36話:変わらぬ運命
はい!お久しぶりです。またまたまた(何度目だろうか・・・・)遅くなってすみませんm(_ _)m
ネタは浮かんでいるのに書く暇が無い状況下にいて、自分も参ってます・・・・。
柊二が目を覚ましたのは、とある草原の丘の上だった。一本のみ生えている木の側で背を持たれて腰掛けていた。ぼんやりとした視界をなんとか鮮明に戻そうと目を擦るにつれ、自分の置かれた状況に気が付いた。
「俺はあの後気を失ったのか」
左手でそっと横腹に触れてみると、傷痕の感触が伝わってくる。他の皮膚とは違った肌触りが傷痕がある証拠だろう。試しに押して痛みを感じない事が分かった所で、重力に従って手を下ろす。
すると何やら手触りのいい感触に触れ、下を見ると少女が柊二の膝を枕にして気持ちよさそうに寝ているではないか。
「そうか、お前が助けてくれたんだな」
柊二は自身の膝枕で眠るミラの頭を優しく撫でる。なんとも触り心地のいい髪を撫でていると、少しこそばゆいのか、ミラも小さく体を震わせた。
そんなのんびりとした時間も束の間の事、柊二にの先に見える街から大盛況の声が飛んでくる。流石のミラもこの声に反応したのか、体を起こして欠伸をする。
「この声・・・街からか?今のあそこには祭りをする余裕なんて無いだろうに」
柊二は街の至る所から湧き上がる歓声に似た声を何度も耳にする。様々な予想が左右する中、ミラは真っ直ぐに街を眺めている。
「マスター、前方凡そ500m先から生命反応を感知しました」
「数は?」
「解。人間、単体の様です。恐らくこちらに向かっています」
「敵か?」
「疑。武器の携帯は確認、しかし戦意が感じられません」
一人単独で柊二達の方向へ走ってくるという人間は察するに、何かを探しているのか、何かから逃げているのだろう。ひとまず姿を隠す事が優先だと考えた柊二は、ミラの腕を掴んで木の後ろに回る事にした。
「対象の距離凡そ100m」
「50m」
「20m」
その者は確実に柊二達の方向へと近寄って来る。柊二は既に戦闘態勢に入っており、いつでも準備は出来ていた。やがて脚音が聞こえるくらいの距離まで近寄ってくると、心を静かに落ち着かせる。
そして対象の姿が見えた瞬間、柊二は相手の手を掴んで手繰り寄せ、バランスを崩した所で喉元にもう片方の手を添えて、足を掛けて地に伏せさせる。
しまいには手首を後ろに締め上げて拘束をする。ここまでする必要があるのかといえば、武器の無い非常事態では仕方ない事だ。
「目的は?」
柊二は締め上げる拘束力を強めて相手を尋問する。相手も必死に逃れようとするが動く事でかえって痛みが倍増された。
「もう1度だけ聞く、目的は?」
「痛たた!アルバート卿、私です私!」
どこかで聞き覚えのある声とオルテアという名前に反応した柊二は、咄嗟に拘束を解く。すると立ち上がったのはちょっと前に仮拠点を出る際、剣を貸し渡してくれた部下の一人だった。
「あ、悪い。てっきり敵かと思ってな」
「全く、勘弁して下さい――って今はそんな話はどうでもよくって、今までどちらに行ってらっしゃったんですか。皆心配してましたよ」
「まあまあ、たかが一時間ちょっと外出してた位で大袈裟な」
「何を仰る、三日も行方を眩ませておいて、冗談でも笑えないですよ」
ちょっとバツが悪そうに頭を搔いている柊二と裏腹に彼は身振り手振りで慌てていた。何処と無く話の食い違いが見受けられたのか、柊二は静かにミラに尋ねてみる。
「ミラ、本契約始めて今で一時間位だよな?」
「否。本契約終了から現時刻で三度目の昇陽を確認。正確には、74時間19分44秒が経過」
まさかとは思っていた柊二であったが、空を見上げれば今の天気は晴れである事間違いない。契約開始日の天候は雨――ならぬ灰であったが、所々に雲があることを除けば何処にもその様な暗雲は見られなかった。
「マジで?」
「解。マスター、マジです」
至って恍ける様子を見せない所、ミラが間違った事を言っていないのだろう。だとすれば三日も無駄にした事以上、事の状況はだいぶ変わっているはずで、柊二はこの3日間の中に予定していた取引や諜報活動が無駄になったと肩を落とした。
「それよりもアルバート卿にご報告が」
私事を気にする一方で部下が話を振る。柊二も今更ながら、何故ここに部下が来たのか、その疑問が湧いて出た。
「どうした、何か悪い事でも?」
「いえ、我々の組織内で悪事は起きていませんが、国規模の問題が起こりました。二日前、近隣の斥候部隊から1通の機密書が届きました。アルバート卿が不在の中、急ぎの便という事もあり、我々の独断で拝見させていただきました」
「その機密書にはメルセリアの国内情勢が記されたものでして、どうやら存続派のバルトロ陛下と反抗派の貴族ロットリアーノ様が対立。結果としてロットリアーノ様が陛下の地位を奪い、君臨したそうです。敗北した王族は追放され、遂に昨日、我々の街へ避難してきました」
手渡された機密書を読みつつ、部下の話を聞く柊二は何とも言えない焦燥感に駆られる。小刻みに肩を震わせている所を見ると、今すぐにでも走り出しそうな勢いでいた。
「王族の方々はまだ街にいるのか?」
「はい、我々の拠点で匿っておりますが・・・見つかるのも時間の問題かと」
「今すぐ街に戻るぞ」
「了解しました!」
柊二一行は急いで街へ駆けてゆく。暫くして、知らず知らずに柊二の足を動かす速さが増して行く事を当の本人に知る由もない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「何があったんだ・・・」
街の門をくぐるまでは良かった。だがその後、街に入ってみると普段の様子と何かが違う。敵の占領下にありながらも、何とか生きようと必死になっている人々で溢れ返っていた街道に、今は人っ子一人姿が見えない。いるのはゴミを漁るネズミとそれを狙うカラス等。
「ミラ、街の人達が何処に行ったか分かるか?」
「解。前方800m先に無数の生体反応を検知」
「集会か祭り?いや、それにしても静か過ぎるな」
冷静に事を分析してみるも思い当たる節が見つからない柊二は、取り敢えず拠点のドアを開ける。懐から出した鍵を錠前に差し込んだ所で、違和感を感じた。
『鍵が開いてる』
差し込んだ鍵を捻るが一向に錠が外れる感覚、はたまた音さえも聴こえてこない。
「鍵は常に空いているのか?」
「いえ、陛下御一行を匿っている間は錠をかけるように言っておりましたが、後で強く行っておきます」
ここまでは他愛もないただの会話。だが、扉を開き一歩進むとそこはもう別世界だった。テーブルは倒れ、食器は散乱、砕けた瓶から紫色の液体が溜まっている。それ位ならまだしも、二人が驚愕したのは幾つもの床を転がる死体の数々。
柊二の傍らに佇む男は音もなく膝から崩れ落ちる。つい先刻間では共にいた仲間達が、見るも無残な姿に変わっているのだから怒りを通り越して、目の前の現実を受け入れられないでいる。
「壁や床の損傷から見て、切り合いの形跡は無い。恐らくは突然押しかけてきた刺客に反応出来ず一方的に、って感じだな」
ぐるっと室内全体を見回した柊二の推測は、ほぼ正解と言えた。骸となった味方は誰一人として鞘から剣を抜いてはいなかったのだ。柊二は扉の前で膝を着くと、掌で床を軽く撫でる。すると気の感触とは別の感触が手に感じる。土の混じった凹凸から推測されるのは靴跡、そして人数までも知り得る情報に変わる。
「足の大きさから男性5人か」
柊二は触れるのを止めて立ち上がる。すると突然に味方の一人が咳き込んだ。それは扉の前で落胆している者のものでは無い。テーブルに寄りかかる瀕死の味方によるものである。柊二は急いで駆け寄ると声を掛けた。
「大丈夫か?」
そう声をかけるがはっきり言って瀕死の男にそう言うのも可笑しい話だ。男の胸には槍が深々と突き刺さり、咳き込むと同時に吐血する様な状態、息も絶え絶えなのに意識があるのが奇跡である。
瀕死の男は顔を上げると口の開閉を繰り返す。柊二が聞き耳を立てる為近づくと、急に男が柊二の胸ぐらを掴み引き寄せる。
「陛、下は・・・広場・・・に」
それだけ話すと男は横たわる瞬間に安らかな顔で床に伏せた。彼の目には最後に何が映ったのか本人しか知らないが、まるで地獄で見つけた暖かな一つの光を見つけた、そんな希望に満ちた顔をしたのだ。
ただ無言に彼の瞼に指を這わせて閉じさせた柊二は、立ち上がって振り返る。その足は自然と外へ運ばれて行く。
「斥候、哨戒、諜報、全ての人員と装備を揃えて広場に来い」
「アルバート卿、どちらへ?」
ようやく立ち直った部下と交差する時、彼の方から声を掛けられた柊二はただ一言だけ――
「陛下達を助け出す」
先ほど息絶えた味方に言われたからなのか、それとも自分自身が願う事だからなのか、幾つもの理由があったとしても今の柊二にはどうだっていい。人一倍の正義感を持つ男に、窮地に陥る人間を助ける事は本来の彼にとって当然の行為なのだから。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
人気のない街道を一心不乱に走り抜く柊二の耳に人間の歓喜とも聴こえる声が届いてくる。リズムの無い不規則な声の波を頼りに、前へ前へと駆けていく。
『まさか処刑が始まって....くそ!』
次々と高まる歓声は、めぼしいものが手に入ったり、自身の一推しが近づく度に興奮度が増してくる人間の心理である。つまりは、王家の分家に当たる者は既にこの世を去り、次に純血の王族の番が回ってきたのだろう。王家の血が絶えるまでそれ程時間は残されていない筈だ。
「ミラ、お前を使いたい。力を貸してくれ」
駆け抜ける柊二の背後をひと回りも小さい体にも関わらず、逸れることの無い一定の距離感を保ったまま、付いてくるミラは息切れをしている様子もない。
「解。契約に則り、当機の使用権限を解放します」
振り返ること無く前だけを見て走る柊二に、僅かな衝撃が脊髄から脳へと駆け上った。一瞬、自身に何が起きたか分からないでいた柊二だが、不思議と右腕から心地よい感覚が溢れ出てくるのに気がついた。走る為に振り続ける自身の右腕には、一旦視界から消えたと思ったら次には何とも神々しい籠手が装着されていたのだ。
見慣れない形だと凝視していると、「意思共有接続完了。脈拍安定。魔力供給源不接続」とミラの声が直接脳内に響き渡る。後ろを振り返るもそこにミラの姿は無い。直接脳に声が聞こえるなんて未体験な経験にムズ痒さを感じていた。
「ミラ、お前何処にいるんだ」
「解。当機の意識はマスターの精神に接続されていますが、本体はマスターの籠手として顕現しています」
「お前、確か剣じゃなかったか?」
「解。当機は剣ではありますが本来は魔力が不可欠。魔力の持たないマスターから魔力供給は不可能。故に他の剣を媒介に具現化が必須。論より証拠、抜剣を推奨します」
ミラの言う通りにガントレットの着いた右手で腰に下がった剥き出しの鉄剣を外し取る。幾度の打ち合いや鍔迫り合いで損傷した傷が目立つ鉄剣。それは数秒後には、刀身が薄らと発光を始め、次第に光は粒子へ変わる。柊二を包む様に飛び散った粒子は再び元の位置へと集まっていくのだが、先程の鉄剣と形状が何処と無く違う。
「これ本契約でお前が使っていた剣だよな」
「否。その剣が本来の当機です」
街道を駆ける間に、柊二は自身が本当に契約者になったのだと自覚する。自分でも知らない内に、異世界にも徐々に順応してきているのか、初めに比べてさほど驚きも少なくなってきている。
幾分か走っていると人混みが遠くの方に現れ、それと同時に辺りの雰囲気から空気の重さをはっきりと身に感じる。
「〜〜〜!」
「ミラ、なんか言ったか?」
「否。当機ではありません。目標地点から発生した声音と確認しました」
柊二の耳に入って来た謎の声音についてミラに説明を求めているうちに、人混み――と言うより人の壁に当たった。それ程広くもない街道を埋め尽くさんばかりの人だかりのせいで、これ以上進む事が出来ない。
「これ以上進めそうに無いな」
ふと、目に入った脇に寄せてある木箱の上へ登る。人混みは横だけでなく縦にも伸びている。これだけの人が1箇所に集まるという事は、恐らくは他の街道も人で埋まっているはずである。無数の市民の奥には、異様な黒服に身を包んだ憲兵隊が円を描く様な配置で立っている。
ざわめく人の波は、本物の波の様に前後左右にゆっくりと揺れている。そして一瞬、市民の波と憲兵の間から物凄い剣幕の男が姿を現した。面識の無い男である筈なのだが、柊二は自前の直感と周囲の状況から、話しに聞いた男だと察する。
「バルトロ陛下!」
木箱から飛び降りた柊二は、目の前を塞ぐ壁に身をねじ込んでいくが、密集による圧力と流れで何度も同じ位置へ押し戻される。この壁を抜けなければ広場に辿り着く事は、到底不可能だろう。
「くそ!通り抜ける隙間が無い!」
「問。マスターはこの壁を越えたいのですか」
「見てわかるだろ」
「問。中枢神経系に再接続、初期能力プロトコルを解放しますか」
バルトロのレバーが引かれるまで時間は残っていない。このやり取りをしているうちに、時間は刻一刻と進んで行く。焦りの見せる柊二の頭は、珍しく冷静さに欠けている。
「この状況が変わるなら何でも良いからやってくれ!」
「承。第一能力プロトコルを解放します。解放完了」
ミラはそうは言うが実際の所、柊二の身体に異常は来たしていなければ、変化も見られない。時間が無いというのに口だけなのかと、責めるつもりでいた柊二でいたが、彼が口を開けるより先ににミラの声が頭に響いた。
「左方、建造物屋根の上一点を見詰める事を推奨します」
訳も分からないままミラの言う通り、左に建つ建物の上を見詰める。すると突然左眼に熱く燃えるような痛みを伴う。反射的に瞼を降ろそうとするが、「集中して下さい」とその一言で閉じかけた瞼を開く。痛みの波はやがて収まり、今は静寂が自身の内を満たしている。
「マスター、瞼を閉じて下さい」
またしても言われるがまま、声に従い眼を閉じる。瞬きとも言える僅か0.1秒後の世界は無数の屋根と遠くまで見渡せる海だった。一瞬先の世界に柊二は何も言えず、ただ目の前の景色を眺めている事しか出来なかった。
「マスター、聴こえますか」
「あ、ああ。聴こえているけど....どうなってんだ」
「解。当機の特性は神速。マスターは、先程当機との再接続により中枢神経系と接続。当機の持つ特性の一部を共有している状態です」
「つまり?」
「つまり先程マスターが行ったのは、マスターで言う所の瞬間移動、空間転移、ワープの類です」
淡々と説明するミラ。彼女にとって当たり前なのだろうが、柊二にとって不可思議な体験で、呆然とするのが当然である。数秒のフリーズが溶け、今一番に抱えている問題を解決するべく取り掛かる。
低地に比べて高所に登った際に見える視野は倍以上にもなる。広場を見渡すには十二分の高さであり、短時間で情報を得る事が出来る。木箱に乗った時に見てた状況は、やはり間違っていなかった。中央広場で壇上が作られて公開処刑が行われている。その壇上を敵が取り巻いているのがはっきりと分かる。問題は王族の生死についてだ。
「聞け、皆の者!我が名はバルトロ・フォト・メルセリア。神が創りし誇り高いメルセリア皇国の国王である!」
壇上から放たれる怒号とも思わされる程の声量を発するバルトロの声は、処刑される人間とは思えない荒々しさを持っている。柊二でさえその声量と迫力を刺激として全身で受け止めていた。
「よし、まだ間に合う」
その場に左膝を着いた状態で、右のブーツに着いた手のひらサイズの携帯ナイフを引き抜く。現在地の高さ、届かせる為の距離を目測する。届かない距離ではない事を確認すると、壇上に立っている処刑執行人に狙いとタイミングが合うよう調節に入る。
「問。マスター、何をするつもりですか」
「これ以上犠牲を出す訳にはいかない。陛下達を助ける」
今か今かと柊二は、小刻みに歩く執行人にダーツを投げる前の様な練習をする。だが救出を第一に考えている柊二は、重要な事を忘れていた。
「否。マスター、その行為は推奨出来ません。直ちに止めるべきです」
「どうして止めるんだ?」
「解。未来が変わります」
「男一人を助けた所で戦争は終わらないだろ。弱者を助けるのが騎士道精神じゃないのか」
「マスター、それが本音ですか?当機はマスターと意思共有をしています。救えない命もあるのです」
「・・・お前には関係ない事だ」
そうこう言い合っているうちに、バルトロのレバーに執行人が既に手を掛けていた。今にもレバーを引きそうな雰囲気から、柊二は持っているナイフを大きく振り翳す。
「たとえこの身が滅びようとも、いつの日か善の神が全てを終わらせ平和な世が訪れる。そしてお前らは自分がした事を悔やみ、嘆き、生命の重さを知ることになるだろう!」
歴史通りの台詞を吐いたバルトロ、次の瞬間にはレバーを引かれることを知っている。柊二が振り翳した手を勢い良く振り下ろす。
そして手からナイフを離す――、「未来が変わればマスターはご友人との関係――存在そのもの消える可能性があるのですよ」
一瞬の事だった、世界が、時間が止まった感覚の中に呟かれた言葉は、柊二の動きを抑制する。
僅かな時間が歴史を動かした。ナイフは手から離れることなく、足元に落ちる。そのまま屋根を伝って地面に滑り落ちていった。突然の緊張から脳が痺れるような感覚が襲う柊二は、膝から崩れ落ちると冷や汗がどっと溢れ出てくる。
「マスター、過去の変化は未来に繋がる糸のようなもの。どれかが解れれば、束になって出来上がった歴史は、容易に切れるのを忘れないで下さい」
その声は小さく柊二の中にスっと溶け込んでいく。一時の表出た感情に支配され、成すべき事と歴史の改変を混合しようとしていた事に、柊二は己の心の弱さをしかと噛み締めた。
見なくても分かっている。膝から崩れ落ちたその後の視線は自然と自分の膝元に落ち、そして膝を着いた直後に現れた歓喜の声。何が起きたのかもシナリオ通りに進んでしまう。
『結局、運命は変わらないのか。俺の護りたいものは護っておいて、その先は護る所か届きもしないのかよ・・・・』
悲観する事も、自虐的になるのも仕方が無い。自分の手を汚してから分かっていたが、柊二は決して完璧超人では無い。失敗や敗北する事もあれば、悩み、苦しみ、嘆き、途方に暮れる事もある普通の人間なのだから。
だが、ここで立ち止まっていられるほどの猶予なんてもの初めからある訳が無い。悔いる事など後でも出来る。震える脚で立ち上がる男は、再び眼に光を走らせる。
「・・・・なぁミラ、あの集団に単独で突っ込んだ時の勝算は?」
「解。分析結果、無傷で脱出するのは極めて低いかと。何しろ国宝級の御荷物を運ぶのですから」
「上等だ、俺の剣が届かないなら――」
もう片方のブーツから二本目の携帯ナイフを取り出すと、もう一度壇上の執行人に狙いを定め、渾身の投げナイフを送り出す。ナイフは、回転することなく真っ直ぐに空を切り、飛距離を伸ばしていく。一直線に進むナイフはやがて敵の元へ辿り着く。
王の死を間近で観ていた敵達は、未だ止まない歓声を上げ続ける。熱の収まらない壇上周りの注目する中、執行人もまた王族を殺している快楽の波を堪能していた。熱狂した空気を壊さないうちに、と既に最期のレバーに手を掛けていた。これを引けば俺は英雄だ!とでも思っているのか、光悦な笑みを浮かべたまま手に力を入れた。
だが、落ちたのは物理的な板抜きでは無く、執行人そのものの意識が堕ちた。生気の抜けた人形は、壇上で倒れ伏し、床板を鮮血で染め上げていく。未だ理解するのに時間がかかる敵達は、目の前の死体を見詰めたまま固まっている。その数十メートル背後の屋根に、光る剣を握り締めた男が立っている事に気がついていない。
「俺が行ってやる」
男はそう呟くと身体を粒子に変える。僅かに空中を浮遊する粒子の数々は、男がいた位置から壇上に向かって真っ直ぐな線として、漂っている。
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