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2nd Life:異世界で英雄になった剣士  作者: 太古
第3章:神話と伝説
37/42

37話:英雄は出逢う

今回は特に前書きで書く事は無いですが、強いて言うなら前書きの本来の意味を知りました。


でも、自分は自由に書かせてもらっているので今更変えるつもりはないですので、いつものように関係ない話を綴らせてもらいますw

 彼女は憎んだ。己の身に課された見えない足枷を。生まれながらにして位置付けられていた立場イスに座らされている事、決して降りる事の出来ない立場イスに。

 彼女は妬んだ。己の身に課された見えない手枷を。翼のもがれた鳥は、自由に空を飛ぶことが出来ない。生まれた時から空を飛ぶことを知らない、自由を奪われた鳥でいた。

 彼女は恨んだ。己を逃がさない為の鉄格子の檻を。一度入ったら出ることが出来ない。外から眺められる動物の様に、己の自由など保証されていない。


 彼女は自分の運命を呪った。壇上を囲み、汚らしく嗤う男達を。家族の命を嬉々として奪い続けている執行人を。助ける気配の無い、ただ眺める為に集まった野次馬()を。そして、何よりも平穏な日々を奪った悪神を。


 何も出来ない自分自身を出来る事なら罵りたい。そう思う彼女の口には布が咥えさせられていた。色々な感情が彼女を取り巻き、思考は既に滅茶苦茶になっている。唯一分かっているのがガタンと重さに耐えられなくなった板の抜ける音、緩んでいた縄が勢い良く張り詰める音、卑屈にも声とは呼べない唸りだった。


 彼女の隣で口を動かしていた男は、運良く布が外れ、声を発する事が出来た。怒号にも聞こえるその声は荒々しさを見せつけるが、絶望感に浸る彼女の耳に入る事は無い。やがてその声も床板が抜ける音ともに静かに消えた。


 湧き上がる歓声に、父親が殺されたのだと彼女は悟った。それと同時に次は自分の番だと言う事も。何故、最後が彼女なのかというと、王位継承者として、王族の第一子を最後に殺すことで【王家を根絶やしにした】そういった称号おまけが付いてくるからだ。


 視界に入ってくる執行人は、腕を振り上げて場をさらに盛り上げるつもりなのだろうか。そんなつまらない事を考えているうちに、彼女のレバーには執行人の手が掛かっていた。彼女の家族を安易に殺した憎たらしい手が。


 彼女は薄い笑みを浮かべると覚悟を決めた。一滴の涙が頬を伝い、輪郭に沿って顎へと下がって行く。やがて涙は顎から離れると、重力に従って落下する。落ちて行く涙が地面に着くまでの時間が長く感じる。涙の着地と同時に自分は死ぬのだと、彼女は再び覚悟を決めた。


 涙が地面に着くと、その瞬間に床板が大きな音を立てた。彼女は自分の死を悟った。窒息する苦しみなど感じる事が無かったが、彼女は家族を失った苦しみの方が大きいから苦しくない、と考えていた。だが、次第にひらけてくる視覚に飛び込んだのは、彼女の膝元まで流れてくる鮮血である。良く見れば鮮血の発生源には執行人が倒れ伏し、その首には一本のナイフが突き刺さっているのが見える。


 何が起きたか分からない、と理解出来ていない敵兵達が乱れているが、目の前にいた彼女も彼等と同じ反応でいた。目の前に現れた騎士の存在に気づくまでは。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 間一髪の所で投げたナイフが、首に突き刺さり鮮血を吹き出して倒れる執行人。向こうには縄に繋がれた女性。そのあいだに柊二はミラを持って立っていた。床板に広がる血溜まりを一歩一歩踏み締めて、女性を拘束する縄を切り、柊二は女性の前に片膝をついて言う。


「殿下、遅くなって申し訳ありません」

「あ、貴方様は?」


 いきなり現れた柊二に驚いたのは彼女だけでは無い。自分達の仲間が死んだ事を見ていた敵兵達、その視界にワンフレーズと一瞬の出来事で男が現れたのだから同様も隠せないだろう。


「私の名はオルテア・ファル・アルバート。王家の危機と聞きつけ、助けに来ました」

 助けに来た(・・・・・)、その言葉で彼女の目に光が戻る。決して来ないと思っていた味方が、たった一人とはいえ自分の窮地に助けに来た。彼女に手を差し伸べた柊二の腕、それは彼女にとって暗黒の世界に差し伸べた唯一の希望の光。


 彼女は震える手をゆっくりと、自分に向けられて差し伸べられた手に乗せる。細くて弱々しい、今にも壊れてしまいそうな手を柊二は優しく取り、彼女は立ち上がる。長時間同じ体勢のせいか、脚に力が入らず、バランスを崩した彼女は柊二に寄りかかってしまう。


「も、申し訳ありません。足に力が入らないようです」

「殿下、しばしの間目をお瞑り下さい。これより先は道の外れた光景が訪れる事になります」


 自分を支える柊二の言う事が、今の彼女は瞬時に理解することが出来ずにいた。何が起こるのかと想像していると、突然壇上に上がり剣を抜き出す敵兵が、二人に襲いかかる。柊二は彼女を支える左腕とは逆に、右腕で剣を逆手に持つと脇を抜けて後ろに構える。勢い余った敵兵の腹部に剣が突き刺さり、敵はその場で崩れ落ちた。


 その光景を目にした彼女は、目を瞑ると同時に柊二はそっと支える左腕を遠ざける。柊二が振り返ると、当然の如く壇上付近の敵達は武装状態で敵意を表していた。数人が壇上に上がると自身に襲いかかる剣や槍を避け、弾き、切り裂き、終いには防御態勢の敵を武器ごと切り伏せた。


 何人もの男達が一人の男に立ち向かうが、誰一人としてその武器で傷つけるまでに至らない。とは言え、流石の柊二も独りで100人以上の敵を相手にするのは到底困難な話であり、体力も徐々に切れてくる。


『さて、飛び込んだのは良いが退路が無いとはな』

 肩で息をする柊二は、誰が見ても疲労が溜まっているが分かる。それでも尚、敵を切り伏せる事に専念するも敵の勢いは増すばかりで、何処からか湧いて出た増援も加わり、柊二は劣勢に立たされる。


「武器を捨てて投降しろ」

 敵の一人がそう叫ぶ。あたりを見る限りやはり退路は閉ざされており、屋根には弓兵、通路には大盾を構えた重装甲兵が封鎖している。「ここまでか」そう呟いた柊二は、剣を足元に投げ捨てようとする。


「投稿するのは貴様らだ!」

 唐突に上がった声を合図に、壇上から少し離れた所にいた増援として来たと思われる兵士達が武器を敵兵に向けて構え始める。それだけでなく、屋根の弓兵の狙いはあからさまに敵兵へ、重装甲兵は盾を構えて壇上に集まり包囲する。敵兵達はどよめきを隠せない。それは壇上に立っていた柊二と女性の二人も同じ事。


 そんな中声を上げた兵士が鎧を脱ぎ始めると、内側から一度見た事のある旗章が柊二の目に入る。それはメルセリア皇国の軍旗である十字と左右にある槍と剣のマーク。


「アルバート卿、遅くなって申し訳ありません」

 声の主は少し前まで行動を共にしていた味方兵士の一人であった。彼は柊二と別れた後に、下された命令である味方を集めて編成する事に着手していたのだが、ここにきてようやく味方を連れて来たようだ。掲げられる数々の軍旗の数から、ざっと200人は集まっているように見える。


「アルバート?アルバートって魔道空挺を落としたっていうあの男か!?」

 敵兵の中から柊二の事を知っている口振りの男が、テニオラ戦の話を持ち上げる。一人の男の情報から辺りの敵勢はざわめきが拡大していく。生き残りの兵士から話が流れたのか、テニオラで起きた新型兵器の破壊は、光の速さで敵軍の中に拡散して行った。それは勿論、指揮官であるオルテアの名も同時に広がる事を意味する。


 彼らの相手にしている壇上の男が、本当にアルバートであれば彼らのする行為は明らかである。皆が足元に武器を投げ捨て、頭に手を組み膝をその場についた。


「・・・・ミラ、確率1割でも勝利する事もあるんだな」

「解。そのようですね」


 肩の力を抜いて戦意を消すと、持っていた剣は粒子になって砕け散り、形は元に戻らなかった。どうやら実態化していられるのは、柊二自身が現在進行形で戦闘態勢である事が維持の条件らしい。


 間一髪で勝ち取った勝利は、王族のほぼ全てを失う結果となったが敵の残した装備品と物資、それと唯一王女殿下を救い出せた事は幸いである。ただ王女殿下をこれ以上戦火の元に晒すわけにも行かないので、柊二は彼女を連れて一度島へ戻ることにした。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 船に乗ってから2時間が経った今、柊二は船長室で報告書に目を通していた。乗船してから大半はデスクワークを行っていた。一通り目を通すと手を組んで背を伸ばし、椅子から立ち上がる。忍耐力があるとはいえ、元々学生としての性分か、じっとしていられず、外の空気を吸おうと部屋を出た。


 外と直結しているドアを開けば視界に飛び込むのは甲板と左右に広がる事一面の海面。日は暮れ、夕焼けの優しい光が揺らめく海面で更に美しさを際立たせる。


 柊二のお気に入りは、船首の近くに置かれた樽の上。そこに腰をかけて眺める海が好きなのだ。潮風の強さから無風になる心配はなく、今日中に島に着くだろう。そんなことを考えながら柊二は、一時の安らぎを堪能していた。


「問。マスター、これからどうしますか」

 柊二の戦意で姿を変えるミラ、今は少女の姿として現れている。樽の上から降りた柊二は、ミラを抱えると樽の上に乗せ同じ光景を見せてやる。


「そうだな、今は兵の編成と人材確保が最優先だな。いずれ起きる聖戦最大の戦いに備えてな」

 伝説史上最大の攻防戦を柊二は知っている。どちらの軍の勝敗は神が死ぬ事による間接的な勝利を手にする訳だが、死傷者の数は計り知れない。


「その戦いで戦争は終わるが、お前はどうする?神の宝物庫にでも戻るか」

「否。当機の所有権は既にマスターの物。もう一度戻る事は不可能です」


 その返事に柊二は黙ってミラの頭に手を置いて撫でた。気持ちいいのか、喉を鳴らす姿は子猫を連想させる。そんな事をしていると、「マスター、名残惜しいですが一度戻ります」そう言ったミラの姿はゆっくりと消えていった。


 戻る理由について聴きそびれた柊二は、独りで海を眺めるが不意に背後で立つ音に反応し、振り返る柊二の目には数時間前に助け出した王女殿下が立っていた。


「先程は助けて頂き、感謝致します」

 丁寧に、尚且つ畏まった敬意の言葉はやはり王族としての教育の賜物。凛とした美しい力強さは、並大抵の女性が見せるそれでは無い。


「申し遅れました。わたくしはシルフ・フォト・メルセリア、・・・・元国王の娘です」

 言葉に一息程の間があったという事は、彼女の中の何かが彼女の言おうとしていた単語を思いとどめた。


「改めまして、私はオルテア・ファル・アルバート。此度は危ない所でしたが、殿下をお救い出来て幸いです。ご家族の事は――」

「いえ、家族の事は仕方が無いのです。私達が王族である以上、この戦乱の世では予期せぬ出来事ではないのですから。ご自分をお責めにならないで下さい」


 あくまでも家族が亡くなったのは誰のせいでもない、時代に翻弄された結果なのだと、説明する彼女シルフの言葉は震えていない。だが柊二の心はシルフの言葉に救われる事は無い。


「殿下、私は――」

「一つお伺いしてもよろしいでしょうか。何故なにゆえ私を助けたのですか?どうして私だけが生き残ったのでしょうか。どうして....」


 一度口が開いたシルフは、留まることを知らない。一つの疑問が浮かべば二つ目、三つ目と次々に溢れ出てくる。声こそは震えていないが、柊二にははっきりと分かった。彼女の言葉は見繕っているだけで、やはり家族の死が堪えている。


「私はあの場で死ぬべき人間でしたのに....」

 言葉とは不思議なものだ。話す人間によって話し方から始まり、感情、思考は十人十色。だが本質だけは変えることは難しい。


 柊二は切羽詰まったように疑問に思うシルフの様子に違和感を感じていた。

『この光景をどこかで――ああ、そうか』

 遠い世界、過去に一度見た事があった。忌まわしい記憶の断片が、今のシルフと重なった事で蘇った。

『彼女は幼い頃の俺だ』

 自分の隣で次々に亡くなっていく家族、自身の死が近付いてくるのがはっきりと分かる恐怖心、そのどちらも柊二は過去に体験していた。家族の死を認めたくない、分かっていても否定しようとするのは現実から逃げ出そうとしている。


 同じ境遇に立たされたからこそ、今の柊二には彼女の痛みが分かる。死は決して安易に忘れる事など出来ない。だから柊二は、共に歩いて行くことで乗り越えた。


「人はいつか死ぬ、どんな人間にも最後に死が来る。それが自然の摂理であり、運命だと俺は思う」

 このセリフが語り継がれる未来では、英雄オルテアが何を思って言ったのかはわからない。だが、これは記憶の追体験では無く、柊二の身元で起きたからこそ言える言葉。


「なら、どうして私を助けたのですか!?」

 今の彼女に生きていくという選択肢が無いのか、その目は死を懇願しているようにも見える。自分一人が生き残るなら家族と共に死なせて欲しかった、シルフが何を考えているのか柊二にとって筒抜けて分かっている。



「だが、そんな運命で自分の人生を決められる訳がない。私の人生()は私が決める。殿下、貴女はどうですか?決められた道をただ従って歩くなら、少しでも抗うべきだと私は思います」


 教えられた歴史の台詞を話していると――いや、話す前から薄々分かっていた。英雄オルテアのセリフではない。英雄(柊二)が自身で思った言葉を紡ぐ。

「遺された者の義務は、足掻いてでも自分の成すべき事をやる。それが死んでいった者に対する最大の敬意ではなむけだと私は思っています」


 柊二がそこまで言うと、シルフは浮かない顔で一歩ずつ足を進める。それはまるで一歩ずれれば奈落の底が彼女を待っている様で、彼女が歩いているのは運命という名の橋の上。仮に落下でもすればもう二度と戻れない、見渡す限りの闇、奈落が彼女を襲う事になる。


 だが突然と現れた一枚のガラス板が、彼女の歩く橋の横に現れる。ガラス板の向こう側には、彼女が必然として求めていた光がある。自然として彼女は光の方へ向かおうとするが、意識の一部がそれを思い留まらせた。「ガラス板が本当に存在するのだろうか?」「自分を奈落に落とす為の罠ではないのか?」様々な思考が交差する。再び前を観ると、そこには相変わらずの優しい光が、自分を主張しながら輝いている。


 やがてシルフは目を瞑り、覚悟を決め、僅かな可能性にかけて光に近づく事を選んだ。奈落の底から死神が今か今かと待ち受けている、恐怖心を押し殺し、あるか分からないガラス板に重々しい足を一歩踏み出した。


 彼女の一歩で何やら硬いものにぶつかる。その瞬間、シルフは一気に現実へ引き戻された。恐る恐る目を開け、持ち上げた顔の先には、自分を助けてくれた騎士の顔。


「殿下?」

 シルフは凛々しくも優しいその声に、自分の何かが揺さぶられるのと同時に全てを理解した。ガラス板の先にあった光の正体を。

 柊二としては、突然俯いたシルフがゆっくりと自分に近づいてきて、終いにはぶつかった。その程度の事でしかないだろうが、彼女にとっては大きな賭けであったのを、柊二は知らない。


「私は弱い人間です....貴方のように強くはなれない....」

 自分の意志とは別の何かがシルフを操り、目の前の騎士に手を回させる。次第に強まる腕の強さに柊二も又、彼女の痛みを理解した。


「なら私が殿下をお護りしましょう。それが騎士であり、男である私の役目なのですから」

 柊二も分かっている事がある。それは歴史に沿って動く事で見えてくる英雄像。初めての任務でフレイヤから聞かされた聖騎士伝説、その中で「オルテアはシルフを愛していたのか」自分自身で持った疑問に自身で答える。


『俺は彼女に愛情を抱いてはいない。それでも俺がここに来たのは、彼女を護りたい。その一言の理由があったからだ』

 柊二は自分の胸で泣きじゃくるシルフを抱き締めてやろうと手を腰に回すが、既でその手は虚しくも垂れ下がった。

 忘れる事など出来ない。彼女の父を見殺しにしたのは自分、今更彼女を抱き締める清い手など持っていないのだから。


 夕暮れの船首、ここにまた伝説への始まりの1ページを創り上げる事になった。互いの思いは違えど、今だけは英雄(柊二)王女シルフも一人の人間と変わり、そんな二人を美しい夕焼けの海が迎え入れていた。

ご閲覧ありがとうございます。


宜しければ感想、レビュー、評価をお願い致します。誤字脱字も感想にて教えていただけると助かります。


【Twitterに色々と情報が?】

「@taiki_syousetu」\_(・ω・`)コレ

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