40話:最後の王族
最後に更新してから2ヶ月以上経ってたとは・・・。
申し訳ございません(´;ω;`)
「それで兄ちゃん、ワシらが呼ばれた理由を説明してくれ」
最早体の一部とも言える酒瓶を携えて尋ねるジャカル。その他にも眼鏡を掛けたままのフィート、携帯食に齧り付いているメルト、それに何処か不機嫌な様子のリノアの四人が執務室に呼ばれて来た。
「まぁ、立ち話もなんだしみんなそこのソファにでも座ってくれ」
そう言って指示された四人は、近くのソファに座る。柊二は執務用の椅子に座った状態から動かない。
「さて、皆に集まって貰ったのは他でもない。ある事実を認知しておいてほしいからだ」
柊二が改めて硬い話し方をする時は、大抵重要な話をする時だと皆理解している。誰もが口を閉ざして話を聞き逃さないよう集中する。
「話せば長くなるんだが、出来るだけ短めに努力しよう。以前、俺は物資調達の為にある港に滞在していた。そこである人に出会った。そいつはメルトが意識を取り戻すのを助けた時の人と同一人物だろう」
メルトの入隊時の後半で居眠りをしていたジャカルは、何事か理解していなかった。だが、残りの者は理解しつつ話を聞く。
「誰とは公に出来ないが、その人から授かった力と契約した。その時深手を負った俺は三日後に目を覚ました。その時に探しに来た兵士から聞いた話でな、王都は政権が交代したそうだ」
政権の交代を聞き入れたジャカル達は動揺を隠せない。メルトは元々敵軍であった故、その情報は既に耳にしているし、ジャカルは物心ついた頃から傭兵をしていて遠征などで駆り出され、王都の情報には疎い。
最も衝撃を受けたフィートとリノアは、元々正規軍と特殊部隊的な立場の氷華団なだけあって、普段は見れない焦り具合を見せる。
「アルバート卿、それで陛下は何処へ?」
心配から出たフィートの言葉。それに柊二は上手く答えることが出来ず、固唾を飲み、喉まで答えは出掛かっている。ただ、真実を告げるのを躊躇うのも王族は追放され、最悪の結果となった事を容易に伝えられるわけがないのだ。
「これから俺が言う事は紛うことなき真実だ。決して取り乱すな、とは言わないが気に病まないで欲しい」
重苦しい口調で話す柊二にフィートは、王の身の安否を薄々勘づいている。自然とその身に力が籠るのを感じる。
「王は辞世された。それも観衆の目の前で見世物にされてな」
「そんな・・・」
つい先まで力の入っていたフィートの身体は、一気に脱力し頭が下へと垂れ落ちる。それでも尚、柊二は話をやめる気はない。
「政権の変わった王族は王都から追放、他国に避難するべく港へ移動中を捕縛された。既に敵占領地となっていた目的に連行され、絞首刑に」
「・・・一つ聞かせてもらおうか」
これまで沈黙を貫いていたリノアが口を開く。その様子はフィートとは反して動揺はしているも、顔には現れていない。
「その港は貴様自ら取引に行っていた場所だろう。何故、貴様がいながら王族は没された」
リノアの言葉が一直線に柊二の心臓を穿く。全てを話すと言っておきながら、心のどこかで鍵をかけていたのだろうか。鼓動が速くなるに連れて、痛みを伴ってくる。嘘をついてでも逃げ出せば、この負担は多少でも軽くなることだろう。
「俺がその場に居合わせなかったからだ」
それでも柊二は逃げ出す事を選ばない。皆に真実を伝える義務があり、それ以上に歴史の流れを知る者として、後世に伝える為に流れを止めてはならないのだ。
「何故だ、どこかで油を売っていた訳では無いのだろう」
「・・・すまない」
俯きがちに消えそうな謝罪の一言。机の下、膝の上に乗せていた右手が無意識に拳を作る。王族の処刑前に神剣との契約で72時間以上もの時間経過は、結果的には時間を無駄にしていたことに変わりない。
「私が聞きたいのは謝罪では無い。だが、貴様の一言で良く分かった」
突如としてリノアがソファから大きな音を立てて立ち上がる。その音は隣に座るフィートを驚かせ、寝ているジャカルを起こし、何処からか取り出した菓子を食すメルトが目を丸くした。
立ち上がったリノアはゆっくりと剣を鞘から抜きながら、柊二の方へ近寄っていく。素早い横薙の剣閃は柊二の首を確実に捉えていた。少しでも動けば鋭利な刃が血で汚れることになるだろう。
「おいおい嬢ちゃん、一体なんの真似だ?」
そう疑念を呟くジャカルは、ソファに座りながらも自前の大剣に手を伸ばしている。目付きは戦場で見る覇気のある目をしており、誰が見ても戦闘状態に入っていた。
「この男は死して王の償いとなって貰う。とは言え、この男一人の命がそれ程の価値があるとは思えないが」
「嬢ちゃん分かってるのか?誰が嬢ちゃん達を助けて、尚且つ兵の面倒まで見ているか」
ピリピリとした殺気にも思える感覚が部屋の中で充満する。まさか、ここまで殺伐とした雰囲気が自陣からするとは誰も予想していなかったはずだ。
「その件では此奴に借りがある。だが、我等が王を護る所か、何もしなかった此奴に何の処分も下さない訳にはいくまい」
「そうだがな――」
リノアが言う事はどれも真実を突いている。間違った事は何一つ言っていない。
「――いいんだジャカル。リノアが言っている事は間違っていない」
柊二がそう言うとジャカルは、大剣の柄から手を離す。ジャカルを横目で警戒していたリノアが再び柊二の方へ向く。
「いいか、貴様が自分の失態を理解した上での話だ。貴様の立場はなんだ」
「負傷兵を纏めあげて悪神軍に対抗する軍を率いる立場だ」
「正規軍でもない傭兵かぶれがここまでの事をしているには関心している。だが、今のお前を見てみろ。見た目だけの騎士、本来の騎士の信念がこれっぽっちも感じられない」
「貴様のよく言う護ると言う言葉が、嘘のように軽率な物に感じられる。皇国の守護は即ち王を守護するのと同義。口先だけの騎士など我々は必要としない」
リノアの手に力が入り、剣が首から離れていく。次の横薙で柊二の首が吹き飛ぶのは目に見えている。
「私は貴様という男が嫌いだ。口先だけの理想を振りかざし、兵を誑かすだけの男が。オルテア、その命を以て王に償え」
構えられた剣は再び柊二の首を目掛けて空を切る。一度目とは違い、凄まじいスピード向かってくるのが寸止めするつもりは無いのだろう。ジャカルも顔を逸らして止めることはしない。
今まさに柊二の首へ――、「剣を収めなさい」と背後から聞こえる言葉によりリノアの剣閃は動きを止める。辛うじて2mm程、柊二の皮に沈んでいたのを見ると間一髪だった。
誰もが声の主を確かめようと執務室のドアの方を向く。そこには少女に連れられるように手を引かれてきたローブのフードを深く被った人物が立っている。各々が考え付く限りの人物を探してみるが、誰一人として目の前の謎の人物が誰なのか見当もつかない。
「もう一度言います、剣を収めなさい」
「一市民が何用だ。ここは立場ある者の集う場所、無縁な者は直ちにこの場から立ち去れ」
リノアの鋭い眼光がローブの人物へと向けられる。しかし、ローブの人物はその暗いフードの下で笑みを浮かべる。
「あら、では立場の上の人なら此方に居らしても良いのですね」
なんて言ってその者はフードを両手で掴むとゆっくりと外す。内側に入っていた髪を振り出すと、透き通るような金髪が煌びやかになびく。
その姿に誰が見ても驚愕している。助け出した者を抜いて。
「まさか・・・その声はシルフ殿下、で御座いますか」
リノアの剣が僅かに震える。その震えは驚きによるものなのか、はたまた歓喜によるものなのかは当人しか分からない。ただ、剣の震えで肉に沈むのが心配な柊二、リノアにバレないよう首から刃を遠ざける。
「お久しぶりですね、アーカイム卿、ソルティ卿」
「シルフ殿下、ご無事で何よりでした」
剣を収めたリノアは柊二から離れる。フィートの方もソファから立ち上がると、リノアと2人してシルフの元で膝をついて頭を垂れる。
「先程は大変無礼な発言をしてしまい申し訳ありませんでした。どうか私に相応な罰を」
「良いのですよアーカイム卿。今の私にはその権利がありませんから」
権利が無い、その一言が彼女の身に起きたことを教えてくれる。深々と頭を落としたリノアを持ち前の慈悲深さでシルフは許すのだが、律儀なリノアは納得してない様子でいる。
「殿下、御無礼でなければ一つお伺いしたい事が」
「私に答えられる範囲でしたら」
「殿下が此方に来られる前、アルバート卿の仰っていた話では失礼ながら王族は没されたと」
フィートはシルフに頭を落としつつ、首だけ曲げて視線を柊二の方へ向け、何か答えを待つように促す。柊二は視線に気付いたのか意味ありげに「誰も王族全員を救えなかったとは言ってないぞ?」そう答える。
「アルバート卿、貴方も人が悪い」
「殿下の保身の為だ。王族の生き残りがいると知られれば敵に狙われる。まぁ、どのみち最後は言うつもりだったさ」
柊二は椅子から立ち上がり、ソファの並びでは上座の近くに寄る。シルフに座る様に促す為、手の平を表にして「どうぞ殿下、こちらへ」と言う。ただ、柊二の言葉に返答として自分の手を胸ほどの高さ、軽く前に出しているので柊二はその意味を汲み取る。
細く色白いシルフの手を自分の手に乗せ、2人はソファへと歩き出す。途中、顔を上げたリノアから物凄い眼光が背中に刺さる感覚がするも、柊二はゆっくりとシルフを座らせた。
「少尉、リノア、2人も先と同じく腰を掛けてくれ」
2人が元の場所に腰を下ろすの見計らい、柊二もまた執務席に腰を下ろす。
「改めて、こちらはメルセリア皇国――元王女殿下 シルフ・フォト・メルセリアである」
柊二が一息ついてから、シルフの登場から長くなった紹介を始めるが、リノアが飛び付くように立ち上がって声を出す。
「貴様、殿下に無礼だぞ!」
「座りなさい、アーカイム卿」
唸り声を出すリノアを抑制するシルフ。シルフの言葉に渋々と腰を降ろす。まるで番犬と飼い主といった表現が当てはまる。
「・・・今回集まって貰ったのは話をする為だが、ここに此度の関係者からの話を頂くべくお呼びした」
「お察しかと思いますが、私はオルテア様に既のところで助かて頂きこの場におります。その話はお伝えしなくともご想像出来るでしょう。今からするのは政権をが変わる王都での話です」
目を細め頭を少し落としたシルフを柊二は少しばかり心配でいた。まだ心の整理がついていないのではないかと、その言葉が脳裏をよぎる。
「殿下、御無理はなさらないでください」
「ありがとうございます、私は平気ですから」
2、3回程深呼吸すると覚悟を決めたのか、強気な態度で話し始める。
「あれは今は亡き――私の父上が貴族の方々と論議をなさる前の話です」
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「――という事でして貴族の方々の案件に賛同する方が多数。その代償として貴族院による政権交代、故に居場所の失った私は身の安全を保障して下さる者の場所へと行く事になったのです」
これまでの経路を一通り説明し終わると辺りの者達は、各々が考えられる事があるのか頭を回す。
「私が考えるに貴族院の方々は何らかの対抗策を持っているのでは無いかと。出なければこの戦争を続ける理由が不確定では無いでしょうか」
「今回ばかりはソルティ卿に賛同する。仮に戦争を止めた所でその後の国内問題は悪化する一方だ。貴族院政権など王族程の権限がある訳でもない、仮に内部紛争が起きたら誰が収める?それこそ破滅への道だ。ならば誇り高きメルセリア国民として最後まで戦うべきだと私は思う」
「うーん、私はよく分からないです。そもそも相手にいたのですから、そちらの問題は知らないです」
貴族院政権の掲げる案件にフィートとリノア、端から中立(?)にいるメルト、既に3人が己の意見を考え付く。
残った柊二とジャカルの2人はしばらくの間、腕を組んで色々と考える。そして、先に答えを出したのは柊二だった。
「悪いが俺は貴族ってのはどうも好きになれそうにない」
「と言うと?」
「全員が全員と言うわけじゃない。少なからず王族に接点のあった貴族は存続派だった訳だろ?・・・・となると――殿下、一つお伺いしたい事が」
「お力になれるなら」
「反抗派の貴族の収入源は何です?」
「え〜っと、大半が軍事関係に着いてらっしゃった気がしました」
シルフの言葉を元に頭の中で推察を再構築する。そうして出来た推察は確証を持っている物になったと思われる。
「これでようやく纏まった。反抗派の貴族は端から戦う気なんて更々ないと俺は推察する」
「何故でしょう?」
「少尉、戦争に必要なのはなんだ」
「領土、人的資源、武器や食料といった物資、拠点でしょうか」
「そうだ、領土と拠点は既にないものと考えると、攻めるも守るも武器が必要となるだろ?」
「ここで出てくるのは反抗派の収入源である軍事収入だ。つまりは奴らにとって戦争とはビジネスなんだろうな」
「兄ちゃん、【びじねす?】ってのはなんだ」
「所謂、商売って事だ。いいか、悪神軍が欲しいのは善神の持つ世界だ。反抗勢力と見られるのは、いつの時も武器を持つ者。武器を持たない者を無闇に殺せば人口の低下で国としては機能しないだろ」
「連中もそこの所は承知の上で、戦争を続けているんだろ。兵士に武器を売って金を儲け、自分達だけは敗戦後も資金は潤沢ってわけ」
長々とした柊二の話しは妙に説得力のあるもので、フィートとリノアの考えも霞がかかる。
「ワシも兄ちゃんと同じだ。傭兵上がりのワシから言わせれば戦争はいい金になる。それは武器商人も同じことだ」
柊二に向かって歯をのぞかせ、笑みを浮かべるジャカルを見ると最初から柊二に賛成していたのだと思われる。
「アルバート卿、仮にその話が真実でしたら我々はどう動くべきなのでしょうか」
誰もがその事を考える。柊二の話が真実とすればこれまでにやってきた行動は全て無駄になる。
だが、その話を待っていたかと言わんばかりに柊二は微かな笑みを浮かべていた。それもその筈、仮定の話を作る上で必要なのはその後の結果である。それを探る為の案を同時に作成していた。
「仮定は結果を知らなくては仮定に過ぎない。この話が終わったあと、すぐにでも内通者を送るつもりだ」
机の引き出しから1枚の書類を取り出すと書類を作成する準備をあらかじめ用意する。
「さて話はもう終わりか。なら解散しよう、各自割り当てられた責務に務めてくれ」
柊二の号令で皆が一斉に立ち上がる。誰も話が終わったと言われてから一言も話さないで部屋を出ていこうとするが、柊二が何かを思い出したように彼らを留める。
「この場にいる兵士諸君、今は亡き我らの王 バルトロ・フォト・メルセリアに敬意を込めて敬礼!」
ジャカルを筆頭にリノア、フィート、元は敵だが今は味方であるメルトの含めたこの場の善神軍人が背を正して敬礼をする。
その様子を静かに見つめるシルフが何を思うかは本人しか分からない。それでもひとつ言えるのは、この場にいる全員が心を一つに偉大な王への敬意を表していた。




