を進める。その先はロットリアーノへと確実に歩んでいた。他の者は彼を眺め、ロットリアーノはその場に佇んだまま彼が近づくのを拒まない。


「人は誰しも脆く、愚かな生き物だ。それは人間の模範(モデル)となった()も例外では無い。僕が知能を与えた事で人は思考し始め、時に恩恵を(もたら)し、時に悪行を思いつく。戦争を悪だと考えられない人間を僕は後悔している」


「だが、僕は人間が好きだ。後悔はしていても嫌悪は無い。何故なら僕は人間に知能の他にもう一つ(・・・・)大切な物を与えたからだ」


男が立ち止まった時、ロットリアーノとの間は僅かな空間のみ。手を伸ばせば掴みかかる事が出来る距離に2人は対面している。余裕ぶった男に反して、ロットリアーノの顔は怒りで前を見据えて敵意が剥き出ていた。


「貴様、何を与えたと言う」

男が現れてから殆ど沈黙していたロットリアーノがか細い声で呟く。男はその言葉に反応する様に薄笑いを浮かべてから自分の胸に手を置く。


「・・・・心さ」

「心、だと?」

「そうだ。僕は知能以上に大切な【心】を人間に与えた。そうすることで人間達に善と悪を区別させたんだ。・・・・知能の持つ動物は所詮、利口な動物でしか無い。感情()という物を始めて得て人間は人間となったのさ」


「笑わせてくれるわ。貴様の言う心を与えられた人間が貴様に、貴様の民に何をしているか忘れたか」

「確かに僕が与えた心も人間と同様に脆い。悲しみや恐怖でいとも容易く崩れる、ガラスのような存在」


ロットリアーノの反論に、男はヘラヘラとした軽い表情から一転して目の前の男を見据える。その顔は柊二が以前にも見た事のあるものだった。


「悪に染った人間がこの戦争を続けているのは明白な事。村を焼き、農作物を奪い、罪なき民を傷付け、殺し、土地を我がものとする。それは心を持った人間が(おこな)っているのも、又真実だ」

「そうだ。貴様が愚かにも人間と言う生物を創り上げた事で、事態は起こったのだ。端から貴様の享楽で人間などと言う下等生物を創らなければ良かったのだ」


落ち着いた話し方をする男にロットリアーノの言葉は突き刺さる。自らの悔いを目の当たりにし、男の顔はどこか寂しそうに感じられる。


「人を創り、()を創った事で戦争は避けられないものになった。君は僕の悪しき部分を具現化した存在だ」

「そうだ、俺は俺で貴様は貴様といった別の人格、別の性質を持った存在。だからこそ、お前がどこかで望んだ事(・・・・・・・・)を俺は実現させようとしているだけだ。貴様の罪は俺を創った事では無い、貴様の弱さが招いた現実だ」


いつの間にか辺りは2人の論争を聞き入っていた。それは柊二を含めシルフ、他敵兵も武器を持つ手から脱力し、武器を下ろしていた。


「確かに僕は弱い。人をまとめる事も出来なければ、直接介入する事も出来ない。今の君のように誰かに影響を与えることもできない。・・・・それでも、君が持ってないものを僕は持っている」

「ほぅ、言ってみろ」


男は見据えていたロットリアーノから初めて顔を離す。ゆっくりと振り向いた気にいたのは1人の騎士。騎士もまた、男と視線が交差する。


「僕を慕う者だよ。君との違いはそこさ」

「何を言うかと思えば・・・・。貴様に居て俺に居ないはずが――」

「君の民は民では無い!悪によって心を奪われ、傀儡として動かされているだけの者達だ。強制支配による人々が君を慕っている訳が無い!」

呆れて溜息を吐いたロットリアーノの言葉に、男は強い言葉で被せる。


「前がある限り悪もある。それまた然り、悪がある限り善はある。この戦争にあるのは善悪のどちらか。民が悪に染まって君を崇めるなら、善を掲げる者がいる限り、僕は彼等の為に全力を尽くして悪を打ち払おう!」


男が声を上げると同時に左手を前に突き出す。瞬間、空間を埋め尽くさんばかりの無数の粒子が浮かび上がっては宙を浮遊し始める。


するとどうだろうか、突然ロットリアーノが呻き声を上げて体を左右に揺らして苦しみ始めた。男を除いた他の者達は今の状況を飲み込めていないのか、動揺を隠せない。


「騎士君、何をボサっとしてるんだい!君の(ミラ)で奴を仕留めてくれ!」

「わかった!ミラ、出番だ」

油断していた羽交い締めをする敵の顔に、自分の後頭部をぶつけて拘束から解かれる。腰にぶら下がった剥き身の剣を手に取ると、刀身が砕けて粒子になって新たな刀身を生成される。


「もう限界だ、早く!」

男の声に反応して柊二は目の間に集中する。向かう先は男の横、目の前に標的が来る立ち位置を一点に見つめる。目に熱を感じると瞼を閉じ、体は目的の場所へと粒子になって流れて行く。


開眼と同時に目の前に剣を突き出すと剣を握る手に不思議な感覚が伝わる。剣は確実にロットリアーノの腹部を貫き、背面から刀身が飛び出ているのにも関わらず、肉を裂く感覚を感じられない。例えるなら無空、何も無い空虚なのに重い霞に箸を触れさせただけの感じるか感じられないかも分からない感覚だった。


「これが最後ではないぞ。この男は俺の傀儡(くぐつ)に過ぎない。既に全軍はこの地に向かって進軍を始めた。精々最期の刻を過ごすが良い」


貫かれて脱力したロットリアーノはそう言うと黒い影となって姿を消した。男は構えていた腕を下ろし、柊二もまた柄から手を離すと空中で剣は砕け散って消えた。


「やったのか?」

「いや、奴の言ってた通り今ので終わりじゃない。今のはあくまでもこの国の機能停止を謀った操り人形さ」


いつの間にか宙を漂う粒子も消え、ロットリアーノが消えた謁見の間に変わった。暫くの静寂から柊二はふと気づいた。シルフに手を掛けていた兵士の事を。


「殿下!お怪我は――」

柊二が振り返った時、シルフは呆けているのか柊二の言葉に気付くのに数秒かかった。見る限り何処にも外傷が無いようで、柊二は胸を撫で下ろす。


シルフの安否が見受けられたのは何よりだが、それ以前に柊二が気になったのは、シルフを手にかけていた兵士の様子であった。

彼は何処か遠くを見ているのか、何ら反応を見せずに心ここに在らずといった状態に陥っていた。

「彼らは?」

「どうやら、奴の支配下によって心が蝕まれていたようだ。そのうち元に戻る筈さ」


シルフの近くの兵士だけでなく、よく見れば席に座った貴族達も各々頭を振ったり、抱えて何かを考える素振りを見せていた。


「さて、ひとまずは安心していいかな。最大の脅威が消えたわけじゃないけど、王都の危機は去り、暫くもすれば都民の支配も解けるはず」

柊二、シルフを除いた謁見の間にいる兵士を追い出した男は、先程までロットリアーノが座っていた椅子に腰を掛け、足を組んで楽な体勢をとっていた。


「オルテア様、あの御方は?」

元とはいえ圧倒的な立場において権力をも持ち、知らぬ人などいない知名度のある王族を目の前にして、飽きれるほどに寛ぐ男にシルフは不信感を抱く。


だが、不思議と目の前の不敬な男に安心感を覚えていた。例えるなら、父親(・・)の様な存在。


「・・・・ロクでなし(善神)、ですかね」

「あれ?僕って思ったより好感度低い?」

「いきなり差出人不明の手紙送り付けて来たと思えば、俺の痛い所を揺すって軍団長に仕立てた奴がロクでなしじゃないとでも?」

「えぇー、僕は君を思って提案したのになー」

「ミラ、お前はどう思う」

「解。創造主には自己責任と言う考えがないようです」

「お前までそんなこと言うのかい。そうかいそうかい、どうせ僕は役たたずですよ」


かと思えば今度は子供っぽく拗ね始めた男。口を尖らせてブーイングをする彼に、柊二は肩を落として溜息を吐く。ミラも何を考えてるのか分からない表情でいるが、呆れているのは感じ取れる。


「あれ?君は――」

駄々を捏ねた顔の男の視界端に映った少女に目が留まる。彼は取り繕った様に澄まし顔で彼女の元へ歩み寄った。


「お初にお目にかかります。私はこの国を治めていたバルトロ・フォト・メルセリアの娘で――」

「知っているとも。バルトロの娘、シルフ・フォト・メルセリア。4歳で慈善活動に取り組み、その4年後には王都周辺の村では貧困が消滅。国民の寵愛の象徴、まさに慈母とも呼べる女性。」

『慈善ねぇ、国民を愛する殿下らしい』


殿下の前で片膝を床に着き、彼女の手を優しく取ると、その甲に軽く口付けをする。

「そして、後の救国の女王――それはもう少し先か(・・・・・・)

ゆっくりと立ち上がった男の顔は、笑っているものの柊二には分かる。その目の奥に隠されている哀れみを。彼女もまた歴史に翻弄された悲劇のヒロインだと言う事を。


「それはどの様な意味でしょうか?」

何の話か理解出来ていないシルフは頭に疑問を浮かべる。男は僅かに微笑むと彼女に顔を近づけ、そっと耳打ちをする。

「さぁ、何だろうね。もしかすると君の騎士様が何か知っているかもよ」


耳打ちを終えた男は横目に、シルフは真っ直ぐ、同時に柊二の方へ視線を送る。耳打ちをしようと顔を近づけようとしていた時から、柊二は胸に湧く濁った感情を抑えながら様子を伺っていた為、自然と3人の視線は交差する。


「さて、与太話も良いけれど本題はここからだ。王都に蔓延る悪を取り払ったのはいいが、誰がここを治めるかが問題だ」

男はシルフの元から踵を返し、再び椅子に向かうと腰を下ろして口を開く。扉の近くで立っていたシルフも男の後ろを付いて歩くと、柊二の真横に移動した。


「誰も何も、ここは王家の治めていた街だ。必然的に殿下が治めるべきじゃないのか?」

男の言葉に疑問を持った柊二は、自然と口から疑問が溢れていた。だが、男もシルフも困り顔を作る。2人がその様な顔をする理由が柊二には理解出来ていない。


「いいかいアルバート卿。確かにこの場に相応しいのは王の血筋を持つ彼女だ」

「だったら――」

「だが、王族の処刑が君が彼女を救い出した事をまだ国民は知らない。その上この王都に伏兵が潜んでいないとも限らないだろう?彼女の台頭が公になってしまえば最悪の事態も予想出来る」


シルフの救出が成功した後、今だ公になっていないのは処刑の行われた街で柊二があえて伏線を張っていたからである。直後の柊二もシルフに危害が及ばないように、と考えていた為でそこまでは共通の考えがあった。

だからこそ王都が奪還された今、シルフが王家の生き残りとして台頭する事を予想していたのだ。


だが、男の考えは柊二よりも先を見据えている。実は王家の生き残りがおり、再び玉座に戻って来た。戦争により疲弊した国民の士気は戻るかもしれないが、王都に潜む伏兵がシルフを亡き者にすれば再び暗雲が立ち込めると同時に、戦後この地を治めようと内部抗争が起きかねない。男はそこまで考えての話をしていたのだ。


「それについては(わたくし)も同様の考えでいます。今の世で私が王位を継いだとしても、王権を認められるのは難しいかと」


王家の一員としてある程度は誠司に精通しているシルフもまた、男と同じく、現状での王位の権力はあった所で雀の涙程のもの。国民が求めている物は、一刻も早い戦争の終結と戦争を終わらせる為の希望となる物。

僅かな時間と操られていたとは言えど、王不在の王都は貴族によって少なからず機能していたのは事実ではある。


「となると代わりが必要になるね」

「代わり?何の?」

「決まっているだろう。終戦まで民を導く指導者()の代わりさ」

「・・・すまないが俺は政治については力になれそうにないな」

柊二が肩を落とし、首を横に振る。その様子に男は苦笑を零している。


「そのようだね。まぁいいさ、もう代わりの目星は――」

男が言葉を発する最中、人の呻き声が彼の言葉を途切らせた。声のする方には、これまで上の空でいた貴族達が額を抑えながら首を左右に振っていた。酷い頭痛、目眩と戦っているようにも見える。


「さ、させんぞ。再び王家の台頭など、我々は認めない」

それは男のすぐ左に座る高貴なローブに身を包み、見白髭が印象的な老人が口にした。

「例え操られようとも自我はあった。お主等の話も全て鮮明に残っておる。それに我々枢機卿は独断で奴に手を貸す事に決めていた」


「ほう・・・・、理由を教えて頂けないかな」

「人類の発端から今日に到るまで、この地は王という指導者の下で繁栄してきた。だが、本来の人間とはこの様な仕来りの中で生活するべきではない。野を駆ける兎然り、天を巡る鳥然り、人類は常に平等であるべきだ。奴は言った、本当の泰平とは誰もが無に帰した世であるべきだと。故に儂らは奴の言葉に耳を貸し、真の人間の姿を取り戻すべく計略を図ったのだ」

老人はまるで演説家の様な饒舌っぷりで答える。彼の様な扇動者がいれば都民の中でも貴族の肩を持つ者が居てもおかしくないだろう。


「それが王家の追放、か・・・・」

政治に疎い柊二でさえ、彼の言っていることが理解出来たし何よりも共感出来る部分もあった。民主主義の国に生まれた柊二は、国民の中からリーダーを自分達で選出する為、初めから王族が統治する事が平等では無いと分かる。


「それにだ、我々貴族院の統治は正統性を持ってるからこそ成り立っている。今のこの国に王は必要では無い!」

次第に意識がはっきりとしてきた老人は熱烈な口答を始めた。その他の貴族達も口を出さないが意識は戻り、目で柊二達に訴えかけていた。


「・・・・五月蝿いなぁ」

男がそっと囁くように言葉を発した刹那、事を静かに見守っていたシルフの背中に電流が走る。次第に肩が震え、足の力が抜けていく感覚、迫り来る恐怖(・・)は声を出すことさえ許さない。それは彼女以外に貴族達にも同じ症状が見られる。


さきの穏やかな表情から一転、まるで全てを嘲笑う様に冷ややかな目で男は老人を見詰めていた。

『なんだ、この重圧にも似たこの感じ・・・・』

シルフ達程酷くは無いものの、柊二もまた一滴の冷や汗が頬を伝う。ふと気づくと柊二の横にはミラが立っていた。男と対面する形で立っていた彼女は、ゆっくりと口を開いた。


「創造主、無闇な神威を使う事はお互い(・・・)に悪影響です」

一歩も引こうとしない無表情なミラと今だ鋭い目付きをする男が視線をぶつけ合う事数秒。男は軽く目を閉じて一息吐くと肩の力を抜く。


「僕もちょっと大人気(おとなげ)なかったかな。子供達には伸び伸び育って欲しいけど、叱責も親の務めだからさ」

男の顔は元の穏やかな様子に戻っていた。男が戻った時、それはシルフ達が感じていた恐怖心も取り払われてる。


「い、今のは・・・・」

ようやくシルフが過ぎた恐怖によって自分の両腕で体を固めてた頃、貴族達は震えた足に力を込め、全員が扉に向かって走ろうとしていた。

「まぁ、待ちなよ」

男の言葉に貴族達は足取りを止めて振り返る。先程の恐怖心が埋め込まれたのか、貴族達は誰も男に反論しようとはしない。従順な人間となった貴族達を見て、男は笑みを浮かべてこう言った。


「僕の作案を飲み込む為の役割を君達に与えよう」

その笑みはチェス盤のコマを動かすチェッカーの様に、敵を罠に嵌めた軍師のように、楽しさの中に不敵な物を隠していた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

長テーブルに備えられた長椅子に腰を掛けていた柊二。彼の手は自分の剣である少女の頬を伸ばしたり捏ねたりして弄っていた。ミラもやられるがまま抵抗する事無い。寧ろ触れられて満更でもない幸せそうな顔をしている。


「お前の創造主(善神)も酷いもんだよな。何を言うかと思えばいきなり「事が決まるまで席を外してくれないかい?」だってよ。そりゃあ俺は異世界人で未来人だから国内情勢なんて知らないけどよ、除け者扱いは無いよな」


謁見の間を追い出された柊二は、街の見回りをする自軍兵に城を案内させてから食堂で1人待つ事にした。食堂はあまりにも静かで人の気配すらしなかった。テーブルクロスの掛かった長テーブルが幾つもあり、高級感のある部屋で誰が見ている訳でもないのに身構えるのだが、やがて緊張が溶けた頃に暇を持て余し、ミラを呼び出してはこうやって弄り倒していた。


「へふははふはぁ、ほふほふふほはふはひほはひひゃひよひょふはふひはふ」(ですがマスター、創造主の企みも大体予想がつきます)

「予想?」


伸びきった口元であやふやと話すミラの言葉を何故か理解している柊二。ミラの口元からそっと手を放すと彼女は少し名残惜しそうな声を漏らす。


次にミラの言葉を待つ柊二。彼女が口を開く、と同時に扉が勢いよく開く。唐突な物音にすぐさま振り返るとそこには満面な笑みを浮かべた善神が立っていた。


何やら嬉しい事があったのか、その表情はまるで新しい玩具を手にした子供のように無垢に見える。まぁ、それは傍から見ればの話だ。


柊二は薄々気付いていた。この男がこんな笑顔を見せるという事は何かいい事があったの(碌でもない提案)だろう。ロクでなしを見る目が自分(善神)へ当てられるのを感じているはずにも、お構い無しに柊二の方へ歩み寄ると肩に手を乗せてこう言った。


「おめでとう、君が新しい王だ!」

僅か三名しかいない静かな食堂に谺響(こだま)する善神の声。その声は壁という壁を反射して、一度巡って柊二の鼓膜を刺激した。

耳に入った善神の声を波長として捉え、すぐさま視覚神経系を経由して脳へと伝わるも、ほんの僅かな時を作り出した。意味は分かる。だがその意味は、柊二の脳の処理能力を飛び抜けた故に最早フリーズに至る。


柊二のフリーズで作られた僅かな時間。固まった柊二を他所に、分かりきっていたミラはその小さな口から溜息を零して姿を消した。


ミラが消えたその後、おおらかな笑顔の善神の腕には小さな振動が伝わる。発生元は調べる必要も無い。彼の目の前には肩を震わせた男が鯉のように口を開閉しているのだから。


何かに取り憑かれたかのように数度の開閉を繰り返した柊二が「・・・・だって」と、か細い声が聴こた気がする。


「んん〜、なんてなんて?」

肩から手を離した善神は耳に手を当て、柊二の口元に近寄った。その瞬間、見計らったように柊二は大声を挙げた。


「なんだってぇぇぇぇぇ!!!」

さきの善神よりも遥かに大きな谺響が食堂に響き渡る。

英雄の記憶には無い、新たな(代理の)王が誕生した瞬間であった。

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